Kaneda Legal Service {top}
著作権判例セレクション
【法113条11項】名誉声望保持権の侵害(法113条11項)を認定した事例
▶令和5年6月9日東京地方裁判所[令和2(ワ)12774]▶令和6年1月30日知的財産高等裁判所[令和5(ネ)10075]
6 争点6(本件原画像の著作物性及び著作者)について
(1)
証拠及び弁論の全趣旨によれば、原告は、南相馬市の伊勢大御神上大神宮を訪れた際に、同所に設置された線量計において、原告が持参したポケット線量計の値より低い値が表示されていることを端的に映像にするため、設置されている線量計が画面上部に、ポケット線量計が画面下部に映るように、知人にポケット線量計をカメラの前に差し出してもらい、スマートフォンで動画を撮影したこと、原告は、後に上記動画を再生し、同動画の80秒付近で静止させ、その表示画面のスクリーンショットを撮影して、本件原画像を作成したことが認められる。
そして、上記認定事実によれば、本件原画像は、被写体の選択、構図の決定、カメラのアングルの決定等により、原告の「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、」「美術の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)といえ、写真の著作物に該当し、原告は、本件原画像の著作者であると認められる。
(2)
これに対し、被告Bは、本件原画像のような写真は、インターネット上にあふれており、また、記録に近いものであるとして、著作物性を争うが、本件原画像における表現がインターネット上にあふれていることを認めるに足りる証拠はない上、インターネット上にあふれていることや記録に近いものであることによって、直ちに著作物性が否定されるものでもない。
【また、控訴人は、本件原画像の撮影者はC′であり、C′と被控訴人の位置関係に照らせば被控訴人が本件原画像を撮影することは不可能であるから、被控訴人が本件動画の中にC′が撮影した本件原画像を挿入したなどと主張する。しかし、控訴人は、上記動画を当初被控訴人が撮影していたこと自体は争っていないところ、当該動画の1秒ごとの静止画像をみても、本件原画像に対応する部分のみ撮影者が変わった形跡は認められない。】
したがって、被告Bの上記各主張はいずれも採用することができない。
7 争点7(名誉声望保持権の侵害の成否等)について
著作権法113条11項は、「著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為」について、著作者人格権を侵害する行為とみなすと規定しているところ、同項の「名誉又は声望」は,社会的な名誉又は声望であると解される。そこで、著作物を掲載した記事の投稿が「名誉又は声望を害する方法」に該当するか否かについては、著作者の社会的評価の低下をもたらすような利用であるか否かを基準として判断するのが相当である。
【前記6(1)のとおり、本件原画像は、被控訴人が、東日本大震災による被災地である南相馬市の伊勢大御神上大神宮を訪れた際に、同所に設置された線量計において、被控訴人が持参したポケット線量計の値より低い値が表示されていることを端的に映像にするため、これらの線量計を上下に配置して撮影した動画から作成した写真である。
しかるところ、前提事実並びに下記の原判決別紙一覧表の「本件記事等番号」欄の「名誉・信用毀損/侮辱表現等」によると、控訴人は、「PTSD解離性悪行の数々…■-頭隠して尻尾隠さず被災地に行って体調不良中」、「ストレスがかかると正しい判断ができなくなり奇天烈な行動をするのがPTSD解離人格です。■」、「キレてデタラメ行動をし自爆するのがPTSD解離人格です。■」、「■重大なのは暴走するこころの汚染です。」、「PTSD解離ネットストーカーによる悪意拡散の除染中■」等の文言に織り交ぜて、本件複製画像を掲載した記事を繰り返し投稿していること(「■」は本件複製画像が挿入されている箇所を示す。)が認められる。
これらの投稿は、本来PTSDやストーカー行為とは何ら関係のない被災地における線量計の数値の差異を写した本件原画像を、上記文言と織り交ぜて繰り返し利用することにより、あたかも、見る者をして、本件原画像がPTSD解離にり患している又はストーカー行為をしている者ないしはそれらの行為と何らかの関連性を有する奇異なものであるかのように認識させ得るものであるといえ、本件原画像の著作者である被控訴人の社会的な評価の低下をもたらすものであると認められる。】
したがって、被告Bは、上記の各投稿によって、著作者である原告の名誉又は声望を害する方法によりその著作物である本件原画像を利用したものであって、これは、本件原画像に係る原告の著作者人格権を侵害する行為であるとみなされる。
他方で、***、***及び***の各記事等については、上記のような文言を記載しておらず、単に、本件複製画像に創作性がなく著作物に当たらないとの趣旨のコメントとともに本件複製画像を掲載した記事を投稿したにすぎないから、本件原画像の著作者である原告の社会的な評価の低下をもたらすような利用であるとはいえない。よって、これらの各記事等の投稿に係る原告の主張は理由がない。
8 争点8(引用の抗弁の成否)について
被告Bは、本件原画像の使用につき引用(著作権法32条1項)の抗弁が成立すると主張するものの、引用の成立要件を満たすことについて何ら具体的な【主張立証をしておらず、これを認めるに足りる証拠も存在しないから】、被告Bの主張は理由がないといわざるを得ない。
(略)
11 争点11(損害の発生の有無及び額)について
(略)
(3)
著作者人格権侵害とみなされる行為(著作権法113条11項)による損害について
【前記7のとおり、控訴人は、「PTSD解離性悪行の数々…■頭隠して尻尾隠さず被災地に行って体調不良中」、「ストレスがかかると正しい判断ができなくなり奇天烈な行動をするのがPTSD解離人格です。■」、「キレてデタラメ行動をし自爆するのがPTSD解離人格です。■」、「■重大なのは暴走するこころの汚染です。」、「PTSD解離ネットストーカーによる悪意拡散の除染中■」等の文言に織り交ぜて、本件複製画像を掲載した記事を繰り返し投稿し、これらは被控訴人の本件原画像に係る著作者人格権の侵害とみなされるところ、本件複製画像と併せて投稿された記事の内容からうかがわれる被控訴人の名誉声望に与える影響の程度は小さくないことに加え、前提事実のとおり、控訴人が、被控訴人による本件原画像の削除等の求めを意に介することなく、かえって新たに本件複製画像を投稿していたこと等も考慮し、被控訴人が被った精神的苦痛を金銭に評価すると、被控訴人の損害額は、50万円と認めるのが相当である。】
(略)
12 争点12(差止めの必要性の有無)について
前提事実のとおり、被告Bは、原告から再三にわたり、本件複製画像の掲載を中止するよう求められたにもかかわらず、これを意に介さず、本件複製画像の掲載を継続するにとどまらず、本件複製画像の新たな投稿を繰り返していたのであるから、これらの事情を考慮すると、本件複製画像の自動公衆送信又は送信可能化を差し止める必要性が認められる。