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著作権判例セレクション
【映画著作物】スマホで撮影した動画を映画著作物と認定した事例(その撮影者を著作者とした事例)
▶令和4年5月26日東京地方裁判所[令和3(ワ)34094]
2 争点2-1(本件動画の著作物性及び原告の著作権の有無)及び争点2-2(複製権及び公衆送信権侵害の有無)について
(1) 証拠及び弁論の全趣旨によれば、原告は、自身の事業である「B」事業及びそのフランチャイジーである甲店の宣伝広告目的で同店舗を訪れた際に同店舗のスタッフが店舗前で原告を出迎えている様子を、自己のスマートフォンを用いて撮影し、本件動画を制作したことが認められる。このような本件動画の撮影内容及び経緯等を踏まえると、本件動画の撮影にあたっては、原告が被写体である店舗、スタッフ等の配置、アングル、動き、撮影の流れ等を自ら決定し、その決定に従って撮影したものであることがうかがわれる。そうすると、本件動画は映画の著作物といえると共に、本件動画の全体的形成に創作的に寄与した者は原告といえるから、原告は、その著作者として著作権(複製権・公衆送信権)を有すると認められる。これに反する被告の主張は採用できない。
(2) 本件動画と本件画像とを対比すると、本件画像は、本件動画の一場面(概ね冒頭の0秒頃)と同一のものであることが認められる。すなわち、本件画像は、本件動画の一部と同一のものである。そうすると、本件記事の投稿者は、被告が提供するインターネット接続サービスを利用して本件記事をツイッター上で作成、投稿することにより、本件動画を有形的に再製すると共に、インターネットを通じて本件記事にアクセスした不特定又は多数の者に、本件画像を閲覧できる状態に置いたと認められる。これらは著作物の複製・公衆送信行為に当たる。なお、原告が本件記事の投稿者に対して本件動画の利用を許諾したことをうかがわせる証拠はない。
そうすると、本件投稿により、原告が有する本件動画の著作権(複製権及び公衆送信権)が侵害されたことは明らかというべきである。
3 争点2-3(引用の抗弁の成否)について
(1) 被告は、本件投稿につき、店舗にスタッフが4人いることを示す趣旨で本件画像を掲載したものであれば引用の必要性があるなどとして、適法な引用に該当する旨主張する。
引用による利用が著作権法32条1項により適法とされるためには、引用して利用することが公正な慣行に合致すると共に、引用の方法や態様が、報道、批評、研究等の引用目的との関係で、社会通念に照らして合理的な範囲内のものであることを要すると解される。
(2) 証拠によれば、本件記事には「スタッフ4人平均売り上げ100万ないのに大丈夫かな、、、頑張ってほしいけどこの日の売り上げ気になるw」との文章が付されていることが認められる。この文章の趣旨は必ずしも明確とはいえないものの、単にスタッフの人数が4人であることを殊更に指摘することがその趣旨の全部又は一部であるとは考え難い。仮にそのような趣旨であるとしても、その事実の摘示のために本件動画(本件画像部分)を引用する必要性は乏しいといえる。その上、本件画像は本件記事全体の分量の過半を占めており、独立して鑑賞の対象となり得る程度の大きさであるのに対し、上記文章は短文であると共に比較的小さな文字で掲載されている。これらの事情等に照らすと、本件記事における本件動画の引用の方法及び態様は、引用目的との関係で社会通念に照らして合理的な範囲内のものであるということはできない。また、当該引用が公正な慣行に合致すると見るべき事情もない。
以上によれば、本件記事に本件画像を添付して本件動画を利用したことは、適法な引用に当たるとはいえない。この点に関する被告の主張は採用できない。
(3) そうすると、被告が提供するインターネット接続サービスを利用した本件投稿により、原告が有する本件動画の著作権(複製権及び公衆送信権)が侵害されたことは明らかといえる。また、本件発信者情報は権利侵害に係る発信者情報に該当すると共に、本件投稿に係る経由プロバイダである被告は、開示関係役務提供者(法4条1項)に当たる。これに反する被告の主張は採用できない。
4 争点3(発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無)
本件投稿による原告の本件動画に係る著作権(複製権及び公衆送信権)の侵害が認められること及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件投稿をした発信者に対して損害賠償請求等をする予定であることが認められる。そうすると、原告は、その権利行使のために本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるといえる。これに反する被告の主張は採用できない。