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著作権判例セレクション
【その他の支分権】プログラム著作物の貸与権侵害を認定した事例
▶平成16年06月18日東京地方裁判所[平成14(ワ)15938]
(注) 本件において,原告は,本件各プログラムについて著作権を有するとして,被告NTTリースは訴外財団に対してのみ再使用許諾を行い得るという条件で,原告から本件各プログラム著作物の使用許諾を受けたにもかかわらず,原告に無断で被告ビリングソリューションに使用許諾を行い,被告ビリングソリューションにこれらのプログラムを使用させたとして,被告らに対して,著作権(貸与権)侵害を理由とする損害賠償として,連帯して所定の金員の支払いなどを求めた。
1 争点(1)(本件各プログラムに著作物性が認められるか)について
(1) 前記前提となる事実関係に証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。
ア 本件各プログラムは,NTTにおける料金請求書発行業務において使用されるものであり,あるフォーマットで記録されている情報を,別のフォーマットに変換するために利用する,ファイル形式変換のためのプログラムである。
イ NTTでは,料金請求業務に「料金業務総合システム」(通称「CUSTUM」。以下「カスタム」という。)と「企業料金総合システム」(通称「PRIME」。以下「プライム」という。)の2種類のコンピュータシステムを使用していたが,これらから出力される通話料金の電話番号別等の内訳データをフロッピーディスク等の媒体に記録して提供するサービスを行うようになった。そして平成6年ころ,NTTは,このサービスに使用するための「高速媒体変換装置」を導入することとしたものであるが,本件各プログラムはこの「高速媒体変換装置」に格納されていたプログラムである。
ウ まず,本件プログラム1は,カスタムに対応したもので,磁気テープ(MT)媒体に記録された通常の通話明細情報をフロッピーディスクのフォーマット形式で出力する機能を有するものであり,本件プログラム2は,本件プログラム1をバージョンアップしたものである。
エ 次に,本件プログラム3は,プライムに対応したものであり,同じく磁気テープ媒体に記録された大口の割引明細情報をフロッピーディスクのフォーマット形式に出力する機能を有するものであり,本件プログラム4ないし6,8及び9は,それぞれ本件プログラムをバージョンアップしたものである。
オ 原告は,訴外財団を含むNTTグループの関係者とも協議を行った上,本件各プログラムの仕様を決定し,プログラムを完成させた上,NTT料金センタ内にあるハードウェアにインストールした。ただし,本件各プログラムのソース・コードは原告が保有している。
カ 本件各プログラムの注文書を発行した被告NTTリースは,本件各プログラムのリース期間中の使用権取得の対価として,本件プログラム1につき約2156万円(消費税は除く。以下同じ),本件プログラム2につき3192万円,本件プログラム3につき約9235万円,本件プログラム4につき756万円,本件プログラム5につき6352万円,本件プログラム6につき約1019万円,本件プログラム8につき2940万円,本件プログラム9につき2860万円とする注文書を作成して,それぞれ原告に対して発注した。
(2) 以上認定の各事実によれば,本件各プログラムが,単なる模倣であるとかありふれた表現であるということができないことは明らかであり,本件各プログラムには創作性が認められるというべきである。したがって,本件各プログラムは著作物性を有するものと認められる。
(略)
3 争点(3)(被告らによる著作権侵害(貸与権侵害,複製権侵害,譲渡権侵害)が成立するか)について
(1) 貸与権侵害について
ア 前記前提となる事実関係及び前記2の認定説示に係る事実に加えて,証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,①本件各使用権設定契約において,原告は被告NTTリースに対し,本件各プログラムの複製物の被告NTTリースからの貸与の相手方を訴外財団に限定し,原告の承諾を得ないで訴外財団以外の者に貸与することを禁じる使用権の設定を行ったこと,②訴外財団,被告ビリングソリューション及び被告NTTリースは,平成13年6月30日,本件権利義務譲渡契約を締結し,同年7月以降,被告ビリングソリューションが本件各プログラムの複製物を使用するようになったこと,③訴外財団は,本件プログラム2に関する一部のリース契約上の地位を本件権利義務譲渡契約の対象とはせずに,東北通信及びテルウェル西日本に譲渡したため,平成13年7月以降は東北通信及びテルウェル西日本も本件各プログラムの複製物を使用するようになったこと,④被告NTTリースは,上記②及び③のリース契約上の地位の譲渡について,原告の承諾を得ることのないまま,これらを承認し,平成13年7月以降は被告ビリングソリューション,東北通信及びテルウェル西日本からリース料を徴収していたことが認められる。
イ 以上の各事実を総合すると,被告NTTリースは,訴外財団以外の者に対して原告の承諾を得ないで貸与することを禁止されている本件各プログラムにつき,原告の承諾を得ないまま,被告ビリングソリューション,東北通信及びテルウェル西日本(以下,この3社を総称して「被告ビリングソリューション等」という。)に貸与したものと認められ,原告の本件各プログラムの貸与権(著作権法26条の3)を侵害したものということができる。
したがって,被告NTTリースが被告ビリングソリューションに本件各プログラムを使用させた行為につき貸与権侵害をいう原告の主張は,理由がある。
ウ 被告らは,この点に関し,著作権法26条の3に定める貸与権は,「公衆」に対する提供を伴うことを要するものであり,訴外財団から被告ビリングソリューション等への貸与先の変更は,「公衆」の要件を満たさないから,貸与権侵害は成立しないと主張する。
そこで判断するに,著作権法26条の3にいう「公衆」については,同法2条5項において特定かつ多数の者を含むものとされているところ,特定かつ少数の者のみが貸与の相手方になるような場合は,貸与権を侵害するものではないが,少数であっても不特定の者が貸与の相手方となる場合には,同法26条の3にいう「公衆」に対する提供があったものとして,貸与権侵害が成立するというべきである。
この点,本件のように,プログラムの著作物について,リース業者がリース料を得て当該著作物を貸与する行為は,不特定の者に対する提供行為と解すべきものである。けだし,「特定」というのは,貸与者と被貸与者との間に人的な結合関係が存在することを意味するものと解されるところ,リース会社にとってのリース先(すなわちユーザ)は,専ら営業行為の対象であって,いかなる意味においても人的な結合関係を有する関係と評価することはできないからである(被告ら自身,プログラム・プロダクトに関するファイナンスリース契約は,経済的にはユーザに対する金融であり,場合によっては,リース業者はリース目的物を換価したり他の者にリース契約を承継させるものであることを認めている。)。
本件においては,被告ビリングソリューション,東北通信及びテルウェル西日本は,いずれもNTTグループの企業であるにしても,リース業者である被告NTTリースとの関係では単なるリース先(ユーザ)であるから,被告NTTリースが被告ビリングソリューション等に対して本件各プログラムを貸与した行為は,公衆に対する提供に当たり,原告の貸与権を侵害するものというべきである。
仮に,被告らの主張するように,訴外財団と被告ビリングソリューション等との間に両者を同一視できるような密接な関係があったとしても,それは,原告の承諾を得ないでリース先を変更することが本件各使用権設定契約違反とならない特段の事情が存在するという主張としてはともかく(本件においては,そのような特段の事情があるということはできないが),プログラムの貸与先であるリース先(ユーザ)が貸与者であるリース業者との関係で「公衆」に該当することを否定する事情とは,なり得ないものである。
上記のとおり,被告ビリングソリューション等が著作権法著作権法26条の3にいう「公衆」に該当しない旨をいう被告らの主張は,採用できない。
(2) 共同不法行為について
原告は,被告NTTリースが被告ビリングソリューションに対して本件各プログラムを使用させたことによる上記貸与権侵害については,被告ビリングソリューションによる共同不法行為も成立すると主張する。
しかし,著作権法上,貸与行為について一定の行為が著作権(貸与権)侵害とされているにもかかわらず,被貸与者の行為について著作権侵害となる行為が規定されていないこと,著作権法113条2項が,プログラム著作物の違法複製物の使用について,違法複製物であることを知って複製物の使用権原を取得した場合に限って著作権侵害を構成するものとしていることに照らせば,プログラム著作物について貸与権侵害行為が行われた場合においても,被貸与者の行為が独自に著作権侵害を構成することはなく,ただ,被貸与者において貸与者が権限なく貸与行為を行っていることを知りながら貸与を受けた場合につき貸与者の行為に意を通じて加功したものとして,共同不法行為者としての責任を負う場合があるにすぎない。
本件においては,本件全証拠を総合しても,被告ビリングソリューションにおいて,被告NTTリースが本件各プログラムの複製物を貸与する権原を有していないことを知りながら,訴外財団からリース契約上の地位の譲渡を受けたとまでは認められない。したがって,貸与権侵害につき被告ビリングソリューションが共同不法行為者としての責任を負うとする原告の主張は,採用できない。
(3) 譲渡権,複製権侵害について
原告は,さらに,被告らは,本件各プログラムに関する原告の譲渡権又は複製権を侵害した旨を主張する。しかしながら,本件全証拠によっても,本件各プログラムの原作品又は複製物が譲渡され,あるいは複製された事実を認めることはできない。
したがって,譲渡権,複製権侵害を理由とする原告の請求は,理由がない。
(略)
5 争点(5)(原告の損害)について
(1) 被告NTTリースの貸与権侵害による損害額
ア 証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる。
① 被告NTTリースと訴外財団との間の本件各プログラムに関するリース契約における月額リース料は,本件1リース契約(14ライセンス分)が41万7562円(消費税相当額を含む。以下同じ。),本件2リース契約(5ライセンス分)が63万3360円,本件3リース契約(1ライセンス分)が191万1000円,本件4リース契約(1ライセンス分)が15万2460円,本件5リース契約(1ライセンス分)が123万8370円,本件6リース契約(1ライセンス分)が33万7575円,本件8リース契約(1ライセンス分)が58万0020円,本件9リース契約(1ライセンス分)が55万9965円であること,
② 遅くとも平成13年7月1日までに,被告ビリングソリューションは,本件1リース契約(2ライセンス分),本件2リース契約(2ライセンス分),本件3ないし6リース契約,本件8リース契約及び本件9リース契約(いずれも1ライセンス分)につきリース契約上の訴外財団の地位を承継し,本件各プログラムの使用を開始したこと,
③ 被告ビリングソリューションが承継した上記②の各リース契約に関しては,本件1リース契約及び本件2リース契約が平成13年9月30日に,その余の本件リース契約が同年11月30日に,それぞれ合意解約されたこと,
④ 被告ビリングソリューションが承継した上記②の各リース契約に係る本件各プログラムについては,上記③の合意解約前の同年8月31日に,本件1リース契約(1ライセンス分),本件2リース契約(1ライセンス分)及びその余の本件リース契約(各1ライセンス)に係るプログラムがシステムから撤去された。
イ 本件において,原告は被告ビリングソリューションが本件各リース契約を承継した後における同被告のリース料相当額を損害と主張しているところ,原告と訴外財団との間の本件各リース契約におけるリース料(上記ア①)は本件各プログラムの使用権取得価格を前提にして各月の使用料相当額に見合った額が算定されていると認められることからすれば,上記アの事実関係の下においては,被告ビリングソリューションがリース契約を承継した後,同契約が合意解約されるまで(ただし,合意解約前にプログラムが撤去された分(上記ア④)については,撤去の日まで)の間の上記リース料額をもって,貸与権侵害による損害額というべきである(著作権法114条3項)。そうすると,この金額は,別紙損害額計算表のとおり,合計1034万1270円となる。
そして,原告は,被告NTTリースの貸与権侵害に基づく損害につき,平成13年7月1日以降支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求めているところ,上記1034万1270円のうち,同年7月中に生じた損害509万2386円については同年8月1日以降,同年8月中に生じた損害509万2386円については同年9月1日以降,同年9月中に生じた15万6498円については同年10月1日以降の遅延損害金の支払いを求める請求は理由がある。
ウ 損害額につき,被告NTTリースは,リース料はリース契約から生じるものであって,リース物件の使用と対価関係に立つものではないから,リース料収入が著作権侵害行為によって得た利益ということはできないと主張するが,上記のとおり,原告と訴外財団との間の本件各リース契約におけるリース料(上記ア①)は本件各プログラムの使用権取得価格を前提にして各月の使用料相当額に見合った額が算定されていると認められるから,本件各プログラムの使用料相当額(著作権法114条3項)の算定に当たって同リース料額を参酌することは妨げられないというべきである。
他方,原告は,各リース契約承継後,合意解約されるまでの期間に被告ビリングソリューションから被告会社NTTリースに支払われたリース料額合計額と被告ビリングソリューションから被告NTTリースに支払われた本件各リース契約の中途解約金9855万8460円が,被告NTTリースが貸与権侵害により得た利益として,原告の損害と推定される(同法114条2項)と主張する。しかしながら,被告ビリングソリューションが承継したリース契約のプログラムのうち,合意解約前にプログラムが撤去された分(上記ア④)については,撤去後も合意解約までの期間リース料が支払われているにしても,その期間についてはプログラムの貸与行為が行われていない以上,当該期間分に対応するリース料については著作権法114条2項の推定が及ばないというべきである。また,中途解約金は,貸与物件の使用収益とは関係なく,リース契約上の中途解約に関する特約条項に基づいて発生するものであって,しかも契約当事者が中途解約するかどうかは貸与権侵害とは直接関係のないことであるから,被告NTTリースによる貸与権侵害行為と相当因果関係の範囲にあるということができない。