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著作権判例セレクション

【渉外関係】国際裁判管轄(専属的裁判管轄)の有無が問題となった事例

▶令和元年1113日東京地方裁判所[平成28()39687]
[参照] 民事訴訟法3条の7(管轄権に関する合意)
1 当事者は、合意により、いずれの国の裁判所に訴えを提起することができるかについて定めることができる。
2 前項の合意は、一定の法律関係に基づく訴えに関し、かつ、書面でしなければ、その効力を生じない。
(以下略)

1 争点1(国際裁判管轄の有無)について
(1) 修正サービス契約6条(i)は,「トラスト及びサンエーは,それぞれ,本契約から生じる又は本契約に関連する全ての法的手続のため,ニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所又はニューヨーク市に置かれるニューヨーク州裁判所の専属的裁判管轄に服する。」と定めている。被告会社は,同条項の「トラスト」との記載は単なる誤記にすぎず,同条項は被告会社とサンエー間の専属的裁判管轄の合意を定めたものであるから,本訴請求について我が国の裁判所は管轄権を有しないと主張する。
しかし,国際裁判管轄の合意は,その合意に係る管轄地に所在しない当事者に大きな不利益を与えることになることから,書面によって合意されなければならないとされており(民事訴訟法3条の7),同合意の存在は当該書面の記載に基づいて慎重に行うことが相当であるところ,修正サービス契約6条(i)は,専属的管轄合意の主体を,被告会社とは別の法人である「トラスト」と明示しており,被告会社のスペルの誤りなどではないから,その記載から合意の主体が被告会社であると認めることはできない。
修正サービス契約は,英文で起草された国際的な取引に関する企業間の契約書であり,各条項については,契約当事者がその文言について慎重に精査・検討した上で合意されたと考えるのが自然である。しかも,専属的裁判管轄の合意において,合意の主体は最も基本的かつ重要な要素の一つであることを考慮すると,修正サービス契約6条(i)に規定する専属的裁判管轄の合意主体はその文言に従って「トラスト」であると認めることが相当である。
また,原告を当事者とする他の契約についてみると,トラストと原告間の終了合意書7条(f),トラストと原告間の期限付き商標権譲渡契約6条,原告と被告会社間のサービス契約9条(i)及び原告,被告会社,トラストの三者間の商標権譲渡契約12条においては,修正サービス契約と同様,原告とトラストを合意主体とする専属的裁判管轄に関する規定が置かれており,原告と被告会社間の管轄合意について規定した契約は存在しない。
この点について,被告会社は,修正サービス契約6条(i)の規定は,それ以前に締結された「商標権譲渡契約(中国,香港及び台湾)」やサービス契約の規定をそのまま流用し,契約当事者もそれを看過したものであると主張するが,仮に,被告会社の主張を前提としても,流用した規定が置かれたことをもって,原告と被告会社との間において管轄合意がされたと認めることはできない。上記のとおり,従前の契約には原告と被告会社間の管轄合意の規定は存在せず,取り分け,原告,被告会社,トラストの三者間の商標権譲渡契約においては,原告とトラストとの間の管轄合意は置かれているものの,原告と被告会社間の管轄合意の規定は設けられていないのであって,他に原告と被告会社との間において専属的裁判管轄に関する合意形成のための交渉や話合いが行われたことをうかがわせる証拠は存在しない。
そうすると,修正サービス契約6条(i)の規定の「トラスト」との表記が誤記であるとして,これを「被告会社」と読み替えることにより,両者間において専属的裁判管轄の合意があったと認めることはできないというべきである。
したがって,原告と被告会社との間に,修正サービス契約から生じる紛争について,その専属的裁判管轄をニューヨーク州の連邦又は州裁判所とする旨の合意があったと認めることはできない。
(2) 本訴請求は,原告が,被告会社に対して,修正サービス契約3条(d)に基づき,「サンプル及び諸経費」として支払済みの45万ドルの返金を求めるものであるところ,かかる返金が原告の指定する口座にされるべきものであることは,被告会社の代表者であるA自身が原告に対して返金先を指示するように求めていることからも明らかである。そして,日本国内に本店の有する原告の指定する口座は,原告の国内口座であると考えられるので,修正サービス契約3条(d)に基づく返還債務の履行地は日本国内にあると認められる。
したがって,民事訴訟法3条の3第1号に基づき,我が国の裁判所は,本訴請求に係る管轄権を有するというべきである。