Kaneda Legal Service {top}

著作権判例セレクション

【著作権の制限】法381項の立法趣旨/ダンス教室での演奏につき法381項の適用を認めなかった事例

平成1527日名古屋地方裁判所[平成14()2148]▶平成1634日名古屋高等裁判所[平成15()233]
2 争点(1)イ(演奏の非営利性)について
被告らは,本件各施設における音楽著作物の再生は,営利性を欠くと主張するところ,法は,公表された著作物につき,①営利を目的とせず,②聴衆等から料金を受けない場合には,著作権に服することなく公に演奏等を行うことができる旨規定する(法38条1項)。これは,公の演奏等が非営利かつ無料で行われるのであれば,通常大規模なものではなく,また頻繁に行われることもないから,著作権者に大きな不利益を与えないと考えられたためである。このような立法趣旨にかんがみれば,著作権者の許諾なくして著作物を利用することが許されるのは,当該利用行為が直接的にも間接的にも営利に結びつくものではなく,かつ聴衆等から名目のいかんを問わず,当該著作物の提供の対価を受けないことを要すると解すべきである。
しかるところ,被告らが,本件各施設におけるダンス教授所において,受講生の資格を得るための入会金とダンス教授に対する受講料に相当するチケット代を徴収していることは前記のとおりであり,これらはダンス教授所の存続等の資金として使用されていると考えられるところ,ダンス教授に当たって音楽著作物の演奏は不可欠であるから,上記入会金及び受講料は,ダンス教授と不可分の関係にある音楽著作物の演奏に対する対価としての性質をも有するというべきである。
この点につき,被告らは,①社交ダンスは一つの芸術ないしスポーツであり,社交ダンス教授所はその教育という公益目的に従事するものであって,受講生から得た受講料はダンス教師の技術の向上や本件各施設の運営費用に振り向けられているから,営利を目的としたものではないこと,②受講料はダンス指導の対価であって,音楽著作物の演奏に対する対価ではないから,受講料は法38条1項の「料金」に当たらないこと,などを理由に,本件各施設における管理著作物の再生は,営利を目的としない利用として原告の著作権が及ばない旨主張する。
しかしながら,社交ダンスが一つの芸術ないしスポーツの側面を有していることは承認できるとしても,スポーツ等が営利目的と併存し得ることは,プロ野球やプロサッカーの例を挙げるまでもなく,疑いを容れる余地がないし,被告らが主張するように,受講料がダンス教師の技術の向上や本件各施設の運営費用に振り向けられれば,本件各施設の人的物的施設が維持改善されて同施設の競争力が高まり,更に受講生の獲得,受講料収入の増加につながるという循環を生み出すことが考えられるから,これらだけではダンス教授所が営利を目的としないとはいえない。かえって,前記認定のとおり,本件各施設におけるダンス教授所は,入会金と受講料を定め,受講生から徴収しているが,これらは教授所を維持するのに最低限必要な経費から割り出されたものではなく,受講生が増加すれば増加するほどその経営者の取得する所得が増加する関係にあり,現に,証拠によれば,被告株式会社B,被告H,被告I,被告J,被告Kの経営に係るダンス教授所においては,受講勧誘文言を記載した入会案内書を作成,配布している事実が認められるから,これらを総合すれば,被告らの経営するダンス教授所が営利の目的を有しないものであるとは到底認めることはできない。
そして,前記のとおり,社交ダンスの教授に際して音楽著作物を演奏することは必要不可欠であり,音楽著作物の演奏を伴わないダンス指導しか行わない社交ダンス教授所が受講生を獲得することはおよそ困難であって,そのような社交ダンス教授所が施設を維持運営できないことは明らかであるから,結局,本件各施設における音楽著作物の利用が営利を目的としないものであるとか,上記受講料がその対価としての料金には当たらないとの被告らの主張は採用できない。
[控訴審同旨]