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著作権判例セレクション

【共有著作権】共有著作権の持分譲渡における同意を拒み得る「正当な理由」の有無

▶平成111029日東京地方裁判所[平成11()11409]▶平成120419日東京高等裁判所[平成11()6004]
() 本件は、株式会社イメージボックスの破産管財人である原告が、イメージボックスが被告と共有していた別紙記載の著作物(「本件著作物」)に関する著作権(「本件著作権」)の共有持分を株式会社ピーエスジーに譲渡しようとしたところ、共有者である被告が右譲渡に対する同意を拒んだため、原告が、被告に対し、同意を求めた事案である。

一 争点1について
1 共有著作権者が、その持分を譲渡する際に、他の共有者の同意を得るための努力をすることが、持分譲渡の要件となっていると解すべき法的根拠は認められないから、原告が共有者である被告の同意を得るための努力をしなかったからといって、原告からピーエスジーに対する破産者持分の譲渡が無効になるものではない。
2 したがって、原告が右のような努力をしなかったことを理由とする、原告からピーエスジーに対する破産者持分の譲渡が無効である旨の原告の主張は主張自体失当である。
二 争点2について
1 証拠及び弁論の全趣旨によると、次の各事実が認められる。
()
2 右1認定の事実に基づき、被告が、原告からピーエスジーに対する破産者持分の譲渡について同意を拒む正当な理由があるかどうかを判断する。
() 証拠及び弁論の全趣旨によると、イメージボックスに対する破産宣告前においては、イメージボックスと被告との間における合意により、本件著作権の営業窓口がイメージボックスに統一されていたことが認められるから、ピーエスジーが本件著作物の利用についてイメージボックスから許諾を受けたことにより、本件著作物の利用に問題がないと考えたとしても何ら不自然ではない上、右1()の事実によると、ピーエスジーは、事後的に、被告の許諾を得て、その対価として150万円を支払ったことが認められるから、ピーエスジーが本件著作物の販売を行っていたことが被告に対する関係で背信的な行為であるということはできない。
() 右1()ないし()認定の事実によると、被告は破産者持分を買い受ける機会があったにもかかわらず、それを逃したものと認められ、そのような被告に対して、ピーエスージーや原告が、破産者持分の売買契約についての協議やその締結を知らせるべきであったということはできないから、ピーエスージーと原告の間において、被告が知らないうちに、破産者持分の売却について協議が行われ、売買契約が締結されていたとしても、そのことをもって、被告に対する背信行為ということはできない。
() 証拠と弁論の全趣旨によると、ピーエスジーの代表者であるC(以下「C」という。)は、平成11610日、被告代表者に対して、代金360万円を支払った旨述べ、既に原告との間で売買契約を締結したことを前提として、被告との協議に臨んだことが認められるが、これは、事実をそのまま述べ、そのことを前提として協議に臨んだもので、不当な点は見られない。なお、被告は、同日の話合いにおいて、Cが、破産者持分を取得したことを理由に協議に応じなかったと主張するが、Cがそのようなことを述べた事実を認めるに足りる証拠はない。右1()認定の事実によると、ピーエスージーと原告との間における破産者持分の売買契約は、被告の同意がない限り効力を生じないことは明らかであるから、このことに照らしても、Cが、破産者持分を取得した旨述べたとは認められない。
また、弁論の全趣旨によると、本件訴訟手続において、原告、被告、ピーエスジーの間において和解協議が行われたが、合意に至らなかったことが認められる。
被告は、右協議は、ピーエスジーが、既に代金を支払って破産者持分を取得したと主張したことから、まとまらなかったと主張するが、ピーエスジーが、原告との間で売買契約を締結して、代金を支払ったことを前提として和解協議に臨むことに不当な点はなく、ピーエスジーが破産者持分を取得したと主張したことを認めるに足りる証拠はない。
() 本件著作物が無断で販売されることを防止し、本件著作物の販売価格の統一を図ることが必要であるとしても、それらについて、被告が、ピーエスジーと共に行うことができない事情が存するとは認められない。
() 以上述べたところを総合すると、被告が、原告からピーエスジーに対する破産者持分の譲渡について同意を拒む正当な理由があるとは認められない。
三 以上の次第で、原告の請求は理由があるから、主文のとおり判決する。

[控訴審同旨]
一 当裁判所も、被控訴人の本件請求は理由があるものと判断する。
その理由は、控訴人の当審における主張に対し、次のとおり判断するほかは、原判決事実及び理由欄の記載と同じであるから、これを引用する。
1 控訴人の主張1について
共有著作権者が、その持分を譲渡する際に、他の共有者の同意を得るための努力をしなかったことが、他の共有者において、持分譲渡についての同意を拒否する正当な理由となることがあり得るとしても、そのような努力は、持分譲渡をしようとする共有著作権者に一方的に求められるものではなく、具体的事情の下において、他の共有者にもこれに必要な協力をすることが求められるものであり、持分譲渡をしようとする共有著作権者に要求される努力の内容・程度は、他の共有者におけるこのような協力の有無・程度と相対的な関係をもって定まるものと解するのが相当である。
しかして、本件において、控訴人は、誰に対し、あるいはどのような者に対し、破産者持分が譲渡されるのかを知らされないまま、持分譲渡についての同意を求められたことをもって、被控訴人が、控訴人の同意を得るための努力をしたとはいえないとし、控訴人には同意を拒否する正当な理由があると主張するところ、被控訴人が、平成1156日に、控訴人に破産者持分譲渡についての同意を求めるに際して、その譲渡先がピーエスジーであることを知らせなかったことは、当事者間に争いがない。
しかしながら、前示争いのない事実によれば、被控訴人が、イメージボックスの破産管財人として、同破産財団に属する財産である破産者持分を、できるだけ早期に換価する必要があることは明らかであるところ、前示の事実関係に照らせば、被控訴人は、その換価のための譲渡の相手方を決定するに当たっては、控訴人を含む関係者に対し、平成11419日に破産者持分を買い受けるかどうかの問合せをし、さらに、控訴人に対して、同年56日に破産者持分譲渡についての同意を求めた際に、控訴人が当該譲渡代金と同額で買い受けるのであれば、売却する用意がある旨を併せて通知して、本件著作権の他の共有者である控訴人に破産者持分取得の機会を与え、その立場に配慮を示しているのに対し、控訴人は、同年56日に右同意を求められた際、破産者持分の譲渡先を知ることが必要であれば、被控訴人にそれを問い合わせることは容易であったと考えられるのに、かかる問合せをしなかったのみならず、翌7日には、被控訴人に対し、イメージボックスの倒産によって自己が単独著作権者となったこと、市場の混乱を収め、消費者に誤解を与えないためには著作権を分散させない必要があること等により、右同意をしないとの通知をしたものであって、かかる控訴人の言動は、前示のような、被控訴人における破産者持分譲渡の必要性や、被控訴人の示した配慮に対する理解を全く欠いており、客観的には不当な主張を伴う理由によって、破産者持分の譲渡先が誰であるかを問わず、その譲渡に対する同意をすべて拒否することを明らかにしたものといわざるを得ない。そして、破産者持分の譲渡についての、右のような被控訴人、控訴人双方に関する事由を考慮すれば、被控訴人が、同年56日に、控訴人に破産者持分譲渡についての同意を求めるに際して、その譲渡先がピーエスジーであることを控訴人に知らせなかったからといって、持分譲渡の必要性がある被控訴人が、他の共有者である控訴人の同意を得るための努力をしなかったものということができず、控訴人において持分譲渡についての同意を拒否する正当な理由がある場合に当たるものとは、到底認めることができない。
したがって、控訴人の主張1は失当というべきである。
2 控訴人の主張2について
控訴人は、本件著作物の無断販売の防止や、販売価格の統一について、控訴人がピーエスジーと共に行うことが困難であるから、控訴人には破産者持分譲渡についての同意を拒否する正当な理由があると主張する。
しかしながら、控訴人がその困難性の根拠として挙げる事由のうち、ピーエスジーが、被控訴人との間の破産者持分譲渡の協議について控訴人に知らせなかったことは当事者間に争いがないが、前示の事実関係によれば、ピーエスジーと被控訴人との間の破産者持分譲渡の協議は、被控訴人が控訴人を含む関係者に対し、破産者持分を買い受けるかどうかの問合せをした際に、その回答期限とした平成11425日以降に開始されたものと推認されるところ、右時点において、破産者持分を買い受ける機会があったにもかかわらず、既にそれを逸している控訴人に対し、ピーエスジーが、被控訴人との間で右協議がなされていることを知らせなかったとしても、それが控訴人に対する背信行為といえないことは、前示のとおりである。
また、控訴人は、前示の困難性の根拠となる事由として、平成11610日に控訴人代表者がピーエスジー代表者Cに対し、本件著作権についての協議を求めたものの、Cが、ピーエスジーと被控訴人との間の破産者持分の売買契約が既に効力を生じ、ピーエスジーが破産者持分を取得したかのような主張をしたために、協議ができなかったと主張するが、かかる事実を認めることができないことも、前示のとおりである。
控訴人は、さらに、前示の困難性の根拠となる事由として、原審での和解の協議において、ピーエスジーの申入れにより合意が成立しなかった旨主張するところ、(証拠)及び弁論の全趣旨によれば、右和解協議に利害関係人として加わったピーエスジーは、被控訴人から控訴人の同意を得て取得した破産者持分を控訴人に譲渡したうえ、その後5年間限り本件著作権の独占的利用許諾を受け、かつ、右譲渡代金と利用許諾料とを同額として相殺する案(すなわち、実質的に、ピーエスジーが破産者持分を無償で控訴人に譲渡する代償として、5年間の独占的利用権を無償で取得する案)に同意したことが認められ、そうであれば、ピーエスジーが、右5年間の独占的利用許諾期間中は、控訴人による本件著作物の販売についてもピーエスジーの右利用権に基づくことを申し入れたとしても、破産者持分と控訴人の本件著作権の持分がともに二分の一であること等に照らして、格別、不当であるとか、背信的である等ということはできず、和解の合意が成立しなかったことをピーエスジーの責めに帰せしめることはできない。
右のとおり、本件著作物の無断販売の防止や、販売価格の統一について、控訴人がピーエスジーと共に行うことが困難である根拠として、控訴人が挙げる事由は、その存在が認められないものであるか、又は、少なくともピーエスジーに責めを負わせるべき事由ではなく、そうであれば、かかる事由を根拠とするような困難性は、控訴人が破産者持分譲渡についての同意を拒否する正当な理由とはなり得ないものというべきである。