Kaneda Legal Service {top}

著作権判例セレクション

【コンテンツ契約紛争事例】コインランドリー店舗デザイン制作等についての業務委託契約

▶令和3128日東京地方裁判所[平成30()38078]
() 本件本訴は,原告が,被告に対し,コインランドリーの店舗のデザイン制作等についての業務委託契約に基づく業務委託料等の支払、ヘッドスパの店舗の外観に用いる原告が著作権を有するイラスト(「本件店舗外観用イラスト」)について,複製権又は翻案権の侵害を理由とする著作権法112条1項,2項に基づく侵害行為の停止,侵害行為によって制作した物の除去及び将来の侵害行為の防止等などを求めた事案である。
本件反訴は,被告が,原告に対し,事業イメージを統一するためのキークリエイティブと呼ばれる一連のデザイン群等の制作及び納品に係る合意に基づく成果物の引渡し,それを被告の広告媒体に自由に利用できることの確認及びイラスト(被告イラスト)を被告の広告媒体に自由に利用できることの確認などを請求した事案である。

(3) 争点4-1(本件店舗外観用イラスト使用行為について原告が許諾していたか),争点4-2(本件店舗外観用イラスト使用行為により生じた原告の損害額)について
ア 本件店舗外観用イラストは,原告が著作権を有する。
イ 被告は,原告に対して本件ロゴブックの対価を支払っており,そこには,本件ロゴブックのロゴマークと連続性を有する本件店舗外観用イラストの使用の対価も含まれると主張する。
しかし,本件店舗外観用イラストは,本件ロゴブックに記載された樹木全体のロゴマークの一部を切り出した上で,それと小さなロゴマークやキャッチコピーを組み合わせるなどしたものであり,樹木の一部分である枝葉が特に印象に残る形で表現されている,全体としてまとまりのある表現であり,樹木全体を表現する本件ロゴブックに記載されたロゴマークとは別の著作物ということができる。被告は本件ロゴブックの対価を支払っているが,被告に対し,本件ロゴブックに記載されているのとは異なる著作物である本件店舗外観用イラストについての使用許諾がされたとは認められない。
被告は,本件ロゴブックには印象を損なわない程度の改変は許される旨の記載があるから,本件ロゴブックについての対価を支払ったことにより本件店舗外観用イラストの使用許諾があったと主張する。しかし,本件店舗外観用イラストは,本件ロゴブックに記載されたロゴマークとは別の著作物である。そのような本件店舗外観用イラストは,被告が作成したものでない以上,本件ロゴブックの上記記載にかかわらず,本件ロゴブックの対価を支払ったことによってそれについての使用許諾があることにはならない。被告の上記主張は採用できない。
被告は,本件店舗外観用イラストについて,原告代表者から「お任せします」と言われたことから,使用許諾があったと主張する。しかし,原告代表者が「お任せします」と述べたのは,本件ロゴブックに記載されていたロゴマークをそのまま用いるなどした修正後の外観イラストを用賀店の窓面に貼ることについてであって,原告は,本件店舗外観用イラストの使用については,その問い合わせに対し使用の承諾を与えなかったことが明らかである。被告の上記主張は採用できない。
ウ 以上によれば,本件店舗外観用イラスト使用行為は,本件店舗外観用イラストについての原告の複製権を侵害するものであり,この点について,被告に少なくとも過失があるというべきである。
原告は,「FIT365」について外看板デザイン制作の費用として1種類あたり10万円程度を被告に請求し,被告はそれを支払っていること,被告が本件店舗外観用イラストを用賀店のガラス面,看板,旗の3か所で使用していることからすれば,本件店舗外観用イラスト使用行為による原告の損害額は30万円(10万円×3か所)に消費税相当額を加算した32万4000円とすることが相当である(著作権法114条3項)。
また,本件にあらわれた一切の事情を勘案し,上記損害と因果関係のある弁護士費用として3万円をもって相当と認める。
したがって,原告の被告に対する損害賠償請求は,35万4000円及びこれに対する不法行為日である平成30年8月10日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の限度で理由がある。
また,原告が承諾を与えなかったことが明確であるにもかかわらず,本件店舗外観用イラストを被告が使用したこと,本件店舗外観用イラストが店舗外部において広告のために使用される場合には,それが使用される物の形状に応じてその一部を修正して使用される可能性が否定できないことから,請求の趣旨第2項ないし第4項の請求が認められる。
()
(2) 争点6(原告と被告との間におけるモモクマに関する静止画,動画,編集画像及びイラストの利用についての合意内容)について内容に鑑み,争点5に先立ち,争点6を検討する。
被告は,原告と被告との間では,少なくとも黙示的に,モモクマに関するイラスト,静止画,動画,レタッチ済の静止画を被告の広告媒体などに自由に利用できる旨の合意があったと主張する。
キークリエイティブ見積書には,BIキャラクターデザイン費A,Bの内容について,いずれもデザインの制作としているものであり ,それらで制作されたものについて,被告が,原告の関与なく自由に利用することができることが明示されているとはいえないものであった。また,それら制作の作業をすることによって,制作されたイラスト,写真について,被告が,原告の関与なく自由に利用することができることが,原告と被告との間で話されたことはなかった。この点に関係して,被告は,キークリエイティブ見積書に「展開使用権含む」という記載があることを指摘する。しかし,見積書やその他の文書に「展開使用権」を説明したものはなく,原告被告間でその内容が話されたことは認められず,その内容が一義的に決まるものではない。原告代表者は,これは,原告が制作したイラスト等について,被告がそれを使用する広告を作成等する場合には原告がそれに関与することを前提として,その際,原告が別途イラスト等に関するデザイン料等を請求しない趣旨である旨供述する。これらによれば,キークリエイティブ見積書に「展開使用権含む」という記載があることから,直ちに被告主張の合意があったとはいえない。
被告は,原告に対し,キークリエイティブの制作やキービジュアル撮影について,見積書の送付を受けて,それらについての支払をしたが,その上で,それとは別に,モモクマのイラストや写真を用いたチラシ,のぼりを含む,様々な個別の物品の制作について,備品等の細部に至るまで自ら作成せずに原告にこれらを依頼し,原告はそれを納品し,その対価を得た。これは,被告自身がモモクマのイラスト等を自由に利用して自ら広告物を制作することを想定していなかったことをうかがわせるものともいえる。
また,Cは,原告代表者に対し,原告との契約を継続できないことを前提に,「FIT365」のロゴやキークリエイティブ一式についてのバイアウトの価格の概算を教えてもらいたい,被告としては500万円程度を想定しているという連絡をした。これは,被告の投資会議で議題とされることを前提として,複数の上司にも相談した上で連絡されたものであること(同前)に照らせば,上記の連絡をするに際しては,被告内部において原告と被告との間の契約関係や納品物の権利関係などについて十分な検討をした上で一定の金額を提示したものといえる。上記の連絡は,被告が,「FIT365のロゴやキークリエイティブ一式」については,著作権その他の権利については原告が保有していて,原告に対して何らかの対価を支払わない限り,被告がそれを自由に利用できるものではないことを前提としていたことを示すといえるものである。
上記に照らせば,原告と被告との間では,キークリエイティブ開発によって制作されたモモクマのイラスト,写真と,それらを利用して制作される個別具体的な物品や広告は別個のものであるという理解を前提としていたと認められる。
以上によれば,原告と被告との間において,モモクマのイラスト,静止画等について,原告と被告との間において,原告が納品したモモクマのイラスト,写真が使用された物品やウェブサイトを被告が使用することを超えて,そのイラストや静止画自体を,被告が,原告が納品した物品やウェブサイト以外で使用することは合意されていたとは認められないとするのが相当である。被告は,別紙被告物件目録2記載のイラストを被告の広告媒体に自由に利用できることの確認を求めるところ,これは原告が納品した物品やウェブサイトでの使用を超えて,それらのイラスト自体を被告が自由に利用できることの確認を求めるものと解されるところ,そのような合意があったとは認められない。
したがって,被告の,原告に対する,①モモクマに関するデータを被告の広告媒体に自由に利用(第三者に利用させることを含む。)できることについての確認請求,②モモクマのイラストを被告の広告媒体に自由に利用(第三者に自由に利用させることを含む。)できることについての確認請求は,いずれも理由がない。
(3) 争点5(本件アニメーションイラスト使用行為についての原告の翻案権侵害の有無)について
ア 前提事実によれば,原告は,本件モモクマ著作物についての著作者及び著作権者であると認められる。
イ 翻案(著作権法27条)とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。
本件モモクマ著作物と,本件アニメーションイラスト使用行為で使用されている別紙翻案物目録記載のモモクマのイラストは,いずれも二本足で直立する熊のイラストであり,その熊の顔が同じほか,その耳の大きさ,手足の長さ・形を含めた体形は同じであり,いずれも首の後ろにかけたタオルがわきの少し上まで伸び,そのタオルの形も同じである。また,その熊の色やタオルの色も同じである。他方,本件モモクマ著作物に記載されている熊は器具等を使用しておらず,それを使用するための姿勢とっていないが,本件アニメーションイラスト使用行為で使用されているイラストは,いずれも上記の熊とフィットネスジムで使用する器具や看板のイラストを組み合わせて,熊がそれらの器具等を使用したり,持っていたりするというものであり,熊はそれに応じた姿勢をとっている。その他,本件アニメーションイラスト使用行為で使用されているイラストは,被告のホームページ上で,2つのイラストが交互に表示されて簡単なアニメーションの表示となるものである。そして,本件アニメーションイラスト使用行為で使用されたイラストは,本件モモクマ著作物が原告から被告に提示等された後に制作されたものである。
これらからすると,別紙翻案物目録記載のモモクマのイラストは,本件モモクマ著作物に依拠し,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて新たに思想又は感情を創作的に表現したものであり,これに接する者が本件モモクマ著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものであって,本件モモクマ著作物を翻案したものであるといえる。
ウ 被告は,本件アニメーションイラスト使用行為について,有償で制作されて納品を受けたイラストを利用しているにすぎず,使用許諾がされていると主張する。しかし,上記 のとおり,原告と被告との間で,モモクマのイラストを自由に使用できる合意はなかった。
エ 以上によれば,本件アニメーションイラスト使用行為は,原告の本件モモクマ著作物についての翻案権を侵害するものであると認められる。
そして,被告が,別紙翻案物目録記載のモモクマのイラスト以外にも,本件モモクマ著作物を改変した多数のイラストを制作,使用していることに照らせば,被告のホームページ上及びインターネットを利用した広告媒体上から別紙翻案物目録記載のモモクマのイラストを削除することや,記録媒体からそれらのデータを削除することだけでなく,別紙著作物目録2記載のイラストの翻案を禁止することについても,「侵害の停止又は予防に必要な措置」(著作権法112条2項)であると認めるのが相当である。
(4) 争点7-1(原告が本件着ぐるみを被告に引き渡す義務があるか),争点7-2(原告が本件撮影会で撮影された静止画の元データ(TIFFデータ)及び編集後の静止画データを被告に引き渡す義務があるか)及び争点7-3(25 告が本件撮影会で撮影された動画のデータを被告に引き渡す義務があるか)について
被告は,原告が平成30年1月26日に行われた本件撮影会で使用された本件着ぐるみ,本件撮影会で撮影された静止画の元データ(TIFFデータ),編集作業後の静止画データ,動画のデータを引き渡す旨の合意があったと主張する。
ア 本件着ぐるみ
キークリエイティブ見積書には,BIキャラクターデザイン費Aの内容について,コンセプト企画に基づくキャラクターデザイン(リアル版)開発と記載されているにとどまり,その開発された本件着ぐるみの引渡しについての記載はない。本件着ぐるみは本件撮影会で使用するために制作されたものであり,原告は,それを撮影後,廃棄する可能性もあったところ,原告と被告との間で本件着ぐるみを廃棄するか否かについて協議はされなかった。また,本件撮影会の後,本件着ぐるみは原告が保管することになった。これらの事情に照らせば,原告と被告との間において,本件着ぐるみを引き渡す合意はなかったと認めるのが相当である。
したがって,被告が,本件着ぐるみの引き渡すよう求める請求には理由がない。
イ 静止画の元データ,編集作業後の静止画データ
キークリエイティブ見積書には,BIキャラクターデザイン費A,Bの内容について,デザインの開発ないし制作と記載されているにとどまるし,個別具体的な広告物についての見積書ないし請求書においても,成果物の素材である元データや編集作業後の静止画データの引渡しについての記載はない 。そして,原告と被告との間では,モモクマに関する多数の個別具体的な広告物が納品されていたところ,上記(2)で検討したとおり,モモクマに関するイラストを被告の広告媒体に自由に利用できることについての合意があったとは認められず,被告が納品された広告物の素材となった元データや編集作業後の静止画データを受領したとしても,それらを被告において自由に利用することはできなかった。これらに照らせば,原告の債務の内容は広告物(成果物)を納品することであり,原告と被告との間でその素材である静止画の元データ(TIFFデータ)や編集作業後の静止画データを引き渡す合意があったとは認められない(なお,原告は,モモクマについて撮影した静止画を,色やサイズなど調整をした上で広告に使用できるデータに修正し,修正後(レタッチ後)のデータを広告物などとともに被告に交付したが,これは広告物の納品に伴ってされたと見る余地があるものであり,そのデータを被告が自由に利用できたとも認められない。)。
したがって,被告が,別紙被告物件目録1に記載の着ぐるみの本件撮影会で撮影された全ての静止画の元データ(TIFFデータ)及び原告による編集後の全ての静止画データを引き渡すよう求める請求には理由がない。
ウ 動画データ
本件撮影会で動画を制作すること自体は予定されておらず,したがって,原告も動画を制作していないのであるから,原告と被告との間では,原告が動画を制作することやその動画のデータを引き渡す旨の合意があったとは認められない。
したがって,被告が別紙被告物件目録1に記載の本件撮影会で撮影された動画データを引き渡すよう求める請求には理由がない。
エ 上記アないしウによれば,原告の被告に対する本件着ぐるみ,本件撮影会で撮影された静止画の元データ(TIFFデータ),編集作業後の静止画データ及び動画のデータの引渡しについての債務は存在しないから,そのような債務を前提とした,原告の被告に対する債務不履行(履行遅滞)による損害賠償請求についても理由がない。