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著作権判例セレクション
【著作権の制限】公正利用(フェア・ユース)の法理の適用を認めなかった事例
▶平成15年2月7日名古屋地方裁判所[平成14(ワ)2148]▶平成16年3月4日名古屋高等裁判所[平成15(ネ)233]
3 争点(1)ウ(著作物の公正な利用)について
被告らは,本件各施設における管理著作物の演奏は,①教師と生徒の間の密接した個人的空間において行われ,私的領域における演奏であること,②芸術,スポーツの普及ないし教育の目的で行われ,営利目的ではないこと,③社交ダンスのようにルールの確立したスポーツあるいはその指導に伴う音楽の使用は,著作権侵害とされるべきでないとの社会的コンセンサスがあり,黙認されてきたことなどの事実に照らすと,著作物の公正な利用(フェア・ユース)に当たるから,原告の被告らに対する請求は,権利濫用として許されない旨主張する。
法1条は,法の目的につき,「これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ,著作権者等の権利の保護を図り,もって文化の発展に寄与することを目的とする。」と定め,法30条以下には,それぞれの立法趣旨に基づく,著作権の制限に関する規定が設けられているところ,これらの規定から直ちに,我が国においても,一般的に「公正な利用(フェア・ユース)の法理」が認められると解するのは相当でない。著作権に対する公正利用の制限は,著作権者の利益と公共の必要性という,対立する利害の調整の上に成立するものであるから,実定法主義を採る我が国の法制度の下で,これが制限されるためには,その要件が具体的かつ明確に規定されていることが必要であると解するのが相当であって,かかる規定が存しない以上,一般的な「公正な利用の法理」を認めることはできないことはもちろん,明文の規定を離れて著作物の公正な利用となる場合があることを認めることはできないというべきである(東京高等裁判所平成6年10月27日判決参照)。
もっとも,被告らは,権利濫用を基礎づける趣旨で上記の法理を主張していると解されるので,これについて検討するに,前記のとおり,①被告らの経営するダンス教授所においては,入会金を支払うことにより誰でも受講生の資格を得ることができ,かつ受講生は,個人レッスンと集団レッスンを選択することができること,②ダンス教授及びこれと不可分の関係にある音楽著作物の演奏が営利目的でないとはいえないこと,③被告らの主張する社会的コンセンサスが存在することを認めるに足りる証拠はないが,それをさておくとしても,本件で問題とされているのは,社交ダンスそのものではなく,料金を徴収して組織的,継続的に行われているダンス教授の営業活動に不可欠な音楽著作物の使用であるから,スポーツないしその指導との比較は意味をなさないこと,以上に照らせば,被告らの主張する事由は,原告の請求が権利濫用であることを基礎づけるものではないというべきである。
[控訴審同旨]