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著作権判例セレクション
【著作者人格権】著作権法115条の意義と解釈
▶平成21年5月28日東京地方裁判所[平成19(ワ)23883]▶平成22年3月25日知的財産高等裁判所[平成21(ネ)10047]
ところで,著作権法115条は,著作者又は実演家は,故意又は過失によりその著作者人格権又は実演家人格権を侵害した者に対し,損害の賠償に代えて,又は損害の賠償とともに,著作者又は実演家であることを確保し,又は訂正その他著作者若しくは実演家の名誉若しくは声望を回復するために適当な措置を請求することができると規定している。
同条は,その文言上,著作者が,故意又は過失によりその著作者人格権を侵害した者に対し,「著作者であることを確保」するために適当な措置,「訂正」するために適当な措置又は「その他著作者の名誉若しくは声望を回復」するために適当な措置の3類型の措置を請求することができることを定めたものと解され,「その他著作者の名誉若しくは声望を回復」するために適当な措置とは別類型である「訂正」するために適当な措置を請求するに当たっては,著作者の名誉又は声望が毀損されたことを要件とするものではないと解される。
そして,著作者人格権(同一性保持権)の侵害行為により改変された著作物の原作品を侵害前の原状に回復することは「訂正」に当たり,その必要性及び実現可能性があれば,著作者は,「訂正」するために適当な措置として,当該原状回復を請求することができるものと解するのが相当である。
これを本件についてみるに,①本件原観音像は,木彫十一面観音菩薩立像であって,美術の著作物の原作品であり,11体の化仏が付された本件原観音像の仏頭部は,著作者であるE4の思想又は感情を本件原観音像に表現する上で重要な部分であること,②被告光源寺は,被告C2に依頼して,仏頭部を新たに制作し,これを本件原観音像の仏頭部とすげ替えることによって,E4が存しているとしたならばその著作者人格権(同一性保持権)の侵害となるべき行為を行ったものであり,被告光源寺には故意又は過失があること,③仏頭部のすげ替え後の本件観音像は本件観音堂内に祀られ,参拝者等の公衆の観覧に供されており,それがE4の意に反することは明らかであること,④本件原観音像から取り外した仏頭部(すげ替え前の仏頭部)は,被告らによってその原形のままの状態で保管されており,これを本件観音像に取り付けてすげ替え前の本件原観音像の状態に戻すことは可能であることを総合すれば,本件観音像について,その仏頭部を同観音像制作当時の仏頭部(本件原観音像の仏頭部)に原状回復することの必要性及び実現可能性があるものと認められる。
したがって,原告は,E4の遺族として,著作権法116条1項,115条に基づき,被告光源寺に対し,訂正するために適当な措置として,本件観音像について,その仏頭部を同観音像制作当時の仏頭部(本件原観音像の仏頭部)に原状回復することを求めることができるというべきである。
(注) 原審の判断に対して、[控訴審]では、「本件において,原状回復措置を命ずることは,適当ではない」とした。