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著作権判例セレクション

【コンテンツ契約紛争事例】販売契約の解除の有効性及び解除の効果が問題となった事例/販売契約の準拠法を日本法とする黙示の選択があったと認定した事例

▶平成240711日東京地方裁判所[平成22()44305]
() 本件は,別紙記載のDVD商品(「本件商品」)の映像(本件商品のDVDに固定された一連の映像であり,音声・音楽・字幕を含む。以下「本件映像」)の著作権を有すると主張する原告(韓国で設立された株式会社)が,被告に対し,著作権法112条1項に基づき,本件商品の販売,頒布の差止めを求めるとともに,民法709条,著作権法114条2項又は3項に基づき,損害金等の支払を求めた事案である。
(前提事実)
〇本件商品の製作
原告は,平成19年6月7日,株式会社MBCプロダクション(「MBC」)との間で,韓国の俳優・女優(いわゆる韓流スター)が出演した韓国のトーク番組である「パク・サンウォンの美しいTV顔」と題するテレビプログラム(「本件プログラム」)を利用したDVD映像を製作,販売する契約(「本件プログラム利用契約」)を締結した。本件プログラム利用契約により,MBCは,原告に対し,本件プログラムを利用して本件映像を製作,複製し,日本国内で頒布する権利を独占的に利用許諾した。原告は,上記契約に基づき,本件映像及びそれを収録した本件商品を製作した。
〇本件販売契約
原告は,株式会社ジャパンコンテンツイニシアティブ(「JCI」)との間で,平成19年9月6日,本件商品を1枚当たり1480円,最低購入保証額5920万円(4万枚分)で販売する旨の販売契約(「本件販売契約」)を締結した。本件販売契約により,原告は,JCIに対し,本件商品を日本国内で独占的に頒布すること及びJCIが被告に対し独占的頒布を再許諾することを許諾した。
〇本件頒布契約
被告は,本件販売契約に先立ち,JCIとの間で,平成19年8月31日,本件商品の頒布契約(「本件頒布契約」)を締結した。本件頒布契約により,JCIは,被告に対し,本件商品を日本国内で独占的に頒布することを許諾した。
〇本件販売契約の解除
原告は,JCIに対し,平成20年4月17日にJCIに到達した同月16日付け書面をもって,本件販売契約を解除する旨の意思表示をした(「本件解除」)。同書面と同一内容の書面が,被告にも参照送付され,同月17日に被告に到達した。
〇被告による本件商品の販売
被告は,平成20年2月20日以降,JCIを通じて購入した本件商品を販売している。

[参照]
〇法の適用に関する通則法7条:「法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法による。」
〇民法541(催告による解除):「当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。
〇民法545(解除の効果)1項:「当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。」

1 争点1(原告の著作権の有無)について
(1) 準拠法
ア 原告は外国法人であるため,本件差止請求及び損害賠償請求の準拠法についてまず判断する。
イ 著作権に基づく差止請求については,「文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約」(以下「ベルヌ条約」という。)5条(2)により,「保護が要求される同盟国の法令」の定めるところによることとなり,我が国の著作権法が適用される。
ウ 著作権侵害に基づく損害賠償請求については,「法の適用に関する通則法」17条により,不法行為地すなわち被告が本件商品を頒布した地の法である日本法が適用される。
エ 上記各請求の先決問題としての本件解除の有効性については,「法の適用に関する通則法」7条により,当事者が契約当時に選択した地の法による。
本件販売契約に準拠法の定めはないが,本件販売契約上,本件商品は原告が製造し独占的に日本国内に輸入し,被告に対して独占的に供給し,被告が被告の頒布ルートを通して日本国内において独占的に頒布することとされていたこと(甲5・1条),専属的合意管轄裁判所として東京簡易裁判所又は東京地方裁判所が指定されていること(甲5・15条),本件販売契約当時既に締結され,原告及びJCIもその内容を認識していたと認められる本件頒布契約においては,準拠法として「日本国著作権法並びにその他の日本法」が明示されていること(甲4・20条)などを総合すると,本件販売契約締結当時,原告及びJCIは,本件販売契約の準拠法を日本法とすることを黙示に選択していたものと認められる。
したがって,本件解除の有効性についても,日本法が適用される。
(2) 本件映像の著作者には争いがあるが,その著作者がMBCであれ原告であれ,ベルヌ条約の同盟国である韓国の国民であるから,いずれにせよ,本件映像はベルヌ条約により我が国が保護の義務を負う著作物であり,著作権法6条3号により,著作権法の保護を受ける著作物である。
(3) 原告は,映画の著作物である本件映像についての著作権を主張し,映画の著作物に当たらない本件商品のパッケージについては著作権を主張していないものと解される。
本件映像は,本件プログラムにつき,原告が,原告の費用において,日本語字幕を付け,音楽を差し替え,17名の韓国人俳優・女優の出演した回を選択し,本件映像に収録すべき場面を選択して編集し,DVD化したものである。
本件映像からは,MBCが著作権を有する本件プログラム,すなわち,韓国で放映されたトーク番組「パク・サンウォンの美しいTV顔」の表現上の本質的な特徴を直接感得することができる。
そして,原告の行った作業には,日本語字幕の作成,差し替えた音楽の選択,収録回の選択,収録場面の選択などにおいて原告の思想が創作的に表現されていると認められるから,本件映像は,MBCが著作権を有する本件プログラムを原著作物とする二次的著作物と認められる。
そうすると,本件プログラムの二次的著作物である本件映像につき,原告が本件プログラムに新たに加えた創作的部分については,映画の著作物である本件映像の映画製作者であると認められる原告が単独で著作権を有しているが,本件プログラムと共通しその実質を同じくする部分については,原告の著作権は及ばないというべきである。
(4) 原告は,①映画の著作物である本件映像の全体的形成に創作的に寄与した者は原告であるから,原告が本件映像の単独著作者である(著作権法16条),②原告は本件映像の映画製作者であり,MBCは本件映像の製作に参加することを約束していたから,原告が単独著作権者である(同法29条1項),などと主張するところ,原告の主張が,MBCが原著作物の著作権者として本件映像に有している権利を否定するものであれば,採用できない。
本件プログラム利用契約の内容をみても,「『乙』(注:原告)が『商品』(注:本件商品)の制作のために『甲』(注:MBC)からの許諾を受けて別途に製作した動画及びオーディオファイルなど関連映像著作物に対する著作権及び著作隣接権は『甲』と『乙』にある(50:50)」(甲31・4条2項),「『商品』の権利問題において『甲』は『プログラム』(注:本件プログラム)の著作権について責任を負い,『乙』は『商品』に使用された韓国外音楽に対して責任を負う。映像内肖像権は映像特例法に準じ,映像特例法を超過する範囲の肖像権問題が発生した時は『甲』と『乙』が共同で責任を負う」(同6条4項)などとされており,MBCは,本件映像にMBCの著作権が及ぶことを前提としていたものと考えられる。現に,原告も,本件商品にMBCの名称を表示している。
(5) 他方,被告は,原告の行った作業に創作性はなく,本件映像は本件プログラムの単なる複製品であって原告は著作権を有しないと主張するが,原告の行った作業に創作性が認められることは前記のとおりであるから,被告の主張は採用できない。
(6) 本件映像は,MBCが著作権を有する本件プログラムを原著作物とし,原告がDVD化して翻案した二次的著作物であるところ,本件映像に対するMBCと原告の寄与割合は,本件映像におけるMBC寄与部分と原告寄与部分の割合,本件プログラム利用契約4条2項の規定(上記(4))などを考慮すると,50対50と認めるのが相当である。
2 争点2(本件解除の有効性)について
(1) 末尾に掲記した証拠によれば,次の各事実が認められる。
ア 本件販売契約によれば,JCIが本件販売契約に定めた条項のいずれか一つにも違反した場合,原告は相当の期間を定めて催告後に本件販売契約を解除することができることとされていた(甲5・10条1項)。
イ 本件販売契約によれば,JCIは本件商品を最低5920万円分(4万枚分)購入し,契約締結後10営業日以内に1184万円,本件商品が全て納入されたことを確認した後,平成20年1月末日までに4736万円を,原告に支払うこととされていた(甲5・7条)。
ウ JCIは,平成19年9月21日,原告に1184万円を支払った。
エ 原告とJCIは,平成19年12月7日,本件商品の発注枚数を4万枚から3万7000枚(5476万円)に変更する旨合意した。
オ 原告は,平成20年1月29日頃までに,本件商品3万7000枚をJCIに引き渡した。
カ JCIは,平成20年2月8日,本件商品に「大量に不良品」がある旨原告側に連絡し,平成20年2月12日,「概算約1000枚」の不良品が出ている旨を原告に通知した。
原告側で確認したところ,本件商品を包んでいるビニール(シュリンク)が破損したものやパッケージに赤いゴミが混入していたものが3枚あったが,DVD自体に不良品はなかった。
キ 原告は,平成20年3月12日,JCIに対し,本件商品の不良品の数量の連絡を求め,不良品がある場合はその全部を交換する旨通知した。
原告は,平成20年3月18日,JCIに対し,同月20日までに返事がなければMBCで直接本件商品に対する取引中止及び著作権破棄に関する手続を進行するようになる旨通知した。
ク JCIは,平成20年3月28日,原告に対し,原告との「今後の取引が継続不可能」であること,原告に合計4452万0094円の賠償を求めること,「現在の返品数」は合計2860枚であることなどを通知した。
ケ 原告は,JCIに対し,平成20年4月16日,「貴社ではDVDが販売されている現在まで弊社にDVD契約代金を支払っていないので弊社は貴社がこれ以上支払い意志がないことに見做してDVDの著作権及び肖像権一体を破棄するところです。」との内容を記載した同日付け書面を送付し,同書面は,同月17日,JCIに到達した。
(2) 上記事実によれば,原告は,平成20年2月8日までに本件商品3万7000枚をJCIに引き渡しており,うち3枚のシュリンクやパッケージに瑕疵があったことは認められるが,それ以上に不良品が存在していたことを認めるに足りる証拠はない。
そうすると,JCIは,少なくとも債務の本旨に従った履行のあった3万6997枚に対応する残代金4291万5560円(1480円×3万6997枚-1184万円)を原告に支払うべき義務があったというべきである。
(3) 次に,本件販売契約においては,催告を要する解除事由と無催告での解除事由とが分けて定められており,本件販売契約上の義務違反は催告を要する解除事由となっている(甲5・10条1項,3項)。
しかし,催告をしたとしても相手方が催告に応ずる意思のないことが明らかな場合には,催告をしないで直ちに契約を解除することができるものと解するのが相当である。
これを本件についてみると,JCIは,上記(1)クの通知において,原告との「今後の取引が継続不可能」であり,原告に合計4452万0094円の賠償を求める旨主張し,催告をしたとしても催告に応じて残代金を支払う意思はないことが明らかであったから,原告は,本件販売契約10条1項や民法541条の文言にかかわらず,催告なくして本件販売契約を解除することが可能であったというべきである。
(4) 上記(1)ケの書面には,「DVDの著作権及び肖像権一体を破棄する」旨記載されており,本件販売契約を終了させる,すなわち本件販売契約を解除する旨の意思表示であったと認められる。
(5) 上記(1)ケの書面が平成20年4月17日にJCIに到達したことは上記認定のとおりであるから,本件販売契約は,同日,原告の解除により無効となり,本件販売契約による原告からJCIへの頒布許諾も無効となったものである。
3 争点3(原告の頒布権は消尽しているか)について
本件映像のように公衆に提示することを目的としない映画の著作物については,当該著作物の頒布権は,いったん適法に譲渡(以下「第一譲渡」という。)されるとその目的を達成したものとして消尽し,その後の再譲渡にはもはや著作権の効力は及ばないと解されているところ(最高裁判所平成14年4月25日第一小法廷判決),本件において,原告からJCIに対する本件販売契約が債務不履行により有効に解除されたことは前記のとおりであるから,適法な第一譲渡があったとはいえず,本件において消尽を論ずる余地はない。
4 争点4(被告は解除前の第三者として保護されるか)について
(1) 民法545条1項ただし書にいう「第三者」とは,解除前において契約の目的物につき別個の新たな権利関係を取得した者であって,対抗要件を備えた者をいうと解される。
(2) 被告は,解除前にJCIから頒布許諾を受けていたものではあるが,原告からJCIに対する頒布許諾と,JCIから被告に対する頒布許諾とは別個の債権的な法律関係であるから,被告が解除された本件販売契約の目的物につき新たな権利関係を取得した者ということはできず,また被告の権利は対抗力を備えたものでもないから,いずれにせよ被告が民法545条1項ただし書にいう「第三者」として保護される余地はない。なお,原告は,原告とJCIとの間の契約が,第三者(被告)のためにする契約であったと主張するが,(証拠)の各契約内容に照らし,採用することができない。
(3) したがって,被告は,本件解除によりJCIが頒布権原を失ったことにより,JCIからの利用許諾に基づく頒布権原を原告に対抗することができなくなり,被告は原告の著作物を無許諾で頒布したということになる。
5 争点5(被告の故意過失)について
(1) 本件販売契約が事後的に効力を失ったとしても,本件解除前に被告が本件商品を頒布した時点においては,本件販売契約及び本件頒布契約が有効に存在していたのであるから,被告が頒布権原を有するものと認識して本件商品を販売したことに落度はなく,本件解除前の頒布行為については被告に故意過失は認められない。
(2) 本件解除後の頒布行為については,被告は,平成20年4月17日,原告からJCIに対する本件解除の通知の参照送付を受けていたのであるから,被告は,同日,本件販売契約が解除されたことを認識し,少なくとも同通知により本件販売契約が解除された可能性があることを認識したというべきであり,その後の被告の頒布行為には少なくとも過失があったと認められる。
6 争点6(損害)について
(1) 著作権法114条2項に基づく推定について
ア 原告は自ら日本国内で頒布を行っていたものではないが,映画の著作物である本件映像の収録された本件商品をJCIに販売していたものであるから,著作権法114条2項適用の基礎がないとはいえない。
イ 被告の過失が認められる平成20年4月17日以降に被告が頒布した本件商品の枚数は,本件商品1につき468枚(売上960枚,返品492枚),本件商品2につき625枚(売上1055枚,返品430枚),本件商品3につき631枚(売上1060枚,返品429枚),本件商品4につき597枚(売上974枚,返品377枚)の合計2321枚と認められる。
ウ 被告のJCIからの仕入額は1枚当たり1880円(消費税別),売上金額は,消費者への直接販売については1枚当たり3800円(消費税別),卸販売につき1枚当たり2850円(消費税別)と認められ,粗利益は1枚当たり970円から1920円である。
被告の変動経費は明らかでないが,被告の得た利益は,少なくとも原告の主張する1枚当たり190円を下らないと認めるのが相当である。
エ そうすると,本件解除後の頒布により被告が得た利益は,2321枚×190円=44万0990円である。
オ 本件映像は二次的著作物であり,原告の寄与は50パーセントと認められるから,原告の損害は,上記被告の得た利益の50パーセントである22万0495円と推定される。
(2) 著作権法114条3項に基づく推定について
ア 被告の過失が認められる平成20年4月17日以降に,被告が頒布した本件商品の枚数は,後に返品された分を含めると,合計4049枚である。
イ 本件商品の頒布により被告が得た利益が1枚当たり190円と認められること,本件映像は二次的著作物であり,原告の寄与は50パーセントであることなど,本件に現れた諸事情を考慮すると,本件商品の頒布につき原告がその著作権の行使につき受けるべき使用料相当額は,1枚当たり50円を下らないと認めるのが相当である。
ウ そうすると,頒布時点で使用料相当額の損害が発生し,その後返品があっても損害は減少しないと考えたとしても,原告の受けるべき使用料相当額は,4049枚×50円=20万2450円と推定され,上記(1)の推定額を上回るものではない。
(3) 弁護士費用としては,上記損害の10パーセントに当たる2万2050円を相当と認める(損害額合計24万2545円)。
(4) 遅延損害金の始期について
()
7 原告は本件商品の販売・頒布の差止めを求めているところ,被告のもとには本件商品の在庫が存在し,被告により販売・頒布され原告の頒布権が侵害されるおそれがあるから,原告は,著作権法112条1項に基づき,本件商品の販売・頒布の差止めを求めることができる。
8 以上によれば,原告の請求は,被告に対し販売・頒布の差止めを求め,損害額合計24万2545円及びこれに対する不法行為による損害発生の後の日である平成23年6月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが,その余は理由がない。