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著作権判例セレクション

【映画著作物】スマホ動画の映画著作物性及び侵害性を認定した事例
▶令和31026日東京地方裁判所[令和3()8702]
1 争点1(本件各動画の著作物性及び原告の著作権の有無)について
(1) 認定事実及び弁論の全趣旨により認められる事実
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(2) 上記認定事実を前提に,本件各動画の著作物性及び原告への著作権の帰属の有無を検討する。
ア 本件元動画
本件元動画は,原告書籍の出版を広告する目的で,原告書籍の著者である原告自身が,原告の生い立ちを含めた原告がキャバクラ店の従業員として働くこととなった経緯,キャバクラ店で働いていた当時の思いなどを語りながら,原告書籍の概要を紹介し,原告において,原告の表情等が表れるように,撮影場所,原告の位置やアングル,ポーズ等を決めて撮影したことが認められる。このように,本件元動画は,原告書籍の概要や原告書籍に対する原告の思いなどが臨場感を持って伝わるように,ストーリーや撮影方法に工夫を凝らして制作されたものであって,原告の個性の発揮によりその思想又は感情を創作的に表現したものであり,著作物性が認められる。
しかして,本件元動画は,映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され,原告のデジタルカメラのメモリ等に電磁的に記録されて固定されたものと認められるから,映画の著作物(著作権法2条3項)に該当すると認められる。
そして,映画の著作物の著作者は,制作,監督,演出,撮影,美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者であるところ(同法16条),前記認定のとおり,原告が本件元動画のストーリー,被写体,アングル,ポーズ等を決め,原告において原告書籍の内容等を語り,撮影したものであるから,本件元動画の全体的形成に創作的に寄与した者は,原告であるといえ,原告がその著作者として,著作権(複製権・公衆送信権)を有していると認められる。
イ 本件動画1
本件動画1は,原告の発言の内容を強調するために,上記の本件元動画を動画編集業者において複製したものにテロップ,効果音等の加工を施して制作されたものであるから,本件動画1も,本件元動画と同様に,著作物性を有し,映画の著作物に該当すると認められる。
また,上記テロップ等は動画編集業者において付したものであるが,テロップは原告が本件元動画で発言している内容を視覚的に明らかにしたものに過ぎず,また,効果音も聴覚的な加工を部分的に施したに過ぎないものであるから,上記アにおいて認定した本件元動画に係る原告の創作的関与の態様を踏まえると,本件動画1の全体的形成に創作的に寄与した者は,飽くまで原告であるといえ,原告がその著作者として,著作権(複製権・公衆送信権)を有していると認められる。
ウ 本件動画2
本件動画2は,原告の運転手が原告のスマートフォンを使用して原告が食事をしている場面を撮影した動画であるところ,原告が同人に対して原告の配置,ポーズ,アングル,動き,撮影の流れ等の本件動画2の制作に必要な条件を決定・指示して制作したことが認められる。このように,本件動画2は,原告の食事の様子や美味しいと感じた食事の内容を,臨場感を持って伝えられるように,原告の動きや撮影の流れ等を工夫して制作したものであるから,原告の個性の発揮によりその思想や感情を創作的に表現したものであるといえ,著作物性が認められる。
しかして,本件動画2は,映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され,原告のスマートフォンに記録されて固定されたものと認められるから,映画の著作物に該当すると認められる。
そして,原告が本件動画2における原告の動きや撮影の流れ等を決定し,その決定したところに従って原告の運転手において撮影したものであるから,本件動画2の全体的形成に創作的に寄与した者は,原告であるといえ,原告がその著作者として,著作権(複製権・公衆送信権)を有していると認められる。
エ 本件動画3
本件動画3は,原告の夫が原告のスマートフォンで原告が原告書籍にサインをしている様子を撮影した動画であるところ,原告が同人に対して原告の配置,ポーズ,アングル,動き,撮影の流れ等の本件動画3の制作に必要な条件を決定・指示して制作したことが認められる。このように,本件動画3は,原告が原告のオフィスにおいて,原告書籍にサインをしている様子を撮影し,原告書籍の売れ行きや原告書籍に対する原告の思いが伝わるように,被写体である原告や原告書籍の配置,アングル,撮影の流れ等を工夫して制作したものであるから,原告の個性の発揮によりその思想や感情を創作的に表現したものであるといえ,著作物性が認められる。
しかして,本件動画3は,映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され,原告のスマートフォンに記録されて固定されたものであることが認められるから,映画の著作物に該当すると認められる。
そして,原告が本件動画3における原告の動きや位置,原告書籍の配置,アングル,撮影の流れ等を決定し,その決定したところに従って原告の夫において撮影したのであるから,本件動画3の全体的形成に創作的に寄与した者は,原告であるといえ,原告がその著作者として,著作権(複製権・公衆送信権)を有していると認められる。
オ 本件動画4
本件動画4は,原告が,本件チャンネルにアップロードした本件動画1の適宜の部分を抽出して編集した一部を原告インスタグラム上にアップロードした動画であるから,本件動画1と同様,著作物性が認められ,また,映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され,スマートフォンに電磁的に記録されて固定されたものと認められるから,映画の著作物に該当すると認められる。
そして,本件動画4は本件動画1を元にして原告が制作しているものであるから,本件動画4の全体的形成に創作的に寄与した者も,原告であるといえ,原告がその著作者として,著作権(複製権・公衆送信権)を有していると認められる。
カ 本件動画5
本件動画5は,原告が経営するバーの店長が原告の夫のスマートフォンで原告経営するバーでの原告の全身を撮影した動画であるところ,原告が同人に対して原告の配置,ポーズ,アングル,動き,撮影の流れ等の本件動画5の制作に必要な条件を決定・指示して制作したことが認められる。このように,本件動画5は,原告が経営するバーの店内で原告の全身を撮影し,原告が通うジムでの服装や原告の容姿を伝えられるように,原告の動き,アングル,撮影の流れ等を工夫して制作したものであるから,原告の個性の発揮によりその思想や感情を創作的に表現したものであるといえ,著作物性が認められる。
しかして,本件動画5は,映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚効果を生じさせる方法で表現されたものと認められ,その映像は原告の夫のスマートフォンに記録されて固定されたものであることが認められるから,映画の著作物に該当すると認められる。
そして,原告が本件動画5における原告の動き,アングル,撮影の流れ等を決定し,その決定したところに従って上記店長において撮影したものであるから,本件動画5の全体的形成に創作的に寄与したのは原告であるといえ,原告がその著作者として,著作権(複製権・公衆送信権)を有していると認められる。
(3) これに対し,被告らは縷々主張し,本件元動画,本件各動画の著作物性や,原告への著作権の帰属を否定するが,そのいずれを慎重に検討しても,上記説示を左右するに足りるものはない。
2 争点2(複製権及び公衆送信権侵害の有無)について
(1) 本件サイトに投稿された本件各記事に貼付されている本件各画像と本件各動画とを対比すると,本件各画像は,本件各動画の一場面と同一のものであることが認められる。
このように,本件各画像は,本件各動画と同一のものであるから,本件各記事の各投稿者は,それぞれ,被告らが提供するインターネット接続サービスを利用して本件各動画を含む本件各記事を本件サイト上で作成,投稿することにより,本件各動画を有形的に再製するとともに,インターネットを通じて本件各記事にアクセスした不特定又は多数の者に,本件各画像を含む本件各記事を閲覧できる状態に置いたと認められる。これは,著作物の複製・公衆送信行為に当たる。しかして,本件全証拠によっても,原告が本件各記事の各投稿者に対して,本件各動画の利用を許諾したことをうかがわせる事実は見当たらない。
そうすると,本件各記事が本件サイトに投稿されたことにより,本件各画像について原告が有する著作権(複製権及び公衆送信権)が侵害されたというべきである。
(2) これに対し,被告らは縷々主張するが,そのいずれを慎重に検討しても,上記説示を左右するに足りるものはない。
3 争点3(引用の抗弁の成否)について
(1) 被告ソフトバンク,被告ジェイコム及び被告ビッグローブは,本件記事1,4及び5は,本件動画1,4及び5を適用に引用したものであるから,原告の権利を侵害したことが明らかであるとはいえない旨主張している。
ここで,引用による利用が適法とされるためには,著作権法32条1項に規定する要件を満たすことが必要であるから,当該引用の方法や態様が,報道,批評,研究等の引用目的との関係で,社会通念に照らして合理的な範囲内のものであること,かつ,引用して利用することが公正な慣行に合致することを要するものと解するのが相当である。
(2) 上記観点から,本件各記事について検討する。
ア 本件記事1についてみるに,前記認定事実によれば,本件記事1は,原告が原告の生い立ちを語りながら原告書籍を宣伝する本件動画1のうち「実家を取り戻したかったんだよね」とのテロップが表示されている場面を切り出した本件画像1を貼付した上で,「うん変わったよ本の宣伝のYouTubeで言っていたw色々と変わるよねw 七分半あたりかな」とのコメントが付されているものの,かかるコメントの趣旨は明確とはいえない。仮に,かかるコメントの趣旨が原告の発言内容が変遷している旨の指摘・批判をするとともに,本件記事1の投稿者の感想等を述べる点にあるとしても,そのような批判,感想等を述べるために,本件画像1を掲載する必要性が高いとも認められず,引用目的との関係で権衡がとれているものとも評価できない。加えて,本件画像1は本件記事1の囲み枠の過半を占めており,独立して鑑賞の対象となり得る程度の大きさであるのに対し,上記コメントは短文の比較的小さな文字で掲載されていること,本件画像1の出典を示していないことからすると,その引用の方法及び態様が,引用目的との関係で社会通念に照らして合理的な範囲内のものであるということはできないし,公正な慣行に合致すると認めるに足りる証拠もない。
イ 次に,本件記事4は,本件記事1と同様に,原告がその生い立ちを語りながら原告書籍を宣伝する本件動画4のうち「努力してる」とのテロップが表示されている場面を切り出した本件画像4を貼付した上で,「これ鼻の下何センチ?」とのコメントが付されている。かかるコメントは,原告の容姿について何らかの感想を述べる意図であるとも考えられなくはないが,上記コメントと本件画像4との関連性は全く不明といわざるを得ず,原告の容姿に関する感想を述べるに際して,本件画像4を掲載する必要性は乏しく,引用目的との関係で権衡がとれているものとは評価できない。加えて,本件画像4は本件記事4の囲み枠のほぼ全体を占め,上記コメントは短文の比較的小さな文字で掲載されていること,本件画像4の出典についての記載がないことからすると,その引用の方法及び態様が,引用目的との関係で社会通念に照らして合理的な範囲内のものであるということはできないし,公正な慣行に合致すると認めるに足りる証拠はない。
ウ 本件記事5についてみるに,原告の全身を撮影して原告が通うジムでの服装を紹介する場面を切り出した本件画像5を貼付した上で,「投稿の水着写真との脚の長さの違い」とのコメントが付されている。かかるコメントは,原告の脚の長さに言及するものであるものの,その趣旨が明確とはいえず,仮に,原告の容姿に関する何らかの感想を述べるものであると解したとしても,そのような感想を述べるために,本件画像5を掲載する必要性が高いともいえず,引用目的との関係で権衡がとれているものとは評価できない。加えて,本件画像5も,本件画像4と同様に,本件記事5の囲み枠の大半を占め,上記コメントは短文かつ比較的小さな文字で掲載されていることをも考慮すると,その引用の方法及び態様が,引用目的との関係で社会通念に照らして合理的な範囲内のものであるということができず,かつ,公正な慣行に合致すると認めるに足りる証拠はない。
エ 本件記事2及び3についても,本件画像2及び3を貼付するについて,当該貼付(引用)の方法や態様が,当該引用目的との関係で,社会通念に照らして合理的な範囲内のものであること,かつ,引用して利用することが公正な慣行に合致することを示す事実を具体的に認めるに足りる証拠はない。
(3) 以上によれば,本件各記事に本件各画像をそれぞれ貼付して本件各動画を利用したことについては,適法な引用に当たるとはいえないというべきであるから,被告らの上記主張は,理由がない。
(4) よって,被告らが提供するインターネット接続サービスを利用した本件各記事の投稿により,原告が有する本件各動画の複製権及び送信可能化権が侵害されたことが明らかであるといえ,本件各発信者情報は各権利侵害に係る発信者情報に該当し,被告らはいずれも,開示関係役務提供者(プロバイダ責任制限法4条1項)に当たるものといえる。