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著作権判例セレクション
【美術著作物】衣服(ノースリーブのランニングシャツ)の花柄刺繍部分のデザイン及びその全体デザインの著作物性を否定した事例
▶平成29年1月19日大阪地方裁判所[平成27(ワ)9648等]
1 争点1(被告商品1ないし同3は,原告商品1ないし同3をそれぞれ模倣した商品であるか。)について
(略)
(2) 被告商品2について
ア 証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告商品2及び被告商品2を正面視した形態は,別紙対比表2(認定)の各該当欄記載のとおりであり,原告商品2と被告商品2を正面視した形態の共通点,相違点は次のとおり認められる。
(ア) 原告商品2と被告商品2を正面視した形態の共通点
原告商品2及び被告商品2は,①袖がノースリーブであり,裾部分には左右にスリットが入っている点,②全体が単色の生地で構成され,胸部分には,広範囲にわたって本体と同色の花柄の刺繍(大きさの異なる5輪の花及び花周辺に配置された13枚の葉)が施されている点,③その花柄の刺繍の5輪の花及び葉の大きさや位置関係並びに花弁部分及び葉に施されたステッチの種類がほぼ同一である。
(イ) 原告商品2と被告商品2を正面視した形態の相違点
原告商品2と被告商品2は,①ネックラインが,原告商品2は角部で丸みを帯びたスクエア型であるのに対し,被告商品2は通常の丸首型である点,②原告商品2は,両脇下にダーツが取られているのに対し,被告商品2にはダーツが取られていない点,③原告商品2は,前身頃と後身頃の生地が正面から見える前肩部分で目立つように縫い合わされているのに対し,被告商品2はそのような仕上げがされていない点,④原告商品2は,襟首の直下に,本体と同色のレース生地での切り替え部分が設けられているのに対し,被告商品2は同切り替え部分がない点,⑤原告商品2は黄色であるが,被告商品2はベージュ色である点で相違している。
イ 以上により検討するに,原告商品2と被告商品2の正面視した形態は,いずれもノースリーブであり,その胸部分に花柄の刺繍が施されている点で形態全体が似ており,とりわけ花柄の刺繍部分などは同一であって被告商品2の形態が原告商品2に依拠して作られたことを容易にうかがわせるものであるが,商品正面の目立つ場所に集中している,ネックラインの形状,前身頃と後身頃の縫い合わせの仕上げの仕方,さらには襟首直下のレース生地による切り替え部分の有無で相違している。
そして,これらの相違点は,ありふれた形態であるノースリーブのランニングシャツの全体的形態に変化を与えており,およそ両商品を対比してみたときに商品全体から見てささいな相違にとどまるものとは認められないから,両商品を背面視した形態が同一であることを考慮したとしても,被告商品2の形態は原告商品2の形態に酷似しているとはいえず,両商品の形態は実質的に同一であるということはできない。
(略)
2 争点2(被告商品2,同3による著作権侵害の成否)について
(1) 原告は,被告商品2が原告商品2の形態を模倣した商品といえないとしても,原告商品2の花柄刺繍部分,及び,同部分を含む原告商品2全体のデザインは著作物であり,被告商品2は原告商品2を複製ないし翻案したものであるから,著作権(複製権ないし翻案権)侵害が認められるように主張する。
(2) 証拠によれば,原告商品2の花柄刺繍部分のデザインは,衣服に刺繍の装飾を付加するために制作された図案に由来するものと認められ,また同部分を含む原告商品2全体のデザインも,衣服向けに制作された図案に由来することは明らかであるから,これらは美的創作物として見た場合,いわゆる応用美術と位置付けられるものである。
ところで著作権法は,文化の発展に寄与することを目的とするものであり(1条),その保護対象である著作物につき,同法2条1項1号は「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいう」旨を規定し,同条2項は「この法律にいう『美術の著作物』には,美術工芸品を含むものとする」旨規定している。その一方で,美術工芸品が含まれ得る実用に供され,産業上利用することのできる意匠については,別途,意匠法において,同法所定の要件の下で意匠権として保護を受けることができるとされている。そうすると,純粋美術ではない,いわゆる応用美術とされる,実用に供され,産業上利用される製品のデザイン等は,実用的な機能を離れて見た場合に,それが美的鑑賞の対象となり得るような創作性を備えている場合に初めて著作権法上の「美術の著作物」として著作物に含まれ得るものと解するのが相当である。
(3) 以上を踏まえて原告商品2についてみると,原告商品2の花柄刺繍部分の花柄のデザインは,それ自体,美的創作物といえるが,5輪の花及び花の周辺に配置された13枚の葉からなるそのデザインは婦人向けの衣服に頻用される花柄模様の一つのデザインという以上の印象を与えるものではなく,少なくとも衣服に付加されるデザインであることを離れ,独立して美的鑑賞の対象となり得るような創作性を備えたものとは認められない。また,同部分を含む原告商品2全体のデザインについて見ても,その形状が創作活動の結果生み出されたことは肯定できるとしても,両脇にダーツがとられ,スクエア型のネックラインを有し,襟首直下にレース生地の刺繍を有するというランニングシャツの形状は,専ら衣服という実用的機能に即してなされたデザインそのものというべきであり,前記のような花柄刺繍部分を含め,原告商品2を全体としてみても,実用的機能を離れて独立した美的鑑賞の対象となり得るような創作性を備えたものとは認められない。
したがって,原告商品2は,著作権法2条1項1号にいう「著作物」と認められないから,原告商品2が著作物であり著作権が認められることを前提として著作権侵害をいう原告の主張が採用できないことは明らかである。
3 争点3(被告商品2,同3の販売行為が一般不法行為を構成するか。)について
原告は,被告商品2が原告商品2の模倣品とは認められず,また著作権侵害が認められないとしても,被告が原告販売商品に係るデザインをターゲットとして繰り返し模倣行為を行っているから,かかる行為は一般不法行為を構成する旨主張する。
しかし,被告商品2の製造販売行為が不正競争防止法上も著作権法上も違法とされないことは既に説示してきたとおりであるから,同じ行為について民法上の一般不法行為責任が認められるというためには,著作権法や不正競争防止法が規律の対象とする著作物や商品の形態の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情が認められる必要がある。
そうしたところ,原告は,被告が,原告商品2のデザインをコピーして酷似した商品を製造販売したことを主張するが,不正競争防止法又は著作権の保護法益とは異なる法益侵害の事実を主張するものではないことから,上記説示したところに照らし,この主張が失当であることは明らかである。
また原告は,被告が原告販売に係る商品のデザインをターゲットとして繰り返し模倣行為を行っていることを指摘するところ,確かに本件で対象とした被告商品1ないし同3については,それぞれ原告商品1ないし同3のデザインに依拠してデザイン制作がされたことは認められ,しかもそれがほぼ同時期になされた事実が認められる。
しかし,証拠によれば,原告及び被告とも,もっと多種多様の商品を毎年販売している様子がうかがえるから,これらに比較すると本件で問題とする商品の占める割合はごく僅かであって,これだけでは,個別の商品ごとの関係での模倣行為等を問題とすることができたとしても,これを超えて被告が原告販売に係る商品のデザインをターゲットとして繰り返し模倣行為を行っているとして被告の営業行為全般への違法評価まで及ぼすことはできないというべきである。
したがって,被告商品2の製造販売行為が一般不法行為を構成するとする原告の主張は,その余の判断に及ぶまでもなく理由がない。
4 小括
(1) 以上によれば,被告による被告商品1,同3の販売行為は,不正競争防止法2条1項3号の形態模倣行為と認められることから,製造,販売及び販売の申出行為の差止め及びこれらの商品の廃棄請求には理由があり,また被告が原告商品1,同3を模倣して被告商品1,同3を制作したものである以上,少なくとも過失があることは明らかであるから,被告は,後記5で認定する原告に生じた損害を賠償する責任を負うことになる(なお被告は,被告商品1,同3の返品を受け在庫として保有していた旨を認めながら,既に保有していないと主張するが,在庫品が処分された事実関係を具体的に明らかにしているわけではないから,廃棄請求はなお理由があるというべきである。)。
(2) 他方,被告商品2の販売等の行為は,不正競争防止法2条1項3号該当の不正競争行為,著作権侵害行為及び一般不法行為のいずれにも該当しないことから,同行為の差止請求,被告商品2の廃棄請求,及び損害賠償請求にはいずれも理由がないというべきである。