Kaneda Legal Service {top}

著作権判例セレクション

【言語著作物の侵害性】交通事故状況の質問票の侵害性を否定した事例

▶平成29228日東京地方裁判所[平成28()12608]▶平成29105日知的財産高等裁判所[平成29()10042]
4 争点6(原告追加部分の著作物性及び複製権侵害の成否)について
(1) 著作権法は思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(著作権法2条1項1号),複製に該当するためには,既存の著作物とこれに依拠して作成された対象物件の共通する部分が著作権法によって保護される思想又は感情の創作的な表現に当たることが必要というべきであり,被告アンケート1又は2が原告追加部分に依拠して作成されたものであるとしても,思想,感情若しくはアイディア,事実,学術的知見など表現それ自体でない部分や,表現上の創作性がない部分において原告追加部分の表現と共通するにすぎない場合には,複製に当たらないと解するのが相当である。
(2) 原告追加部分は,本件被告ファイルに対し,「ご希望時間」欄を新設して同欄内に午前10時から午後5時30分までの30分刻みの表示をし,②「住所・TEL」欄を「住所」欄と「電話番号」欄に分け,住所欄に「〒」の表示をし,③「事故発生状況」欄の空白部分の代わりに「□その他」を新設し,④「あなた」欄の「□自動車運転」「□自動車同乗」を併せて「□自動車(□運転,□同乗)」とするとともに,「□バイク運転」「□バイク同乗」を併せて「□バイク(□運転,□同乗)」とし,⑤「初診治療先」「治療先 2」「治療先 3」欄をそれぞれ「治療先 1/通院回数」「治療先 2/通院回数」「治療先 3/通院回数」とした上で,それぞれの欄内に「病院名: /通院回数: 回」の表示をし,「自賠責後遺障害等級」「簡単な事故状況図をお書きください。」「受傷部位に印をつけてください。」の各欄を設けた上,「受傷部位に印をつけてください。」欄に人体の正面視図及び後面視図を設け,⑦相談者の「保険会社・共済名」欄内のチェックボックス及び選択肢を削除し,「加害者の保険」「保険会社名」の各欄を「加害者の保険会社名」欄にするとともに同欄内のチェックボックス及び選択肢を削除したものである。これに対し,被告アンケート1及び2は,いずれも上記⑥の人体の正面視図及び後面視図が原告追加部分とやや異なるが,その他の点は上記①から⑦の点において原告追加部分と同一の記載がされている。
(3) そこで検討するに,まず,原告追加部分と被告アンケート1及び2に共通する上記①の点については,相談希望者から必要な情報を聴取するというファイルの目的上,相談の希望時間を聴取することは一般的に行われることで,そのために「ご希望時間」欄を設けて欄内に一定の時間を30分ごとに区切った時刻を掲記することは一般的にみられるありふれた表現であるから,著作者の思想又は感情が創作的に表現されているということはできない。
また,原告追加部分と被告アンケート1及び2に共通する上記②~⑤及び⑦の点は,いずれも,本件被告ファイルの質問事項欄を前提にそれを統合又は分割し,あるいは,各質問事項欄内の選択肢やチェックボックスを相談者が記載しやすいように追加又は変更したものであり,いずれもアイディアに属する事柄にすぎないから、著作権法上の保護の対象となるものとはいえない。
次に,原告追加部分と被告アンケート1及び2に共通する上記⑥の点(なお,原告追加部分と本件各アンケートでは,正面視及び後面視の各人体図の具体的なデザインが異なる。)については,相談希望者から必要な情報を聴取するという本件原告ファイルの目的に照らせば,事故状況や被害状況を聴取するために,自賠責後遺障害等級を質問事項に設け,事故状況図や受傷部位を質問事項に入れること,受傷部位を聴取するために,正面視及び後面視の各人体図を設けて印を付けるよう求めたことは,いずれもアイディアにとどまり,あるいは一般的に見られるありふれた表現形式であって,著作者の思想又は感情が創作的に表現されていると見ることはできない。
以上によれば,原告追加部分と被告アンケート1及び2の共通する部分は,いずれも著作権法によって保護される思想又は感情の創作的な表現には当たらないから,被告アンケート1及び2は原告追加部分の複製には該当しないというべきである。
なお,原告は,被告において原告追加部分に著作物性があることを認めているから,この点について裁判上の自白が成立し,裁判所を拘束するなどとも主張するが,本件全記録によっても被告が原告追加部分の著作物性を自認したものとは認めることができないから,原告の上記主張は失当というほかない。

[控訴審同旨]
4 争点6(1審原告追加部分の著作物性及び複製権侵害の成否)について
(1) 著作権法は思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(著作権法2条1項1号),複製に該当するためには,既存の著作物とこれに依拠して作成された物の共通する部分が著作権法によって保護される思想又は感情の創作的な表現に当たることが必要である。
(2) 1審原告追加部分は,本件1審被告ファイルに対し,①「ご希望時間」欄を新設して同欄内に午前10時から午後5時30分までの30分刻みの表示をし,②「住所・TEL」欄を「住所」欄と「電話番号」欄に分け,住所欄に「〒」の表示をし,③「事故発生状況」欄の空白部分の代わりに「□その他」を新設し,④「あなた」欄の「□自動車運転」「□自動車同乗」を併せて「□自動車(□運転,□同乗)」とするとともに,「□バイク運転」「□バイク同乗」を併せて「□バイク(□運転,□同乗)」とし,⑤「初診治療先」「治療先2」「治療先3」欄をそれぞれ「治療先1/通院回数」「治療先2/通院回数」「治療先3/通院回数」とした上で,それぞれの欄内に「病院名: /通院回数: 回」の表示をし,「自賠責後遺障害等級」「簡単な事故状況図をお書きください。」「受傷部位に印をつけてください。」の各欄を設けた上,「受傷部位に印をつけてください。」欄に人体の正面視図及び後面視図を設け,⑦相談者の「保険会社・共済名」欄内のチェックボックス及び選択肢を削除し,「加害者の保険」「保険会社名」の各欄を「加害者の保険会社名」欄にするとともに同欄内のチェックボックス及び選択肢を削除したものである。これに対し,1審被告アンケート1及び2は,いずれも上記⑥の人体の正面視図及び後面視図のデザインが1審原告追加部分と異なるが,その他の点は上記①から⑦の点において1審原告追加部分と同一の記載がされている。
(3) まず,1審原告追加部分と1審被告アンケート1及び2に共通する上記①の点については,相談希望者から必要な情報を聴取するという本件1審原告ファイルの目的上,相談の希望時間を聴取することは一般的に行われることで,そのために「ご希望時間」欄を設けて欄内に一定の時間を30分ごとに区切った時刻を掲記することは一般的にみられるありふれた表現であるから,著作者の思想又は感情が創作的に表現されているということはできない。
また,1審原告追加部分と1審被告アンケート1及び2に共通する上記②~⑤及び⑦の点は,いずれも,本件1審被告ファイルの質問事項欄を統合又は分割し,あるいは,各質問事項欄内の選択肢やチェックボックスなどを相談者が記載しやすいように追加又は変更したものであり,いずれも一般的にみられるありふれた表現であるから,著作者の思想又は感情が創作的に表現されているということはできない。
さらに,1審原告追加部分と1審被告アンケート1及び2に共通する上記⑥の点については,相談希望者から必要な情報を聴取するという本件1審原告ファイルの目的に照らすと,事故状況や被害状況を聴取するために,自賠責後遺障害等級を質問事項に設け,事故状況図や受傷部位を質問事項に入れ,受傷部位について正面視及び後面視の各人体図を設けて印を付けるよう求めたことは,いずれも一般的に見られるありふれた表現であるから,著作者の思想又は感情が創作的に表現されているということはできない。
以上によると,1審原告追加部分と1審被告アンケート1及び2の共通する部分は,いずれも著作権法によって保護される思想又は感情の創作的な表現には当たらないから,1審被告アンケート1及び2は1審原告追加部分の複製には該当しないというべきである。なお,1審原告追加部分と1審被告アンケート1及び2では,正面視及び後面視の各人体図のデザインが異なるから,人体図について1審被告アンケート1及び2が1審原告追加部分の複製に該当することはない。
1審原告は,1審被告において1審原告追加部分に著作物性があることを認めているから,この点について裁判上の自白が成立し,裁判所を拘束すると主張するが,本件訴訟において,1審被告が1審原告追加部分の著作物性を自認したものとは認めることができないから,1審原告の上記主張は失当である。