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著作権判例セレクション
【美術著作物】応用美術の著作物性/ゴルフクラブのシャフトの外装デザイン及びその基となった原画並びにそのカタログの表紙デザインの著作物性を否定した事例
▶平成28年4月21日東京地方裁判所[平成27(ワ)21304]▶平成28年12月21日知的財産高等裁判所[平成28(ネ)10054]
(注) 本件は,原告が,被告に対し,ゴルフクラブのシャフトの外装デザイン(「本件シャフトデザイン」)及びその基となった原画(「本件原画」)並びにカタログの表紙デザイン(「本件カタログデザイン」)はいずれも原告の著作物であるところ,被告の販売する被告シャフトは本件シャフトデザインの特徴を全て踏襲した上で配色,パターンの位置等を変えたものであるから本件シャフトデザイン(予備的に本件原画)に係る原告の著作権(翻案権,二次的著作物の譲渡権)及び同一性保持権を侵害するなどとして,
著作権侵害につき使用料相当額の不当利得金等の返還などを求めた事案である。
原判決は,本件シャフトデザイン,本件原画及び本件カタログデザインは,いずれも,著作権法上の著作物に当たらないとして,控訴人の請求を全部棄却した。
[控訴審]
当裁判所も,被告シャフト及び被告カタログによる控訴人の著作権(翻案権,二次的著作物の譲渡権)侵害及び著作者人格権(同一性保持権)侵害は成立しないと判断する。その理由は,以下のとおりである。
1 争点(1)(本件シャフトデザイン及び本件原画の著作物性)について
(1) 応用美術の著作物性について
ア 著作権法2条1項1号は,著作物の意義につき,「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」と規定しており,ここで「創作的に表現したもの」とは,当該表現が,厳密な意味で独創性を有することまでは要しないものの,作成者の何らかの個性が発揮されたものをいうと解される。
控訴人は,本件シャフトデザイン等が,ゴルフシャフトという実用に供される物品に表現されたものであることなどを前提として,その著作物性を主張する(著作権法10条1項4号)から,本件は,いわゆる応用美術の著作物性が問題となる。
ところで,著作権法は,建築(同法10条1項5号),地図,学術的な性質を有する図形(同項6号),プログラム(同項9号),データベース(同法12条の2)などの専ら実用に供されるものを著作物になり得るものとして明示的に掲げているのであるから,実用に供されているということ自体と著作物性の存否との間に直接の関連性があるとはいえない。したがって,専ら,応用美術に実用性があることゆえに応用美術を別異に取り扱うべき合理的理由は見出し難い。また,応用美術には,様々なものがあり得,その表現態様も多様であるから,美的特性の表現のされ方も個別具体的なものと考えられる。
そうすると,応用美術は,「美術の著作物」(著作権法10条1項4号)に属するものであるか否かが問題となる以上,著作物性を肯定するためには,それ自体が美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えなければならないとしても,高度の美的鑑賞性の保有などの高い創作性の有無の判断基準を一律に設定することは相当とはいえず,著作権法2条1項1号所定の著作物性の要件を充たすものについては,著作物として保護されるものと解すべきである。
もっとも,応用美術は,実用に供され,あるいは産業上の利用を目的とするものであるから,美的特性を備えるとともに,当該実用目的又は産業上の利用目的にかなう一定の機能を実現する必要があり,その表現については,同機能を発揮し得る範囲内のものでなければならない。応用美術の表現については,このような制約が課されることから,作成者の個性が発揮される選択の幅が限定され,したがって,応用美術は,通常,創作性を備えているものとして著作物性を認められる余地が,上記制約を課されない他の表現物に比して狭く,また,著作物性を認められても,その著作権保護の範囲は,比較的狭いものにとどまることが想定される。そうすると,応用美術について,美術の著作物として著作物性を肯定するために,高い創作性の有無の判断基準を設定しないからといって,他の知的財産制度の趣旨が没却されたり,あるいは,社会生活について過度な制約が課されたりする結果を生じるとは解しがたい。また,応用美術の一部について著作物性を認めることにより,仮に,何らかの社会的な弊害が生じることがあるとすれば,それは,本来,著作権法自体の制限規定等により対処すべきものと思料される。
イ(ア) これに対して,被控訴人は,著作権法,意匠法及び不正競争防止法の諸規定からすれば,実用に供される機能的な工業製品ないしそのデザインは,その実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得るような美的特性を備えていない限り,著作権法2条1項1号の「文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」に当たらないというべきである,と主張する。
確かに,実用に供される機能的な工業製品ないしそのデザインについて,応用美術として著作権法による保護を求める場合には,応用美術が美術の著作物である以上,美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えなければならないが,応用美術には,装身具等の実用品自体であるもの,家具等に施された彫刻等実用品と結合されたもの,染色図案等実用品の模様として利用されることを目的とするものなど様々なものがあり,表現態様も多様であるから,前述したように,応用美術が一方において実用的機能を有することを理由として,一律に著作物性を否定することは相当ではなく,また,「美的」という観点からの高い創作性の判断基準を設定することも相当とはいえない。
上記の見解に反する限度で,被控訴人の主張は採用できない。
(イ) また,被控訴人は,ゴルフクラブのシャフトのデザインは,シャフトの形態に制約され,ぱっと見た目の良し悪し,ユーザーの記憶への残りやすさなどを目的として制作され,美的鑑賞の対象となることが想定できないから,そのデザインにおいて重視されるのは,実用的,商業的観点であり,作者の個性の表出や表現ではないから,著作権法が想定している個性を表現したものではあり得ない,と主張する。
確かに,シャフトのデザインは,実用に供され,あるいは産業上の利用を目的とする側面を有するものであるから,当該実用目的又は産業上の利用目的にかなう一定の機能を実現する必要があるとともに,商業的観点からの要請もあるので,その表現については,同機能を発揮し得る範囲内のものであり商業的観点も重視されなければならない(これらに基づくデザイン上の制約としては,例えば,シャフトという物品上で表現し得るものであることに加え,印象に残る色彩の使用や製品名・製造者名等の記載などが求められることが想定される。)。
しかし,同機能を発揮しつつも,なお,デザインが作成者の個性の表現であると認められる場合も想定されるから,実用的,商業的観点から作成され,評価されるデザインであるという理由で,一律にそのデザインの著作物性を否定するのは相当ではない。シャフトのデザインの表現については,上記のような実用的,商業的観点からの制約が課されることから,作成者の個性が発揮される選択の幅が限定され,創作性を備えているものとして著作物性が認められる余地が狭いものと解されるが,個性を表現する余地がないわけではない。
被控訴人の主張には,理由がない。
(2) 本件シャフトデザイン及び本件原画の著作物性
ア 認定事実
(略)
イ 認定事実に関する当事者の主張に対する判断
(ア) 控訴人は,以上の事実認定に対し,本件シャフトデザインに赤,黒及びグレーを用いることは,被控訴人の指示によるのではなく,控訴人が選択したものであると主張し,控訴人の陳述書も,被控訴人からの指示は遠くから見て被控訴人の製品であると一目で分かるものにしたいという点のみであり,色の指定は一切なかったと述べるものであり,上記主張に沿う。
しかし,控訴人が被控訴人に対して提出した当初のデザイン案は,上記ア(イ)のとおり,いずれも赤,黒及びグレーを用いたものである。遠目から被控訴人の製品であると分かるデザインにしたいという要望のみがあり,色の指定が一切ない場合には,遠目から目立つ色の組合せは数多く考えられるから,複数案を出すのであれば,配色の異なるものを提案して被控訴人の意向を確かめるのが合理的である。また,被控訴人が控訴人に対し,被控訴人の製品であると一目で分かるというシャフトデザインを指示するに当たり,会社マークに使用されて被控訴人自身を象徴的に表す色を用いるように指示することは,ごく自然である。
したがって,被控訴人による指示がなかったとする控訴人の主張は,採用することができない。
(イ) また,控訴人は,本件シャフトデザインの作成に当たって,被控訴人から縞模様を基調とするような指示はなかったと主張し,控訴人の陳述書も,これに沿う。
しかし,上記ア(ア)のとおり,被控訴人の指示は,Penley社の縞模様のシャフトを念頭に置いて具体的になされていること,上記ア(イ)のとおり,控訴人が被控訴人に対して,提示した当初案のうち2案(第2案,第3案)は,縞模様を用い,第4案も,連続する三角形及び半円を縞模様と擬することもできることからして,縞模様を基調とするような指示があったと認めるのが相当である。
したがって,被控訴人による指示がなかったとする控訴人の主張は,採用することができない。
(ウ) さらに,控訴人は,本件カタログデザインを作成するに当たり,本件シャフトデザインを取り入れたのは,被控訴人の指示ではなく,控訴人の発案であると主張するようである。
しかし,上記のとおり,シャフトデザインについて様々な指示を行った被控訴人が,カタログデザインを発注するに当たって,控訴人に対し,何ら指示をしないとは到底考えられない。また,仮に,被控訴人がカタログデザインの指示を何らしなかったのであれば,控訴人は,当初の提案をするに当たり,本件カタログに掲載される予定の複数のシャフトをモチーフとしたものも作成するなどして,被控訴人の意図を確認するものと推測されるが,控訴人が日本廣告社を通じて被控訴人に対して提案したデザインは2案とも本件シャフトデザインを取り入れたものであった。
したがって,被控訴人が本件シャフトデザインを取り入れてカタログデザインをするよう,日本廣告社を通じて控訴人に対して指示したと認めるのが相当であり,控訴人の主張は,採用することができない。
ウ 本件シャフトデザイン及び本件原画の著作物性の有無
控訴人は,①本件シャフトデザイン等の縞模様を含むベース部分は,トルネード(竜巻)をイメージし,人間のパワーの源である赤から,シャフトのカーボンを表す黒に昇華していく表現であり,ゴルフ界に嵐を巻き起こすという意味を込めている,②ブランドロゴの横字画部の右側を鋭角に伸ばすことでボールの弾道やエネルギーの伸びと指向性を表現している,③ブランドロゴをトルネード模様(縞模様)の上に配置することでシャフト縦方向へのパワーを表現する工夫を凝らしているから,本件シャフトデザイン等には創作性が認められるべきである,と主張する。
しかし,①縞模様は,本件シャフトデザイン及び被告シャフト以外にもシャフトのデザインに用いられた例がある上に,様々な物のデザインとして頻繁に用いられ,縞の幅を一定とせずに徐々に変更させていく表現も一般に見られるところである。ゴルフシャフトの色として,赤,黒及びグレーの3色を用いた例は証拠上複数見られる。よって,本件シャフトデザイン等を縞模様とし,縞の幅を変化させ,縞の色として赤,黒及びグレーを選択したことは,ありふれている。
また,②いわゆるデザイン書体は,文字の字体を基礎として,これにデザインを施したものであるところ,文字は,本来的には情報伝達という実用的機能から生じたものであり,社会的に共有されるべき文化的所産でもあるから,文字の字体を基礎として含むデザイン書体の表現形態に著作権としての保護を与えるべき創作性を認めることは,一般的には困難であると考えられる。しかも,本件において,「Tour
AD」のブランドロゴは,上記ア(エ)のとおり,既存のフォントを利用した上で,「T」の横字画部を右に長く鋭角に伸ばしたものであるところ,文字として可読であるという機能を維持しつつデザインするに当たって,文字の一字画のみを当該文字及び他の文字の字画を妨げない範囲で伸ばすことは一般によく行われる表現であること,文字の一字画を伸ばした先を単に鋭角とすることも,平凡であることからすれば,この表現が個性的なものとは認められない。
さらに,③ブランドロゴをトルネード模様の上に配置したことに関しては,シャフトのデザインに製品等のロゴを目立つように配置することは,他のゴルフクラブのシャフトにも頻繁に見られる表現であり,細長いシャフトに文字を大書して目立たせる配置をすることの選択の幅は狭いから,ブランドロゴをトルネード模様の上に配置したことが個性的な表現とはいえない。
よって,本件シャフトデザイン等に,創作的な表現は認められず,著作物性は認められない。
2 争点(2)(本件カタログデザインの著作物性)について
本件カタログデザインは,上記1(2)ア(ケ)(コ)のとおり,本件シャフトデザイン等の縞模様部分を平面上に表現し,その配色を,赤,黒及び白とし,会社マーク及び「Tour
AD」のブランドロゴ等が配置されたものである。
控訴人は,本件カタログデザインは,本件シャフトデザイン等の特徴的部分である縞模様部分を長方形の平面に表現し,これをカタログの表紙とすることで本件シャフトデザインをアピールすることを意図して制作されたものであるから,創作性がある,と主張する。
しかし,上記1(2)ウのとおり,縞模様は,様々な物のデザインとして頻繁に用いられ,縞の幅を一定とせずに徐々に変化させていく表現も一般に見られる上,縞の色として,原色である赤と,無彩色である黒及び白を選択することも,特段の工夫が見られず,平凡であるから,本件カタログデザインには,本件シャフトデザイン等より更に創作的な表現はなく,著作物性は認められない。
3 争点(4)(被告シャフトによる翻案権及び二次的著作物の譲渡権並びに同一性保持権侵害の有無)について
控訴人は,本件シャフトデザイン等に著作物性が認められる場合であっても,複製権等の侵害は主張せず,著作権(翻案権,二次的著作物の譲渡権)及び著作者人格権(同一性保持権)の侵害を主張するので,下記においては,念のため,仮に,本件シャフトデザイン等に著作物性が認められるとした場合に,被告シャフトが本件シャフトデザイン等を翻案したものであり,被控訴人が,控訴人の著作権(翻案権,二次的著作物の譲渡権)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害したといえるか,について判断する。
(1) 本件シャフトデザイン等の本質的特徴
ア 著作物の翻案(著作権法27条)とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう(最高裁平成13年6月28日第1小法廷判決参照)。
イ 上記1(2)アの認定事実に基づけば,仮に,本件シャフトデザイン等に著作物性が認められるとした場合には,その本質的特徴は,赤と黒を基調にし,グレーをリングに用い,グリップ側に血液を象徴する赤,ヘッド側にカーボンを象徴する黒を用いて,縞模様を構成する赤と黒の幅を徐々に変化させつつ,赤と黒とが馴染むぼかし部分を入れて,グリップ側からヘッド側へと人間の血液を象徴する赤色部分が減少しカーボンを象徴する黒が増加していくことを具体的に表現した点にあるものと認められる。
ウ これに対し,控訴人は,本件シャフトデザイン等の本質的特徴を以下のとおり主張する。
「シャフトのグリップ側の端を占める色を「色A」とし,ヘッド側の端を占める色を「色B」とする。
シャフトには複数本のリングを等間隔に配置する。等間隔に配置されたリング間を,色 A と色 B で塗り分け,当該2色の境目がリングと並行になるように色分けする。リング間においては,シャフト全体で見た色の塗り分けとは逆に,グリップ寄りに色Bを,ヘッド寄りに色Aが配置される。リング間における各色の割合であるが,最もグリップ側に近いリング間は,色Aがその多くを占める。2番目にグリップ側に近いリング間は,色Aの占める割合が少し減り,色Bの割合が増える。3番目にグリップ側に近いリング間は,さらに色Aが占める割合が減り,色Bの割合が増える。これを繰り返し,最もヘッド側にあるリング間においては,色Bがほとんどの割合を占めることとなり,色Aが占める割合はわずかになる。
また,各リングのグリップ側に接する部分にはぼかし部分を入れる。ぼかし部分の面積は,各リングそれぞれで異なっており,最もグリップに近いリング脇のぼかし部分が最も面積が大きく,ヘッド側に近いリングほどぼかし部分の面積は小さくなっていく。」
しかし,具体的な配色を捨象した,幅を変えながら縞模様が変化していくという表現では,本件シャフトデザイン等において,人間の血液を象徴する赤とカーボンを象徴する黒をシャフトの地色として選択し,グリップ側からヘッド側にかけて徐々に赤色部分が減少し黒色部分が増加していくという特徴的な表現が感得できない。
しかも,配色を問わない上記控訴人の主張は,自身の制作意図とも矛盾しており,いずれにしても採用し得ない。
(2) 被告シャフトとの対比
ア 本件シャフトデザイン等の本質的特徴は上記(1)イのとおりであり,上記1(2)ア(シ)で認定した被告シャフト対照表に係る色Aが赤,色B及びDが黒,色Cがグレーという配色になる。そうすると,①全く同じ配色の被告シャフトはないから,被告シャフトは,いずれも,本件シャフトデザイン等の本質的特徴である配色を備えていない。また,②本件シャフトデザイン等の色Aが赤であるのは,人間の血液を象徴したものであるところ,被告シャフト1~50(42~46のMJカラーを除く。),55~68,73の色Aは白系,被告シャフト51~54の色Aはシルバー系,被告シャフト74~77,79~81の色Aはグレー,被告シャフト42~46のMJカラー,82,83の色Aは黄色と,いずれも,血液をイメージしにくい色である。さらに,③本件シャフトデザイン等の色B及びDは共に黒であり,黒と彩度のみを異にするグレーを用いることによって,グリップ側からヘッド側へ連続した印象を与える表現となっているものと解されるところ,被告シャフト5~8,13,14,16~19,61~64(42~46のMTカラー),65~68,69~72(42~46のMJカラー),83,並びに被告シャフト9,10及び41のブルーの色B及びD,並びに,被告シャフト5~31,37~64,69~83の色B及びCは,同系色ですらない異なる色である。
したがって,被告シャフトはいずれも,上記①の特徴を備えないことに加え,被告シャフト1~4は上記②の特徴を備えず,被告シャフト5~31は上記②及び③の特徴を備えず,被告シャフト32~36は上記②の特徴を備えず,被告シャフト37~68は上記②及び③の特徴を備えず,被告シャフト69~72は上記③の特徴を備えず,被告シャフト73~77は上記②及び③の特徴を備えず,被告シャフト78は上記③の特徴を備えず,被告シャフト79~83は上記②及び③の特徴を備えない。よって,被告シャフトはいずれも,本件シャフトデザイン等の本質的特徴を直接感得させるとはいえない。
なお,被告シャフト78は,上記被告シャフト対照表の色Aが赤,色B及びDがメタリック黒及び黒であるから,本件シャフトデザイン等の表現上の本質的特徴の一部を備えているともいえる。しかし,被告シャフト78の色Cは,はっきりした白であって,赤と黒の配色部分をくっきりと区切り,濃色である赤と黒を背景にリズミカルに配置されている印象があり,被告シャフト78全体の赤から黒へと徐々に変化していくという動きを阻害しているから,血液を象徴する赤色部分がグリップ側からヘッド側へと減少し,カーボンを象徴する黒色部分がグリップ側からヘッド側へと増加していくというイメージを想起させる構成ではない。
よって,被告シャフト78からは,本件シャフトデザイン等の表現上の本質的特徴を直接感得することはできない。
イ これに対して,控訴人は,被告シャフトは,色Aが色Bに遷移していく描写がされているから,その表現には,本件シャフトデザイン等の本質的特徴が維持されており,直接感得できる,と主張する。
しかし,控訴人の上記主張は,本件シャフトデザイン等の表現上の本質的特徴を,上記(控訴人の主張)アのとおりとらえることを前提としており,上記(1)ウのとおり,その前提が誤っているから,控訴人の主張には,理由がない。
(3) 小括
よって,仮に,本件シャフトデザイン等に著作物性が認められるとしても,被告シャフトは,本件シャフトデザイン等の表現上の本質的特徴を直接感得できるものではないから,仮に,被告シャフトに創作性がある場合には,別個の著作物であることとなる。したがって,被控訴人による被告シャフト製造,頒布が,本件シャフトデザイン等に係る控訴人の著作権(翻案権,二次的著作物の譲渡権)を侵害したとは認められない。
また,被控訴人による被告シャフト製造行為が,本件シャフトデザイン等に係る控訴人の著作者人格権(同一性保持権)を侵害したとも認められない。