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著作権判例セレクション

【公表権】宗教法人の講演会のライブ配信の侵害性(公表権,公衆送信権)が争点となった事例

平成281215日東京地方裁判所[平成28()11697]
() 本件は,原告ら4名による講演を被告がインターネット上で配信したことに関し,原告らが被告に対し,原告らそれぞれの著作物である上記講演中の各原告の口述部分に係る公表権及び公衆送信権が侵害されたと主張して,不法行為(民法709条)に基づく損害賠償金として所定の金員の支払を,原告Aが被告に対し,上記配信は原告Aの名誉又は声望を害する方法で行われたと主張して,著作権法115条に基づく名誉回復措置として謝罪広告の掲載をそれぞれ求めた事案である。
(前提事実)
本件講演会では,冒頭に原告Dが主催者として約3分間,原告Cが来賓として約10分間の挨拶をし,それぞれ本件講演会の意義の紹介等を行った。午後1時45分頃からは原告Bが,午後3時頃からは原告Aが,それぞれ約1時間にわたり原告らの宗教法人の活動等に関する講演を行った(以下,これらの挨拶及び講演を「本件講演」と総称する。)。本件講演会の会場の定員は86名であり,参加費用は1人当たり1000円であった。本件講演会に参加するには事前の申込みが必要であったが,参加者の資格等に制限はなく,本件講演会のチラシには「ご家族,お友達お誘いあわせてご参加ください。」などと記載されていた。
被告は,本件講演会に参加し,同日午後零時55分ころから原告Aの講演が終了した午後3時59分頃までの間,継続して,インターネット上の配信サイトであるツイキャスにおいて,自己のスマートフォンで収集した本件講演の映像及び音声のライブ配信(「本件配信」)を行った。ツイキャスには,配信されているコンテンツに対して視聴者及び配信者がコメントを投稿する機能があるところ,被告は,本件配信の際,別紙コメント一覧のとおり計25件のコメント(「本件コメント」)を投稿した。

1 争点(1)(本件配信による公表権侵害の成否)について
本件講演は原告らそれぞれの思想を言語により表現したものであり,各原告の発言部分ごとに言語の著作物に該当するところ,前記前提となる事実によれば,本件講演会は,定員86名の会場で行われ,対象者が限定されておらず,事前に申込みをすれば誰でも参加することができるものであったというのである。そうすると,本件講演は,不特定又は多数の者に対して行われたものであって,原告らの口述により公衆に提示され,公表されたと認められる。
この点につき,原告らは,本件配信はライブ配信であり,本件講演が原告らによる口述と同時に配信されるため,本件配信の時点では本件講演は未公表であった旨主張する。しかし,本件配信は原告らが公に口述するのに先立って本件講演を配信するものではなく,原告らによる口述を前提として,これをそのまま配信するものであるから,本件配信は原告らが公表した著作物についてされたものというほかない。
したがって,本件配信による公表権侵害は成立しない。
2 争点(2)(本件配信の「時事の事件の報道」該当性)について
被告は言語の著作物である本件講演をインターネット上の配信サイトで配信したものであるから,被告の行為は本件講演に係る各原告の公衆送信権を侵害する行為に該当する。
これに対し,被告は,本件配信は「時事の事件の報道」(著作権法41条)に該当するため原告らの著作権が制限され,公衆送信権侵害は成立しない旨主張する。そこで検討すると,まず,この点に関する被告の前記主張を前提としても,本件講演それ自体が同条にいう「時事の事件」に当たるとみることは困難である。これに加え,同条は,時事の事件を報道する場合には,当該事件を構成する著作物等を「報道の目的上正当な範囲内」において「当該事件の報道に伴って利用する」限りにおいて,当該著作物についての著作権を制限する旨の規定である。本件配信は,約3時間にわたり本件講演の全部を,本件コメントを付して配信するものであるから,同条により許される著作物の利用に当たらないことは明らかである。
したがって,本件配信は上記公衆送信権を侵害するものと認められる。
3 争点(3)(本件コメントによる原告Aの名誉又は声望の毀損の有無)について
被告が本件配信の際,原告Aに関して「ラスボス・Aは,この後3時から」,「ラスボス登場」などのコメントを投稿したことは、前記前提となる事実のとおりである。
原告は上記各コメントが原告Aの名誉又は声望を害するものであると主張する。そこで判断するに,前記前提となる事実及び弁論の全趣旨によれば,被告による本件講演の利用方法は本件講演の映像及び音声をそのまま公衆送信するというものであり,被告による本件コメントは本件配信が行われるインターネットの画面上で上記映像の脇に表示されるにとどまると認められる。また,「ラスボス」との表現については,「最後のボス」を表現すると一応解し得るものであるが,原告らはこれが悪意を込めた用語であると主張するものの,一般的にそのような意味合いで用いられていると裏付けるに足りる証拠を提出していない。一方,証拠及び弁論の全趣旨によれば,この表現は人の社会的評価を低下させる趣旨で使用されない場合もあると認められるのであり,本件においても,前後の文脈及び別紙記載のコメント内容に照らせば,原告Aの講演が本件講演会の見せ場であるという趣旨で「ラスボス」との表現が使用されたと解する余地もある。さらに,被告による上記各コメント以外のコメントも原告Aの社会的評価を低下させるものであるとは解し難い。そうすると,被告による本件講演の利用の方法が原告Aの名誉又は声望を害するものであったと認めることはできないから,謝罪広告に関する原告Aの請求は理由がない。
4 争点(4)(原告らの損害額)について
(1)本件配信につき公衆送信権が成立するたことは前記(2)のとおりである。
そこで,これにより原告らが被った財産的損害の額についてみるに,前記前提となる事実に加え,証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件配信は本件講演会の音声を主としており,本件配信に係る映像は本件講演会の模様を認識できるものではないこと,原告Dの挨拶は約3分,原告Cの挨拶は約10分であり,原告B及び原告Aの講演はそれぞれ約1時間のものであり,その音声が全て配信されたこと,本件講演会の参加費用は1人当たり1000円であり,被告はこれを支払って本件講演会に参加したこと,本件配信は誰でも無料で視聴可能であるが,その総視聴者数は437人であったこと,被告は本件配信の際,視聴者から配信時間を延長するためのアイテムである「コイン」の提供を受けたのみであり,本件配信により経済的利益を得ていないこと,以上の事実が認められる。これらの事実を総合すれば,本件講演の公衆送信権侵害による損害額は,原告A及び原告Bにつき各6万円,原告Cにつき1万円,原告Dにつき3000円と認めるのが相当である。
なお,原告らは公衆送信権侵害による精神的損害の賠償も求めるが,本件の証拠上,上記損害額に加えて,原告らに賠償を認めるべき精神的損害が生じたと認めることはできない。
(2) 本件訴訟の内容及び認容額に照らし,被告による公衆送信権侵害と相当因果関係のある弁護士費用の額は,原告A及び原告Bにつき各1万円,原告Cにつき2000円,原告Dにつき1000円であると認めるのが相当である。