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著作権判例セレクション
【共有著作権】著作権の「共有」関係の解除に「正当な理由」は必要か
▶平成15年03月13日東京高等裁判所[平成13(ネ)5780]
1 控訴人の本訴請求について
(1)
本件製品(1)の製作に関して,控訴人と被控訴人は,「ソフトウェア制作請負契約書」と題する契約書を交わし,次のような条項を含む契約(本件許諾契約)を成立させた。
「ア 12条1項
本件製品(判決注・本件製品(1)を指す。)の著作権は,甲(判決注・控訴人を指す。)・乙(判決注・被控訴人を指す。)が共同保有するものとする。
イ 同条2項
本件製品の販売権は,乙に帰属するものとする。
ウ 同条3項
本件製品の商標使用及び,二次著作物については乙が管理し,それぞれの製品について,以下の対価を乙より甲に支払う。
一製品あたり標準小売価格の0.75%
エ 15条
本契約の有効期間は,平成2年12月末日から平成7年12月末日までとする。但し,期間満了3ケ月前までに甲,乙いずれからも書面による通知がないときは,更に本契約が1ケ年更新されるものとし,その後の期間についても同様とする。」
上記のとおり,控訴人と被控訴人は,本件許諾契約の一内容として本件製品(1)そのものだけでなく,その二次的著作物についても,被控訴人が販売等,その管理をすることを合意し,同契約において,この合意は,当事者が解消の通知をしない限り,自動的に更新され存続するものとされている。
(2)
著作権法65条は,その2項において「共有著作権は,その共有者全員の合意によらなければ,行使することができない。」と定め,3項において「前2項の場合において,各共有者は,正当な理由がない限り,第1項の同意を拒み,又は前項の合意の成立を妨げることができない。」と定めている。
著作権法が上記のように定めている以上,本件許諾契約をその15条に基づき通知により解除する場合にも,解除により合意を消滅させるための正当な理由の存在が必要となると解すべきである。ところが,上記正当な理由に該当すべき事実は,主張もなされておらず,また,本件全証拠によっても認めることができない。
控訴人の,本件製品(3)プレイステーション版,同海外版及び同ウィンドウズ版に係る損害賠償請求は,本件許諾契約が解約されていることがその前提となる。控訴人による本件許諾契約の更新拒絶の意思表示は,平成9年9月25日に被控訴人に到達しており,この時点では,原判決認定のとおり,控訴人が本件製作契約の債務を履行しなかったため,被控訴人の控訴人に対する損害賠償請求権が既に発生しており,その総額が相当多額になることが必至であった。上記更新拒絶による解約により,控訴人は,将来発生すべき控訴人の契約上の債権(著作権使用料)を,不法行為に基づく損害賠償請求権へと,その法的性質を変えて,相殺を免れることになり,これは,被控訴人が控訴人に対して有する債権(損害賠償請求権)の事実上の担保を消滅させるものである。上記更新拒絶については,むしろ,正当な理由がないことが明らかであるということができる。
以上のとおりであるから,上記更新拒絶は,その効力を持たないものという以外にない。
(3)
以上によれば,本件製品(3) プレイステーション版,同海外版及び同ウィンドウズ版が,仮に本件製品(1)の二次的著作物であるとしても,それらを被控訴人が販売したことは,本件許諾契約に基づく控訴人の同意の下でなされたものということになり,不法行為を構成することはない。そうすると,不法行為に基づく控訴人の請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がないことが明らかである。
(4)
付言すると,本件で,本件製品(3) プレイステーション版,同海外版及び同ウィンドウズ版が,本件製品(1)の二次的著作物であると認めるに足りる証拠はない。
そもそも,二次的著作物性を判断するに当たっては,対象となるもの自体を比較対照するのが原則である。ビデオゲームの商品の特殊性,すなわち,遊戯者の視覚及び聴覚に同時に訴え,遊戯者の操作次第でゲームの展開(画面表示,音楽演奏,ストーリー)がある程度変わり得る,すなわちインタラクティブ性(相互作用性)を有することは,上記原則を遵守すべき理由の要素となり得るものであっても,決して,緩和すべき理由の要素となることはない。
本件で,控訴人は,結局,本件製品(3)プレイステーション版,同海外版及び同ウィンドウズ版について,そのゲーム内容の要点を説明する文書のコピーを提出するのみで,当裁判所の再三の示唆にもかかわらず,ビデオに撮影してそのテープを提出するなどして,上記各本件製品(3)の現実の遊戯内容を立証することを全くしていない。本件製品(1)については,現実の遊戯内容を撮影したビデオを提出しているものの,これは,序盤の一部分と,モンスターとの戦闘シーンのごく一部とを含んでいるにすぎず,ゲーム全体の遊戯内容を感得し得るものとは到底いえない。
(証拠)からは,本件製品(1)と,本件製品(3)プレイステーション版,同海外版及び同ウィンドウズ版とでは,主要な登場人物がほぼ共通すると認められ,物語の骨子にも共通する点が多々あるものとうかがえるから,上記各本件製品(3)が本件製品(1)の二次的著作物であると判断される可能性は相当程度ある,ということはできる。しかし,前記のとおり,ビデオゲーム同士の二次的著作物性は,ゲームそのものを,実際のゲーム内容をビデオに撮影するなどして,直接子細に比較し検討されるべきものであり,これを行わずして二次的著作物であるか否かの判断を行うことは,不可能ないし極めて困難という以外にないのである。