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著作権判例セレクション
【その他の支分権】海賊版DVDの販売事例(譲渡権の侵害事例)
▶平成27年3月16日東京地方裁判所[平成26(ワ)4962]
2 原告らの著作権について
(1)
(証拠)及び弁論の全趣旨によれば,本件著作物は,原作映画の英語音声を日本語に翻訳した日本語台詞原稿及び日本語字幕であり,その翻訳には翻訳者の個性が発揮され創作性があるものと認められる。
なお,(証拠)及び弁論の全趣旨によれば,原作映画は1944年に公開されたものと認められるところ,その映像及び英語台詞が,著作権存続期間の満了によりパブリックドメインとなっていることは,被告も明らかに争わない。
(2)
(証拠)及び弁論の全趣旨によれば,本件台詞原稿及び本件字幕は,著作権を原告アートステーションに帰属させる合意の下,甲ⅰ,甲ⅱ及び甲ⅲが原作映画の英語台詞から翻訳したものと認められるから,原告アートステーションが著作権を取得したものと認められる。
(3)
(証拠)及び弁論の全趣旨によれば,原告アートステーションは,本件台詞原稿及び本件字幕の著作権の持分2分の1を原告コスモ・コーディネートに譲渡したことが認められる。
(略)
(5)
以上によれば,原告らは,本件著作物につき,著作権を持分2分の1ずつ共有しているものと認められる。
3 被告の行為について
被告が被告DVDを販売していること,被告DVDの日本語吹替え音声及び日本語字幕が,本件著作物の複製物である原告らDVDの日本語吹替え音声及び日本語字幕と同一であることはいずれも争いがなく,そうすると,被告は,言語の著作物としての本件著作物の複製物である被告DVDを販売しているのであるから,原告らの譲渡権(著作権法26条の2)を侵害しているものと認められる(なお,「頒布」とは,「有償であるか又は無償であるかを問わず,複製物を公衆に譲渡し,又は貸与すること」をいうところ(著作権法2条1項19号),原告らは,被告DVDの「頒布」の態様として,専ら「販売」(有償譲渡)を問題にしており,無償譲渡や有償貸与,無償貸与は主張しておらず,貸与権(同法26条の3)の侵害の主張も,映画の著作物の頒布権(同法26条)の侵害の主張もしていない。原告らは,訴状6頁において「頒布」という用語をあたかも「販売」と同義であるかのごとく用いており,被告が準備書面(1)2頁で認めたのも,「販売」であって,無償譲渡や有償貸与,無償貸与について認めたものとは解されない。)。
これに対して,被告が被告DVDを自ら輸入し又は複製していることを認めるに足りる証拠はない。
4 消尽について
(略)
5 差止めについて
(1)
以上によれば,被告による被告DVDの販売は原告らの有する本件著作物の著作権(譲渡権)持分を侵害する行為であるから,原告コスモ・コーディネートの商標権侵害に基づく差止請求権の存否につき判断するまでもなく,原告らは,著作権法112条1項に基づき,被告DVDの販売の差止めを求めることができる。
(2)
他方,原告らの著作権法112条1項に基づく差止請求及び原告コスモ・コーディネートの商標権侵害に基づく差止請求のうち,被告による輸入,複製の差止めを求める部分については,被告が自ら輸入,複製をしているとは認められず,他に被告が輸入,複製をするおそれがあることを基礎付ける事情も認められないから,差止めの必要性は認められない。頒布のうち,販売以外の態様の差止めを求める部分についても,同様である(なお,有償貸与及び無償貸与についての著作権法112条1項に基づく請求については,原告らは貸与権侵害や頒布権侵害を主張していないから,主張自体失当であることになるが,仮にその旨の主張があったとしても,差止めの必要性が認められないことになる。)。
6 損害について
(1)
被告が,被告DVDを,平成22年から平成26年6月までに2万8220枚販売したことは争いがない。
(2)
被告DVDを含む本件セット(10枚組)の小売価格は1980円(消費税5%込み。本体価格1886円)である。
被告は,本件セットを主に卸売価格で小売業者に売却しているものと認められるところ,被告は,卸売価格は卸先ごとに小売価格の55~64%(1089~1267円)であると主張するが,その根拠資料を提出せず,その理由として,被告が被告補助参加人から仕入れた被告DVDを含む本件セットと,他社から仕入れた同種商品(本訴で対象となっている「被告DVD」ではないもの)を入れた10枚組BOXセットとを区別できないからと説明している。
(証拠)は,被告DVDを含む本件セットと,被告DVD以外の「三人の騎士」のDVDを入れた10枚組セットの売上が混在した商品別売上実績表であるが,例えば,2010年5月度の総売上数量が5455セット,総売上額が682万6204円で1セット当たり1251円(端数四捨五入。以下同じ)となるが,2014年6月度の総売上数量は930セット,総売上額は75万1528円で1セット当たり808円となってしまい,ここから平均卸売価格を算定することはできない。
さらに,(証拠)によれば,被告は,自社ウェブサイトにおいて,本件セットを小売価格2037円(消費税8%込み。本体価格1886円)での直接販売も行っていることが認められ,被告の累計販売枚数2万8220枚のうち,このような小売価格での直接販売の枚数を確定することもできない。
これらの点に鑑み,被告DVDを含む本件セットの卸売価格は,6000セットを制作した際の卸売価格
1267円(小売価格の64%)をもって1セット当たりの卸売価格と認めるのを相当とする。
(3)
本件セット6000セットを販売した際の経費が425万4543円であったことから,1セット当たりの経費は709円(425万4543円÷6000)と認める。
著作権法114条2項にいう「利益」とは,侵害者の売上から,侵害品の製造販売に追加的に要した費用(変動経費)を控除したいわゆる限界利益をいうと解されるところ,原告らは,(証拠)に記載された経費の変動経費性を具体的に争うことを明らかにしないから,(証拠)に記載された経費425万4543円は全て変動経費と認める。
そうすると,本件セット1セット当たりの被告の利益は558円(1267円-709円)と認められる。
被告DVDは,本件セット10枚組のうちの1枚であるから,被告DVD1枚当たりの被告の利益は56円(558円÷10枚)と認める。
(4)
寄与度減額について
被告は,被告DVDはディズニーアニメ作品であり,映像部分の寄与が大きく,言語部分の寄与度は20%程度であると主張する。
争いのない事実,(証拠)及び弁論の全趣旨によれば,被告DVDは,原告らDVDと映像,日本語吹替え音声及び日本語字幕の全てにおいて同一であり,原告らDVDの海賊版と言って差し支えないものと認められるところ,そのような海賊版を販売した者に利得の一部を保有させるのは相当でないから,本件においてパブリックドメイン部分(原作映画の映像,及び原作映画の英語台詞に由来する部分)の寄与により原告らの損害額を減額するのは相当でないというべきである。
したがって,本件においては,言語部分の寄与度を原告らの損害額を減額する要素としては考慮しない。
(5)
そうすると,被告DVDの販売により被告が得た利益は,158万0320円(56円×2万8220枚)となる。
(6)
原告らの著作権共有持分はそれぞれ2分の1であるから,原告らがそれぞれ被告に請求できる損害賠償の額は,各79万0160円(158万0320円×1/2)となる。
(7)
被告の著作権侵害による不法行為は平成26年6月までには終了しているから,その不法行為の終了した以後の日である平成26年6月30日から民法所定の年5分の割合による遅延損害金を付す。
(8)
なお,原告らは,本件口頭弁論終結後に提出した平成27年1月23日付け上申書において,損害額の算定方法を著作権法114条2項に基づくものから同条1項に基づくものに変更したいとするようであるが,時機に後れており(そのことについて,原告らには重大な過失があるといわざるを得ない。),訴訟の完結を遅延させるものであるから,弁論を再開してこの点の審理を行うことは,相当でない。