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著作権判例セレクション

【著作権の制限】法41条の適用を認定した事例(投稿(ブログ)記事に掲載した写真について)

▶令和5330日東京地方裁判所[令和4()2237]▶令和6118日知的財産高等裁判所[令和5()10046]
() 本件は、「本件写真」の著作権を有する原告が、「本件発信者ら」が本件写真をそれぞれウェブサイト(「本件各ウェブサイト」)に投稿(「本件各投稿」)したことによって、原告の本件写真に係る複製権、送信可能化権及び自動公衆送信権が侵害されたと主張して、本件各ウェブサイトを管理する被告に対し、プロバイダ責任制限法5条1項に基づき、別紙発信者情報目録記載の各情報の開示を求める事案である。
なお、争点整理の結果、本件の権利侵害の明白性に係る争点は、著作権法41 条(時事の事件の報道のための利用)の適用の可否のみであるとされた。

1 争点1(著作権法41条の適用の可否)について
⑴ 本件投稿1について
ア 証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件投稿1は、「『まとめサイト』でのインラインリンクに著作権侵害幇助の判決!:プロ写真家・A公式ブログ…」との表題及び「インラインリンクは著作権の幇助侵害にあたるという判決が出たそうです。」とのコメントと共に、本件写真が投稿されたものであり、本件写真は、【上記にいう著作権侵害幇助についての別件訴訟判決】において、著作権侵害の成否が問題とされた写真そのものであることが認められる。
上記認定事実によれば、本件投稿1は、別件訴訟判決の要旨を伝える目的で本件写真を掲載しているところ、本件写真は、別件訴訟判決という時事の事件において正に侵害の有無が争われた写真そのものであり、当該事件の主題となった著作物であることが認められる。そうすると、本件写真は、著作権法41条【にいう『当該事件を構成』する著作物(以下「事件を構成する著作物」という。)】に該当するものといえる。
そして、上記認定に係る本件写真の利用目的、利用態様、上記事件の主題性等を踏まえると、本件投稿1において、本件写真は、同条にいう報道の目的上正当な範囲内において利用されたものと認めるのが相当である。
イ これに対し、原告は、「インラインリンクは著作権の幇助侵害にあたるという判決が出たそうです。」との記載は、抽象的に、インラインリンクが著作権の幇助侵害に当たり得るという規範の問題を伝えるにすぎないものであるから、本件投稿1は「報道」に当たらないと主張する。しかしながら、前記認定事実によれば、本件投稿1は、著作物の利用に関して社会に影響を与える別件訴訟判決の要旨を伝えるものであって、社会的な意義のある時事の事件を客観的かつ正確に伝えるものであることからすると、これが「報道」に当たることは明らかである。したがって、原告の主張は、採用することができない。
また、原告は、本件元投稿においては本件写真がすぐに削除されたことや、規範の問題を伝達するに当たり写真の掲載は不要であることからすれば、本件投稿1における本件写真の掲載は、著作権法41条に規定する「報道の目的上正当な範囲内」に含まれないと主張する。しかしながら、上記において説示したとおり、本件写真は、別件訴訟判決という【時事の事件の主題となった、事件を構成する著作物である】ことからすれば、原告主張に係る事情を十分に考慮しても、原告の主張は、上記判断を左右するものとはいえない。したがって、原告の主張は、採用することができない。
ウ 以上によれば、本件投稿1における本件写真の掲載は、著作権法41条により適法であるものと認められる。
⑵ 本件投稿2について
ア 証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件投稿2は、「まとめサイト発信者情報裁判Line上告棄却 敗訴確定ニュース プロ写真家 A公式ブログ 北海道に恋して」との記載と共に、本件写真が投稿されたものであり、本件写真は、上記にいう発信者情報裁判の上告棄却【決定】(以下「別件最高裁【決定】」という。)において、著作権侵害の成否が問題とされた写真そのものであることが認められる。
上記認定事実によれば、本件投稿2は、別件最高裁【決定】の要旨を伝える目的で本件写真を掲載しているところ、本件写真は、別件最高裁【決定】という時事の事件において正に【著作権侵害の成否】が争われた写真そのものであり、【時事の事件の主題となった、事件を構成する著作物である】ことが認められる。そうすると、本件写真は、著作権法41条にいう事件を構成する著作物に該当するものといえる。
そして、上記認定に係る本件写真の利用目的、利用態様、上記事件の主題性等を踏まえると、本件投稿2において、本件写真は、同条にいう報道の目的上正当な範囲内において利用されたものと認めるのが相当である。
イ これに対し、原告は、本件投稿2は、悪質なスパムブログにユーザーを誘導するために本件写真を利用するものであるから、「報道」に当たる余地はないと主張する。しかしながら、証拠及び弁論の全趣旨によっても、Bloggerがスパムブログに悪用され得ることや、広告収入を得る目的等でスパムブログが存在することなどが一般的に認められることが立証され得るにとどまり、本件投稿2自体が悪質なスパムブログにユーザーを現に誘導している事実を具体的に認めるに足りないものといえる。その他に、上記イにおいて説示したところと同様に、上記認定に係る本件写真の利用目的、利用態様のほか、本件写真が、著作物の利用に関して社会に影響を与える別件最高裁【決定】という【時事の事件の主題となった、事件を構成する著作物である】ことを踏まえると、原告主張に係る事情を十分に考慮しても、原告の主張は、上記判断を左右するものとはいえない。
したがって、原告の主張は、いずれも採用することができない。
ウ 以上によれば、本件投稿2における本件写真の掲載は、著作権法41条により適法であるものと認められる。
(3) その他
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2 したがって、本件投稿1及び2における本件写真の各掲載(本件各投稿)は、著作権法41条によりいずれも適法であるものと認められる。

[控訴審同旨]
1 当裁判所も控訴人の請求はいずれも棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり補正し、後記2のとおり、当審における当事者の主な補充主張に対する判断を付加するほかは、原判決に記載のとおりであるから、これを引用する。
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2 当審における当事者の主な補充主張に対する判断
⑴ 控訴人の前記第2の3⑴の主張について
控訴人は、本件投稿1は、報道目的はなく、著作権法41条に該当しない旨を主張する。
しかし、補正の上で引用した原判決のとおり、本件写真は、別件訴訟判決という時事の事件の主題となった、事件を構成する著作物であり、本件投稿1に係る本件写真の掲載は、社会的な意義のある事件を客観的かつ正確に伝えるものとして、著作権法41条にいう時事の事件の報道に係る著作物の掲載として適法であるものと認められる。
したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
⑵ 控訴人の前記第2の3⑵の主張について
控訴人は、本件投稿2は自動生成に係るもので、違法なスパムブログにユーザーを誘導するものであり、著作権法41条にいう報道には当たらない旨を主張する。
しかし、控訴人が本件投稿2に係る証拠として提出した甲5において、そもそも控訴人が主張するようなフェイクアラート等の存在を認めることができない。被控訴人代理人も、控訴人代理人から提供を受けた訴状記載の正確なURLから本件投稿2に係るブログを閲覧したが、問題なく当該ブログを閲覧することができ、一定時間が経過してもリダイレクトされることはなく、フェイクアラートが表示されることもないまま、問題なく前記甲5と同様の画面が表示され続けていたとしている。
加えて、ブログにおけるインターネット広告には、広告が表示されるウェブサイトが意図的に表示しているものではないことも少なくなく、ウェブサイトの作成者には何ら表示の意図がなくても、インターネット広告のスペースを設置しただけで、投稿者の意図によらずに、ウェブサイトの閲覧者に対してフェイクアラートが表示されてしまう場合もあることが認められる。さらに、インターネット広告は、ウェブサイトの検索傾向により、ユーザーごとに表示される広告が異なる仕組みになっていることも認められる。
そうすると、控訴人が、当審において本件投稿2に係るブログがスパムブログであることに係る具体的な証拠として提出した甲57、甲58、本件投稿2に係るブログのフェイクアラートとする甲59ないし62等の存在を考慮しても、本件投稿2に係るブログが控訴人の主張するスパムブログであると直ちに認めることはできない上に、本件投稿2に係るブログに控訴人の指摘するようなフェイクアラート等が表示されることがあったとしても、前記認定の事実に照らせば、本件投稿2自体が、ユーザーをスパムブログに誘導するものであると直ちに認めることもできないというべきである。
また、控訴人は、本件投稿2に係るブログにつき、「諸般の状況から」本件発信者2が「記事を自ら書いているのではなく、自動的に生成していることは明白と思料されます」とし、スパムブログが世に多く存在し、本件投稿2に係るブログはそれにつき指摘される特徴が当てはまるから、本件投稿2に係るブログが記事を自動生成していることは明らかであるとする。
しかし、これらは一般的に自動生成に係るスパムブログが備えるとする特徴を示すものにすぎず、既に述べたとおり、本件投稿2に係るブログがスパムブログであると直ちにいうことはできず、本件投稿2が自動生成に係るものであることを直ちに示すものともいえないというべきである。
そうすると、これら控訴人の主張は、補正の上で引用した原判決のとおりの本件投稿2に係る本件写真の掲載の適法性について、その認定及び判断を左右するものではない。
したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
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4 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、控訴人の請求はいずれも棄却すべきであって、これと同旨の原判決は相当であるから、本件控訴は理由がない。