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著作権判例セレクション
【同一性保持権】恐竜のイラストにつき同一性保持権の侵害を認定した事例
▶平成11年09月21日東京高等裁判所[平成10(ネ)5108等]
1 争点1(同一性保持権侵害の成否)について
(一) 証拠によれば、次の事実を認めることができる。
(イ) 本件著作物は、中央に、首を捻り右正面を向いて大きく口を開け歯をむき出したティラノサウルスが大きく描かれ、ティラノサウルスの口の付近に、小さな翼竜が飛んでいるところが描かれているイラストであり、その描写は、ティラノサウルスの輪郭、目、鼻孔、口腔、舌、歯、足、爪等から肌の襞の模様や陰影に至るまで細部にわたって写実的かつ緻密に描いているものである。
(ロ) アドNは、控訴人アートBから、その代理店である控訴人Kを介して、本件著作物のポジを借り受けると、本件著作物中の翼竜を切除し、ティラノサウルスの輪郭や色調を変え、写実的かつ緻密な描写をぼかすなどしたうえで、キジマの製品カタログの表紙を作成した。
(ハ) 本件利用の具体的内容は、翼竜を切除し、ティラノサウルスについて、全体の色調を黄、赤系統の色調に変更し、首から背にかけて連続した突起物を加えるなどして輪郭を変え、写実的かつ緻密に描かれていた目、鼻孔、口腔、舌、歯、足、爪等をぼかし、肌の襞の模様や陰影をはっきりと判別できず、かえって別個の模様を浮き上がらせるようなものにしている。しかし、本件著作物における、首を捻り右正面を向いて大きく口を開け歯をむき出したティラノサウルスという基本的な構図、その輪郭、目、鼻孔、口腔、舌、歯、足、爪等の細部の描写自体は残存したままである。
(二) 右認定の事実によれば、アドNは、本件利用によって、本件著作物の表現を変更しあるいは一部切除してこれを改変したものと認めるのが相当である。したがって、本件利用は、著作者である被控訴人の承諾又は著作権法の定める適用除外規定に該当する事由がない限り、本件著作物について被控訴人が有する同一性保持権を侵害するものというべきである。
(三) 控訴人は、本件表紙絵が被控訴人の著作物だと考える者はいないからこれにより被控訴人の同一性保持権は何ら侵害されていない旨主張する。
本件表紙絵は、前記(一)(ハ)認定のとおりのものであるから、本件著作物と比べて相当に表現内容が変わっていることは確かである。しかし、ティラノサウルスの基本的な構図のみならず、その目・鼻孔・口腔・舌・歯・足・爪等の細部の描写は残存しており、本件著作物とは無関係な著作物が創作されたものということはできない。また、著作権法20条にいう同一性保持権は、著作者が、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないというものであって、第三者が、本件表紙絵をみて被控訴人の作品であると認識できるかどうか、右表紙に被控訴人の氏名が表示されているかどうかは問題とならない。控訴人らの右主張は、独自のものであって、採るを得ない。
(四) 本件著作物が、不特定多数の顧客の不特定の商業広告の素材として提供されていたものであることを根拠とする、控訴人らの主張も失当である。本件著作物は、用途制限「扱いC」と指定され、利用申込みの都度、貸出の可否について、著作者たる被控訴人の判断を必要とするものであったのであり、控訴人らの顧客が、被控訴人の承諾がないのに自由に改変して利用することができるというものではないことは自明だからである。右用途制限の存在と、本件著作物が不特定多数の顧客の不特定多数の商業広告の素材として提供されることは決して両立しないものではなく、控訴人らの右主張は右用途制限の存在を無視した立論であって、前提において既に失当である。
(五) 本件著作物を利用する行為をしたのは、アドNであり、控訴人らは何らの利用行為もしていないから控訴人らに同一性保持権侵害はあり得ないとする控訴人らの主張も失当である。アドNによる本件利用は、控訴人らの行為があることによりできたものであり、これらがなければ出来していなかったことは、後に3で述べるとおりであり、控訴人らは、そこで認定されている行為によりアドNによる本件利用を生じさせたのであるから、これらの行為が同一性保持権を侵害する行為としての評価を受けるのである。