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著作権判例セレクション
【コンテンツ契約紛争事例】プログラム使用許諾(使用権設定)契約
▶平成16年06月18日東京地方裁判所[平成14(ワ)15938]
(注) 本件において,原告は,本件各プログラムについて著作権を有するとして,被告NTTリースは訴外財団に対してのみ再使用許諾を行い得るという条件で,原告から本件各プログラム著作物の使用許諾を受けたにもかかわらず,原告に無断で被告ビリングソリューションに使用許諾を行い,被告ビリングソリューションにこれらのプログラムを使用させたとして,被告らに対して,著作権(貸与権)侵害を理由とする損害賠償として,連帯して所定の金員の支払いなどを求めた。
1 争点(1)(本件各プログラムに著作物性が認められるか)について
(略)
2 争点(2)(被告ビリングソリューションによる本件各プログラムの使用は,本件各使用権設定契約による原告の許諾の範囲内であったか)について
(1) 前記前提となる事実関係に証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。
(略)
(2) 上記認定の各事実を総合すれば,本件各使用権設定契約において,原告は,被告NTTリースに対し,使用者すなわち貸与の相手方を訴外財団だけに限定して使用権を設定し,原告の承諾を得ないで訴外財団以外の者に貸与することを禁じていたものであること,被告NTTリースが原告の承諾を得ないで訴外財団から被告ビリングソリューションに使用者を変更したことは上記の被告NTTリースに対して契約上設定された使用権の範囲を超えるものであったことが,それぞれ認められる。
(3) 上記の認定に対し,被告らは,本件各使用権設定契約が締結され,本件各プログラムが導入されるに至った経緯及び本件各プログラムの実際の使用状況に照らすならば,訴外財団から被告ビリングソリューションに使用者を変更することは,本件各使用権設定契約において原告と協議を要するとされている「使用者の変更」には当たらないというべきであるし,仮に,これが原告との協議を要する「使用者の変更」に当たるとしても,原告は黙示的にこれを承諾していたことは明らかである旨を主張する。そこで,被告らの同主張について検討する。
ア まず,訴外財団から被告ビリングソリューションに使用者が変わったことは本件各使用権設定契約にいう「使用者の変更」に当たらないとの主張について検討するに,前記前提となる事実に記載したとおり,契約書(注文書及び注文請書)上においては「使用者」が明確に訴外財団と指定されているところであって,被告ビリングソリューションへの使用者の変更は例外とするというような扱いをうかがわせるような記載は認められない。また,本件全証拠によっても,原告と被告NTTリースとの間で,本件各使用権設定契約とは別に,被告ビリングソリューションへの使用者の変更については承諾を要しないものとする旨の合意があった事実を認めることもできない。
なるほど,本件各プログラムはNTTの料金請求書発行業務の処理のために開発されたものであり,NTTの料金請求書発行業務の委託先に変更があったことに伴い,被告NTTリースが原告から提供を受けた本件各プログラムの使用者を変更したものであるが,本件各使用権設定契約当時,訴外財団以外の者がこの業務を行うことは全く想定されておらず,訴外財団は公益法人であって,被告ビリングソリューションは訴外財団とは全く別個の法人であるから,この点からしても,本件各プログラムの使用者の変更が,本件各使用権設定契約における「使用者の変更」に当たらないということはできない。
上記のとおり,この点についての被告らの主張を採用することはできない。
イ 次に訴外財団から被告ビリングソリューションへの使用者の変更を原告は黙示的に承諾していたとの主張について検討する。
上記(1)認定の事実及び証拠によれば,本件各プログラムの開発に当たっては,原告はNTTソフトウェア本部や訴外コムウェアを含む関係者との間で打合せを行ったり,これらの者に対して見積書等を発行したこと,本件各プログラムはNTTの料金センタ内に設置されたシステムにインストールされていたが,そこでは訴外財団の作業員のほか訴外財団の履行補助者である協力会社の作業員も作業に当たっていたこと,本件権利義務譲渡契約後においては,訴外財団から被告ビリングソリューションに転籍した従業員及び協力会社の作業員が作業を行うようになったこと,原告は本件各プログラムのメンテナンスのためNTT料金センタを訪れる機会があったこと,原告は本件各プログラムの高性能化に関する提案を訴外コムウェアに対して行ったことという事実を認めることができるが,これらの証拠によって認められる諸事情を総合しても,原告が被告ビリングソリューション(及びその前身の訴外コムウェア)が使用者となることを黙示的に承諾していた事実を認めることはできない。かえって,本権利義務譲渡契約の後である平成13年10月ころになって,被告NTTリースから原告に対して被告ビリングソリューションに業務が移管された事実を通知している事実が認められるところであって,これらの事実も合わせて考慮するならば,黙示の承諾が存在したと認めることはできない。
(4) 被告らは,さらに,被告NTTリースと訴外財団の間に締結された本件各リース契約は,いわゆるファイナンスリース契約であるところ,ファイナンス・リース契約においては,リース会社が物件取得のために投下した費用の回収を確実なものとするため,必要に応じてサプライヤの個別の承諾なくユーザを変更することができるのは当然のこととされているとし,原告は本件各プログラムがファイナンスリースの対象とされることを知りながら使用権を設定したのであるから,本件各使用権設定契約においては,被告NTTリースが原告の個別の承諾なく使用者を変更できることが当然の前提とされていたと主張する。
しかしながら,被告NTTリースが訴外財団と締結する契約がファイナンスリース契約であるかどうかという点と,原告が被告NTTリースに対して本件各プログラムにつきどのような条件の使用権を設定したかという点は,必然的に結び付くものではないから,被告らの上記主張は,まずこの点において首肯することができない。そして,原告と被告NTTリースとの間において,リース会社がサプライヤの許諾なく自由にユーザを変更することができることを前提として本件各使用権設定契約が締結されたことを認めるに足りる事情も存在しない。したがって,結局,被告らの上記主張を採用することはできない。
なお,被告らは,本件各リース契約がファイナンスリース契約であることを強調しているところ,たしかに,本件各リース契約がそのような性質を有する面があることは事実であるけれども,本件において,リース対象物件である本件各プログラムを使用するユーザは,個人情報や通信の秘密にも関わるNTTの通話料金請求書発行業務を行う者であり,かつ現実にユーザとなっていたのは公益法人である訴外財団であって,本件各リース契約が,リース会社である被告NTTリースの投下資本回収の必要性が生じた場合に,同被告において自由にユーザを変更することを想定した契約であったとまでは,認めることができない。また,証拠によれば,他のファイナンスリース業者(三井事業リース株式会社,第一リース株式会社等)においても,プログラムのリースに関しては,リース業者が使用者(リース先)を変更する際には使用権設定者(著作権者)の承諾を要するものとされているのであって,ファイナンスリースにおいて使用者(リース先)の変更が使用権設定者(著作権者)の承諾を要することなく行われるのが一般的な取扱いであったということもできない。
(5) 以上のとおりであるから,被告らの上記主張はいずれも採用することができず,結局,本件各使用権設定契約において,原告は,被告NTTリースに対し,使用者すなわち貸与の相手方を訴外財団だけに限定して使用権を設定し,原告の承諾を得ないで訴外財団以外の者に貸与することを禁じたものであり,被告NTTリースが原告の承諾を得ることなく訴外財団から被告ビリングソリューションに使用者を変更したことは,本件各使用権設定契約による原告の許諾の範囲を超えるものであったと認められる。
3 争点(3)(被告らによる著作権侵害(貸与権侵害,複製権侵害,譲渡権侵害)が成立するか)について
(略)
4 争点(4)(被告らの行為につき債務不履行ないし一般不法行為が成立するか)について
(1) 上記2において認定説示したとおり,本件各使用権設定契約において,原告は,被告NTTリースに対し,使用者すなわち貸与の相手方を訴外財団だけに限定し,原告の承諾を得ないで訴外財団以外の者に貸与することを禁じていたものであり,被告NTTリースが原告の承諾を得ないで訴外財団から被告ビリングソリューションに使用者を変更したことは上記の被告NTTリースに対して契約上設定された使用権の範囲を超えるものであったというべきである。したがって,被告NTTリースが本件権利義務譲渡契約を承認し,被告ビリングソリューションに対して本件各プログラムをリースした行為は,債務不履行にも該当することは明らかである。
原告は,上記債務不履行は被告ビリングソリューションと共同して行われたものであるとして,被告ビリングソリューションには第三者の債権侵害による不法行為が成立する旨主張する。しかしながら,債権の帰属自体を侵害したり,給付義務を消滅させるような場合を除き,債権者の債権の完全な実現を妨げたことが不法行為となるためには,少なくとも故意が必要であると解されるところ,本件全証拠によっても,被告ビリングソリューションにおいて,被告NTTリースから本件各プログラムのリースを受けた当時,かかるリースが本件各使用権設定契約に違反するものであるとの認識を有していた事実を認めることはできない。したがって,被告ビリングソリューションについて,第三者の債権侵害による不法行為を主張する原告の請求には理由がない。
(2) また,原告は,訴外財団が本件各プログラムの使用を放棄した時点で,本件各使用権設定契約は目的を達することができなくなって当然終了することになるから,その後に行われた,被告NTTリースによる被告ビリングソリューションへのリースは,完全な無権行為として,不法行為とも評価できると主張している。しかしながら,前記前提となる事実関係記載のとおり,本件各使用権設定契約の条件10項では,協議を行った上で使用者を変更することができる旨規定しているところであり,本件各使用権設定契約は訴外財団以外の者が使用者となる事態も想定しているものであるということができるから,訴外財団が本件各プログラムを使用しなくなったことにより本件使用権設定契約が当然に終了することになるとは解されない。原告の上記主張は,採用できない。
5 争点(5)(原告の損害)について
(1) 被告NTTリースの貸与権侵害による損害額
(略)
(2) 被告NTTリースの本件各使用権設定契約違反による損害
前記4において説示したとおり,被告NTTリースが本件各リース契約を被告ビリングソリューションに承継させ,同被告に本件各プログラムを使用させた行為は,本件各プログラムの貸与権侵害に該当するとともに,本件各使用権設定契約違反の債務不履行にも該当するものであるが,債務不履行により原告に生じた損害額(原告の逸失利益)は,上記(1)の損害額を上回るものではない。
6 争点(6)(不当利得が成立するか。)について
(1) 被告NTTリースの不当利得について
被告NTTリースが本件各リース契約を被告ビリングソリューションに承継させ,同被告に本件各プログラムを使用させた行為は,前記4,5において説示したとおり,本件各プログラムの貸与権侵害に該当するとともに,本件各使用権設定契約違反の債務不履行にも該当するものであるが,仮にこの行為に基づき不当利得が成立し得るとしても(請求権競合),原告の損失額は,前記4,5において認定した損害額と同額というべきであるから,同被告に対する不当利得返還請求権は,前記4,5における損害賠償請求権の額を上回るものではない。
(2) 被告ビリングソリューションの不当利得について
原告は,被告ビリングソリューションによる本件各プログラムの使用が不当利得に該当すると主張し,使用期間分のロイヤルティ相当額を請求している。
前記3において説示したとおり,被告NTTリースが本件各リース契約を被告ビリングソリューションに承継させ,同被告に本件各プログラムを使用させた行為は本件各プログラムの貸与権侵害に該当するものであるから,被告ビリングソリューションは法律上の権原なくして本件各プログラムを使用して利益を得たものであり,原告は同被告が本件各プログラムの貸与を受けて使用していた期間につき使用料相当額の損失を被ったものというべきであるから,上記5において認定した損害額(使用料相当額)と同額につき,被告ビリングソリューションは不当利得を得たものというべきである(被告ビリングソリューションが被告NTTリースにリース料を支払ったことは,不当利得の発生を否定する事情とはならない。)。
原告は,被告ビリングソリューションの不当利得につき,付帯請求として年6分の金員を請求しているが,不当利得返還請求権の遅延損害金については,法定利率を適用すべき理由がないので,年5分の割合によるべきものである。また,被告ビリングソリューションの不当利得返還債務は,被告NTTリースの損害賠償債務(ないし不当利得返還債務)と,不真正連帯の関係に立つものである。