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著作権判例セレクション
【引用】 逮捕動画の投稿によって被害を受けた被害者による、当該動画の利用について適法引用を認定した事例/氏名表示権及び同一性保持権の侵害を否定した事例
▶令和4年10月28日東京地方裁判所[令和3(ワ)28420]▶令和5年3月30日知的財産高等裁判所[令和4(ネ)10118等]
(注) 本件本訴は、原告が、被告に対し、原告が警察官に逮捕された際の状況が撮影された「不当逮捕の瞬間!警察官の横暴、職権乱用、誤認逮捕か!」と題する動画(「本件逮捕動画」)を被告がインターネット上の動画投稿サイト「YouTube」に投稿したことにより、名誉権、肖像権及びプライバシー権を侵害されたと主張して、不法行為に基づき、所定の金員の支払を求めた事案である。
本件反訴は、被告が、原告に対し、原告がYouTubeに複数の動画を投稿したこと等により、著作権(複製権及び公衆送信権)、著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)又はプライバシー権を侵害されたと主張して、不法行為に基づき、所定の金員の支払を求めた事案である。
5 争点4-1(原告動画1の投稿による著作権侵害の成否)について
⑴ 著作物性又は著作者について
前提事実及び証拠並びに弁論の全趣旨によれば、本件逮捕動画は、前記において認定したとおり、道路脇の草むらにおいて原告が仰向きの状態で警察官に制圧され、白昼路上において警察官が原告を逮捕しようとするなどして原告と警察官が押し問答となり、原告が警察官により片手に手錠を掛けられ、原告が複数の警察官に取り囲まれるなどという現行犯逮捕の状況等を撮影したものである。そして、本件逮捕動画は、事の子細を記録するために、撮影場所、アングル等を工夫して、原告と警察官との具体的なやり取り、その表情などを撮影し、これを編集したものであることが認められる。
そうすると、本件逮捕動画は、撮影方法や編集等に工夫を凝らした点において創作性があるといえるから、本件逮捕動画には著作物性を認めるのが相当である。
そして、証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件逮捕動画は、被告が現場で撮影してこれを制作したものと認められ、これを覆すに足りる証拠はない。したがって、本件逮捕動画の著作者は、被告であると認めるのが相当である。
⑵ 著作権の侵害について
ア 証拠及び弁論の全趣旨によれば、①原告動画1は、被告が撮影した動画を基に作成されたものであること、②本件逮捕動画と原告動画1は、各動画に付されたテロップの内容等に相違が認められるものの、いずれも、道路脇の草むらにおいて原告が仰向きの状態で警察官に制圧され、白昼路上において警察官が原告を逮捕しようとするなどして原告と警察官が押し問答となり、原告が警察官により片手に手錠を掛けられ、原告が複数の警察官に取り囲まれるなどという現行犯逮捕の状況等を撮影したものであること、③本件逮捕動画と原告動画1は、その撮影場所、アングル、映像の内容までもが一致すること、以上の事実が認められる。
上記認定事実によれば、原告動画1は、本件逮捕動画に係る創作的表現の一部につき、原告の容ぼうにモザイク処理を付し、音声加工を施すなどして、これを複製したものであると認められる。そして、前提事実によれば、原告は、原告動画1をYouTube に投稿していることが認められるのであるから、本件逮捕動画に係る被告の複製権及び公衆送信権を侵害したものと認められる。
イ これに対し、原告は、原告動画1につき、本件逮捕動画とは別のオリジナルのものから作成しているから、本件逮捕動画を複製又は公衆送信するものではない旨主張する。
しかしながら、本件逮捕動画と原告動画1は、その撮影場所、アングル、映像の内容までもが一致することは、上記において説示したとおりである。
そうすると、原告において、被告が保有する本件逮捕動画から直接複製したものではなく、上記にいうオリジナルのものから複製したとしても、そもそも当該オリジナルのものと本件逮捕動画は創作的表現において同一のものであるといえる。したがって、原告は、本件逮捕動画の創作的表現部分と同一のものに基づき、原告動画1を作成したのであるから、原告の主張は、依拠性を否定するものとはならない。
したがって、原告の主張は、採用することができない。
⑶ 著作権法32条1項の引用の成否について
ア 他人の著作物は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の目的上正当な範囲内で行われる場合には、これを引用することができる(著作権法32条1項)。そして、その要件該当性を判断するには、引用される著作物の内容及び性質、引用の目的、その方法や態様、著作権者に及ぼす影響の程度等の諸事情を総合考慮して、社会通念に照らし判断するのが相当である。
イ 前提事実及び証拠並びに弁論の全趣旨によれば、①原告動画1は、冒頭において「これから公開させて頂く動画は私が不当逮捕された時に通りがったパチスロ系人気YouTuberCさんに撮影されモザイクやボイスチェンジ加工等無しで面白おかしくコラージュされ他動画をSNSへ掲載され約2ヶ月で230万回も再生された動画です。」等のテロップが表示された後、「長文申し訳ございません。動画を開始させて戴きます。」と表示されること、②その後、背景に「当動画はYouTuberCさんにモザイク無しで掲載された動画と同等のものをプライバシー処理した動画です。」と表示された状態で、本件状況が映っていること、③その後、「ご視聴頂きありがとうございます。今後、削除処理の過程や、私の行って来た事
過去の申し立て内容や進捗を公開していければと考えております。 SNS被害ch」とのテロップが表示されていること、④原告動画1は、本件逮捕動画のうち、原告が現行犯逮捕されるなどした本件状況を映したいわば生の映像について引用する一方で、被告が本件状況の補足説明や原告又は警察官の発言内容につきテロップを付すなどした部分については引用していないこと、他方、⑤本件逮捕動画は、遅くとも平成30年9月末頃に、その投稿が削除されており、原告動画1の投稿により、被告に実質的な不利益が具体的に生じたこともうかがわれないこと、以上の事実が認められる。
上記認定事実によれば、原告は、本件逮捕動画が被告によって撮影され編集されたものであることを明記した上、本件逮捕動画を引用しているところ、原告動画1を投稿した目的は、被告がモザイクや音声の加工等を施さないまま、現行犯逮捕された原告の容ぼう等をそのまま晒す本件逮捕動画をYouTube に投稿したことを明らかにするためのものであり、本件逮捕動画は、その被害を明らかにするために必要な限度で利用されたものであり、他方、本件逮捕動画の引用によって被告に実質的な不利益が具体的に生じたこともうかがわれない。
これらの事情を総合考慮すれば、原告動画1において本件逮捕動画を引用することは、公正な慣行に合致するものであり、引用の目的上正当な範囲内で行われたものと認めるのが相当である。
ウ 被告の主張について
(ア) 被告は、原告動画1につき、引用して利用する側の著作物と、引用して利用される著作物とを明瞭に区別して認識することができないと主張する。
しかしながら、前記イのとおり、原告動画1と本件逮捕動画を明確に区別して認識することができることは明らかであり、被告の主張は、上記認定に係る原告動画1の内容に照らし、一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断するものとはいえない。
(イ) 被告は、原告動画1と本件逮捕動画との関係について、いずれも、量的質的に引用する側の著作物が主、引用される著作物が従という関係が認められないから、そもそも著作権法32条にいう「引用」に当たらないと主張する。
しかしながら、本件逮捕動画は、原告が被告から被害を受けたことを明らかにするという目的の限度で引用されており、引用の目的上正当な範囲内で行われたものと認められることは、上記において説示したとおりである。そうすると、上記引用の目的及び態様を踏まえると、主従関係をいう被告の主張は、上記の要件該当性を左右するものとはいえない。
(ウ) 被告は、被告から権利の侵害を受けたということを世間に公表するためには、本件逮捕動画の引用は必須ではなく、動画の一部を利用すれば足りると主張する。
しかしながら、原告が被告から本件逮捕動画の投稿によって被害を受けたことを明らかにするという目的を踏まえると、原告が受けた被害そのものである本件逮捕動画を動画として引用することが最も直接的かつ有効な手段であるといえる。
そうすると、被告の主張は、上記目的及び本件逮捕動画との関係を正解するものとはいえず、上記判断を左右しない。
(エ) 被告は、原告動画1においては、被告の同一性保持権を侵害する改変がされている上、出所の明示もされていないと主張する。
しかしながら、同一性保持権の侵害が認められないことは、後記6のとおりであり、出所が明示されていることは、前記イのとおりである。
(オ) 以上によれば、被告の主張は、いずれも採用することができない。
エ したがって、原告動画1において本件逮捕動画を利用することは、著作権法32条1項の引用が成立するものと認められる。
⑷ 小括
以上によれば、原告が原告動画1において本件逮捕動画を引用することは、著作権法32条1項にいう引用に当たるから、本件逮捕動画に係る著作権の侵害に基づく被告の請求は、理由がない。
6 争点4-3(原告動画1の投稿等による著作者人格権侵害の成否)について
⑴ 同一性保持権の侵害について
被告は、原告において本件逮捕動画にモザイク処理と音声加工を施しこれに変更を加えていることが、被告の同一性保持権を侵害している旨主張する。
そこで検討すると、著作権法20条2項4号は、「やむを得ないと認められる改変」に該当する場合には、同一性保持権を定める同条1項の適用を除外するものである。
これを本件についてみると、前記認定事実によれば、本件逮捕動画の内容は、道路脇の草むらにおいて原告が仰向きの状態で警察官に制圧され、白昼路上において警察官が原告を逮捕しようとするなどして原告と警察官が押し問答となり、原告が警察官により片手に手錠を掛けられ、原告が複数の警察官に取り囲まれるなどという現行犯逮捕の状況等を撮影したものであり、原告の【名誉権、肖像権及びプライバシー権】を侵害することは、前記において説示したとおりである。そうすると、原告が、原告動画1における本件逮捕動画の引用部分について、原告の容ぼうにモザイク処理を施したり、音声加工を施したりして改変することは、上記の各権利が繰り返し侵害されることを回避するために必要な措置であるといえる。
そうすると、上記改変は、著作権法20条2項4号にいう「やむを得ないと認められる改変」に該当するものと認めるのが相当である。原告の主張の経過及び弁論の全趣旨によれば、原告の主張は、その趣旨をいうものとして理由がある。
したがって、本件逮捕動画に係る同一性保持権が侵害されたものと認めることはできず、被告の主張は、採用することができない。
⑵ 氏名表示権の侵害について
被告は、原告において被告を本件逮捕動画の著作者として原告動画1に明示していないことが、被告の氏名表示権を侵害していると主張する。
しかしながら、前提事実及び証拠並びに弁論の全趣旨によれば、①原告動画1の冒頭において「これから公開させて頂く動画は私が不当逮捕された時に通りがったパチスロ系人気YouTuberCさんに撮影されモザイクやボイスチェンジ加工等無しで面白おかしくコラージュされ他動画をSNSへ掲載され約2ヶ月で230万回も再生された動画です。」との表示がされていること、②原告動画1のうち、別の動画を引用している部分においては「当動画はYouTuberCさんにモザイク無しで掲載された動画と同等のものをプライバシー処理した動画です。」との表示がされていること、以上の事実が認められる。
上記認定事実によれば、前記において説示したとおり、原告は、原告動画1において、引用する動画の著作者が被告であることを明示していることが認められる。
したがって、本件逮捕動画に係る氏名表示権が侵害されたものと認めることはできず、被告の主張は、上記認定事実と異なる前提に立つものであり、採用することができない。
⑶ 小括
以上によれば、本件逮捕動画に係る著作者人格権の侵害に基づく被告の請求は、いずれも理由がない。
7 争点5-1(原告動画2の投稿による著作権侵害の有無)について
⑴ 著作物性又は著作者について
本件イラストは、別紙本件イラスト目録記載のとおりであり、カラフルな色彩を交えて動物の特徴をデフォルメして描いた点において創作性があるといえるから、本件イラストには著作物性を認めるのが相当である。
そして、証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件イラストは、被告が制作したものと認められ、これを覆すに足りる証拠はない。したがって、本件イラストの著作者は、被告であると認めるのが相当である。
⑵ 著作権の侵害について
ア 前提事実及び証拠によれば、原告動画2において、被告動画1の一場面として表示するものの中に、本件イラストが表示されていることが認められる。そして、前提事実によれば、原告は、原告動画2を YouTubeに投稿しているのであるから、本件イラストに係る被告の複製権及び公衆送信権を侵害したものと認められる。
イ これに対して、原告は、被告動画1の著作権が被告に帰属しないなどと主張するが、被告において、原告動画2により著作権を侵害されたと主張する著作物は、飽くまで本件イラストであって、被告動画1ではないから、原告の主張は、被侵害著作物に係る被告の主張を正解するものではなく、その前提を欠く。したがって、原告の主張は、採用することができない。
⑶ 著作権法32条1項の引用の成否について
他人の著作物は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の目的上正当な範囲内で行われる場合には、これを引用することができる(著作権法32条1項)。そして、その要件該当性を判断するには、引用される著作物の内容及び性質、引用の目的、その方法や態様、著作権者に及ぼす影響の程度等の諸事情を総合考慮して、社会通念に照らし判断するのが相当である。
そこで検討するに、証拠及び弁論の全趣旨によれば、①原告は、原告動画2の冒頭において「Cさんが人気YouTuberDとコラボしたらしいです」(当該人気YouTuberDを、以下「D」という。)として、被告動画1がいわゆるコラボ動画であるとして、その出所を明記していること、②原告は、被告動画1の各場面を引用した上で、「私は全世界にモザイク・ボイスチェンジ無しで恥ずかしい逮捕動画を公開されたのに」、「Cさんは徹底して、顔出し、声出しNG」などのテロップ等を付し、被告の容ぼうが映らないアングルを採用するなどして、被告の手の部分のみが映されてその容ぼうや声が出ていない場面や、同乗しているYouTuberのDの容ぼうが本件イラスト等によって隠されている場面を引用するものであること、③被告は、本件イラストが被告のシンボルであり、自分の制作した作品に強い思い入れがある旨陳述するものの、本件イラストの僅か数秒の引用によって被告に実質的な不利益が具体的に生じたこともうかがわれないこと、以上の事実が認められる。
上記認定事実によれば、原告は、本件逮捕動画では原告が顔出しされたのに対し、被告が投稿動画において顔出しをしていないことを表現するために、被告動画1の出所を明記した上、本件イラストが映り込んだ被告動画1の一場面を引用したことが認められ、他方、Dの容ぼうに本件イラスト等を重ねるとともに、被告の容ぼうが映らないアングルを採用するなどした場面が引用されているものの、本件イラストが実際に映り込んだ時間も僅か数秒であり、これによって被告に実質的な不利益が具体的に生じたこともうかがわれない。
これらの事情を総合考慮すれば、原告動画2において本件イラストを引用することは、公正な慣行に合致するものであり、引用の目的上正当な範囲内で行われたものと認めるのが相当である。
⑷ 小括
以上によれば、原告が原告動画2において本件イラストを引用したことは、著作権法32条1項の引用が成立するものと認められる。
8 争点5-2(原告動画2の投稿等による著作者人格権侵害の有無)について
上記認定事実のとおり、原告動画2において、被告動画1の一場面に本件イラストが映り込んでおり、証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件イラストの著作者が被告である旨の表示はされていない。しかしながら、前記認定事実によれば、本件イラストが映り込んだ場面は僅か数秒であり、被告に実質的な不利益が具体的に生じたこともうかがわれない。そうすると、本件イラストの著作者名の表示は、前記認定に係る本件イラストの利用の目的及び態様に照らし、被告が本件イラストの創作者であることを主張する利益を害するおそれがあるものとはいえず、著作権法19条3項に基づき、省略することができると認めるのが相当である。原告の主張の経過及び弁論の全趣旨によれば、原告の主張は、その趣旨をいうものとして理由がある。
したがって、原告は、本件イラストに係る氏名表示権を侵害したものと認めることはできない。
仮に、本件イラストにつき、被告が自身のシンボルである趣旨を縷々述べているところに弁論の全趣旨を踏まると、被告は、氏名表示権侵害の主張において、本件イラストのパブリシティ権侵害を主張する趣旨をいうものと善解することもできる。しかしながら、前記認定事実によれば、本件イラストに被告の人物識別機能があったとしても、本件イラストの利用は、顔出しを防ぐ手段として僅か数秒映り込んだにすぎず、専ら本件イラストの有する顧客吸引力の利用を目的とするものではないから、パブリシティ権を侵害するものではなく、上記において善解した主張も、採用の限りではない。
9 争点6-1(原告動画3の投稿による著作権侵害の有無)について
⑴ 著作物性又は著作者について
前提事実及び証拠並びに弁論の全趣旨によれば、被告動画2は、街中のパチンコ店が休業となっているため、自らパチンコのホールを開設してパチンコを行い、不要となった手元の現金10万円を募金したこと等を内容とするものであり、その撮影後に効果音やテロップを付すなどの編集を加えたものであることが認められる。そうすると、被告動画2は、撮影場所、アングル等を工夫して、上記パチンコ店が休業中でも自らのホールでパチンコを行うことができ、現金も不要となり募金したなどという一般に興味を引くような被告の行動を具体的かつ詳細に追跡するために、撮影アングル、撮影方法や編集等に工夫を凝らした点において創作性があるといえる。したがって、被告動画2には著作物性を認めるのが相当である。
そして、証拠及び弁論の全趣旨によれば、被告動画2は、被告が撮影してこれを制作したものと認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
以上によれば、被告動画2の著作者は、被告であると認めるのが相当である。
⑵ 著作権の侵害について
前提事実及び証拠並びに弁論の全趣旨によれば、原告動画3において、被告動画2の各場面が画像として表示されていることが認められ、前提事実によれば、原告は、原告動画3をYouTube に投稿しているのであるから、被告動画2の上記画像に係る被告の複製権及び公衆送信権を侵害したものと認められる。
⑶ 著作権法32条1項の引用の成否について
他人の著作物は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の目的上正当な範囲内で行われる場合には、これを引用することができる(著作権法32条1項)。そして、その要件該当性を判断するには、引用される著作物の内容及び性質、引用の目的、その方法や態様、著作権者に及ぼす影響の程度等の諸事情を総合考慮して、社会通念に照らし判断するのが相当である。
そこで検討するに、証拠及び弁論の全趣旨によれば、原告は、被告動画2の出所につき「Cさんの回想シーン」などとして明記した上、原告動画3において「募金箱に入れた―
プライバシーや肖像権の侵害をしておいて1円も払わず、最後の10万円を募金なんて。」等というテロップを付するなどして、本件逮捕動画をめぐる裁判において被告が原告には1円も払わないと反論しているのに、被告は現金10万円も募金していることを表現するために、被告動画2の各場面を画像として引用していることが認められ、上記画像の投稿により、被告に実質的な不利益が具体的に生じたこともうかがわれないこと、以上の事実が認められる。
上記認定事実によれば、原告は、被告が現金10万円を募金しているのに、原告には裁判で1円も払わないと反論していることを表現するために、被告動画2が被告の動画である旨を示した上、その目的の限度で被告動画2の各場面を画像として引用したことが認められ、他方、上記各画像の投稿により、被告に実質的な不利益が具体的に生じたこともうかがわれないことが認められる。
これらの事情を総合考慮すれば、原告動画3において被告動画2の各場面の画像を引用することは、公正な慣行に合致するものであり、引用の目的上正当な範囲内で行われたものと認めるのが相当である。
⑷ 小括
以上によれば、原告が原告動画3において被告動画2を引用したことは、著作権法32条1項の引用に当たるものと認められる。
10 争点6-2(原告動画3の投稿による著作者人格権侵害の有無)について
⑴ 同一性保持権の侵害について
前提事実及び証拠によれば、原告動画3は、画面の一部に被告動画2の一場面を画像として掲載しつつ、テロップを付すなどの編集を加えていることが認められる。
しかしながら、前記において説示したとおり、原告は、被告が現金10万円を募金しているのに、原告には裁判で1円も払わないと反論していることを表現するために、被告動画2の各場面を画像として引用していることが認められ、その引用の態様も、公正な慣行に合致するものであり、引用の目的上正当な範囲内で行われたものと認められる。そうすると、原告は、被告動画2の性質並びにその利用の目的及び態様に照らし、やむを得ないと認められる改変であると認めるのが相当である。
したがって、被告動画2の改変は、著作権法20条2項4号に該当するものであり、同一性保持権を侵害したものとは認められず、その趣旨をいう原告の主張は、理由がある。
⑵ 氏名表示権の侵害について
前提事実及び証拠並びに弁論の全趣旨によれば、被告動画2の内容は、街中のパチンコ店が休業となっているため、自らパチンコのホールを開設してパチンコを行い、不要となった手元の現金10万円を募金したこと等を内容とするものであり、前記コラボ動画とは異なり、被告以外の者は格別登場するものではなく、その撮影アングル等を踏まえると、被告が自身の行動を撮影したものであることは明らかである。そして、原告は、被告動画2の出所につき「Cさんの回想シーン」などと示した上、原告動画3において「募金箱に入れた―
プライバシーや肖像権の侵害をしておいて1円も払わず、最後の10万円を募金なんて。」等というテロップを付するなどして、本件逮捕動画をめぐる裁判において被告が原告には1円も払わないと反論しているのに、被告は10万円も募金していることを表現する目的で、被告動画2の各場面を画像として引用していることが認められ、その目的に必要な限度で被告動画2の一場面を画像として表示していることが認められる。
上記認定事実によれば、原告動画3においては、被告動画2の一場面を画像として表示するに際して「Cさんの回想シーン」との表示がされているほか、上記認定に係る被告動画2の内容及び撮影アングル等によれば、一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断すれば、被告動画2は、被告自身が撮影したものであり、その著作者が被告であると理解することは明らかである。
そうすると、著作者の表示がされていないという被告の主張は、その前提を欠くものといえる。仮に、著作者の表示がされていないという被告の主張に立ったとしても、上記認定に係る引用の目的及び態様のほか、被告動画の上記利用によって被告に実質的な不利益が具体的に生じたこともうかがわれないことからすると、被告動画2の著作者名の具体的な表示は、前記認定に係る被告動画2の利用の目的及び態様に照らし、被告が被告動画2の創作者であることを主張する利益を害するおそれがあるものとはいえず、著作権法19条3項に基づき、省略することができると認めるのが相当である。原告の主張の経過及び弁論の全趣旨によれば、原告の主張は、その趣旨をいうものとして理由がある。
したがって、原告は、被告動画2に係る氏名表示権を侵害したものとは認められない。
(略)
12 まとめ
その他に、当事者双方提出に係る準備書面及び証拠を踏まえ、上記の各動画の引用の成否を改めて検討しても、YouTubeその他の動画共有プラットフォームにおける表現活動等を保護する重要性に照らしても、本件事案の限度ではいずれも引用の抗弁が成立して著作権を侵害しないものと解するのが相当であり、その他について改めて検討しても、前記において説示した判断枠組み及び本件事案の内容を踏まえると、前記判断を左右するに至らない。したがって、上記判断とは異なる当事者双方のその余の主張は、いずれも採用することができない。
[控訴審]
1 当裁判所は、本訴請求については、本件逮捕動画は、一審原告の名誉を棄損するものであり、また、一審原告の肖像権及びプライバシー権を侵害するものであり、一審被告による本件逮捕動画の投稿によって一審原告の受けた精神的苦痛を慰藉するには40万円をもって相当と認め(なお、附帯請求の始期である訴状送達の日の翌日は、令和3年8月17日である。)、反訴請求については、いずれも理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり、原判決を補正し、後記2のとおり、当審における一審被告の主張に対する判断を付加するほかは、原判決に記載のとおりであるから、これを引用する。
(略)
2 当審における一審被告の補充主張について
(1) 本訴請求について
(略)
(2) 反訴請求について
ア 原告動画1について
(ア) 著作権侵害について
一審被告は、前記のとおり、①量的、質的な考慮、引用の目的に鑑みれば、原告動画1は、本件逮捕動画を正当な範囲を逸脱して引用しており、また、②原告動画1は、本件逮捕動画と明瞭区別性、主従関係を欠いているから、著作権法32条1項に規定する「引用」に当たらない旨主張する。
しかし、原告動画1を投稿した目的は、一審被告がモザイクや音声の加工等を施すことなく、一審原告の容ぼう等をそのままさらす体裁で本件逮捕動画がYouTubeに投稿されたことにより被害を受けたことを明らかにするものであり、その目的のために、一審原告が受けた被害そのものである本件逮捕動画を動画として引用することが最も直接的かつ有効な手段であるといえることは、引用に係る原判決のとおりであるから、質的、量的な面や引用の目的からして、正当な範囲を逸脱している旨の一審被告の主張は理由がない。
また、上記②については、本件における一連の経緯及び上記投稿目的に照らせば、仮に、原告動画1に、本件逮捕動画との明瞭区別性、主従関係を欠く面があったとしても、そのことにより引用の相当性が否定されるものと理解すべきではないし、原告動画1は、冒頭において、本件逮捕動画を引用する目的についてテロップで紹介した後、「当動画はYouTuberAさんにモザイク無しで掲載された動画と同等のものをプライバシー処理した動画です」と表示された状態で本件状況が映り、その後、今後の削除処理や過去の申立内容等を公開していきたいというテロップが表示されているから、原告動画1と本件逮捕動画を明確に区別することができるものであり、また、引用の目的に照らして過剰に引用するものともいえないから、そもそも、原告動画1は、本件逮捕動画と明瞭区別性、主従関係を欠くものとはいえない。したがって、一審被告の上記主張は、いずれにしても理由がない。
(イ) 著作者人格権侵害について
一審被告は、前記のとおり、①原告動画1において一審被告の著作物を利用する必要性はなく、仮に利用する必要があるとしてもそのまま本件逮捕動画を使用すれば足り、あえて映像や音声に加工を加える必要性はなく、改変を最小にしているともいえないから、原告動画1は同一性保持権侵害に当たる、②原告動画1と本件逮捕動画が明瞭区別性を欠くことを前提として、原告動画1は氏名表示権侵害に当たる旨主張する。
しかし、原告動画1における顔のモザイク処理や音声の加工は、一審原告の名誉権、肖像権及びプライバシーが侵害されることを回避するために必要な措置であることは、引用に係る原判決のとおりであるし、本件逮捕動画の引用がその目的上正当な範囲内で行われたものであることや、明瞭区別性を欠くことを前提とする主張が採用し得ないことは既に前示したとおりであるから、一審被告の上記主張は、いずれも理由がない。
イ 原告動画2について
(ア) 著作権侵害について
一審被告は、前記のとおり、原告動画2における本件イラストの引用は、その目的において正当な範囲内でしたものとは評価することができない旨主張するが、原告動画2は、本件逮捕動画では一審原告が容ぼうを隠すことなくさらされたのに対して、一審被告が投稿動画において顔出ししていないことを表現するために、被告動画1の出所を明記した上で、本件イラストが映り込んだ被告動画1の一場面を引用したものであり、引用の目的及び態様等に照らし正当な範囲で行われたものと認められることは、引用する原判決のとおりであり、一審被告が主張する原告動画2の編集状況等の事情は、上記認定を左右し得ない。
(イ) 著作者人格権侵害について
一審被告は、前記のとおり、原告動画2において被告動画1を引用する目的が正当なものではなく、仮に引用する目的が正当であるとしても、本件イラストが映り込んだ動画を使用する必要性はなく、本件イラストに係る氏名表示を省略することを許容されるべきではない旨主張するが、原告動画2における被告動画1の当該場面の引用が正当な範囲内で行われたものといえることは前記のとおりであり、また、原告動画2において本件イラストが映り込んだ場面が数秒であり、こうした態様に照らせば、一審被告に実質的な不利益が具体的に生じたともうかがわれない(一審被告は、登録者数55万人を超える YouTuberであり、その投稿動画において本件イラストを使用していることを挙げて、本件イラストの無断使用により一審被告には実質的不利益を被ったなどと主張するが、本件イラストの利用態様や本件イラストを含む被告動画1の利用目的に照らし、一審被告に具体的な不利益が生じたとはおよそ認め難い。)ことは、引用に係る原判決のとおりである。
そうすると、その利用の目的及び態様に照らし、一審被告が本件イラストの創作者であることを主張する利益を害するおそれがあるとはいえず、また、こうした氏名表示の省略が公正な慣行に反すると認めるべき事情もないから、著作権法19条3項に基づいて、著作者名の表示を省略することができるというべきである。
ウ 原告動画3について
(ア) 著作権侵害について
一審被告は、前記のとおり、原告動画3において被告動画2を使用する必要性はなく、仮にその必要性があるとしても、正当な範囲を逸脱するものであり、質的、量的に考慮しても、「引用」の要件を欠く旨主張する。しかし、原告動画3は、一審被告が現金10万円を募金しているのに、一審原告には裁判で1円も払わないと反論していることを表現するために、被告動画2が一審被告の動画であることを表示した上で、その目的の限度で被告動画2の各場面を画像として引用したものであって、その引用の目的において正当な範囲内で行われたものであることは、引用に係る原判決のとおりであり、こうした引用の目的のためには、被告動画2で一審被告が募金をしている場面の画像を利用することは直接的かつ有効な手段であるといえるから、引用において正当な範囲を逸脱するものではなく、質的、量的にみても過剰な引用に当たるものとはいえない。
(イ) 著作者人格権侵害について
一審被告は、前記のとおり、①被告動画2の一場面にテロップを付す必要性はなく、同一性保持権を侵害する、②「Aさんの回想シーン」という表示だけでは氏名表示権が要求する表示としては不十分であり、また、一般の視聴者の普通の視聴の仕方を基準として著作者が一審被告であることを明らかであると判断することは、著作権法19条1項の文言に反する独自の解釈である、③原告動画3において被告動画2を利用する目的が正当なものではなく、被告動画の一場面を画像とはいえ無断利用されることは一審被告に経済的被害が生じるから、著作権法19条3項の適用はない旨主張する。
しかし、その引用がその目的に照らし、正当な範囲を逸脱するものとはいえないことは前記のとおりであり、被告動画2の画像の一部を掲載しつつテロップを付すことは、こうした引用の目的に照らしてやむを得ない改変であることは、引用に係る原判決のとおりであるから、原告動画3において被告動画2の一部の画像を引用し、その一部にテロップを付すことは、同一性保持権侵害に当たるものではない。
また、上記の目的のために、原告動画3において、「Aさんの回想シーン」等を示した上で、手元にある現金10万円を募金箱に入れた被告動画2の一部の画像を複数表示しながら引用しており、引用に係る画像の内容や撮影アングルからして、引用に係る画像は一審被告が撮影したものであり、その著作者が一審被告であることは表示されているものと認められる。したがって、その他の点について判断するまでもなく、一審被告が主張する氏名表示権の侵害は認められない。
(ウ) プライバシー権侵害について
(略)
エ 小括
その他、一審被告が種々主張するところを検討しても、反訴請求はいずれも理由がない。