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著作権判例セレクション
【著作者】パブリックコメントにおける意見書の権利者性等が争われた事例
▶平成25年8月30日東京地方裁判所[平成24(ワ)26137]▶平成26年05月21日知的財産高等裁判所[平成25(ネ)10082]
(注) 本件(控訴)は,控訴人は,本件意見書の各著作者から著作権の譲渡又は管理委託を受け,出版権の設定を受けたなどしたところ,被控訴人らが,本件意見書の表現の一部を抜粋したり,表現を要約したりするなどして,本件意見書の表現を改変したことが,氏名表示権(著作権法19条),同一性保持権(20条),翻案権(27条),出版権(80条)を侵害し,著作権者の名誉を毀損(パブリックコメントにおける意見者のオリジナリティを侵害・毀損)するなどと主張して,控訴人から被控訴人らに対し,本件評価書の回収などを求めた事案である。原判決は,控訴人の請求を全部棄却したため,控訴人が,これを不服として控訴したものである。
以下、「本件評価書」とは、福島県知事に送付された、本件意見書を含む住民意見を抜粋ないし要約した記載のある「会津若松ウィンドファーム(仮称)事業に係る環境影響評価書」のこと。
当裁判所も,控訴人の本訴請求は,いずれも理由がなく,これを棄却すべきものと判断する。その理由は,次のとおりである。
1 控訴人は,本件評価書において本件意見書の表現を改変したことが,氏名表示権(著作権法19条),同一性保持権(20条),翻案権(27条),出版権(80条)を侵害すると主張して本件評価書の回収や損害賠償を求めていると解されることから,以下検討する。
2 本件意見書の著作者について
(1) 証拠及び弁論の全趣旨によれば,控訴人は,平成23年(2011年)11月11日付けで,本件意見書1について「著者」欄に控訴人の共同代表の1人であるXを表記して,本件意見書2について「著者」欄に控訴人の構成員であるAを表記して,本件意見書3について「著者」欄に控訴人の構成員であるBを表記して,本件意見書4について「著者」欄に控訴人の構成員であるCを表記して,本件意見書5について「著者」欄に控訴人の構成員であるDを表記して,本件意見書6について「著者」欄に控訴人の構成員であるEを表記して,本件意見書7について「著者」欄に控訴人の構成員であるFを表記して,また,平成25年6月30日付けで,本件意見書8について「著者」欄に日本野鳥の会会津支部長Gを表記して,いずれも上記各「著者」欄に表記された者との間で,「エコ・パワー株式会社が発行する「会津若松ウィンドファーム(仮称)事業に係る環境影響評価準備書」に対する意見書の著作物に関する著作権の管理委託並びにその出版権設定契約書」(以下「著作権の管理委託及び出版権設定契約書」という。)を取り交わしたこと,当該契約書には,「風の谷委員会(…以下甲とする)とエコ・パワー株式会社が発行した「会津若松ウィンドファーム(仮称)事業に係る環境影響評価準備書」への意見書について,この意見が公表の際に,正しく反映されるための権利の保全を行うため,甲がその意見書をホームページ及び出版物として広く公表し,頒布することについて,乙(判決注:上記各「著者」欄に表記された者)は著作原稿に係る著作権の管理を甲に委託し,さらにこの著作物を甲が出版することに同意し,甲はその出版権の設定料1万円を乙に支払うものとし,甲はこの乙の意見書を編集して製本し,頒布することを乙はこれを承諾した。よってここに契約を締結する。」と記載された上で,甲欄に控訴人の共同代表者2名又は1名の記名及び捺印と,「著者」欄及び乙欄に上記各「著者」欄に表記された者の署名又は記名及び捺印がされていることが認められる。
そして,被控訴人エコ・パワーに提出された本件意見書1は「風の谷委員会」の作成名義となっているものの,上記のとおり,Xを「著者」と表記して控訴人との間で著作権の管理委託及び出版権設定契約書が作成されていること,控訴人において本件意見書1を打ち直した(証拠)が「風の谷委員会」の肩書きを付した上でXの名義で作成されていることからすれば,本件意見書1の作成者は,控訴人ではなく,Xと認めるのが相当である。
また,本件意見書2ないし8については,いずれも上記各「著者」と表記された者の作成名義とされていること,上記のとおり,控訴人と上記各「著者」と表記された者との間で著作権の管理委託及び出版権設定契約書が作成されていること,(証拠)に「※エコ・パワー株式会社が求めている準備書縦覧に関する意見書は,提出者はすべて実名で提出しています。」と記載されていることに照らせば,本件意見書2の作成者はA,本件意見書3の作成者はB,本件意見書4の作成者はC,本件意見書5の作成者はD,本件意見書6の作成者はE,本件意見書7の作成者はFであり,本件意見書8の作成者は「日本野鳥の会会津(支部)」が「公益財団法人日本野鳥の会」の法人格と別個に法人格なき社団としての要件を備えていれば「日本野鳥の会会津(支部)」であり,そうでなければGであると認めるのが相当である。なお,本件意見書2については,本件意見書2を控訴人において打ち直した(証拠)ではA及びYの共同作成名義とされ,控訴人はYとの間でも著作権の管理委託及び出版権設定契約書を作成しているが,同じように本件意見書2を控訴人において打ち直した(証拠)では作成名義が「K・H」とされていること,被控訴人エコ・パワーに提出された本件意見書2はAの単独作成名義であることからすれば,本件意見書2の作成者は上記のとおり,Aと認める。
そして,本件意見書は,思想又は感情が創作的に表現されたものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものといえるから,著作物(同法2条1項1号)であると認めることができる。
したがって,本件意見書の上記各作成者が,本件意見書の各著作者であるというべきである。
(2) 控訴人は,本件意見書は前記(1)の各著作者と控訴人との共同著作物であって,控訴人も本件意見書の著作者である旨主張する。
しかし,被控訴人エコ・パワーに提出された本件意見書の作成者は,前記(1)のとおり,控訴人以外の者であると認められること,控訴人は,前記(1)認定の各作成者との間で,本件意見書について,著作権の管理委託及び出版権設定契約書を取り交わしていることからすれば,控訴人が本件意見書の著作者であると認めることはできないから,控訴人の上記主張は採用することができない。
3 氏名表示権及び同一性保持権の侵害の成否について
氏名表示権(著作権法19条)及び同一性保持権(同法20条)は,著作者の一身に専属する著作者人格権であって,譲渡することができない(同法17条,59条)。
本件意見書の著作者は,本件意見書の各作成者である前記2(1)認定の者らであって控訴人ではないから,控訴人が氏名表示権及び同一性保持権について侵害を主張することはできない。
したがって,控訴人が本件意見書についての氏名表示権及び同一性保持権を侵害された旨の主張は理由がない。
4 翻案権侵害について
本件評価書では,同書の「表8.2-1(1)~(9) 準備書についての住民意見の概要及び事業者見解」の「環境保全上の見地からの意見」欄,「表8.2-2 準備書についての住民意見の概要及び事業者見解」の「その他意見」欄において,本件意見書の表現の一部を抜粋したり,表現を要約したりされている。
しかし,前記2のとおり,本件意見書の著作者は控訴人とは認められない。
そして,控訴人がいかなる根拠に基づいて本件意見書の翻案権を有するのかはその主張から必ずしも明らかではないが,著作権を譲渡する契約において翻案権が譲渡の目的として特掲されていないときは,翻案権は譲渡した者に留保されたものと推定されるところ(著作権法61条2項),前記2(1)において認定した本件意見書の各著作者と控訴人間の管理委託及び出版権設定契約書においては,翻案権が譲渡の目的として特掲されておらず,また証拠中の「※意見書については,著作権及び版権は,©風の谷委員会に帰属します。」との記載だけでは,翻案権が譲渡の目的として特掲されていたということはできない。他に控訴人が本件意見書の翻案権を有することを認めるに足りる証拠はない。
そうすると,控訴人が本件意見書の翻案権を侵害された旨の主張は理由がない。
5 出版権侵害について
(略)
6 控訴人は,共同著作権又は著作権の管理権に基づき,「著作権者の名誉毀損(パブリックコメントに於ける意見者のオリジナリティ侵害・毀損行為)」に対する損害賠償を請求するようである。
しかし,前記2認定のとおり,控訴人は本件意見書の著作者であるということはできず,本件意見書の著作権や同一性保持権は本件意見書の作成者である個々の自然人等に帰属し,控訴人は著作権や同一性保持権を有するものではない。
また,著作権者の名誉毀損に基づく損害賠償請求権の行使は,著作権者の一身に専属するものであるから,控訴人がその毀損による損害賠償を求めることはできない。
したがって,控訴人の上記請求は理由がない。
7 その他,控訴人は,会津若松ウィンドファーム事業による環境影響やその環境影響評価手続についてるる主張するが,著作権侵害の成否に結び付くものではないから,主張自体失当である。