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著作権判例セレクション
【編集著作物】交通事故状況の質問票の編集著作物性を否定した事例
▶平成29年2月28日東京地方裁判所[平成28(ワ)12608]▶平成29年10月5日知的財産高等裁判所[平成29(ネ)10042]
5 争点8(本件被告ファイルの編集著作物性の有無)について
(1)
本件被告ファイルには,「氏名・フリガナ」,「年齢・性別・職業」,「住所・TEL」,「メールアドレス」,「事故日」,「事故発生状況」,「あなた」(判決注:相談希望者),「加害者」,「受傷部位」,「傷病名」,「症状」,「治療経過」,「初診治療先」,「治療先2」,「治療先3」,「あなたの保険」,「保険会社・共済名」,「加害者の保険」,「保険会社名」の欄が順に設けられ,それぞれ左欄には上記の各項目タイトルが,右欄には各項目に対応する情報を記載する体裁となっていること,これらの各欄に引き続いて,「相談内容・お問い合わせ」欄が設けられ,その下に情報を記載するための空白が設けられていることが認められる。また,本件被告ファイルの「事故発生状況」,「あなた」,「加害者」,「受傷部位」,「傷病名」,「治療経過」,「あなたの保険」,「保険会社・共済名」,「加害者の保険」,「保険会社名」の右欄には,複数の選択肢とそれに対応したチェックボックスが設けられていることが認められる。
(2)
そこで検討するに,ある編集物が編集著作物として著作権法上の保護を受けるためには,素材の選択又は配列に係る具体的な表現において創作性が存することが必要と解される(著作権法12条参照)。
この点,被告は,①相談担当者が事前に相談者の個人特定情報,事故情報(事故日,事故状況,被害者の立場,加害者の立場),被害者の傷病情報(受傷部位,傷病名,症状,治療経過,治療先病院),保険情報(被害者の加入保険,加害者の加入保険)といった基礎情報を漏れなく把握することができるように質問項目を工夫した,②これらの質問項目について相談者が何も記載せず空欄のままとすることがないよう,大部分の項目に想定される複数の選択肢とそれに対応したチェックボックスを配置することにより,相談者が自ら文章を入力する手間を省き,気軽に,短時間でこれらの基礎情報を提供することを可能とした,③被害者がどのような交通事故に遭遇し,どのような負傷をし,これについてどのような治療を行い,今何を困っているのかを把握すべく,具体的な事故状況,被害者,加害者それぞれの交通事故における立場・加入保険の内容に始まり,具体的な受傷状況,治療状況,加入保険の内容と順次聴取していけるように質問事項を配列したとし,これらの点に素材の選択及び配列における創意工夫があると主張する。
しかしながら,まず上記①については,交通事故相談者から相談に先立ち必要な情報を把握するという本件原告ファイル及び本件被告ファイルの性質上,相談者,交通事故の具体的状況,相談者の受傷及び治療状況並びに事故関係者の保険加入状況等に関する情報のほか,具体的な相談希望内容についての情報を収集する必要があるから,これらの事項に対応する事項を設けることは単なるアイディアにすぎない。また,このような本件原告ファイル及び本件被告ファイルの性質上,これらの各事項に関連する具体的な質問項目の選択についても自ずと限定されるところ,本件被告ファイルの質問項目は,いずれもありふれたものと認められる(なお,このことは,本件被告ファイルが作成された平成23年5月より13年以上前の平成10年2月20日に刊行された公刊物に本件被告ファイルとほぼ同一の質問項目及び選択肢が記載されていることからも裏付けられる。)。
また,上記②について,相談者が何も記入しないことを避けるためにチェックボックスを配置して相談者自らの文章入力の手間を省いたという点については,抽象的なアイディアにすぎず,著作権法によって保護される表現とはいえないし,具体的な選択肢についても,通常想定される回答を列記したにすぎず,創作性のあるものとはいえない。
さらに,上記③については,交通事故相談者から相談に先立って情報を把握するという本件原告ファイル及び本件被告ファイルの性質上,相談者,交通事故の具体的状況,相談者の受傷及び治療状況並びに事故関係者の保険加入状況等の情報に加えて,具体的な相談希望内容を順次回答させる必要があるから,これと同一の本件被告ファイルにおける質問項目の順序はありふれたものというほかなく,その配列に創作性があるとは認め難い。
そして,他に本件被告ファイルにおける素材の選択又は配列に創作性があると認めるに足る証拠はないから,本件被告ファイルが編集著作物に当たるとは認められない。
[控訴審同旨]
5 争点8(本件1審被告ファイルの編集著作物性の有無)について
(1)
ある編集物が編集著作物として著作権法上の保護を受けるためには,素材の選択又は配列によって創作性を有することが必要である(著作権法12条1項)。
⑵ 本件1審被告ファイルには,「氏名・フリガナ」,「年齢・性別・職業」,「住所・TEL」,「メールアドレス」,「事故日」,「事故発生状況」,「あなた」(判決注:相談希望者),「加害者」,「受傷部位」,「傷病名」,「症状」,「治療経過」,「初診治療先」,「治療先2」,「治療先3」,「あなたの保険」,「保険会社・共済名」,「加害者の保険」,「保険会社名」の欄が順に設けられ,それぞれ左欄には上記の各項目タイトルが,右欄には各項目に対応する情報を記載する体裁となっていること,これらの各欄に引き続いて,「相談内容・お問い合わせ」欄が設けられ,その下に情報を記載するための空白が設けられていることが認められる。また,本件1審被告ファイルの「事故発生状況」,「あなた」,「加害者」,「受傷部位」,「傷病名」,「治療経過」,「あなたの保険」,「保険会社・共済名」,「加害者の保険」,「保険会社名」の右欄には,複数の選択肢とそれに対応したチェックボックスが設けられていることが認められる。
⑶ まず,相談者から相談に先立ち交通事故に関する必要な情報を把握するという本件1審被告ファイルの性質上,①相談者個人特定情報,②交通事故の具体的状況,③相談者の受傷及び治療の状況並びに④事故関係者の保険加入状況に関する情報のほか,⑤具体的な相談希望内容についての情報を収集する必要があることは,当然のことであると考えられる。本件1審被告ファイルは,「氏名・フリガナ」,「年齢・性別・職業」,「住所・TEL」,「メールアドレス」,「事故日」,「事故発生状況」,「あなた」,「加害者」,「受傷部位」,「傷病名」,「症状」,「治療経過」,「初診治療先」,「治療先2」,「治療先3」,「あなたの保険」,「保険会社・共済名」,「加害者の保険」,「保険会社名」の欄を順に設け,これらの各欄に引き続いて,「相談内容・お問い合わせ」欄を設け,その下に情報を記載するための空白を設けているが,これらの事項は,上記の本件1審被告ファイルの性質上,当然に設けられるべき項目であって,その順番も,上記①から⑤の順に,それぞれの必要項目を適宜並べたに過ぎないというほかないから,これらの項目を上記のとおり設けたことによって,素材の選択又は配列による創作性があるということはできない。
また,上記のような本件1審被告ファイルの性質上,これらの事項に関連する具体的な項目の選択についても自ずと限定されるところ,本件1審被告ファイルのチェックボックスを付した各項目は,いずれもありふれたものというほかなく,そのような項目を適宜並べたものというほかないから,素材の選択又は配列による創作性があるということはできない。この点について,1審被告は,特に,「事故発生状況」及び「傷病名」の項目の選択について主張するが,「事故発生状況」についての「□追突」,「□正面衝突」,「□出合い頭衝突」,「□信号無視」,「□無免許」,「□飲酒」という項目及び「傷病名」についての「□脳挫傷」,「□捻挫挫傷」,「□打撲」,「□脱臼」,「□骨折」,「□靱帯損傷」,「□醜状痕」,「□偽関節変形」,「□神経症状」,「□CRPS」,「□機能障害」,「□神経麻痺」,「□筋損傷,「□その他(
)」という項目は,交通事故においては通常見られる事故態様及び傷病名であって,素材の選択又は配列による創作性があるということはできない。なお,1審被告が主張するように,事故現場の図面や「事故当日の天候」,「道路の見とおしの状況」,「道路状況」,「標識や信号機の有無や場所」,「交通量」などを記載させることも考えられるが,これらの項目は,事故態様そのものである「□追突」,「□正面衝突」,「□出合い頭衝突」,「□信号無視」,「□無免許」,「□飲酒」といった項目に比べて必要性が高いとはいえず,上記の事故現場の図面や「事故当日の天候」等の項目がないことは,素材の選択又は配列による創作性があることを基礎づけるということはできない。
さらに,チェックボックスを,上記のような項目と組み合わせて配置したからといって,素材の選択又は配列による創作性が認められるものではない。
そして,他に本件1審被告ファイルにおいて素材の選択又は配列による創作性があると認めるに足りる証拠はないから,本件1審被告ファイルが編集著作物に当たるとは認められない。