Kaneda Legal Service {top}
著作権判例セレクション
【編集著作物】住宅ローン金利を比較した図表の図形著作物性、編集著作物性、データベース著作物性を否定した事例
▶平成22年12月21日東京地方裁判所[平成22(ワ)12322]▶平成23年4月19日知的財産高等裁判所[平成23(ネ)10005]
(注) 本件は,原告が,被告がその開設するウェブサイト上に掲載している「住宅ローン商品
金利情報」のうちの図表(「被告図表」)は,原告の著作物である「図表」(「本件図表」)を複製したものであり,被告の上記掲載行為は原告の保有する本件図表の著作権(複製権,公衆送信権)を侵害する旨主張し,被告に対し,著作権法112条1項に基づく差止請求として被告のウェブサイト上の「住宅ローン商品
金利情報」が掲載されたウェブページの閉鎖と,著作権侵害の不法行為による損害賠償の一部請求として所定の金員の支払を求めた事案である。
1 本件図表の著作物性について
(1)
前提事実
前記争いのない事実等と証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア 本件図表は,住宅ローン金利の比較表であり,別紙B記載のように,左から順に,「通し番号」欄,「金融機関名(店舗情報へリンク)」欄,「キャンペーン商品名等(各金融機関の商品ページへリンク)」欄,「変動金利型年金利(%) ▲ 」欄,「固定金利型 固定期間別 年金利(%)」欄を設け,更に,「固定金利型 固定期間別 年金利(%)」欄は,固定期間に応じて,「1年 ▲ 」欄,「2年 ▲ 」欄,「3年 ▲
」,「5年 ▲ 」欄,「7年 ▲ 」欄,「10年 ▲ 」欄,「15年▲ 」欄,「20年 ▲ 」欄,「25年 ▲ 」欄,「30年 ▲ 」欄及び「35年 ▲ 」欄に細分化されている。
本件図表は,全国の金融機関を対象とした図表,都道府県等の各地域別の金融機関を対象とした図表などから構成されている。
イ 原告は,原告ウェブサイト(「銀行商品コム」という名称のウェブサイト)上に本件図表を掲載し,本件図表に表示する各金融機関が提供する住宅ローン商品の金利情報(変動金利の利率,固定金利の利率等)を随時更新している。
本件図表が掲載された原告ウェブサイトのページには,別紙B記載のように,「日本地図」の図形が表示されており,閲覧者の端末のディスプレイ画面から,「日本地図」の表示部分のクリック操作を行うことにより,各地域別の金融機関の住宅ローン商品の図表を検索し,これを画面表示することができる。
また,本件図表の「変動金利型年金利(%) ▲ 」欄の「 ▲ 」の部分又は「固定金利型 固定期間別 年金利(%)」欄の各固定期間の「 ▲」の部分のクリック操作を行うことより,金利の低い順に(昇降順に)項目の並べ替えをすることができ,この並べ替えた図表を画面表示することができる。
(2)
「図形の著作物」としての著作物性の有無
ア 原告は,本件図表が「図面,図表,模型その他の図形の著作物」(著作権法10条1項6号)に当たる旨主張する。
そこで検討するに,本件図表は,各金融機関が提供する住宅ローン商品の金利情報について,全国又は各地域別の金融機関ごとに,その商品名,変動金利の数値,固定金利(1年,2年,3年,5年,7年,10年,15年,20年,25年,30年,35年の固定期間別)の数値を表示して金利を対比した表及びそれらの金利の低い順に昇降順に並べて対比した表であり,金利情報をこのような項目に分類して対比した図表及び金利の低い順に昇降順に並べて対比した表は,他に多く存在し,ありふれたものであって,思想又は感情を創作的に表現したものということはできない。
したがって,本件図表が図形の著作物に当たるものと認めることはできず,原告の上記主張は理由がない。
イ これに対し原告は,本件図表は,①全国の金融機関の住宅ローンを掲載していること,②住宅ローンの商品名や金利情報その他の必要事項をデータベース化していること,③データベース化された住宅ローンについて,各都道府県ごとや各地域ごとに利用できる住宅ローンと全国の住宅ローンを抽出する機能を備えていること,④その住宅ローンの金利を変動金利と固定金利に区分し,固定金利については,各固定期間である1年,2年,3年,5年,7年,10年,15年,20年,25年,30年,35年に区分し,「変動金利又は固定金利の各固定期間である1年,2年,3年,5年,7年,10年,15年,20年,25年,30年,35年」のうちの「利用者が希望する箇所」をクリックすることにより,その希望する箇所の金利について,順次,昇順(低金利の順)に並び替える動作機能を備えていることの特徴を有するものであり,ウェブ時代における新しい概念の「動的な図表」として創作性を有する旨主張する。
しかし,上記②ないし④の機能等は,本件図表に表示されるデータの管理方法あるいは原告ウェブサイトの機能であって,本件図表を構成する各図表そのものの表現に相当するものではなく,上記機能等から本件図表が図形の著作物としての創作性を有することを基礎づけることはできない。
また,全国の金融機関の住宅ローン商品を対象に,それらの変動金利及び固定金利を図表の形式で表示すること(上記①)や各金融機関の住宅ローン商品を金利の低い順に昇降順に配列して表示すること(上記④)は,いずれもありふれた表現であって,表現上の創作性を認めることはできない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(3) 「編集著作物」としての著作物性の有無
ア 原告は,本件図表は,素材である「全国の金融機関の住宅ローン金利」の選択又は配列によって創作性を有する「編集著作物」(著作権法12条1項)である旨主張する。
そこで検討するに,本件図表は,各金融機関が提供する住宅ローン商品の金利情報について,全国又は各地域別の金融機関ごとに,その商品名,変動金利の数値,固定金利(1年,2年,3年,5年,7年,10年,15年,20年,25年,30年,35年の固定期間別)の数値を表示して金利を対比した表及びそれらの金利の低い順に昇降順に並べて対比した表であり(前記(2)ア),全国の金融機関の全てを対象に,その提供する全ての住宅ローン商品の金利情報を素材として選択したものであり,そのような選択はありふれたものであるから,素材の選択によって創作性を認めることはできない。
また,本件図表における素材の配列は,別紙B記載のように,左から,「金融機関名(店舗情報へリンク)」,「キャンペーン商品名等(各金融機関の商品ページへリンク)」,「変動金利型年金利(%)」及び「固定金利型
固定期間別 年金利(%)」(1年,2年,3年,5年,7年,10年,15年,20年,25年,30年,35年の固定期間別)の順に配列したものであり,この種の住宅ローン金利の対比表に多くみられたありふれた配列であり,また,本件図表を構成する図表の中には,各地域ごとの各金融機関の住宅ローン商品を金利の低い順に昇降順に配列したものがあるが,このように金利の低い順に住宅ローン商品を配列することもありふれたものであるから,素材の配列によっても創作性を認めることはできない。
したがって,本件図表が編集著作物に当たるとの原告の主張は,理由がない。
イ これに対し原告は,本件図表は,①原告独自の各都道府県ごとや各地域ごと又は全国で利用できる住宅ローンを,②変動金利と固定金利の各固定期間である1年,2年,3年,5年,7年,10年,15年,20年,25年,30年,35年の各区分ごとに,③利用者が希望する各区分項目ごとに,順次,低金利の順に並び替えて見られるようにするという原告の目的と方針に従って,各項目ごとに低金利の順での並び替えをし,④その並び替え後の配列は,左から,金融機関名,商品名,変動金利,固定金利の各固定期間である1年,2年,3年,5年,7年,10年,15年,20年,25年,30年,35年の順に配列を確定しているという点で,住宅ローン金利の素材の選択及び配列によって創作性を有するものである旨主張する。
しかし,前記アで認定したとおり,全国の金融機関の住宅ローン商品について,金融機関名,商品名,変動金利,固定金利の各固定期間(1年,2年,3年,5年,7年,10年,15年,20年,25年,30年,35年)の順に配列することはありふれたものであって,表現上の創作性を認めることはできない。また,原告のいう「並び替え」は,原告ウェブサイトの機能であって,本件図表を構成する各図表そのものの表現に相当するものではないから,本件図表が編集著作物としての創作性を有することを基礎づけることはできない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(4)
「データベースの著作物」としての著作物性の有無
原告は,本件図表は,①全国の金融機関の住宅ローンの金利情報等に関する数値及び図形の情報の集合物であって,②電子計算機を用いて,各都道府県ごとや各地域ごとに利用できる住宅ローンと全国の住宅ローンを選択抽出及び検索をして,③その選択抽出及び検索をした住宅ローンの金利情報等を,変動金利と固定金利に,固定金利については,さらにその各固定期間である1年,2年,3年,5年,7年,10年,15年,20年,25年,30年,35年の各項目ごとに電子計算機が選択区分をし,④利用者がこれらの区分された各項目をクリックすることによって,電子計算機が各項目ごとの金利について,順次,低金利の順に並び替え,⑤この並び替え後の図形は,左から,金融機関名,商品名,変動金利,固定金利の各固定期間である1年,2年,3年,5年,7年,10年,15年,20年,25年,30年,35年の順に配列を確定し,その各項目ごとに金利を低金利の順に並び替えて見られるという体系的な構成がされたデータベースであって,情報の選択又は体系的な構成によって創作性を有するものであるから,「データベースの著作物」(著作権法12条の2第1項)である旨主張する。
そこで検討するに,原告ウェブサイトにおいては,本件図表を構成する各図表の「変動金利」及び「固定金利」の数値を金利の低い順に並べ替えて,表示することができることからすれば,本件図表を構成する各図表に表示される情報については,何らかのデータベースが存在することがうかがわれるが,そのデータ構造についての主張立証はない。もっとも,原告は,本件図表を構成する各図表の複製物を証拠として提出しているが,上記各図表の記載事項から本件図表に係るデータベースのデータ構造そのものを把握することはできない。そうすると,原告の主張の前提となる本件図表のデータベースがいかなるものであるのか不明であるから,情報の体系的な構成によって創作性を有するものと認めることはできない。
また,原告が主張する本件図表のデータベースにおいて選択された情報は,「全国の金融機関の住宅ローンの金利情報等に関する数値及び図形の情報」であって,全国の金融機関の全てを対象に,その提供する全ての住宅ローン商品の金利情報を素材として選択したものであり,そのような選択はありふれたものであるから,情報の選択によって創作性を有するものと認めることはできない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(5)
まとめ
以上のとおり,本件図表が「図形の著作物」,「編集著作物」又は「データベースの著作物」であることを認めることはできない。
[控訴審]
当裁判所も,控訴人の本訴請求は当審において追加された請求を含めて棄却すべきものと判断する。原審から請求されている著作権侵害に係る請求が理由のないことは,原判決記載のとおりであり,当審での追加請求に理由のないことは,次に示すとおりである。
控訴人は,追加請求の原因として,被告図表の特徴が本件図表のそれと同一であり,本件図表の複製と同視し得るので,被告図表を掲載したウェブサイトの運営を行うことは,本件図表を掲載したウェブサイトの運営による控訴人の営業活動に対する侵害行為であり,かつ,公益法人による民業圧迫であるから,不法行為に当たる旨主張する。
しかしながら,被告図表は,控訴人も認めるように,本件図表それ自体を用いて作成されたもの(いわゆるデッドコピー)ではない。また,本件図表の特徴とされる,全国の金融機関の住宅ローン商品について,金融機関名,商品名,変動金利,固定金利の各固定期間の順に配列することや,これらの情報をデータベース化し,抽出し,並び替えるといった機能自体は,公表されたデータで,しかも全国の金融機関といっても数が限られたものを整理するにとどまるものであって,ありふれたものであるから,これらの配列や機能に被告図表と共通する部分があるからといって,そのこと自体において,被告図表が本件図表の複製と同視し得るものとは認められず,被告図表を掲載したウェブサイトの運営が控訴人に対する不法行為に当たるとはいえない。また,民業圧迫の点についても,証拠によれば,被控訴人の法人の目的として,「住宅金融等に関する…情報提供…」と記載されていることが認められ,被告図表の作成等により住宅ローンの金利情報を提供することは上記目的に含まれると解されるところ,そのような目的・行為は公益に合致するものであるから,被控訴人が被告図表を掲載したウェブサイトの運営を行うことと控訴人の業務との間に競合する部分があるとしても,被控訴人の上記行為が違法であるとはいえない。
他に控訴人主張の事実関係を最大限考慮に入れたとしても,本件において法的保護に値する利益の侵害に当たる事実があるものとは認められず,そのことの不法行為に基づく控訴人の請求も理由がない。