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著作権判例セレクション
【職務上作成する著作物の著作者】会社の設立前から開発に着手していたゲームの職務著作性を認定した事例
▶平成28年2月25日東京地方裁判所[平成25(ワ)21900]
(注) 本件は,「神獄のヴァルハラゲート」との名称のソーシャルアプリケーションゲーム(「本件ゲーム」)の開発に関与した原告が,本件ゲームをインターネット上で配信する被告に対し,主位的に,原告は本件ゲームの共同著作者の1人であって,同ゲームの著作権を共有するから,同ゲームから発生した収益の少なくとも6割に相当する金員の支払を受ける権利がある旨主張して,著作権に基づく収益金配分請求権(主位的請求)に基づき,所定の金員の支払を求めた事案である。
1 認定事実
(略)
2 主位的請求について
(1)
争点(2)(本件ゲームは被告における職務著作であるか)について
ア まず,本件ゲームが「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)として著作物に当たることについては,当事者間に争いがない。
その上で,同法15条1項によれば,職務著作の成立要件は,①法人等の発意に基づくこと,②法人等の業務に従事する者が職務上作成したこと,③法人等が自己の著作名義の下に公表すること,④作成時における契約,勤務規則その他に別段の定めがないこととされている。
イ そこで,前記1の認定事実を踏まえて検討するに,まず,上記①の要件については,Bは,原告がG社に在籍中から,本件ゲームを新会社等において製作予定であることを告げて,原告に対して本件ゲーム開発への参加を勧誘したこと,原告もBの勧誘があったためにG社を退社して本件ゲーム開発に関与したことを認めていること,その後も被告において本件ゲーム開発が行われ,被告名義で本件ゲームが配信されたこと等からすれば,本件において,実質的には,Bが代表取締役を務める被告の発意に基づいて本件ゲーム開発が行われたものと認められる。
なお,被告の設立日は平成24年9月19日であって,原告が本件ゲーム開発作業を始めた時期より後であるが,既に同年8月13日付けで被告の定款が作成されており,原告も,当初から,後に被告が設立され,被告において本件ゲーム開発が行われることを当然に認識していたものといえるから,被告の形式的な設立時期にかかわらず,実質的には,被告の発意に基づいて本件ゲーム開発が行われたといえるものであって,被告の形式的な設立時期は上記結論に影響を及ぼすものではない。
ウ 次に,②「法人等の業務に従事する者が職務上作成したこと」との要件については,法人等と著作物を作成した者との関係を実質的にみたときに,法人等の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり,法人等がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを,業務態様,指揮監督の有無,対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に考慮して判断すべきである(最高裁平成15年4月11日第二小法廷判決参照)。
そこで検討するに,原告は,本件ゲーム開発期間中は被告に雇用されておらず,被告の取締役の地位にもなかったが,被告においてタイムカードで勤怠管理をされ,被告のオフィス内で被告の備品を用い,Bの指示に基本的に従って本件ゲーム開発を行い,労務を提供するという実態にあったものである。
ところで,原告は,平成25年1月1日に被告の取締役に就任した上で,同年3月上旬までの間,被告から取締役としての報酬を合計63万円受領したが,これは,本件ゲームがほぼ完成した後のことであって,原告が本件ゲーム開発作業に従事していた時点(平成24年8月ないし9月頃から同年12月までの間)においては,被告から報酬を受領していなかったものである。
しかし,後記3(1)のとおり,原被告間において,本件ゲーム開発に関しては当然に報酬の合意があったとみるべきであることに加え,本件ゲーム開発の当初から,原告が被告の取締役等に就任することが予定されており,その取締役としての報酬も本件ゲーム開発に係る報酬の後払い的な性質を含む(もっとも,後記3(1)のとおり,取締役としての報酬分は後記報酬合意の対象ではない。)と認められることをも併せ考慮すれば,原告は被告の指揮監督下において労務を提供したという実態にあり,被告が原告に対して既に支払った金銭及び今後支払うべき金銭が労務提供の対価であると評価できるので,上記②の要件を充たすものといえる。
エ さらに,本件ゲームは,被告名義で,インターネット上で配信されたものであるから,上記③の要件も充たす。
オ このほか,原被告間で,本件ゲームの著作権の帰属に関して特段の合意があったとは認められないから,上記④の要件も充たす。
カ 以上からすれば,本件においては著作権法15条1項の適用があり,本件ゲームの著作権は被告に帰属するというべきであり,原告が本件ゲームの著作権者であることを前提とする原告の主位的請求は理由がない。