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著作権判例セレクション

【職務上作成する著作物の著作者】運勢を記述した書籍の職務著作性(自己名義の公表要件等)が問題となった事例

▶平成170928日東京地方裁判所[平成16()4697]
() 本件は,原告が,被告らに対し,本件各書籍についての著作権及び編集著作権を原告が有するものであるところ,被告Bを著者,被告T易断総本家株式会社(「被告会社」)を発行所とする被告書籍の発行が,本件各書籍についての原告の著作権又は編集著作権を侵害するものであると主張して,著作権又は編集著作権(複製権・翻案権)に基づき,被告書籍の販売等の差止めを求め,不法行為に基づき,損害の賠償を求めた事案である。

1 争点(1)(本件各書籍の作成者)について
前記認定のとおり,本件各書籍には,原告が著者として記載されているので,同人が一応著作者と推定されるところ,被告らは,被告Bが本件各書籍を作成したものである旨主張するので,まず,原告と被告Bとの関わり,本件各書籍の作成経緯等,証拠として提出されている暦の原稿の執筆者について検討した上で,本件各書籍のうち,原告が被告らにより複製ないし翻案されたと主張する部分の作成者について検討する。
(1) 証拠及び前記前提となる事実並びに弁論の全趣旨によれば,原告と被告Bとの関わり,本件各書籍の作成経緯等について,次の各事実が認められる。
()
(2) 上記認定に反し,原告は,平成9年7月ころから平成11年5月までの間,原告が被告Bを雇用し,月額25万円の給与を支払っていたのであり,給与の支払は,神聖館の経理担当であるCが原告から毎月1日に25万円を預かり,静岡市内の神聖館において被告Bに交付する方法によっていた旨主張し,原告作成の陳述書及びC作成の陳述書にもこれに沿う記載がある。
しかし,上記認定のとおり,被告Bに対して暦作成のための費用が支払われた場合には詳細に精算書が作成されるのが通例であったにもかかわらず,月額25万円の現金による給与の支払に関しては,これを証明するに足りる客観的証拠は全く作成されておらず,また,原告が個人として被告Bを雇用していたにもかかわらず,原告が当該給与を神聖館の経理担当であるCにいったん手交し,同人が被告Bに支払うことについての合理的理由が説明されていないことからすれば,原告作成の上記陳述書及びC作成の上記陳述書の各記載は採用することができず,原告の上記主張は,採用することができない。
なお,上記認定事実に照らして,フォーチューンからの月額25万円の給付が経費の補てんにすぎないとする被告Bの主張を採用することができないことも明らかである。
(3) 上記認定の各事実によれば,被告Bが神聖館から暦作成のための費用の一部の支給を受けていたことは認められるものの,原告が被告Bに対して本件各書籍の作成についての対価を支払っていた事実は全く認められないから,フォーチューンの設立前は,被告Bが著作権法15条にいう「法人等の業務に従事する者」に当たるとは認められない。
これに対し,フォーチューンの設立後は,被告Bは,フォーチューンの取締役となり,フォーチューンから月額25万円の給与を受けていたのであり,被告Bが行っていた暦の作成に関する事務はフォーチューンの業務であるから,被告Bは,著作権法15条にいう「法人等の業務に従事する者」に当たる。
(4) もっとも,フォーチューンの設立後に発行された本件書籍(2),本件書籍(3),本件書籍(4)及び本件書籍(5)は,いずれも原告の著作の名義の下に公表されたものであることからすれば,これらの書籍がフォーチューンの著作の名義の下に公表するものであったとは認められず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
原告は,著作権法15条が名義を公表することを要求した趣旨は,対外的に誰が著作者であるかを明確にするとともに,法人内部にいる従業員に対し,自己に著作権が帰属するものではないことを明確にするためであり,本件においては,原告の名義で公表されている以上,職務著作を認めることがこれらの趣旨に沿うものであると主張する。
しかし,被告Bを雇用等するものではない原告の名義で本件各書籍を公表することが,その著作者を明確にするものでないことは明らかであるし,原告のような解釈によれば,当該従業員以外の誰の名義を付しても職務著作が成立することになりかねず,「法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」であることを要件とした著作権法15条の明文規定に反することになるから,原告の上記主張は,採用することができない。
また,原告は,フォーチューンと原告との間には実質的な同一性があるから,職務著作の要件を充たすと主張するが,フォーチューンと原告とが別個の法主体であることはいうまでもなく,フォーチューンに法人格を認めることが許されない場合に当たることを認めるに足りる証拠はないから,両者を同一視することは困難であり,原告の上記主張は,採用することができない。
なお,被告らが,著作権法15条の明文規定に基づき,本件各書籍が法人等の名義の下に公表されていないことを主張することが,信義則に反するような事情も認められない。
(5) したがって,本件各書籍の一部を被告Bが作成したものであっても,著作権法15条により原告又はフォーチューンが著作者となる旨の原告の主張は,理由がない(したがって,フォーチューンが著作者となることを前提とした争点(3)は,検討すべき問題とならない。)。