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著作権判例セレクション
【その他の支分権】音楽著作物(歌詞の文字表示及び伴奏音楽)の「上映権」侵害を認定した事例
▶平成6年03月17日大阪地方裁判所[昭和63(ワ)6200]
一 争点1(被告A及び同Bの損害賠償責任の有無)
(判断)
前記に認定のとおり、本件店舗において、①昭和58年9月19日の開店から昭和61年5月16日までの間は被告A(Dと共同経営)が株式会社Oからリースを受けたオーディオカラオケ装置を、②同月17日から昭和63年7月16日までの間は被告A及び同Bが被告会社からリースを受けたレーザーディスクカラオケ装置である本件装置をそれぞれ設置し、原告が著作権者から著作権ないしはその支分権たる演奏権等の信託的譲渡を受けて管理する管理著作物が録音されたカラオケソフトである、多数のカラオケテープ又はカラオケレーザーディスクを備え置き、原告の許諾を得ないで、日曜祭日を除いた毎営業日(月平均25日)の午後7時頃から翌日午前0時30分頃までの営業時間中、ホステス等従業員において客に飲食を提供するかたわら、右オーディオカラオケ装置又はレーザーディスクカラオケ装置(本件装置)を操作し、客に曲目の索引リストとマイクを渡して歌唱を勧め、客の選択した曲目のカラオケソフトの再生による演奏(レーザーディスクカラオケ装置〔本件装置〕については、伴奏音楽と同時に、録画した映画の上映とともに画面に歌詞の文字表示が映し出される。)を伴奏として他の客の面前で歌唱させ、また、しばしばホステス等従業員にも客とともにあるいは単独で歌唱させ、もって店の雰囲気作りをし、客の来集を図って利益をあげていた。
そこで、以上の事実関係のもとにおいて、まず、被告Aの昭和60年7月9日から昭和61年5月16日までの間の、映像の連続再生を伴わない、いわゆるオーディオカラオケ装置の無許諾での利用行為に関する損害賠償責任の有無について考えるに、ホステス等が歌唱する場合はもちろん、客が歌唱する場合を含めて、演奏(歌唱)という形態による当該音楽著作物の利用主体は経営者である被告Aであり、かつ、その演奏(歌唱)は営利を目的として公にされたものであるというべきである。客やホステス等の歌唱が公衆たる他の客に直接聞かせることを目的とするものであること(著作権法22条参照)は明らかであり、客のみが歌唱する場合でも、客は、同被告と無関係に歌唱しているわけではなく、同被告の従業員による歌唱の勧誘、同被告の備え置いたカラオケテープの範囲内での選曲、同被告の設置したカラオケ装置の従業員による操作を通じて、同被告の管理のもとに歌唱しているものと解され、他方、同被告は、客の歌唱をも店の営業政策の一環として取り入れ、これを利用していわゆるカラオケスナックとしての雰囲気を醸成し、かかる雰囲気を好む客の来集を図って営業上の利益を増大させることを意図していたというべきであって、前記のような客による歌唱も、著作権法上の規律の観点からは同被告による歌唱と同視しうるものであるからである。したがって、同被告が、原告の許諾を得ないで、ホステス等従業員や客にカラオケ伴奏により原告の管理にかかる音楽著作物たる楽曲を歌唱させることは、当該音楽著作物についての著作権の一支分権たる演奏権を侵害するものというべきであり、当該演奏の主体として原告の演奏権を侵害するものというべきである。カラオケテープの製作に当たり、著作権者に対して使用料が支払われているとしても、それは、音楽著作物の複製(録音)の許諾のための使用料であり、それゆえ、カラオケテープの再生自体は、適法に録音された音楽著作物の演奏の再生として自由になしうるからといって(著作権法附則14条、著作権法施行令附則3条参照)、右カラオケテープの再生とは別の音楽の利用形態であるカラオケ伴奏による客等の歌唱についてまで、本来歌唱に対して付随的役割を有するにすぎないカラオケ伴奏とともにするという理由のみによって、著作権者の許諾なく自由になしうるものと解することはできない(昭和63年3月15日最高裁第三小法廷判決参照)。
次に、前記事実関係のもとにおいて、被告A及び同Bの昭和61年5月17日から昭和63年7月16日までの間の映像の連続再生を伴うレーザーディスクカラオケ装置(本件装置)の無許諾での利用行為に関する損害賠償責任の有無について考えるに、同装置で使用されるレーザーディスクはその中に原告の管理する音楽著作物(管理著作物)の歌詞の文字表示及び伴奏音楽とともに連続した映像を収録したものであり、映画の効果に類似する視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物であるから、著作権法上は、映画の著作物に該当する(2条3項)。そして、本件装置により右レーザーディスクを再生するとき、モニターテレビ画面には収録された連続した映像と音楽著作物の歌詞の文字表示が映し出され、スピーカーからは収録された管理著作物の伴奏音楽が流れ出るのであるから、これが映画の著作物の上映に該当することは明らかである。したがって、モニターテレビに管理著作物の歌詞の文字表示が映し出されることはその管理著作物の上映に該当するし、スピーカーから流れ出る管理著作物の伴奏音楽も、著作権法2条1項19号が、「上映」について「著作物を映写幕その他の物に映写することをいい、これに伴って映画の著作物において固定されている音を再生することを含むものとする。」と定義し、同法26条2項が、「著作者は、映画の著作物において複製されているその著作物を公に上映し、又は当該映画の著作物の複製物により頒布する権利を専有する。」と規定しているから、映画の著作物の上映に該当するため、附則14条にいう「適法に録音された音楽の著作物の演奏の再生」に該当せず、同条の特例措置は適用されないことになる。また、著作権法38条1項は非営利かつ無料の著作物の上映、演奏などを原則自由としているが、スナックなどの社交場等における利用は、営利目的のものと認められるから、これらの規定の適用もない。したがって、同被告らが本件店舗において本件装置により管理著作物を収録したレーザーディスクを再生しこれに合わせてホステス等従業員や客に歌唱させるときは、それは、管理著作物の上映(歌詞の文字表示と伴奏音楽部分)と演奏(歌唱部分)に当たり、これらの行為をすることは、原告の管理著作権の上映権及び演奏権の侵害となるといわざるを得ない。また、前掲最高裁判決の理由説示と同一の理由で、右レーザーディスクの製作に当たり原告に対し使用料が支払われているとしても、それは原告の管理著作物をレーザーディスクに収録することの許諾のための使用料であり、レーザーディスクに収録された管理著作物を営利を目的として公に再生することの許諾までを含むものではないと認められるから、営利を目的として公にされる上映についてまで、著作権者の許諾なく自由になしうるものと解することはできない。同被告らが、原告の許諾を得ないで、本件店舗において、ホステス等従業員や客にレーザーディスク装置(本件装置)を使用して管理著作物を収録したレーザーディスクカラオケを再生し、そのカラオケ伴奏により管理著作物たる楽曲を歌唱させることは、原告の管理著作物についての著作権の一支分権たる演奏権を侵害すると同時に、その一支分権たる上映権をも侵害するものというべきであり、同被告らは当該演奏及び上映の主体として右演奏権及び上映権侵害に対する損害賠償責任を負担するものというべきである。
福岡高等裁判所民事第二部が同裁判所昭和57年(ネ)第595号、同58年(ネ)第329号音楽著作権侵害差止等請求控訴事件について、昭和59年7月5日、スナック店内において原告の許諾を得ずに原告の管理著作物を収録したオーディオカラオケの伴奏で客が管理著作物の楽曲を歌唱する行為が原告の管理著作権の演奏権の侵害を構成し、その演奏の主体は右の経営者であり原告に対し損害賠償責任があると判示し、スナック店の経営者に対し損害賠償金の支払を命じる判決を言渡し、右判決は後記二5認定のとおり当時各新聞マスコミ等により大々的に報道されたから、同被告らはスナック経営という職業環境に照らして、原告の許諾を得ることなくオーディオカラオケ装置又はレーザーディスク装置(本件装置)による管理著作物のカラオケ伴奏により客に歌唱させる行為が、原告の管理著作権に対する侵害にあたることを知っていたか、仮に知っていなかったとしても、知らなかったことについて過失があったと認めざるを得ない(なお、同被告らは、遅くとも昭和61年10月頃以降原告から音楽著作権侵害に関する警告を口頭及び書面により受けていたが、全くこれを無視し侵害行為を継続していた。
したがって、被告Aは昭和60年7月9日以降の、被告Bは昭和61年5月17日以降の前記各著作権侵害行為について、不法行為による損害賠償責任に基づき、右各著作権侵害行為により原告が被った損害を賠償すべき義務がある。