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著作権判例セレクション
【映画著作物】ソーシャルアプリゲームの映画著作物性及び著作権の帰属が争点となった事例
▶平成28年2月25日東京地方裁判所[平成25(ワ)21900]
(注) 本件は,「神獄のヴァルハラゲート」との名称のソーシャルアプリケーションゲーム(「本件ゲーム」)の開発に関与した原告が,本件ゲームをインターネット上で配信する被告に対し,主位的に,原告は本件ゲームの共同著作者の1人であって,同ゲームの著作権を共有するから,同ゲームから発生した収益の少なくとも6割に相当する金員の支払を受ける権利がある旨,予備的に,仮に原告が本件ゲームの共同著作者の1人でないとしても,原被告間において報酬に関する合意があり,仮に同合意がないとしても,原告には商法512条に基づき報酬を受ける権利がある旨主張して,著作権に基づく収益金配分請求権(主位的請求)ないし報酬合意等による報酬請求権(予備的請求)に基づき,所定の金員の支払を求めた事案である。
1 認定事実
(略)
2 主位的請求について
(1)
争点(2)(本件ゲームは被告における職務著作であるか)について
(略)
(2)
争点(3)(本件ゲームは「映画の著作物」に当たり,その著作権は被告に帰属するか)について
以上のとおり,既に原告の主位的請求は理由がないが,念のため,仮に職務著作の点を措いて,本件ゲームの「映画の著作物」該当性等についても検討することとする。
ア 「映画の著作物」該当性について
(ア) 著作権法2条3項によれば,「映画の著作物」には,映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され,かつ,物に固定されている著作物を含むものとされている。
(イ) そして,上記の視覚的効果とは,目の残像現象を利用して動きのある画像として見せる効果をいうと解すべきである。
前記1のとおり,本件ゲームにおいて音声はないものの,「聖戦」「ガチャ」「クエスト」「レイド」等の場面における画像は,静止画像を連続して投影することにより,目の残像現象を利用して動きのある画像として見せるという映画の効果に類似する効果があるといえ,このほか,「オープニング」や「TOPページ(チュートリアル)」の場面における画像も,上記同様,目の残像現象を利用して動きのある画像として見せる効果があるといえるから,本件ゲームは,全体としてみれば,映画の効果に類似する視覚的効果を生じさせる方法で表現されているということができる。
なお,原告は,本件ゲームにおいて,そのほとんどが静止画で構成され,わずかに戦いやガチャなどのシーンで動画が用いられているにすぎないと主張する。
しかし,前記1のとおり,本件ゲームにおいては,動きのある画像が相当程度存在しており,そのほとんどが静止画であるとはいえない上,少なくとも本件ゲームにおいてユーザから人気が高い「聖戦」や,その他の戦闘のシーン等で動画が多数用いられていること,これらの戦闘シーンの本件ゲーム全体に占める重要性は大きいといえることからすれば,本件ゲームは,やはり映画の効果に類似する視覚的効果を生じさせる方法で表現されているといえ,原告の上記主張は採用できない。
また,原告は,本件ゲームにおいて,影像の連続性がある部分はわずかであり,上記連続性がある場面も,短い間キャラクターが揺れる等の単純なアニメーションにすぎず,恒常的に「急速に連続して目の残像現象を利用」してもおらず,本件ゲームは「映画の著作物」に該当しない旨主張する。
しかし,前記のとおり,本件ゲームにおいて動きのある画像は相当程度存在する上,アニメーションが単純であることによって「映画の著作物」性が否定されるものではなく,また,著作権法2条3項所定の「映画の著作物」につき,恒常的に「急速に連続して目の残像現象を利用する」ことが要件とされているわけではなく,原告の上記主張は採用できない。
さらに,原告は,ユーザは,自身が思考を積み重ねて強化したアバターの力試しをするために「聖戦」に参加するものであり,「聖戦」の視覚的効果に期待して参加するものではないとして,「聖戦」における視覚的効果を重視すべきではないとも主張する。
しかし,その動機がどのようなものであれ,多くのユーザが「聖戦」に参加していること自体に争いはないのであるから,「聖戦」における視覚的効果がユーザに与える影響は大きいといわざるを得ず,この視覚的効果も重視すべきであるから,原告の上記主張は採用できない。
このほか,原告は,被告が本件ゲームのプレイ中の画面として提出したものの多くは,本件ゲーム配信時には存在しなかったとも主張し,証拠上,配信時に存在しなかったとする画面に×印を付けている(被告は,原告の上記主張の一部を認め,一部を否認している。)。しかし,証拠によれば,少なくとも「聖戦」における攻撃画面や,「ガチャ」に関しては,本件ゲーム配信当初から,(証拠)の画像とは別の動画が存在していたことが認められる。また,仮に原告の上記主張を前提としても,証拠によれば,上記×印の付されたものを全て除いても,本件ゲーム配信時には動きのある画像が多数存在していたものであり,「映画の効果に類似する視覚的効果を生じさせる」ものといえる。したがって,原告の上記主張は理由がない。
なお,原告自身も,当初は,「本件ゲームにおいては,オープニングムービーや,レイド,ガチャなどさまざまなページで動画が使用されている」と主張していたものである。
(ウ) このほか,本件ゲームの著作物性については当事者間に争いがなく,「物に固定されている」点についても,「本件ゲームを構成するプログラム及びデータ等が,全てネットワークに接続されたサーバ内のハードディスク等の記憶媒体内に再現可能な形で記録されており,ユーザの操作に応じて,当該記憶媒体からプログラムに基づいて抽出された影像等のデータがユーザの利用機器のディスプレイ上に都度表示される」との点に当事者間に特段の争いはない。
なお,ユーザの操作により,プレイごとに影像が変化するとしても,無限の変化が生じるわけではなく,あらかじめ設定された範囲内においてユーザが影像等を選択しているにすぎず,著作者によって創作されていない影像が画面上に表示されることはないから,これをもって「固定」の要件を充たさないとはいえない。
(エ) 以上からすれば,本件ゲームは「映画の著作物」に該当する。
イ 映画製作者について
著作権法2条1項10号によれば,映画製作者とは,「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者」をいうとされるところ,前記(1)イ同様,Bが,原告がG社に在籍中から,本件ゲームを新会社等において製作予定であると告げて,原告に対して本件ゲーム開発への参加を勧誘し,原告もBの勧誘があったためにG社を退社して本件ゲーム開発に関与したことを認めていることに加え,Bが,自らG社を退社した上で,新会社(被告)を設立し,他の従業員らや原告とともに被告において本件ゲーム製作を行ったという経緯のほか,本件ゲームが現に被告名義で配信され,原告が被告を退社した後も被告名義で運営されていること等からすれば,Bが代表取締役を務める被告が,本件ゲームの製作に発意と責任を有する者であるというべきである。
この点に関し,原告自らも,「Bから,原告を含む数名で訴外Gを退職し,新たなソーシャルゲームを開発し,新しい会社で販売しようという提案を受けた」と主張していることからすれば,被告が「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者」であることを原告もほぼ認めているに等しい。
なお,被告の設立日は平成24年9月19日であって,原告が本件ゲーム開発作業を始めた時期より後であるが,前記(1)イ同様,被告の形式的な設立時期にかかわらず,実質的にみれば,本件ゲームの製作に発意と責任を有するのは被告であるといえる。
これに対し,原告は,仮に本件ゲームが「映画の著作物」に該当するとしても,原告は,被告に金を貸したり,開発費用を負担するなど,経済的リスクを負って本件ゲーム開発に従事したものであるから,原告は被告とともに「映画製作者」に該当すると主張する。
しかし,原告が被告に金を貸しても,原告は被告に対して同貸金債権を有しており,被告の資産状態が悪化しない限り返済を受けられるものであって,上記事実が本件ゲームの著作権の所在に直ちに影響を及ぼすものとは解されない。また,原告が本件ゲームの開発費用を負担したとの事実を認めるに足りる証拠はない上,原告が本件ゲームに関連する書籍等を独自に購入したものの,被告に対してその精算を請求しなかったにすぎず,現に,被告は,原告から請求があれば精算に応じていたものであり,この点も,上記結論に影響を及ぼすものではない。
いずれにしろ,本件ゲームの製作に関しては,Bを中心として,原告のほか多数の者が関与しており,原告だけが特別扱いされるべき正当な根拠は認められず,原告が被告と並んで本件ゲームの製作者になるとは認められない。
ウ 参加約束について
著作権法29条1項所定の「著作者が…映画の著作物の製作に参加することを約束し」たとは,「著作者が,映画製作に参加することとなった段階で,映画製作者に対し,映画製作への参加意思を表示し,映画製作者がこれを承認したこと」を意味すると解すべきである。
ところで,「映画の著作物の著作者は,…制作,監督,演出,撮影,美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とする。」(同法16条本文)とされるところ,そもそも原告がそのような者に当たるか問題となるが,仮に原告が映画の著作物の著作者であるとしても,本件において,原告は,BからG社を辞めて新会社等におけるゲーム開発に参加するよう勧誘され,これを了承した上で,本件ゲーム開発に協力してきたものである。
以上からすれば,原告は,本件ゲームという「映画の著作物」の製作者である被告に対し,本件ゲームの製作に参加することを約束したといえる。
これに対し,原告は,本件ゲームの配信を新会社(被告)名義で行うことを約束したにすぎず,被告が製作することを前提に参加してはいないとも主張するが,前記1認定のとおり,本件ゲーム開発は基本的に被告の従業員らによって行われていた上,当初は被告の従業員ではなかった原告やDについても,事後的に被告の取締役への就任が予定されていたものであり,新会社(被告)において本件ゲーム製作を行うことは当事者の共通認識であったというべきであって,原告の上記主張は採用できない。
エ 以上のとおり,本件ゲームは「映画の著作物」に該当し,被告が同映画の製作者であって,原告は映画製作者たる被告に対し,本件ゲームの製作に参加することを約束したものであるから,仮に原告が映画の著作物である本件ゲームの著作者であるとしても,著作権法29条1項によりその著作権は被告に帰属するものである。
(3)
小括
以上のとおり,本件ゲームは,職務著作あるいは「映画の著作物」に該当するため,いずれにしても原告は本件ゲームの著作権を有していないこととなるから,原告の主位的請求は理由がない。
なお,以上からすれば,本件ゲームの開発における原告の創作的関与の程度等に関係なく,原告は本件ゲームの著作権者とは認められないから,当裁判所は,原告による文書提出命令の申立て(被告が本件ゲーム開発時に使用したサービス「チャットワーク」のチャットログ(チャットのやりとり)の開示を求めるもの)につき,必要性がないとして却下したものである。
3 予備的請求について
(1)
争点(5)(原被告間で,本件ゲーム製作に関する報酬合意がされたか)について
ア 原告は,Bが代表取締役を務める被告の発意に基づき,被告における本件ゲームの開発に参加することを表明し,最終的に本件ゲームに採用されたか否かは別として,多大な労力を費やし,多数の仕様書やマスタを,基本的にはBの指示に従いながら,自ら又はBらと共同して作成し,本件ゲームの開発に貢献したものと認められる。そして,原告は,平成25年1月に被告の取締役に就任する以前は,被告から,本件ゲーム開発に関する労務提供の対価を一切受領しないまま稼働していたものであるが,原告の上記のような作業量及び作業期間(平成24年8月頃から同年12月末頃まで)からすれば,社会通念上,原告による上記労務提供が無償で行われたなどとは到底認められず,原被告間において,原告が本件ゲーム開発に従事することの対価に関する黙示の合意があったものと認めるのが合理的である。
イ ところで,原告は,Bの原告に対する「本件ゲームが収益を上げた場合には,原告の開発活動に報いる」旨の発言を根拠として,本件ゲームの収益の6割(原告が自ら主張する本件ゲーム開発への貢献度)相当額を原告の報酬とする旨の合意があったと主張する。
この点,Bが原告に対し,平成24年7月頃,上記の趣旨の発言をしたことは認められるが,原告の上記発言は極めて抽象的なものにすぎず,同発言を根拠に,原告が主張する合意内容を認定することはできず,このほか,上記合意の成立を認めるに足りる証拠はない。そもそも,原告とBとの間において,本件ゲームの収益を原告の貢献度に応じて分配するなどの具体的な話がされた事実は認められず,原告本人もこのことを認める供述をしている。また,前記1認定事実からすれば,本件ゲームの開発には,被告の従業員等の多数の者(14名程度)が関与しているところ,ゲーム開発者の1人である原告が,本件ゲームの収益の6割相当額を受領することの合理性も全く認められない。
ウ 他方で,被告は,原告が被告の取締役に就任した後に,本件ゲーム開発の対価を支払う旨の合意があったとし,具体的には,本件ゲームの売上が上がれば賞与合計300万円として還元するつもりであった旨や原告に支払われた役員報酬月額30万円は本件ゲーム開発の対価を含む旨主張する。
確かに,前記1のとおり,Bが,平成24年10月頃,原告を含む本件ゲーム開発従事者全員に対して,ボーナス合計300万円を与えると述べ,また,それまで対価の支払を受けることなく本件ゲームの開発に従事してきた原告が平成25年1月に取締役に就任するに際し,原告に対し,取締役報酬月額30万円を与える旨述べた事実は認められる。そして,Bの上記各発言以外に,原告・B間で原告の報酬についての具体的な話合いがあったとは認められないところ,上記主張の趣旨も考慮すれば,本件ゲームの開発について,ボーナス300万円及び開発が行われた期間につき月額30万円の報酬を支払う旨の黙示の合意が成立したものと認めるのが相当である。
エ この点に関し,原告は,取締役としての報酬は,本件ゲーム開発の対価とは別である旨主張するが,既に検討したとおり,原告・B間で,原告の本件ゲーム開発に係る報酬に関して上記ウの各発言以外に何ら具体的な話合いはないから,原被告間の合意の内容として認定可能であるのは,上記ウの内容にとどまるといわざるを得ない。
また,原告は,G社で引き続き勤務していれば,年収2000万円程度を確実に受領できたはずであることからしても,原告が「報酬月額30万円,ボーナス合計300万円」などという内容に応じるはずがないとも主張する。
しかし,G社をやめる前の原告の年収は,2000万円には全く達しておらず,原告が同社で年収2000万円を受領することが確実であったとの事実を認めるに足りる証拠はない。原告の上記主張は,インセンティブ報酬として同社から受領する金員の振分けを決定できる立場(プロジェクトマネージャー等)にあることを前提とするものであるところ,原告は,実際にはそのような立場にはなかったのであるから,原告の上記主張は前提を欠くものである。
このほか,原告は,エンターテイメント業界においては,実際の収益に応じて後払い的に報酬が支払われることはよくあるとも主張するが,同事実を認めるに足りる証拠はなく,原告の上記主張は採用できない。
オ 上記ウで認定した合意に基づいて検討するに,ボーナス分300万円の他,取締役としての月額報酬については,本件ゲーム開発が本格的に行われていた期間が平成24年9月から同年12月であることを考慮して4か月分とし,合計120万円を認めるのが相当である。そして,ボーナス300万円と月額報酬120万円を合計すると,420万円となる。
なお,被告は,原告に対し,平成25年1月から3月4日までの間,合計63万円を取締役報酬として支払っているが,この間も,原告は,被告において本件ゲーム等に関する一定の労務を提供していたものと解されることに加え,本件ゲーム開発が本格的に開始される以前から,原告が独自に同ゲーム開発に係る準備作業をしていたことも考慮すれば,上記63万円は報酬合意の対象外のものと認められ,これを請求認容額から控除することはしない。
(2)
小括
以上のとおり,原告の予備的請求のうち,原被告間の報酬合意に基づく報酬支払請求が認められるため,これが認められない場合に備えた原告の被告に対する商法512条に基づく請求の当否(争点(6))については判断するまでもない。
また,上記報酬支払債務は会社の商行為によって生じたものであるから,原告の被告に対する商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払請求は認められる。