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著作権判例セレクション
【その他】自治体が運営するご当地検定を巡る国賠法の適用等が問題となった事例
▶令和5年8月30日東京地方裁判所[令和4(ワ)70145]▶令和6年3月18日知的財産高等裁判所[令和5(ネ)10092]
1 損害賠償の請求について
国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が,その職務を行うについて,故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合には,国又は公共団体がその被害者に対して賠償の責めに任ずることとし,公務員個人は民事上の損害賠償責任を負わないこととしたものと解される(最高裁昭和30年4月19日第三小法廷判決,最高裁昭和53年10月20日第二小法廷判決等)。
本件で原告は、令和3年に関ケ原町で実施された関ケ原検定に関連して被告らが令和2年12月から令和3年8月にかけて行ったとする関ケ原検定のポスターや合格証書等(以下「本件ポスター等」という。)の作成、配布等を問題にしている。(証拠)及び弁論の全趣旨によれば、関ケ原町は関ケ原町歴史民俗学習館を運営するところ、関ケ原検定は、関ケ原の戦いに関する知識等を問うもので、関ケ原町歴史民俗学習館内の関ケ原検定実行委員会名義で実施されたもので、関ケ原町歴史民俗学習館名義で検定合格を公認するなどした事業であり、関ケ原町が実施したもので、関ケ原の戦いに関する検定を行うことで関ケ原町がその広報として行ったという趣旨があるものといえる。そして、本件で原告が被告らの行為として主張する行為は、いずれも、関ケ原町が上記の関ケ原検定を実施するに際してされた行為であり、関ケ原町が公権力の行使としてしたものであると認められる。また、弁論の全趣旨によれば被告らは関ケ原町の公務員であることが認められる。
そうすると、仮に、本件ポスター等の作成、配布等が原告の著作権や商標権を侵害して違法であり、これらの行為に被告らがかかわっていたとしても、関ケ原町のみが賠償の責めを負い、被告ら個人は損害賠償責任を負わない。
よって、原告の損害賠償請求には理由がない。
2 差止め等の請求について
弁論の全趣旨によれば、令和3年4月に関ケ原検定が実施されたところ、原告から、知的財産の侵害があるとの警告がされ、関ケ原町は、同年7月には、関ケ原検定事業を中止することとし、その後、関ケ原検定は実施されていない。このような状況のもとで、現時点において、関ケ原町において、本件で原告が自身の著作物であると主張する著作物や原告が有する商標等を利用する事業を行うおそれがあると認めるには足りない。
そうすると、原告が被告らに対して関ケ原検定に関する行為の差止め等を求める必要性はなく、同請求は認められないというべきである。
3 名誉回復措置について
本件で、原告は著作権法115条に基づく名誉回復等の措置を請求するが、同措置の前提となる著作者人格権侵害に関する主張はなく、同措置を命じる前提を欠くから、同請求には理由がない。
[控訴審同旨]
1 当裁判所も原告の請求はいずれも理由がないものと判断する。理由は次のとおりである。
(1)
差止め等の請求について
弁論の全趣旨によれば、本件の「関ケ原検定」は、関ケ原町が実施するものであったことが認められる。したがって、関ケ原検定に関連して作成等された物品(原告のいう「コピー物品」)が現に関ケ原町に存在するとしても、社会通念上、これらの物品を支配下に置いていると認められるのは関ケ原町であることが推認され、これを覆すに足りる証拠はない。そうすると、仮に、被告らが同物品の購入や保管等に関与していたとしても、被告らは関ケ原町の公務員として職務上関与したにすぎないことが推認されるから、被告らは占有補助者になることはあっても、独立して同物品を処分する権限があるとは認められない。
また、被告らそれぞれが、個人として、関ケ原検定を主催して実施するなどというおそれがあることを認めるに足りる主張立証はないから、被告らが、本件各著作物及び本件各商標を使用するおそれがあるとは認められない。
したがって、原告の被告らを相手方とする差止及び廃棄請求には理由がない。
(2)
著作権法115条に基づく名誉回復等の措置について
原告は著作権法115条に基づく名誉回復等の措置として、当審において控訴の趣旨第5項の請求を追加したが、同措置の前提となる著作者人格権侵害に関する主張をしていない。したがって、原告の請求する名誉回復等の措置が相当なものであるか否かを検討するまでもなく、被告らに対する著作権法115条に基づく請求には理由がない。
(3)
原告は、被告らの行為が公権力の行使に当たるかという点につき縷々主張するが、同主張は損害賠償請求の前提となる事実に係るものであって、当審の審理の対象である前記の差止め等の請求及び著作権法115条に基づく名誉回復等の措置に関する判断を左右するものではない。
なお、国家賠償法1条1項の「公権力の行使」への該当性の認定に当たり、原告が主張するような検定事業の命令書、計画書その他の文書によることを要するものとは解されない。また、原告は、被告らの行為が公務員職権濫用に当たる場合には私的行為であって公権力の行使に当たらないとも主張するが、仮に公務員に職権濫用その他の職務に関する違法行為があったとしても、それは、国家賠償法の適用により被害者を保護すべき理由にはなっても、当該違法行為について、公権力の行使に当たる公務員が、その職務を行うについて行われたものであることを否定する理由にはならないというべきであるから、同主張は失当である。