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著作権判例セレクション

【過失責任】業務用レーザーディスクカラオケ装置のリース業者の過失責任(共同不法行為性)を認定した事例

▶平成60317日大阪地方裁判所[昭和63()6200]
二 争点2(被告会社の損害賠償責任の有無)
(事実関係)
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(判断)
以上認定の諸事実を総合して考えれば、カラオケリース業界では、福岡高裁判決が出るまでは、カラオケ伴奏による客の歌唱行為の主体を店の経営者と認めるについて、共通の認識が形成されていたとは必ずしも言い難い状況にあったと認められるけれども、同判決後は、同判決判示の趣旨に副って事態は進展し、右歌唱行為の主体を店の経営者とし、原告の許諾を得ない場合、右経営者に著作権侵害による損害賠償責任が生ずるとの認識が関係業者の間に急速に浸透し、遅くとも新規程の施行日である昭和6241日の時点においては、スナック等におけるカラオケ伴奏による客の歌唱についても著作物使用料を支払わねばならない義務が生じることは、カラオケリース業者の間でも広く知れわたっていたものと認められる。
また、本件リース契約の内容についてみると、被告会社は本件装置の所有権を留保しているのは勿論、契約条項中には、「2 契約物件の設置定期点検、修理、サービス業務は甲(被告会社)の負担にて行い、乙(借主)はこの物件を善良な管理者の注意をもって保管し、本来の用法に従って使用する。」「3 使用中に故障及び破損が生じた時は乙は直ちに甲に連絡する。」「4 本物件の鍵は甲が保管し、甲乙立会のもとに一ケ月一回以上売上金集計を行い、左記売上金配分に基き精算する。」「8 乙は事由の如何を問わず、本契約物件の設置場所店内に、甲リース本物件以外の同種物件を一切設置出来ないものとする。尚乙が本契約に違反又は、一方的都合により解除する時は基本使用料月額の倍額(但し、定額払いのときは定額金)に契約期間内の残月分を掛けた額を違約金として甲に支払うものとする。」「13 甲は、乙の本物件使用による売上が不振と認めたときは、何時にても本契約の解除をすることが出来る。」との各規定があり、これらの規定の内容に照して考えれば、本件契約は、いわゆる変型リースのうちパーセンテージ・リース(賃借料の支払方法として、賃借人がその販売及びサービスの提供によって得た総売上高〔あるいは総収入〕等に対し、あらかじめ約定された一定歩合のリース料を支払う旨定めたリース)と称される部類に属するものであって、その実質は、リース料の算定方法につき特約の付いた賃貸借契約ということができる。したがって、被告会社は利用者である被告A及び同Bによる本件装置の稼働について賃貸引渡後も支配力を及ぼしており、本件装置に対する管理制御の実を留保していたのであり、また、本件装置の使用頻度に応じて賃料(リース料)を徴収していたのであるから、被告会社は、本件装置の稼働そのものにより利得していたということができる。
そして、前記認定の新規程の認可に至る経緯、福岡高裁判決の業界内部における反響、及び原告の大阪支部職員から被告会社に対する原告のカラオケ全面管理開始に先立つ事前の協力要請などからみて、被告会社としては、同規程が施行され原告のカラオケ全面管理が開始されたとしても、それだけではリース先の社交飲食店の経営者が直ちに原告との間の使用許諾契約の締結手続にはたやすく応じないであろうこと、したがって、事態をただ漫然と放置すれば、早晩右経営者らと原告との間にリース物件であるカラオケ装置の使用に伴って、原告の管理著作権の侵害に関して紛争を生じる蓋然性が極めて高いことを十分認識していたものと認めざるを得ず、新規程の施行時期が具体的に明らかになった右新規程認可の段階及び原告がカラオケ全面管理実行開始を表現した右ダイレクトメール送付の段階において、この点についてより切迫した明確な認識をもったはずである。
以上の諸事情を総合考慮すると、被告会社の業務用カラオケ装置のリース行為は、それ自体を切り離して抽象的に見れば原告の管理著作権を侵害するものではないとしても、カラオケ装置により再生されるレーザーディスクに収録されている音楽著作物の大部分は原告の管理著作物であり、原告の許諾を得ずに同装置を使用することが即管理著作権の侵害となるというリース物件たる業務用カラオケ装置の現実の稼働状況を含めて全体として考察すれば、管理著作権侵害発生の危険を創出し、その危険を継続させ、またはその危険の支配・管理に従事する行為であると同時に、それによって被告会社は対価としての利得を得ているのであるから、右行為に伴い、当該危険の防止措置を講じる義務、危険の存在を指示警告する義務を生じさせると解するのが条理に適う見方である、これをより具体的に言えば、著作権侵害行為は、著作権法119条により3年以下の懲役又は100万円以下の罰金[注:現在は「10年以下の懲役又は1000万円以下の罰金」]という、重い刑事罰を課される違法性の高い行為であり、民事上も同法1121項に基づき著作権者による停止・予防請求の対象となり、侵害行為を組成した物の撤去義務も法律上明示されている行為である(同条2項)から、多数の業務用カラオケ装置をリースする立場にある被告会社としては、遅くとも新規程の施行時期(昭和6241日)以降の新規契約の締結に際しては、契約書の契約条項に記載するなどの方法により、リース物件のカラオケ装置等を営業目的のために使用する場合、原告との間に著作物使用許諾契約を結ぶよう留意すべき旨をリース先のカラオケスナック店の経営者に対し周知徹底させて契約締結を促すのはもとよりのこと、当時既にリース契約中の者についても、原告との使用許諾契約の締結の有無を調査確認し、未だ許諾契約締結に至っていない場合は、右経営者に対し、速やかに、かつ、円満に原告との間の契約締結交渉に応じるよう指示、指導すべき注意義務があり、もしその指示指導に右経営者が従わないときは、リース物件(カラオケ装置等)を使用して現に犯罪行為(著作権侵害)をしているのであるから、条理上当然にリース契約を解除することができると解されるので、直ちにリース契約を解除してリース物件(カラオケ装置等)を引き上げるべき注意義務があったといわねばならず、その時点では、被告会社はもはや自らの利益追及に汲々としたり、あるいは自らの新規程の合理性等に関する一企業としての見解や疑念に固執することは許されなかったものというべきである。
しかるに、被告会社は、以上の注意義務を怠り、リース先の本件店舗の経営者である被告A及び同Bに対し、以上の指摘の如き措置を何ら講じなかったばかりか、原告職員の事前の協力要請にも真摯に耳を傾けず、むしろ原告によるカラオケ管理の妨害行為の疑いすら招きかねない行為に及んだものであり、その点でカラオケリース業者として用いるべき相当の注意を欠いたものであることは明らかである。これを要するに、被告会社は、被告A及び同Bが原告の管理著作権を侵害するのを幇助し、これに加功したものであり、その幇助・加工について過失があるから、同被告らとともに共同不法行為者たる地位に立つものといわざるを得ない(民法7192項)。
(被告会社の主張について)
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4 また、被告会社はピアノをリースした場合を例に引いて原告の本訴主張を論難するが、ピアノの場合は原告の管理著作物を必ず演奏するとは限らないのに対し、本件装置の場合はレーザーディスクに収録されている音楽著作物の大部分が原告の管理著作物であるから、同装置をカラオケ伴奏による客の歌唱に使用することが即原告の管理著作物の上映及び演奏になるという関係にあるから、この点の差異を考慮に容れない被告会社の主張は採用できない。
(以下略)