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著作権判例セレクション

【著作物の利用の許諾】黙示的包括的な利用許諾を認定した事例

▶平成29228日東京地方裁判所[平成28()12608]▶平成29105日知的財産高等裁判所[平成29()10042]
1 争点1(3)(利用許諾の抗弁の成否)について
(1) 証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。
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(2) 上記(1)ア~オの各事実経過,とりわけ,原告[注:弁護士]が,被告[注:行政書士]及びHから原告広告とほぼ同一内容のH広告の作成配布をしたと明確に告げられながら,これを何ら問題とすることなく,かえって,H広告及び原告広告が同一の広告文言及び事例の紹介を用いていることを前提に,弁護士会からの指摘を回避するための原告広告の具体的表現に関する変更を提案していること(なお,原告がH広告の広告文言及び事例の紹介等に対する弁護士会の指摘を前提に,被告との間で原告広告の具体的な文言の修正について協議していることからすれば,原告が,H広告について,原告広告におけるのと同一の表現を用いたものと認識していたことは明らかである。)に照らせば,仮に原告広告に著作物性があったとしても,原告は,本件NPO法人の提携専門家らに対し,少なくとも黙示的には,原告広告の利用を包括的に許諾したものと認められる。
これに対し,原告は,本件NPO法人の提携専門家など全く知らない,本件訴訟において被告から提出された証拠を見てはじめて被告以外の提携専門家らが,原告広告を使用していることを知り,その後直ちに本件侵害警告を発送したなどと主張するが,原告の主張は,客観的な証拠から認められる上記(1)ア~オの各事実経過と明らかに矛盾するものであって,採用しがたい(なお,原告は,上記(1)カのとおり,本件訴訟係属後3か月以上が経過した平成28年7月になって,本件侵害警告を行っているが,上記(1)ア~オの経緯に照らせば,本件侵害警告は,本件訴訟を有利に運ぶ目的のためだけに行われたものであることがうかがわれるというべきであって,前記認定を左右するものとはいえない。)。
2 争点2(3)(改変許諾の抗弁の成否)について
上記1(1)ア~オの各事実経過に照らせば,仮に原告広告に著作物性があったとしても,原告が,本件NPO法人の提携専門家らに対し,少なくとも黙示的には,原告広告の改変についても許諾したものと認められる。
3 争点3(一般不法行為の成否)について
原告は,被告が原告広告を無断で模倣して被告広告1及び2を作成したことによって,原告が有する原告広告を模倣されないという法的保護に値する利益が侵害された旨主張する。
原告の主張は,被告が原告広告を無断で模倣したことにより,原告が,原告広告について著作権(複製権)及び著作者人格権(同一性保持権)とは別個の法的利益を侵害された旨の主張と解される。しかしながら,原告の主張する利益が法的に保護されるべき利益に当たるか否かは疑問がある上,そもそも上記1(2)及び2のとおり,原告は被告を含む本件NPO法人の提携専門家らに対して原告広告の複製及び改変を許諾したものと認められるから,被告が原告広告を無断で模倣したという原告の主張は,主張の前提を欠くものであって失当である。

[控訴審同旨]
1 争点1(3)(利用許諾の抗弁の成否)について
(1) 証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。
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(2) 上記(1)の認定事実からすると,①1審原告広告は,本件NPO法人の地方相談会の広告として作成されたものであること,②1審原告は,1審被告から,本件NPO法人の地方相談会の集客のために,1審原告広告の現物を送付することを求められたこと,③1審原告は,平成25年8月7日,1審被告から,A広告が1審原告広告とほぼ同一内容であることを告げられたこと,以上の事実が認められるから,1審原告は,平成25年8月7日の時点において,A広告が1審原告広告とほぼ同一内容であること,1審原告広告とほぼ同一内容のものが本件NPO法人の地方相談会の集客のために用いられていることを認識していたものと認められる。
そして,上記(1)の認定事実からすると,1審原告は,1審原告広告とほぼ同一内容のものが本件NPO法人の地方相談会の集客のために用いられていることを何ら問題とすることなく,かえって,A広告及び1審原告広告が同一の広告文言及び事例の紹介を用いていることを前提に,弁護士会からの指摘を回避するための1審原告広告の具体的表現に関する変更を提案しているものと求められる。また,上記(1)の認定事実からすると,1審原告は,上記の平成25年8月7日から約2年6か月後の平成28年2月5日に至って,1審被告に対して1審原告広告に関する1審原告の著作権の侵害を主張するようになったものと認められる。これらの一連の事実経過に,上記(1)認定のとおり,1審原告は,1審被告と連携して,多数の交通事故の事案を処理し,Eや1審被告から,多数の交通事故の案件の紹介を受けていたこと,すなわち,1審原告は,本件NPO法人と連携することによって利益を得ていたといえることを総合すると,1審原告は,本件NPO法人の地方相談会の広告として,1審原告広告を利用することを包括的に許諾していたものと認めることができる。
この許諾は,A弁護士や姫路市の地方相談会に限られるものではない。
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2 争点2(3)(改変許諾の抗弁の成否)について
前記認定の事実経過に照らすと,1審原告は,1審原告広告を本件NPO法人の地方相談会で使用するのに必要な範囲で改変することを許諾していたものと認められる。そして,1審被告広告1及び2がその範囲を超えて改変されたとは認められない。
3 争点3(一般不法行為の成否)について
1審原告は,1審被告が1審原告広告を無断で模倣して1審被告広告1及び2を作成したことによって,1審原告が有する1審原告広告を模倣されないという法的保護に値する利益が侵害された旨主張する。
1審原告の主張は,1審被告が1審原告広告を無断で模倣したことにより,1審原告が,1審原告広告について著作権(複製権)及び著作者人格権(同一性保持権)とは別個の法的利益を侵害された旨の主張と解される(最高裁判所平成23年12月8日第一小法廷判決参照)。しかし,1審原告の主張する利益が,著作権や著作者人格権とは別個の法的に保護されるべき利益に当たるとはいえない上,前記1(2)及び2のとおり,1審原告は,1審原告広告の複製及び改変を許諾したものと認められるから,1審被告が1審原告広告を無断で模倣したという1審原告の主張は,主張の前提を欠くものであって失当である。