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著作権判例セレクション
【著作権の制限】付随対象著作物利用性を否定した事例
▶令和2年10月14日東京地方裁判所[令和2(ワ)6862]
(前提事実)
〇 本件写真は,原告の一事業部門である聖教新聞社所属の職員が,令和元年10月11日,原告の施設である創価学会本部第2別館において行われた「日蓮大聖人御入滅の日」の勤行法要の様子を,原告の発意に基づき職務上撮影したカラーの写真であり,同月13日付け聖教新聞の1面において,原告名義で公表された。
〇 令和元年10月13日付け聖教新聞の1面には,その上部に「聖教新聞」との題字が,その題字の下に「日蓮大聖人御入滅の日
勤行法要 広布の誓い新たに 立正安国の前進を」と題する記事(「本件新聞記事1」)が,同記事の左下部分には,「台風19号 各地で被害相次ぐ 学会本部に対策本部」と題する3段から成る記事(「本件新聞記事2」)がそれぞれ掲載されていた。
〇 本件新聞記事1は,7段以上から成る記事であり,その最上部に本件写真が掲載されるとともに,上記勤行法要が各地で執り行われたことや同法要の際における原告の会長の発言内容等が記載されている。本件新聞記事2は,3段から成る記事であり,大型台風の影響により各地で浸水被害や停電等の影響が相次いでいることを受け,学会本部では,原告の会長を本部長とする災害対策本部を設置し,各都県の対策本部などと連携を図りながら,被害状況の把握や会員の激励に全力を挙げているという内容等が記載されている。
〇 本件発信者は,別紙記載の投稿日時に,ツイッター上の「A」という名称のアカウントにおいて,被告の提供するインターネット接続サービスを介し,本件投稿記事を投稿した。本件投稿記事は,「今日の聖教新聞1面。学会本部に対策本部。「連携を密にしながら,被害状況の把握,会員の激励などに全力を挙げている」との記事だが,会長の動向,人的援助(ボランティア)手配や義援金の手配には一言も言及せず」との内容を含むものであり,同記載の下部には,令和元年10月13日付け聖教新聞の1面の一部をカラーで複製した画像(「本件新聞紙面画像」)が掲載されている。
3 争点3(本件写真の掲載が付随対象著作物としての利用(著作権法30条の2)に該当するかどうか)について
著作権法30条の2第1項の規定により複製された付随対象著作物の利用が同条の2第2項によって許されるためには,著作物が,写真等著作物に係る写真の撮影等の対象となる事物から分離することが困難で,かつ,当該写真等著作物における軽微な構成部分となるものでなければならない。
しかし,本件新聞記事2を批評する本件投稿記事を作成するに当たって,本件新聞記事2のみを写真で撮影する,あるいは,本件写真をマスキングして本件新聞記事2及び「聖教新聞」の題字を写真で撮影することは可能であって,本件写真が,本件新聞紙面画像に係る写真の撮影の対象とする事物から分離することが困難であるとはいえない。
また,前提事実及び証拠によれば,本件写真は,本件新聞紙面画像において,本件新聞記事2と同程度の大きさで,中央からやや上部の位置にカラーで目立つように表示されているものと認められ,独立して鑑賞する対象になり得るといえるから,本件新聞紙面画像における軽微な構成部分となるものともいえない。
したがって,本件写真の本件投稿記事への掲載は,付随対象著作物の利用に該当せず,同条を類推適用すべき理由もない。
4 争点4(本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無)について
以上のとおり,本件写真に係る原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことは明らかであるから,原告は,本件発信者に対して著作権(公衆送信権)侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権等を有しており,その権利を行使するために被告から本件発信者情報の開示を受ける必要がある。
これに対し,被告は,本件写真が本件投稿記事の投稿前に広く公表されていたことを理由に,著作権(公衆送信権)侵害による原告の実質的な損害は想定し難いと主張するが,本件写真が本件投稿記事の投稿前に公表されたことにより,本件発信者に対する著作権侵害行為による損害が発生しない又はその損害賠償請求権が失われると解すべき理由はない。
したがって,被告から本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。