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著作権判例セレクション
【引用】書籍への図表の掲載について適法引用を認定した事例
▶平成22年01月27日東京地方裁判所[平成20(ワ)32148]
1 争点(1)(原告各図表が編集著作物といえるか)について
(略)
(11)
小括
以上によれば,原告各図表は,いずれも編集著作物と認めることはできないが,念のため,原告各図表が編集著作物に該当すると仮定した上で,被告各図表を被告書籍に掲載した被告の行為が,著作権法32条1項の「引用」に当たるか否かについて,後記2において検討する。
2 争点(2)ア(被告各図表を被告書籍に掲載した被告の行為が,著作権法32条1項の「引用」に当たるか)について
(1)
判断基準
公表された著作物を引用して利用することができるのは,その引用が,公正な慣行に合致するものであり,かつ,報道,批評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものである必要がある(著作権法32条1項)。
ここでいう「引用」とは,報道,批評,研究その他の目的で,自己の著作物の中に,他人の著作物の原則として一部を採録するものであって,引用を含む著作物の表現形式上,引用して利用する側の著作物と,引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができ(明瞭区別性),かつ,両著作物の間に,前者が主,後者が従の関係(主従関係)がある場合をいうものと解すべきである(最高裁昭和55年3月28日第三小法廷判)。
以上の判断基準に基づいて,被告各図表を被告書籍に掲載した被告の行為が,著作権法32条1項の「引用」に該当するか否かについて,以下,検討する。
(2)
明瞭区別性について
原告は,被告書籍において,被告各図表に,いずれも「出典:月刊ネット販売」と記載され出典元が明示されていることから,被告書籍における原告各図表の利用行為が「明瞭区別性」の要件を満たすことを争わないところ,被告書籍において,原告各図表は,いずれも見開き2頁のうち,左側の頁(奇数頁)に被告各図表を,右側の頁(偶数頁)にAの執筆部分を,それぞれ掲載するという体裁により利用されており,図表である被告各図表と,記述であるAの執筆部分とは明確に区別して掲載されていると認められるから,被告書籍の表現形式上,利用する側の著作物であるAの執筆部分と,引用されて利用される側の著作物である被告各図表とを明確に区別して認識することができると認められる。
したがって,被告各図表は,いずれも「引用」における「明瞭区別性」の要件を満たすといえるので,以下においては,「主従関係」の要件を満たすかについて検討する。
(3)
主従関係について
(略)
(4)
まとめ
以上のとおり,被告各図表は,いずれも,被告書籍の表現形式上,利用する側の著作物であるAの執筆部分と明確に区別して認識することができると認められ,また,偶数頁に掲載されたAの執筆部分の記載内容を,読者に視覚的に分かりやすく伝えるための補足資料として利用されたものにすぎず,Aの執筆部分が主,被告各図表が従という関係にあると認めることができる(なお,Aは,引用文献として被告各図表のみを利用するものではなく,社団法人日本通信販売協会(JADMA),株式会社工業市場研究所,通販新聞社等を出典元とする図表を,適宜,引用しているものと認められる)。
そして,被告書籍における原告各図表の利用行為が上記のようなものであり,また,原告各図表の利用に当たり,「出典:月刊ネット販売」と明記されていることからすれば,被告書籍に被告各図表を掲載した被告の行為は,公正な慣行に合致するものであり,かつ,引用の目的上正当な範囲内で行われたものと認めることができる。
したがって,仮に,原告各図表が編集著作物であるとしても,被告が被告書籍において原告各図表を利用した行為は,著作権法32条1項の引用に該当し,適法なものと認めることができる。
3 小括
以上によれば,原告各図表は,編集著作物とは認められず,また,被告が被告書籍において原告各図表を利用した行為は,著作権法32条1項の引用に該当すると認められるから,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は,理由がない。