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著作権判例セレクション

【二次的著作物】パブリックドメインにあるアニメーション映画の日本語台詞原稿及び日本語字幕の著作物性を認定した事例

▶平成27324日東京地方裁判所[平成25()31738]
() ウォルト・ディズニーのアニメーション映画「三人の騎士」(「本件アニメ映画」)は既に著作権の保護期間が満了しているところ,被告は,これに日本語の音声及び字幕を付したDVD商品の販売等をしている。本件は,被告による「被告商品」の輸入,製造及び販売行為につき,原告らが,原告らの共有する別紙日本語台詞原稿(「本件台詞原稿」)及び別紙日本語字幕(以下「本件字幕」といい,本件台詞原稿と併せて「本件台詞原稿等」という。)の著作権(複製権及び譲渡権。以下「本件著作権」という。ただし,著作物性及び著作権の帰属については争いがある。)を侵害すると主張して,被告に対し,被告商品の輸入,製造及び販売の差止め(著作権法112条1項,113条1項1号),主位的に著作権侵害の不法行為による損害賠償金等の支払などを求めた事案である。

1 争点(1)(本件台詞原稿等の著作物性)について
(1) 被告は本件台詞原稿等の著作物性を争うところ,言語の著作物として「創作的に表現した」(著作権法2条1項1号)というためには,表現上の高度な独創性は必要でなく,その表現に作成者の何らかの個性が表れていれば足りると解される。
(2) これを本件についてみるに,証拠及び弁論の全趣旨によれば,①本件台詞原稿等は,本件アニメ映画に収録された英語音声を日本語に翻訳したものであること,②本件台詞原稿等には,本件アニメ映画に英語音声がない箇所に,日本語の台詞又は歌詞を付加した部分があること,③本件台詞原稿等は,本件アニメ映画に係るディズニーのオリジナルの日本語版の吹き替え音声及び字幕と多くの部分において表現上の相違があることが認められる。
(3) 上記事実関係によれば,本件台詞原稿等は,本件アニメ映画の英語音声の翻訳として複数考えられる日本語の表現から一つを選択し,かつ,本件アニメ映画の内容に沿うように新たな表現を付加したものということができる。したがって,本件台詞原稿等は,言語の著作物として表現上の創作性があり,著作物性を有すると認められる。
2 争点(2)(本件著作権の帰属)について
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3 争点(3)(本件台詞原稿等の利用許諾の有無)について
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(3) 以上によれば,被告による被告商品の製造販売は本件台詞原稿等に係る原告らの著作権(複製権,譲渡権)を侵害するものであり,また,被告商品の輸入については,以上に説示したところに照らせば,著作権侵害とみなされる行為(著作権法113条1項1号)に当たると認められる。
したがって,原告らは,本件著作権に基づき,被告に対し,被告商品の輸入,製造及び販売の差止めを求めることができる(なお,これと選択的に併合された原告コスモ・コーディネートの本件商標権に基づく差止請求については,判断を要しないことになる。)。
4 争点(5)(原告らの損害等)
(1) 以上のとおり,被告は原告らの本件著作権を侵害したものであり,被告には少なくとも過失があるということができる。したがって,被告は上記侵害行為につき原告らに対し損害賠償責任を負うところ,原告らは,その損害額につき,著作権法114条1項に基づき,被告による被告商品の販売数量5万枚に,原告ら商品1枚当たりの利益額270円を乗じた1350万円である旨主張する。
(2) そこで判断するに,まず,被告商品の販売枚数については,被告が平成22年から平成26年6月11日までの間に販売したことを自認する2万8220枚を超えると認めるに足りる証拠はない。なお,原告らは,被告から被告商品を仕入れた会社の購入枚数が単体で1万6373枚,セットで3万5422枚である旨主張するが,少なくとも後者については裏付けとされる証拠の作成者,作成経過等が不明であって,原告らの主張を採用することはできない。
次に,原告ら商品の1枚当たりの利益額についてみるに,原告らはその主張を直接裏付ける証拠を提出していないが,被告商品と原告ら商品はいずれも本件アニメ映画の日本語版であるところ,被告は,被告商品の利益額につき,販売価格40円から仕入れに係る原価25円を差し引いた15円であると主張している(ただし,ユニアールの指示による納品の場合の単価は前記3(2)のとおり80円である。)。また,証拠及び弁論の全趣旨によれば,被告は原告ら商品より廉価で被告商品を販売していることが認められるので,原告ら商品の利益額は被告商品より大きいと解することができる。以上の事情を総合すると,原告ら商品の1枚当たりの利益額は60円と推認することが相当である。
(3) 被告は,被告商品の販売における本件台詞原稿等の寄与度は20%程度である旨主張する。しかし,本件アニメ映画については既に著作権の存続期間が満了しており,これに日本語の吹き替え及び字幕を付すことにより日本国内で販売する商品としての価値が維持されると考えられるから,被告の上記主張を採用することはできない。
(4) そうすると,本件著作権の侵害による原告らの損害の額は169万3200円(60円×2万8220枚)と認められ,原告らはそれぞれの持分に相当する84万6600円及びこれに対する遅延損害金(ただし,その起算日は以上の説示及び本件訴訟の経過に鑑み被告による販売の終期である平成26年6月11日と認める。)を請求することができると認められる。
なお,原告らは,予備的に不当利得の返還を請求するが,その損失額が上記損害額を上回ることについての主張立証はない。また,原告コスモ・コーディネートは選択的に本件商標権に基づく損害賠償を請求するが,商標権侵害による損害額が著作権侵害によるものを上回り,又は著作権侵害による損害とは別個に商標権侵害による損害が発生したとの主張立証はないから,本件商標権侵害の成否(争点(4))については判断を要しないこととなる。