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著作権判例セレクション

【二次的著作物】「個性心理学」にかかるテキスト・レポート等の著作物性、二次的著作物性、編集著作物性及びその侵害性が争点となった事例

平成3061日東京地方裁判所[平成26()25640]
3 争点(2)(著作権侵害の成否)について
(1) 原告各著作物の著作物性(争点(2)ア)について
原告らは,被告各著作物は原告各著作物及び12動物60種類の文言に係る著作権(複製権,翻案権,公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権,氏名表示権)を侵害すると主張する。なお,原告各著作物とその著作権等を侵害したと主張されている被告各著作物の対応関係は,前記表記載のとおりである。
これに対して,被告らは,原告各著作物は先行著作物と実質的に同一であり,また先行著作物との間に差違があるとしてもそれはありふれた表現にすぎないなどと主張して,その創作性を争う。
そこで,以下,原告各著作物について順次検討する。
ア 原告スライド及び原告テキスト1について
() 原告スライド及び原告テキスト1の内容等
原告スライド及び原告テキスト1は,いずれも個性心理学の講座等で使用するものであり,これに対応するのは被告テキストである。
() 原告表現1-1~4の創作性
原告スライド(原告表現1-1~4)は原告Xが作成したものと認められるところ,その表現は,次のとおり,いずれも先行著作物と実質的に同一又はありふれた表現であり,創作性があると認めることはできない。
a 原告表現1-1は,植物に関するツリー構造の図であるところ,同表現とオービス・セミナー資料(植物に関する部分)を対比すると,そのツリー構造自体が類似しており,樹木のうち「桜」,「梅」,「松」,桜の種類のうち「八重桜」「しだれ桜」が共通していることが認められる。原告表現1-1の分類自体は一般的なものにすぎず,原告表現1-1とオービス・セミナー資料との差違は,樹木の種類として「竹」が挙げられていること,「ボタン桜」の代わりに「そめい吉野」が挙げられていることなど,ささいなものにすぎない。
したがって,原告表現1-1に創作性を認めることはできない。
b 原告表現1-2は,「あきらめる」ことが「あきらかにみとめる」,「受け入れる」ことと同義であることを段階的に表わしたものであるが,「あきらめる」とは,そもそも「明らかにすること」や「悪い状態を受け入れること」を意味する語句であるので,原告表現1-2は「あきらめる」という語句の一般的な意味を記載しているにすぎない。
したがって,原告表現1-2に創作性を認めることはできない。
c 原告表現1-3は,オピニオン・エキスパートテキストが引用しているスウェーデン産婦人科医師の「誕生の神秘」という表現を引用し,レイアウトや色彩を変えたものにすぎない。
したがって,原告表現1-3に創作性を認めることはできない。
d 原告表現1-4は,オピニオン・エキスパートテキストが引用している角田忠信教授著「脳の発見」の表現を引用し,レイアウトや色彩を変えたものにすぎない。
したがって,原告表現1-4に創作性を認めることはできない。
() 原告表現1-5~10の創作性及び被告表現との対比
原告テキスト1は原告Xが作成したと認められるところ,その表現(原告表現1-5~10)には創作性が認められ,対応する被告表現1-5~10はその複製又は翻案に当たると認められる。
a 原告表現1-5~7について,被告らは,個性学の「人志向型」,「城志向型」,「大物志向型」の3分類を「MOON」,「EARTH」,「SUN」に置き換えて表現したにすぎないと主張するが,原告表現1-5~7と同一又は類似する表現が先行著作物に存在すると認めるに足りる証拠はない。
そうすると,原告表現1-5~7は創作性を有すると認められるところ,これを被告表現1-5~7を比較すると,その表現のほとんどが原告表現と同一又は酷似している。
したがって,被告表現1-5~7は原告表現1-5~7を複製又は翻案したものと認めるのが相当である。
b 原告表現1-8,9について,被告らは,対比表1の対応部分に記載された先行著作物の「人」,「城」,「大物」を「MOON」,「EARTH」,「SUN」に置き換えて表現したにすぎないと主張する。
この点,確かに円グラフ及び各分類の割合,関係図の構成や各要素の関係はほぼ同一であるものの,その文字部分の表現自体が異なり,絵柄が追加されているなどの差違があることから,原告表現1-8,9の創作性は否定されないというべきである。
原告表現1-8,9と被告表現1-8,9とを対比すると,ほぼ同一であるということができるので,被告表現1-8,9はそれぞれ原告表現1-8,9の複製又は翻案に当たる。
c 原告表現1-10は,対比表1の対応部分に記載された先行著作物の「実益型」,「挑戦型」などの表現を12動物に代えたものであり,円グラフの形状などは類似しているが,その分類に係る表現自体が異なり,動物の絵柄が追加されているなどの差違があり,原告表現1-10の創作性は否定されないというべきである。
原告表現1-10と被告表現1-10を対比すると,円グラフ状の図におけるキャラクターの名前,配置,割合はほぼ同一であり,動物の絵柄が若干異なり,月などの絵柄が描かれている点で異なるとしても,被告表現1-10に接した者はこうした原告表現1-10の表現上の特徴を直接感得することができるというべきである。
そうすると,被告表現1-10はそれぞれ原告表現1-10の翻案に当たる。
() したがって,被告テキストの被告表現1-5~10は,原告テキスト1の原告表現1-5~10の複製又は翻案に当たるから,原告テキスト1に係る著作権を侵害し,かつ,原告Xの著作者人格権を侵害する。
なお,被告テキストは,3頁から33頁までの本文部分と目次(1頁)及び表紙,奥付,裏表紙からなるもので,そのうち著作権等の侵害に当たると認められる被告表現1-5~10は,頁数にして4頁である。
イ 原告レポート1について
() 原告レポート1の内容等
原告レポート1は「あなたの本質」という表題であり,対象者の氏名と生年月日の記載の下に,12種類の動物のうちのいずれかの動物の絵柄があり,その横に各動物の特徴が文章(対比表4の原告表現の欄記載のもの)により表現されており,さらにその下に,対比表2の原告表現の欄記載の文章が記載されているものであり,これが,男女別に12動物60種の合計120種類存在する。
これに対し,被告レポート1は「あなたの本質」という表題であり,対象者の氏名と生年月日の記載の下に,12種類の動物のうちのいずれかの動物の絵柄及びそれに対応する12動物60種類の文言があり,その横に各動物の特徴が文章により表現されている。そして,その下には対比表2の被告表現欄記載の文章が記載されており,さらにその下に,対比表3の被告表現欄記載の箇条書きの文章が記載されており,これが,男女別に12動物60種の合計120種類存在する。12動物60種の分類は原告レポート1,2と同一であり,分類には12動物60種類の文言が用いられている。
() 原告レポート1の著作者及びその創作性について
a 本件共同著作物の著作者
原告らは,原告レポート1が本件共同著作物の二次的著作物であることを前提とした上で,本件共同著作物の著作者は原告XとMであると主張する。
そこで検討するに,本件共同著作物の原案を作成したのがMであることは,その旨をMが証言するのみならず,原告X及び被告Y1ともに認めるところである。
原告Xは,Mが本件共同著作物を作成するに当たり,必要なテキストや資料を提供し,またMから受け取った原案に大幅に加筆したことを根拠に自らも本件共同著作物の著作者であると主張するが,原告XがMに対して提供したと主張するテキストや資料は証拠として提出されておらず,提供されたことをうかがわせる客観的な証拠もない。また,原告Xが本件共同著作物に大幅に加筆したと認めるに足りる証拠もない。そうすると,原告Xが本件共同著作物の著作者の一人であると認めることはできない。
なお,前記認定のとおり,原告X,被告Y1,M,Nらは,平成9年8月頃,文書作成会議と呼ばれる会議を複数回開催し,その過程においてMが作成した本件共同著作物の原案に修正が加えられたとの事実が認められる。しかし,本件共同著作物の更新日に照らし,これが完成したのは平成9年8月中旬から9月にかけての頃であると認められるところ,それまでの間に行われた加筆・修正が大幅であり,原案の本質的な部分が変更されたと認めるに足りる証拠はない。このため,上記事実は本件共同著作物の著作者の認定を左右しない。
以上のとおり,本件共同著作物の著作者はMであると認められる(なお,原告らは,被告らが本件共同著作物の著作者がMであると主張することは自白の撤回に当たると主張するが,これが自白の撤回に当たるとしても,本件共同著作物の著作者はMと認められることから,自白は錯誤に基づくものとして撤回されたものと認める。)。
b 本件共同著作物の創作性
被告らは,原告レポート1の原著作物である本件共同著作物は,先行著作物の表現を寄せ集めたものにありふれた変更等を加えたものにすぎず,創作性がないか,創作性は極めて限定した範囲・程度にとどまると主張する。
しかし,対比表6からも明らかなとおり,本件共同著作物が「生まれ日占星術」と共通する表現はそれほど多くなく,また,「幸運をつかむ」についても,対比表6に引用されている表現の中で共通するとされる部分はそれほど多くの部分を占めていない。「愛の六十花占い」についても同様である。また,同一又は実質的に同一の表現であると指摘される部分も,文章又は段落がそのまま引用されているものは少なく,先行著作物の一部の語句や一節を用いているのが大半であるということができる。
そうすると,本件共同著作物はMの個性が発揮されたものであり,創作性を有すると認めるのが相当である。
c 原告レポート1の創作性
上記aのとおり,本件共同著作物の著作者はMであると認められるところ,原告表現2-1-1~120と本件共同著作物の表現とが相違する部分については,前記認定のとおり,平成9年11月までの間に原告Xが加筆修正した部分であると認められる。二次的著作物の著作権は,二次的著作物において新たに付与された創作的部分のみについて生じ,原著作物と共通しその実質を同じくする部分には生じないと解するのが相当であるので(平成9年7月17日第一小法廷判決),原告Xが著作権によって新たに付与された部分に創作性が認められるかどうかについて,以下検討する。
この点,被告らは,原告レポート1と本件共同著作物の相違部分には創作性がないと主張する。しかし,対比表2を参照して,原告表現2-1-1~120と本件共同著作物の表現を対比すると,原告表現の文章の長さは,いずれも対応する本件共同著作物の文章の長さよりも,相当程度に長く,概ね1.5倍程度になっていることから,原告表現2-1-1~120の少なくとも3分の1は,原告Xが新たに創作した部分であると認められる。
そして,原告Xが加筆した部分は形式的な修正にとどまらず,例えば,原告表現2-1-1において「マスコットがチータのあなたは,人生の目標を大きく持ち,それを達成するまで何度もチャレンジを続けます。世界中を飛び回って活躍するような,ダイナミックな一生を送りたいと思っているでしょう。」との表現が付加されているように,原告レポート1には本件共同著作物にはない新たな文章が付加されており,その部分がありふれているということはできない。
また,本件共同著作物と原告表現2-1-1~120とで文章の位置が入れ替わっているものも多くみられる。例えば,原告表現2-1-1についてみると,対応する本件共同著作物の第2段落(「実行力は旺盛で」で始まる段落),第3段落(「常に何かを求めながら」で始まる段落),第6段落(「金銭的にはしまり屋で」で始まる段落)の記載順序が入れ替えられ,原告表現2-1-1の第4段落にまとめて記載され,しかも,上記第3段落の文章の一部は同表現の第2段落に配されていることが看取される。
このように,原告表現2-1-1~120には原告Xが独自に創作した新しい文章が付加されている部分,本件共同著作物の文章の順序が変更されている部分などが多くみられるのであり,これによれば原告レポート1と本件共同著作物の相違部分に係る表現は創作性を有するものと認めるのが相当である。
なお,被告らは,原告レポート1と本件共同著作物以外の先行著作物を対比し,原告レポート1に係る表現は創作性を有しないとも主張するが,前記bと同様の理由から採用し得ない。
() 原告表現2-1-1~120と対応する被告表現との対比
対比表2記載の原告表現と被告表現を比較すると,被告表現2-1-55以外の被告表現は,対応する原告表現とほぼ同一であるか,又は対応する原告表現の一部が変更されているものの,相当程度の割合において原告表現と同一の表現を用い,対応する原告表現の表現上の特徴を直接感得することができるものであることから,複製又は翻案に当たると認められる。
被告表現2-1-55については,他の被告表現と明らかに異なり,趣旨の異なる三つの文書を組み合わせて作成されたものであり,原告表現と同一の表現を用いている部分も多くないことから,対応する原告表現の複製又は翻案に当たるとは認められない。
したがって,被告表現2-1-1~120(55を除く。)は,原告表現2-1-1~120(55を除く。)を複製又は翻案したものと認められる。
ウ 原告レポート2(箇条書き部分)について
() 原告レポート2(箇条書き部分)の内容等
原告レポート2(箇条書き部分)は原告Xが作成したものと認められるところ,その表現(原告表現2-2-1~120)は,本件共同著作物に依拠し,その内容を箇条書きに要約・整理したものであり,本件共同著作物の二次的著作物に当たる。前記のとおり,原告レポート2(箇条書き部分)に対応する被告著作物は被告レポート1(その一部)である。
() 原告レポート2(箇条書き部分)の創作性
被告らは,原告表現2-2-1~120は,先行著作物又は本件共同著作物を箇条書きに整理したにすぎず,その寄せ集めにすぎないか,ありふれた表現であるから,創作性が認められないか,極めて限られた範囲・程度の創作性が認められるにすぎないと主張する。
しかし,対比表3を参照して原告表現2-2-1~120と本件共同著作物の対応する表現との相違部分を比較すると,原告表現の方が文字数にして半数以下になっており,本件共同著作物を要約・整理する過程で原告Xの個性が発揮されているということができる。
また,原告表現2-2-1~120には,本件共同著作物にはない項目が追加されているもの(例えば,原告表現2-2-7)や,表現が追加され又は記載の順序が入れ替えられているもの(例えば,原告表現2-2-1)もあると認められ,これらの相違部分は創作性を有するものと認められる。
以上によれば,原告表現2-2-1~120と本件共同著作物の対応する表現との相違部分は創作性を有すると認められる。
なお,被告らは,原告レポート2(箇条書き部分)は,本件共同著作物以外の先行著作物との対比においても創作性を有しないと主張するが,本件共同著作物以外の先行著作物と原告表現2-2-1~120の共通する部分はごく一部の文節や単語等にとどまっており,被告らの上記主張は採用し得ない。
() 原告表現2-2-1~120と対応する被告表現との対比
原告表現2-2-1~120と被告表現2-2-1~120とを対比すると,被告表現2-2-1~120は,対応する原告表現と大部分において同一であり,その複製に当たると認めることができる。
エ 原告レポート2(動物説明部分)について
() 原告レポート2(動物説明部分)の内容等
原告レポート2(動物説明部分)は原告Xが作成したものと認められるところ,その表現(原告表現3-1~120)に係る動物は12種類であり,これに対応する被告著作物は被告レポート1(その一部)である。
() 原告レポート2(動物説明部分)の創作性
被告らは,原告レポートの2の動物説明部分は,辞書等に記載されている動物としての特徴を客観的に説明する表現の寄せ集めであり,全体として平凡かつありふれたもので創作性を有しないと主張する。
しかし,対比表4を参照して,原告表現3-1~120と辞書等の記載を対比すると,原告表現3-1~120は,いずれも特定の辞書等の記載を引き写したものではなく,関係する辞書等において説明又は紹介されている各動物に関する様々な特徴(外見,種類,餌,生息地域,行動態様,人間との関わり等)から一定の特徴に着目し,それを簡潔に要約してまとめたものであり,記載すべき特徴の選択及びそれに基づく記述には原告Xの個性が発揮されているということができる。
したがって,原告表現3-1~120には創作性があると認められる。
() 原告表現3-1~120と対応する被告表現との対比
原告表現3-1~120と被告表現3-1~120を対比すると,全て同一であるから,被告表現3-1~120は,対応する原告表現を複製したものと認められる。
オ 原告レポート3について
() 原告レポート3の内容等
原告レポート3は,「あなたの個性の分析一覧表」という表題の下に,対象者の氏名と生年月日の記載があり,その下に,表形式で,上から「3分類」,「4分類」,「思考の2分類」,「特性の2分類」,「左右の2分類」,「60分類」,「リズム」及び「レール」の各欄があり,同各欄に対応するイラスト,説明等が記載されているものであって,原告Xが作成したものであると認められる。このうち,原告らが著作権等の侵害を主張する部分は,「思考の2分類」,「特性の2分類」,「リズム」及び「レール」の各欄に記載されている文章である。「リズム」及び「レール」欄の文章は各10種類,「思考の2分類」及び「特性の2分類」欄の文章は各2種類あり,それぞれが組み合わせられて原告レポート3全体で合計120種の一覧表が作成されている。
これに対し,被告レポート2は,各欄の項目名が異なるものはあるものの,実質的には同一の構成であり,一覧表の種類も120種類と同一である。
() 原告レポート3の創作性
被告らは,原告レポート3は ananの記事やオピニオン・エキスパートテキストに依拠し,これらから抜粋した文章のみで構成されているものであって,創作性がないと主張する。
a 「リズム」欄の表現について
(a) anan の記事の二次的著作物かどうかについて
原告レポート3における「リズム」欄の記載は,「大樹」等の10種類に分類され,各項目について説明がされているところ,その先行著作物である ananの記事においても「主精」を「樹」等の10種類に分類した上でその説明がされており,その項目名は若干異なるものの,その内容は対応しているということができる。
そして,各項目の記載を対比すると,共通する部分が少なくない。
そうすると,原告レポート3における「リズム」欄の記載は,ananの記事に依拠し,これを要約又は加筆することにより作成された二次的著作物であると認めるのが相当である。
これに対し,原告Xは,ananの記事に依拠したことはないと主張するが,ananの記事が掲載された雑誌の発行時期が平成9年7月10日と原告らが原告レポート3の完成時期(同年11月頃)と近接していること,ananが広く一般に販売されている雑誌であって容易に入手可能であること,原告表現との共通部分が,原告レポート3の「リズム」欄の分類全てにわたっており,表現についても共通する部分が多いことに照らすと,原告らの主張は採用し得ない。
(b) ananの記事との相違部分の創作性について
原告レポート3の「リズム」欄に係る原告表現(原告表現4-1-1~120)と ananの記事の表現とを対比すると,原告レポートにおいては,ananの記事の表現を利用しながらも,その文章をそのまま引き写すのではなく,語句や文節を利用しながら,その記載を半分以下に要約しているものであり,その抜粋する箇所の選択には原告Xの個性が発揮されているということができるので,ananの記事と原告レポート3の「リズム」欄の表現の相違部分について創作性がないということはできない。
b 「レール」欄の表現について
(a) ananの記事の二次的著作物かどうかについて
原告レポート3における「レール」欄の記載は,「マイペース」等の10種類に分類され,各項目について説明がされているところ,その先行著作物である ananの記事においても「10大主星」を「貫10 索星」等の10種類に分類した上でその説明がされており,その項目名は異なり,共通する表現は「リズム」欄の記載に比べて少ないものの,その記載内容は類似し,全ての項目において同一又は類似する表現が使用されていることが認められる。このため,同欄の表現も ananの記事に依拠し,これを要約又は加筆することにより作成された二次的著作物であると認めるのが相当である。
(b) anan の記事との相違部分の創作性について
原告レポート3の「レール」欄に係る原告表現(原告表現4-1-1~120)と ananの記事の表現とを対比すると,原告レポートは ananの記事を半分以下に要約している上,共通する表現はそれほど多いとはいえず,相当程度の割合を新しく作成された文言が占めているということができる。このため,ananの記事と原告レポート3の「レール」欄の表現との相違部分について創作性がないということはできない。
c 「思考2分類」及び「モチベーション2分類」欄の表現
被告らは,「思考2分類」欄及び「モチベーション2分類」欄に記載された原告表現(それぞれ原告表現4-3-1~120及び同4-4-1~120)について,先行著作物であるオピニオン・エキスパートテキストに照らして創作性がないと主張する。
しかし,対比表5の該当部分から明らかなように,両者の共通する部分は短い語句にすぎず,同各欄の表現内容がありふれたものであるということもできないので,原告レポート3における同各欄の表現は創作性を有するということができる。
() 原告表現4-1-1~4-4-120と対応する被告表現との対比
被告レポート2に係る被告表現4-1-1~4-4-120は,原告レポート3に係る原告表現4-1-1~4-4-120と同一であるから,同各原告表現の複製に当たると認められる。
(2) 12動物60種類の文言の編集著作物性(争点(2)イ)について
ア 素材の選択又は配列に創作性を有する編集物は編集著作物として著作権法上の保護を受ける(著作権法12条1項)。前記認定のとおり,原告テキスト2及び原告レポート3に含まれる12動物60種類の文言は原告Xが作成したものと認められるところ,被告らは,同文言は ananの記事に依拠し複製して作成されたものであり,創作性がないと主張する。
しかし,ananの記事には,「ネアカ」,「クリエイティブ」など,12動物60種類の文言の修飾語の一部は記載されているものの,修飾語を動物と組み合わせて分類し,その特徴を記載しているものではない。
動物60種類の文言における修飾語の選択や動物との組合せには何らかの規則性や必然性があるものではないから,その素材の選択と配列には創作性があると認められる。
イ 被告レポート1及び2には,その分類に12動物60種類の文言が用いられているから,被告レポート1及び2を複製・販売等することは原告Xの編集著作権を侵害し,原告Xの氏名が表示されていない点において著作者人格権(氏名表示権)を侵害すると認められる。
(3) 原告各著作物及び編集著作物についての使用許諾の有無(争点(2)ウ)について
被告らは,①原告Xが被告Y1らに対して「皆で作ったものだから皆で使えるものにしよう。」などと繰り返し発言したこと,②のら社による雑誌,記事の発行,商標登録出願,ウェブサイトへの掲載について原告Xが異議を述べなかったことなどを理由として,原告Xは被告らが本件共同著作物及び原告各著作物を使用することについて明示的又は黙示的に承諾していたと主張する。
しかし,原告Xが上記発言をしたこと(上記①)を示す客観的な証拠はなく,また,仮にその趣旨の発言がされたとしても,同発言から直ちに黙示の使用許諾があったと推認することは困難である。また,原告Xがのら社による雑誌掲載等について異議を述べなかったこと(上記②)についても,のら社に権利行使をしなかったことをもって,被告らに対する使用許諾があったと認めることはできない。
かえって,上記認定のとおり,被告Y1は,平成9年12月頃までに,原告レポート1等が格納されたソフトウェアがインストールされたデスクトップパソコン等を合計350万円で購入していること,被告Y1は,平成10年3月24日にノア社にファックスを送信し,原告レポート1等のコンテンツを利用する際に被告Y1のアーク社から原告Xのノア社に対価を支払うことを提案していることの各事実が認められる。これによれば,被告Y1は,原告各著作物の利用について原告Xの許諾が必要であると認識していたというべきである。
したがって,原告Xは被告らが本件共同著作物及び原告各著作物を使用することについて明示的又は黙示的に承諾していたとは認められない。
(4) 小括
以上によれば,被告各著作物に係る表現(被告表現1-1~4,被告表現2-1-55を除く。)は,対応する原告表現に係る原告Xの著作権(複製権,翻案権,公衆送信権),編集著作権及び著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権)を侵害するものというべきである。
4 甲事件について原告らの損害の発生及びその額並びに責任主体(争点(3))について
(1) 責任の主体
被告らのうち,被告協会が,被告各著作物の販売及び公衆送信をしていることについては当事者間に争いがないが,被告らは,被告エデュケイションズ,被告Y1,被告Y2が侵害行為の主体であることについて争うので,以下,この点から判断する。
ア 被告エデュケイションズについて
被告らは,「ISDねっと」の運営主体は被告協会であり,被告テキスト及び被告レポートの販売も被告協会が行っており,被告エデュケイションズがこれを行ったことはないと主張する。
しかし,被告エデュケイションズは,インターネット等を利用した各種コンテンツの企画,制作,販売及びこれらに関するサービス運営を業とする株式会社であるところ,同被告のウェブサイト上で「ISDねっと」が開始された旨の告知がされていること,被告レポートは「ISDねっと」からダウンロードする形で販売されていること,被告エデュケイションズの代表者である被告Y1は被告協会の代表者でもあり,被告テキスト及び被告レポートの作成に深く関与していること,被告エデュケイションズはISD個性心理学のテキストの発行,勉強会の開催,「個性診断情報提供システム」の販売などに関与していたことがうかがわれることなどの事実が認められ,これによれば,被告協会と被告エデュケイションズは意思を連絡して被告各著作物を販売していると認めるのが相当である。
イ 被告Y1について
被告協会及び被告エデュケイションズの代表者である被告Y1は,原告各著作物の作成に関与し,その著作権が原告Xにあることを容易に知り得る立場にあったにもかかわらず,原告Xの許諾を得ることなく,被告協会において被告テキスト及び被告レポートを販売したのであるから,原告Xの著作権及び著作者人格権侵害に関し,取締役としての職務を行うについて少なくとも重大な過失があったといわざるを得ない。したがって,被告Y1は,被告協会及び被告エデュケイションズの代表者として,被告協会の行為に関しては一般財団法人法117条1項,被告エデュケイションズの行為に関しては会社法429条1項に基づき(平成18年5月1日以前の行為に関しては当時の有限会社法30条ノ3第1項に基づき),賠償責任を負う。
また,被告Y1は,被告協会の一般社団法人化(平成24年8月7日)前は,個人としてISD個性心理学協会の名称で活動をしていたから,同日より前の著作権等侵害行為について責任を負う。
ウ 被告Y2について
被告Y2については,被告協会の理事ではなく,実質的な経営者の地位にあったともいうことができず,また,被告エデュケイションズの取締役ではあるものの,被告テキストや被告レポートの作成に関与したと認めるに足りる証拠もない。
したがって,被告エデュケイションズの取締役としての任務懈怠について,被告Y2に故意又は重過失があったとは認められない。
なお,原告らは,被告らは自ら被告レポートを販売していることを自白しており,その撤回に同意しないと主張するが,被告Y1及び被告Y2は販売行為を行っていないと認められるから,自白は錯誤に基づくものとして撤回されたものと認める。
エ したがって,被告協会,被告エデュケイションズ及び被告Y1は,被告テキスト及び被告レポートの販売により原告らに生じた損害について,連帯して責任を負う。
(2) 被告テキストの販売による原告らの損害額
ア 売上高
平成16年10月1日から平成29年7月9日までの被告テキストの販売数量は6680冊,売上額は2004万円である。(当事者間に争いがない。)
イ 変動費
経費としては,印刷費10%(一冊当たり300円)を控除するのが相当であり,その金額は,合計200万4000円(6680冊×300円)である。
被告らは,被告テキストの送料も変動費に当たると主張するが,被告テキストが講師に通常1,2冊ずつ郵送されていたのかどうかも含め,受講者及び講師に被告テキストがどのような方法で送付又は交付されていたかは明らかではなく,実際にレターパック等を利用して講師等にテキストが送付されていたことを示す証拠も提出されていないので,送料を変動費として認めることはできない。
ウ 被告テキストの販売による限界利益額
以上から,被告テキストの販売による限界利益額は,2004万円から200万4000円を控除した1803万6000円である。
エ 上記のうち,著作権侵害により生じた利益額
前記3(1)のとおり,被告テキストのうち著作権侵害に当たるのは頁数にして本文33頁のうち4頁分であることに照らすと,被告テキストに係る著作権侵害行為により被告に生じた利益額は,被告らの主張するとおり上記ウの12%の限度で認めるのが相当であり,その額は216万4320円である。
オ 原告らの損害額
() 原告会社の損害額
著作権法114条2項により,被告協会が著作権侵害行為により得た利益は原告各著作物の独占的利用権を有する原告会社が受けた損害の額と推定されるところ,被告協会が得た利益額は上記エのとおり216万4320円である。しかし,下記()のとおり,そのうち24万0480円は被告協会が原告Xに支払うべき額であって,被告協会の利益とはならないから,これを控除した192万3840円が被告協会の利益額である。
() 原告Xの損害額
原告Xは,使用料相当損害金の請求をしているところ,被告テキストの売上額は上記アのとおり2004万円である。原告Xは,使用料率は売上額の10%であると主張しているところ,この料率が不合理ということはできないので10%と認め,前記のとおり,被告テキストの売上のうち原告各著作物の使用による部分は12%である。
そうすると,原告Xが得るべき使用料相当の損害額は,24万0480円(2004万円×12%×10%)である。
(3) 被告レポートの販売による損害
ア 被告レポートの売上額
() 被告レポートは,月額料金を支払って「ISDねっと」の会員登録をした者に対し,インターネット経由でダウンロードする方法により販売がされている。「ISDねっと」は被告協会の講座の受講者向けのサービスであり,被告レポートの販売料金は,会員が選択した月額プランにより,通常価格から30~50%割引した額となり,無料でダウンロードできる月額プランもある。なお,通常価格は,被告レポート1が1000円,被告レポート2が2000円であるが,通常価格により販売された事例はない。
() 被告レポートを有料(割引価格)のダウンロードにより販売したことによる売上額が次のとおりであることについては,当事者間に争いがない。
被告レポート1 20万6800円
被告レポート2 112万2800円
() 次に,被告レポートは,会員が選択した月額プランに応じて,無料又は割引価格で販売されるものであり,会員には,被告レポートを無料又は割引価格で購入するために会費を支払う者が相当数いるものと推認されるから,会費の一部は,被告レポートの1,2の対価に相当すると認められる。
そして,会員から支払われた月額料金総額は,合計1億6956万6500円であることについて当事者間に争いがない。
(内訳)
期間:平成16年10月1日~平成25年9月30日(期間①)
 779万1000円
期間:平成25年10月1日~平成29年7月9日(期間②)
1億6177万5500円
() 前記1(3)オのとおり,「ISDねっと」の会員には,期間①では会費が月額800円,1800円,5800円のプランがあり,期間②では会費が月額500円,1000円,2000円,1万5000円のプランがある。そして,これらのプランは,それぞれ,被告レポートのダウンロードの際の割引割合が異なるのみならず,利用できるサービスも異なり,高額なプランほど利用できるサービスが増える。
() 原告らは,上記()の期間①については月額料金全額が,期間②についてはその50%が被告レポートの対価と評価できると主張する。しかし,期間①及び②のいずれにおいても,被告レポートのダウンロードは「ISDねっと」の会員が利用できる様々な特典の一部にすぎない。例えば,期間②における「ISDねっと」のすべてのプランにおいては,被告レポートのほかに18種類の診断書を有償又は無償でダウンロードするとともに,無償で閲覧することができ,加えて「組織分析」などのコンテンツの閲覧もすることができる。期間①についても,利用できる診断所等の数は異なるものの,様々な特定を利用できる点では同様である。
このように,「ISDねっと」の会員に与えられた特典には様々なものがあり,会員のニーズも多様であると考えられること,利用できるコンテンツの種類,数,内容,被告協会の行ったアンケート結果なども総合的に考慮すると,期間①及び②を通じ,上記月額料金総額のうち被告レポートの対価と評価できる部分は,被告レポート1(あなたの本質)につき10%,被告レポート2(総合分析)につき15%と認めるのが相当である。
 () 以上から,会費のうち被告レポートの対価と評価すべき額は次のとおりである。
被告レポート1 1695万6650円
 1億6956万6500円×10%
被告レポート2 2543万4975円
 1億6956万6500円×15%
() 以上をまとめると,被告レポートの売上額は次のとおりとなる。
被告レポート1 1716万3450円
 (20万6800円+1695万6650円)
被告レポート2 2655万7775円
 (112万2800円+2543万4975円)
イ 変動費
被告レポートは,インターネット経由での閲覧又はダウンロードによる販売がされているから,変動費はないというべきである。被告らの主張する経費は,いずれも,被告レポートの販売数量により変動するものではないから,限界利益の算定に当たり控除するのは相当ではない。
ウ 著作権侵害による利益額
() 被告レポート1
前記判示のとおり,被告レポート1は,本文(原告レポート1に対応),箇条書き部分(原告レポート2の箇条書き部分に対応),動物説明部分(原告レポート2の動物説明部分に対応),12動物60種類の文言から構成されるところ,そのいずれも原告Xの著作権及び著作者人格権を侵害するものと認められる(ただし,同レポートの動物絵柄部分と被告表現2-1-55の部分を除く。)。
この点について,被告らは,被告レポート1のうち先行著作物(本件共同著作物以外のもの)との対比において実質的に同一とはいえない部分は41.99%であるから,この部分が著作権侵害部分であると主張する。また,原告レポート1及び2は本件共同著作物の二次的著作物であり,同各レポートのうち原告Xの著作権の割合は30%であるから,更に70%を減額すべきであると主張する。
これに対し,原告らは,先行著作物における表現と被告表現が同一であるとみなせる部分があるとしても,著作部権侵害部分の割合は80%を超えると主張する。
そこで,検討するに,被告レポート1のうち原告レポート1及び2に対応する部分(本文及び箇条書き部分)は相当程度大きいと考えられるところ,原告レポート1及び2は本件共同著作物の二次的著作物であり,同各レポートのうち原著作物と同一又は酷似した部分は少なくとも半分以上を占めることなどを総合的に考慮すると,被告レポート1の利益額(売上額と同額)のうち,原告Xの著作権が侵害された部分に対応する利益額はその40%であると認めるのが相当である(被告らは,本件共同著作物以外の先行著作物との対比も根拠としているが,原告レポート1及び2は本件共同著作物以外の著作物の二次的著作物とは認められないので,この点は考慮に入れていない。)。
そうすると,被告レポート1について,著作権侵害による利益額は,686万5380円である。
() 被告レポート2
被告レポート2は,「3分類」,「12分類」,「60分類」,「リズムの本質」,「レール」,「思考2分類」,「モチベーション2分類」「左右2分類」及び「仕事の役割4分類」の各欄から構成されており,それぞれ説明文や図柄が記載されているところ,このうち,原告Xの著作権又は編集著作権を侵害しているのは,その一部(「60分類」,「リズムの本質」,「レール」,「思考2分類」及び「モチベーション2分類」)である。そして,「リズムの本質」及び「レール」については,被告レポートの中でも比較的重要な記載であると考えられるところ,同欄の記載は anan の記事の二次的著作物であり,特に「リズムの本質」については,anan の記事とその表現内容及び表現の順序も含め同記事の表現と類似する部分が多いことは前記判示のとおりである。このような事情を総合的に考慮すると,被告レポート2の利益額のうち,原告Xの著作権が侵害されたことによる利益額はその30%であると認めるのが相当である。
そうすると,被告レポート2について,著作権侵害による利益額は,796万7332円である。
エ 原告らの損害額
() 原告会社の損害額
以上を総合すると,被告レポートについて,著作権侵害により被告協会に生じた利益額は,合計1483万2712円であり,著作権法114条2項により,被告協会が著作権侵害行為により得た利益は原告会社が受けた損害の額と推定される。しかし,下記()のとおり,そのうち148万3271円は被告協会が原告Xに支払うべき額であって,被告協会の利益とはならないから,これを控除した1334万9441円が被告協会の利益額である。
() 原告Xの損害額
原告Xは,使用料相当損害金の請求をしているところ,被告レポートの売上額は上記アのとおり,被告レポート1について1716万3450円,被告レポート2について2655万7775円である。使用料率については売上額の10%が相当であると認められ,また,被告レポートの売上のうち原告Xの著作物を使用による部分は,被告レポート1について40%,被告レポート2について30%と認めるのが相当である。
そうすると,原告Xは得るべき使用料相当の損害額は148万3271円(1716万3450円×40%×10%+2655万7775円×30%×10%=68万6538円+79万6733円)である。
(4) 原告Xの著作者人格侵害による損害額
前記3のとおり,被告各著作物は原告Xの著作権を侵害するものであるが,いずれの被告各著作物についても原告Xの氏名が表示されていない点において氏名表示権を侵害する(著作権法19条1項)。また,被告各著作物が対応する原告各著作物の翻案と認められるものについては,同一性保持権(同法20条1項)を侵害する。
そして,上記著作者人格権侵害に係る表現の創作性の程度や侵害の態様,翻案に係る表現の創作性の程度や侵害の態様,原告各著作物の一部は二次的著作物であり,原告Xの著作権の及ぶ範囲は一部にとどまること,原告各著作物にも原告Xの氏名の表示はなく,被告らがあえて氏名を削除したものではないことなどを総合的に考慮すると,著作者人格権侵害に係る慰謝料は50万円と認めるのが相当である。
(5) 弁護士費用
甲事件の請求額,認容額及び事実経緯などの諸事情を総合考慮すると,被告らの著作権侵害の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は,原告会社について150万円,原告Xについて25万円と認めるのが相当である。
(6) 総額
以上から,甲事件について,原告会社の損害額は1677万3281円,原告Xの損害額は247万3751円である。
なお,原告らは,信用回復措置として別紙甲事件謝罪広告目録記載の内容の謝罪広告の掲載を求めるが,著作権及び著作者人格権侵害に係る表現の内容,侵害の程度・態様等に照らすと,金銭賠償のほかに信用回復措置をとるべき必要性があると認めることはできない。