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著作権判例セレクション

【公表権】弁護士会に対する懲戒請求書の提出行為が「公表」に当たらないとした事例

▶令和3414日東京地方裁判所[令和2()4481]▶令和31222日知的財産高等裁判所[令和3()10046]
2 争点1-2(本件懲戒請求書の公表の有無)について
(1) 弁護士会に提出されたことについて
ア 被告らは,本件懲戒請求書は,弁護士会への提出により,「発行」され,又は「上演,演奏,上映,公衆送信,口述若しくは展示の方法で公衆に提示」されたものであるから,「公表」(著作権法4条1項)されたものであると主張する。
しかし,本件懲戒請求書が第二東京弁護士会に提出されたとしても,同請求書は同弁護士会における非公開の懲戒手続に使用されるにすぎず,その手続の性質上,同請求書にアクセスすることができるのは,同手続に関与する同弁護士会の関係者に限られると解するのが相当である。そうすると,その提出をもって,本件懲戒請求書が「発行」(同法3条)され,又は,「上演,演奏,上映,公衆送信,口述若しくは展示の方法で公衆に提示」されたということはできない。
イ 被告らは,第二東京弁護士会の綱紀委員会の委員は約100名に上り,その他の弁護士会の職員も懲戒請求書を随時閲覧することになるので,懲戒請求書が同弁護士会に提出されると,必然的に多数の関係者の目に触れることになると指摘する。
しかし,綱紀委員会規則によれば,同委員会においては,7名以上の部会員からなる部会による議決手続(11条)や1人又は数人の主査委員により調査手続が行われると定められており(51条),本件の懲戒手続に関与しない綱紀委員会の委員や弁護士会職員が本件懲戒請求書を広く閲読することが当然に予定されていると考えることもできない。
これらの手続において,本件懲戒請求書の複製物が作成されることは想定されるとしても,「発行」とは「公衆の要求を満たすことができる相当程度の部数の複製物」(著作権法3条1項)が権利者の許諾を得るなどして作成・頒布されることをいうところ,本件懲戒請求書は,その手続の性質上「公衆の要求を満たすことができる相当程度の部数の複製物」を作成・頒布することを当然に予定するものではなく,また,そのような事実も認められない。
ウ また,被告らは,懲戒請求の審査手続が公開され得るものであることなども指摘する。しかし,審査手続が公開されたとして,それをもって,当該手続に係る懲戒請求書が「公表」されたということはできず,懲戒処分に対する取消しの訴えが提起された場合も同様である。
エ したがって,弁護士会に対する本件懲戒請求書の提出行為が,著作権法4条にいう「公表」に当たるということはできない。
(2) 産経新聞社に提供されたことについて
ア 被告らは,本件懲戒請求書は原告により産経新聞社に提供され,その重要な一部が本件産経記事として報道されたのであるから,同請求書は「公表」されたものであると主張する。
本件産経記事は,前記前提事実のとおり,本件懲戒請求書の「懲戒請求の理由」の第3段落全体(4行)を,その用語や文末を若干変えるなどした上で,かぎ括弧付きで引用しており,証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,原告は,産経新聞社に対し,Yの氏名に関する情報を含め,本件懲戒請求書又はその内容に関する情報を提供したと推認することができ,これを覆すに足りる証拠はない。
しかし,本件産経記事で引用されたのは,本件懲戒請求書のごく一部にとどまり,後記ウのとおり,当該引用部分が本件懲戒請求書の主要な部分であるということもできないことに照らすと,本件産経記事における上記引用によって,本件懲戒請求書が公表されたということはできない。
イ 被告らは,【著作物の一部が提示】されたにもかかわらず,その全体を市民の共通財産として利用し得ないというのは不合理であると主張する。
しかし,本件懲戒請求書はその全部が不可分一体の関係にあるものではなく,公表された範囲もごく一部にとどまることに照らすと,前記判示のとおり,本件懲戒請求書の一部の内容が本件産経記事に引用される形で公衆の認識し得るところになったとしても,当該請求書が公表されたということはできない。
ウ 被告らは,本件産経記事の引用部分は,本件懲戒請求書の主要な部分であると主張する。
しかし,本件産経記事に引用された部分は,Yのブログに掲載された記事についての意見であって,懲戒請求の理由そのものではなく,当該引用部分が「懲戒請求の理由」に占める割合もごく一部にすぎない。本件懲戒請求書には,上記の引用部分に続いて,他の弁護士に対する懲戒請求の理由が引用され,当該理由がYにも同様の理由が妥当するとされた上で,原告の意見が更に記載され,結論に至っているものであり,当該引用部分が本件懲戒請求書の主要な部分であるということはできない。
(3) 小括
以上のとおり,本件懲戒請求書が公表されたということはできない。
[控訴審同旨]