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著作権判例セレクション
【公表権】公表権侵害事例(ただし、損害賠償は認めず)/適法引用を否定(「公表」要件欠如)した事例
▶平成25年06月28日東京地方裁判所[平成24(ワ)13494]
(注) 本件は,原告各文書の著作者及び著作権者であると主張する原告(「神田のカメさん法律事務所」を開設している弁護士)が,(1)被告Y1(「かなめ行政書士事務所」を開設している行政書士)は,被告ブログ1上の2の記事(「被告記事1」「被告記事2」)において原告文書1を掲載し,また,2つの記事(「被告記事4」「被告記事5」)において,原告文書3のpdfファイルを掲載したURL(「本件各URL」)を掲載し,(2)被告Y2は,被告ブログ2上の記事(「被告記事3」)において原告文書1及び2を掲載し,また,別の記事(「被告記事6」)において原告文書3を掲載しており,これらにより,原告の著作権(公衆送信権〔送信可能化を含む。〕)及び著作者人格権(公表権)を侵害していると主張して,被告らに対し,著作権法112条1項に基づき,被告各ブログにおいて,被告各記事に含まれる原告各文書及び本件各URLを掲載して使用することの差止めを求めるとともに,著作権及び著作者人格権侵害の不法行為責任(民法709条)に基づく損害賠償として,各自150万円の支払を求めた事案である。
1 争点(1)(原告各文書の著作物性)
(略)
(3) 小括
以上のとおり,原告文書1には著作物性が認められないから,原告文書1に係る原告の請求(被告各ブログにおける原告文書1を掲載して使用することの差止請求及び損害賠償請求)については,その余の点について検討するまでもなく理由がない。
したがって,原告文書2及び3についてのみ,以下の争点につき検討する。
2 争点(2)(公衆送信権侵害の成否)
(1) 被告Y1の行為について
ア 前記前提事実のとおり,被告Y1は,被告ブログ1中の被告記事4及び5において,「『toubensyo-01.pdf』をダウンロード」等の文字を掲載しているところ,上記文字の掲載は,本件各URLの掲載と同視することのできるものであり,これらの文字をインターネット接続環境下でクリックすることにより,被告ブログ1中の原告文書3のpdfファイルを掲載する本件各URLに移動し,上記ファイルを閲覧することができるものである。
イ そうすると,被告Y1が,被告ブログ1中の被告記事4及び5において本件URLを掲載して使用することにより,被告ブログ1の利用者が,上記アの方法によりダウンロードされた原告文書3を閲覧することができることが明らかであり,実際に利用者により原告文書3がダウンロードされているものと認められる。そして,被告Y1が本件URLを掲載して使用することは,それによって被告ブログ1の利用者が原告文書3をダウンロードし,原告文書3について原告が有する公衆送信権を被告Y1が侵害する行為を引き起こす行為であり,原告は,被告Y1による本件URLの掲載,使用を差し止めることができるものというべきである。
ウ 以上のとおり,被告Y1は原告の原告文書3に係る公衆送信権を侵害する行為をしており,原告は被告Y1による本件各URLの掲載,使用を差し止めることができるものというべきである。
(2) 被告Y2の行為について
ア 前記前提事実のとおり,被告Y2は,被告ブログ2中の被告記事3において原告文書2を,被告記事6において原告文書3を各掲載しているものであり,これにより,原告文書2及び3を公衆送信しているものと認められる。
イ この点に関し,被告Y2は,原告文書2及び3の掲載は著作権法32条1項の引用に当たるから,上記アの行為に公衆送信権侵害は成立しない旨主張する。
しかし,前記前提事実のとおり,原告文書2は東京行政書士会における苦情申告手続において提出された苦情申告書であり,原告文書3は,東京弁護士に対する懲戒請求に関し,東京弁護士会綱紀委員会宛てに提出された答弁書であるところ,いずれの手続も,担当委員会内における非公開での審理が予定されているものであるから,このような手続において提出された原告文書2及び3について,「発行」(著作権法3条1項)されたものと認めるに足りる程度の複製物の作成及び頒布(公衆の要求を満たすことができる相当程度の部数の複製物の作成及び頒布)がされたものとは認められない。また,上記のとおり各手続が非公開とされていることに照らし,原告文書2及び3が,原告又はその許諾を得た者によって公衆送信等の方法で公衆に提示されたものとも認められない。そうすると,原告文書2及び3は,いずれも「公表」(同法4条1項)されたものと認めることができず,「公表された著作物」(同法32条1項)に当たらないから,被告Y2の行為が同法32条所定の引用に当たるものとは認められない。
ウ したがって,被告Y2の上記行為は,原告の公衆送信権を侵害するものに当たる。
3 争点(3)(公表権侵害の成否)
(1) 被告Y1の行為について
前記2(1)のとおり,被告Y1は,本件各URLに原告文書3のpdfファイルを掲載することにより,被告ブログ1の利用者に原告文書3の公衆送信を行っているものと認められるところ,前記2(2)のとおり,原告文書3は「まだ公表されていないもの」(著作権法18条1項)であると認められるから,被告Y1の上記行為は原告文書3に係る原告の公表権を侵害するものに当たる。
(2) 被告Y2の行為について
前記2(2)のとおり,被告Y2は,「まだ公表されていないもの」(著作権法18条1項)である原告文書2及び3を被告ブログ2に掲載し,公衆に提示したものと認められるから,上記行為は原告文書2及び3に係る原告の公表権を侵害するものに当たる。
4 争点(4)(原告の著作権及び著作者人格権の行使が権利の濫用に当たり,又は本件訴訟が訴権の濫用に当たるか。)
(1) 前記1ないし3でみたところによれば,被告Y1が被告ブログ1において原告文書3を公衆送信すること並びに被告Y2が被告ブログ2において原告文書2及び3を掲載することが,原告の著作権(公衆送信権)及び著作者人格権(公表権)を侵害するものに当たることは前記のとおりであるから,原告が上記行為の差止めを求めることは正当な権利の行使に当たるというべきであり,これが権利濫用に当たるものとは認められない。
(2) 被告らの指摘する諸事情に加え,本件に現れた一切の事情を考慮しても,原告による本件訴訟の提起が訴権の濫用に当たるとは認められない。
5 争点(5)(原告の損害及び損害額)
(1) 前記2及び3のとおり,被告Y1が被告ブログ1の利用者に対し原告文書3を公衆送信した行為及び被告Y2が被告ブログ2において原告文書2及び3を掲載した行為は,原告の公衆送信権及び公表権を侵害するものであると認められる。
(2)ア しかし,原告は,上記侵害による損害として慰謝料のみを請求しているところ,著作財産権である公衆送信権侵害により,原告に,慰謝料請求の基礎となるべきような精神的苦痛が生じたものとは認められない。
イ また,公表権は,自己の著作物を公表するか否かを決定し,かつ,公表する場合における方法・時期等を決定する権利であると解することができるところ,原告は,原告文書3は,原告の承諾なしに公表等された場合のことも視野に入れて,イメージ効果や社会的影響力も考慮して作成したものである旨主張している上,原告がインターネット上で公開しているブログ中には,原告が,被告ブログ1のプロバイダに対し原告文書3の削除を求める仮処分命令申立てを行ったことに関し,「今回の仮処分申立ては,はっきり言って,新しい削除仮処分の実験です。すなわち,新しい削除仮処分の類型として,著作権を理由とした削除の仮処分の申立て方法を試みるために,ちょうどいい実験台がいたので,ブログに掲載することを見越して,わざとひな型のないような答弁書を作成して,今回の申立てへと持っていったわけです。」と記載していることが認められる。これに加えて,原告と被告らは,被告Y1が,被告ブログ1に,原告が代理人を務める会社に関する記事を掲載したことを発端として,各運営するブログにおいて,相手方の言動について記載し,これを非難する内容の記事を掲載し合っており,被告各記事もその中で掲載されるに至ったものであるとみられることを考慮すれば,原告において,原告文書2及び3が,被告らのいずれかによりインターネット上に掲載され,公表されることを予期していたばかりか,原告において,これを誘引した面もあるものとみることができるというべきである。
以上の事情に加えて,原告が,慰謝料額の根拠に関し,被告Y1が別訴事件において主張する精神的苦痛に対する慰謝料と同額である150万円を下らない旨主張するのみで,原告が精神的苦痛を被ったこと及びその内容について何ら具体的主張立証をしないことも考慮すれば,原告文書2及び3の公表により,原告に,慰謝料請求の基礎となるべきような精神的苦痛が生じたものとは認められない。
ウ 以上によれば,原告による公衆送信権及び公表権侵害に基づく慰謝料請求は理由がない。
第5 結論
よって,原告の請求は,被告Y1に対し被告ブログ1において被告記事4及び5に含まれる本件URLを掲載して使用する行為及び被告Y2に対し被告ブログ2において被告記事3及び6に含まれる原告文書2及び3を掲載して使用する行為の差止めを求める限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求は理由がないからいずれも棄却することとし,仮執行宣言については適切ではないのでこれを付さないこととして,主文のとおり判決する。