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著作権判例セレクション

【著作物の利用の許諾】黙示の利用許諾の認定例(死刑囚の手紙等を放送等した行為が問題となった事例)
▶平成17825日東京地方裁判所[平成16()26420]▶平成180228日知的財産高等裁判所[平成17()10110]
() 本件は,被告らが,原告(本件刑事事件の被告人として死刑判決を言い渡された者)の著作した書籍「タイム・リミット魔の時間帯-その1-」(以下「魔の時間帯」)や原告が作成した手紙(「本件手紙」)等を引用し,原告の顔写真(「本件顔写真」)を使用するなどして,本件刑事事件に関するテレビ番組(「本件番組」)を制作・放送し,同番組に関する書籍(「本件書籍」)を制作・出版し,又は,本件番組及び本件書籍を制作するための情報提供をした行為が,原告の著作権,肖像権,プライバシー権等を侵害するものであるとして,原告が被告らに対し,本件番組及び本件書籍に関係する情報データ等の使用差止め及び廃棄,被告らが違法に上記行為を行なったこと等の確認などを求めた事案である。

1 原告の確認の訴えについて
前記第1の3及び4記載の請求に係る訴えは,権利又は法律関係の存否の確認の訴えではなく,過去の事実関係の存否の確認を求めるものであって,不適法である。
また,前記第1の5記載の請求に係る訴えは,前記第1の1及び2記載に係る権利を有することの確認を求めるものと善解できるが,原告には,前記第1の1及び2記載の権利に基づく給付請求(前記第1の1及び2記載の請求)と重複して,当該権利を有することの確認を求める利益がないから,前記第1の5記載の請求に係る訴えは確認の利益を欠き,不適法である。
2 原告のその余の請求について
本件においては,事案の性質に鑑みて,争点2(原告が,被告らに対して,本件番組の制作・放送及び本件イラスト,本件手紙等を掲載して本件書籍を制作・出版すること並びに被告らが本件番組及び本件書籍制作のために情報提供すること等を承諾した事実の有無)から判断する。
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(2) 前記認定事実及び前記記載の前提となる事実によれば,本件番組及び本件書籍の内容が本件刑事事件について原告の無実を主張するものであること,原告自らが,取材活動の事実を知って,イラストを送付するなどの協力的行動を行なっていること,原告は,支援者等から本件番組及び本件書籍の内容を知らされていたのに,本件番組放送後約12年間,本件書籍発行後約10年間,特に抗議していないのであるから,これらの事実を総合すれば,原告は,被告らに対し,本件番組の制作・放送及び本件イラスト,本件手紙等を掲載して本件書籍を制作・出版すること並びに被告らが,本件番組,本件書籍作成のために情報提供すること等について,少なくとも事後的に黙示の承諾をしたものと認められる。
(3) 原告は,被告らに対して特に抗議しなかったのは,被告Bに対して小説の添削者の紹介を依頼していたために遠慮していた上,本件番組の内容について全く聞いていなかったためである旨主張する。しかし,前記認定事実によれば,原告は,被告Bから平成4年9月22日ころ,小説の添削者の紹介依頼を断られた後も約12年間抗議しておらず,また,本件書籍により本件番組の内容を知った後も,約10年間抗議していないのであるから,この点に関する原告の主張は採用できない。
また,原告は,仮に,原告から被告らに対し,何らかの承諾を与えていたとしても,著作権侵害については,被告らの行なった本件取材や本件番組の放送及び本件書籍の発行は,原告の許諾に係る利用方法及び条件の範囲外の行為である旨主張する。しかし,前記のとおり,原告は,被告らに対し,本件番組の制作・放送及び本件イラスト,本件手紙等を掲載して本件書籍を制作・出版すること並びに被告らが本件番組及び本件書籍作成のために情報提供すること等について,少なくとも事後的に黙示の承諾をしたものと認められるのであるから,原告の主張は採用できない。
第5 結論
以上によれば,原告の訴えのうち前記第1の3ないし5記載の確認請求に係る部分は訴訟要件を欠くから不適法であり,原告のその余の請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がないから,主文のとおり判決する。

[控訴審同旨]
1 争点1(本件確認の訴えの適法性)について
(1) 本件確認の訴えのうち,まず,①被控訴人らが,平成4年8月ころから,テレビ朝日と共謀して,控訴人に対し,契約もなく放送や出版等を勝手に,違法,不法,不当に行ったこと(前記第1の1(2)の前段),②被控訴人らが上記行為を違法,不法,不当に行ったため,現在,控訴人がその被害者という立場(地位)にあること(同(3)),③被控訴人らが,平成4年8月ころから,控訴人の肖像権,プライバシー権,名誉権,著作権,パブリシティ権侵害等パテント侵害を行ったこと(同(4)の前段)の各確認を求める訴えは,過去の事実関係又はそれを前提とする現在の事実関係の確認を求めるものにほかならない。しかしながら,確認の訴えは,争いのある私法上の権利又は法律関係の存否を確認判決の既判力をもって確定し,それによって当事者間の法律関係の安定に資することを目的とする訴えであって,現在の権利又は法律関係の確認を求めるのが原則であり,事実関係についての確認を求める訴えは,所定の例外的な場合に当たらない限り,確認請求の対象適格ないし確認の利益を欠き,不適法というべきである。
(2) 次に,④被控訴人らが,平成4年8月ころから,テレビ朝日と共謀して,控訴人に対し,契約もなく放送や出版等を勝手に,違法,不法,不当に行ったことについて,控訴人が被控訴人らに対して,請求権を有する地位にあること(前記第1の1(2)の後段),⑤被控訴人らが,平成4年8月ころから,控訴人の肖像権,プライバシー権,名誉権,著作権,パブリシティ権侵害等パテント侵害を行ったことについて控訴人が被控訴人らに対して請求権を有する地位にあること(同(4)の後段)の各確認を求める訴えは,控訴人が上記請求権を有することの確認を求めることにほかならないところ,これらの確認請求は,前記第1の1(5)の給付請求と重複しているから,確認の利益を欠くものといわざるを得ず,不適法である。この点について,控訴人は,給付請求が原判決において棄却されていることを理由に,確認の訴えが給付の訴えと重複しているといえない旨主張するが,同一の請求権に関する確認の訴えと給付の訴えとが重複しているかどうかは,口頭弁論終結時を基準として判断されるべきところ,当審の口頭弁論終結時において,上記確認の訴えと給付の訴えが客観的併合されていることは本件訴訟の経過に照らして明らかであって,控訴人の上記主張は,失当である。
2 争点3(本件番組を制作・放送すること,本件イラスト,本件手紙等を掲載して本件書籍を制作・出版すること,並びに,被控訴人らが本件番組及び本件書籍制作のための情報提供をすること等を控訴人が承諾した事実の有無)について
(1) 前記提事実と末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
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(2) 上記認定の事実によれば,テレビ朝日の番組「ザ・スクープ」の制作スタッフは,本件刑事事件がえん罪事件であることを証明するための報道活動をしている旨の自己紹介をした上で控訴人に取材をしており,控訴人は,この取材に応じて,自己の生活状況等を述べ,併せて,自らが作成した取調べ状況のイラスト(本件イラスト)を渡して積極的に協力していたのであるから,将来,「ザ・スクープ」により本件刑事事件に関する報道がされ,控訴人の情報提供がその報道の一資料として用いられることを十分に理解した上で,取材に協力していたものというべきである。
そして,報道活動の一環として,何らかの形で番組の内容が書籍に掲載されることは,通常,予想されることであるところ,上記認定のとおり,本件番組も本件書籍も,全体として,本件刑事事件をえん罪事件として扱い,控訴人が真犯人であることに疑問を呈する内容であり,控訴人は,控訴人の支援者から,出版された本件書籍を受け取っていたにもかかわらず,これに対して,被控訴人らないしテレビ朝日に対して何らの苦情の申入れや抗議等をすることもなく,本件訴訟の提起までの約10年間を経過したものである。
以上のような事情の下においては,控訴人は,被控訴人らに対し,本件番組を制作・放送すること,本件イラスト,本件手紙等を掲載して本件書籍を制作・出版すること,並びに,被控訴人らが,本件番組及び本件書籍制作のための情報提供をすること等について,少なくとも事後的に黙示の承諾をしたものと認めるのが相当である。
(3) 控訴人は,被控訴人らに対して,取材上,情報提供をすることと,パテント契約に関して,執筆者あるいはテレビ放送局に情報提供をすることとは法的意味が異なっているのであり,被控訴人らは,パテントに関する何らの法的権利も取得するものではないと主張する。
しかしながら,上記(1)認定の事実から明らかなとおり,控訴人は,本件取材に対して積極的に協力し,自らが作成した本件イラストを渡すなどしていたのであるから,このような控訴人の言動から,控訴人が,本件取材を受けた当時,取材上,情報提供をすることと,控訴人のいうパテント契約に関して,執筆者あるいはテレビ放送局に情報提供をすることとを区別して,被控訴人らに対応していたと認めることは困難である。
また,控訴人は,被控訴人らは,本件番組を制作・放送すること,本件イラスト,本件手紙等を掲載して本件書籍を制作・出版すること,並びに,被控訴人らが,本件番組および本件書籍制作のための情報提供をすること等について,控訴人に確認すべきであったのに,それをしていないと主張する。
しかし,上記(1)の事情の下で,あえて,控訴人に事前に確認しなかったからといって,控訴人が事後的に黙示の承諾をしたとの認定を左右するようなものとなるとはいえない。
さらに,控訴人は,被控訴人Y1に対して小説「ほとほと」の添削者の紹介を依頼していたため遠慮していた上,本件番組の内容を知らず,だれが,どのように,控訴人のいうパテント侵害をしているか分からなかったのであるから,本件番組放送後約12年間,本件書籍発行後約10年間,控訴人が抗議しなかったことをもって,事後承諾があったということもできないと主張する。
しかし,控訴人は,被控訴人らが,控訴人の小説である「ほとほと」を何らかの形で使用したことを前提とする主張をしているとも解されるが,被控訴人らが,「ほとほと」を本件番組,本件書籍又はその他の媒体等で使用したことを認めるに足りる証拠はない。加えて,控訴人は,平成4年9月には,被控訴人Y1から小説の添削者の紹介の依頼を断られたので,それ以降は,被控訴人Y1への遠慮はないはずであり,また,本件番組の放送の数か月後には,本件番組のシナリオの抜粋を入手し,平成6年には,本件書籍の本件刑事事件を扱った部分のコピーを受け取っているのであるから,本件番組の内容や,だれが本件書籍を発行したのか,本件書籍に自己の情報提供がどのように扱われているのかを十分に知り得たはずであって,控訴人の上記主張は,その前提を欠いているというほかない。
(4) 控訴人は,出版権や放映権に関しては,黙示の承諾ということはあり得ず,著作権等のパテント関係については,民法ではなく,特別法が適用され,出版権や放映権に関しては,必ず契約書を作成しなければならず,著作者による黙示の承諾のみでは足りないと主張する。
しかし,出版権とは,著作者等の複製権者が,その著作物を文書又は図画として出版することを引き受ける者に対して設定される権利であるところ,本件は,本件手紙,本件イラスト等を本件書籍に使用(引用)したことが問題になっているのであって,本件手紙,本件イラスト等自体を一つの著作物として出版するということではないから,出版権を論ずる余地はない。また,著作者は,著作権法23条に基づく公衆送信権の一種としての放送権を有するが,控訴人のいう放映権が放送権の趣旨であるとしても,同権利に係る契約の成立要件は,複製権等の他の著作権と異なるところはない。そして,少なくとも,控訴人主張の肖像権,プライバシー権,名誉権,著作権,パブリシティ権等に係る契約であれば,当事者の合意によって契約は成立し,契約書等の書面の作成は,契約成立の要件ではない。
したがって,控訴人の主張は,失当というほかない。
(5) 控訴人は,仮に,控訴人と被控訴人らとの間に,パテント契約が存在するとしても,著作権法では,契約書に取決めがない場合には3年で契約が終了するとされているところ,本件において,パテント契約は,現在まで12年を経過しているから,3年を超えた部分については,違法な侵害に当たると主張する。
控訴人は,本件のパテント契約に出版権に関する著作権法83条2項が適用されるべきことを主張する趣旨とも考えられるが,本件が出版権の問題でないことは,上記判示のとおりであるから,控訴人の上記主張も,その前提を欠き,採用できない。
3 以上によれば,原審における控訴人の請求のうち,確認請求に係る訴えは,いずれも不適法であり,その余の請求は,控訴人には,少なくとも,本件番組の制作・放送,本件書籍の制作・出版,本件番組及び本件書籍を制作するための情報提供等について黙示の承諾が認められるため,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がないから,確認の訴えに係る部分を却下し,その余の請求をいずれも棄却した原判決は相当である。(以下略)