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著作権判例セレクション

【渉外関係】(独占的)利用許諾契約の成立及び効力に関する準拠法/著作権侵害を理由とする損害賠償請求の準拠法

▶平成241221日東京地方裁判所[平成23()32584]
() 本件は,原告らが,本件写真について,原告A(職業写真家であり,ハワイ州に居住するアメリカ合衆国の国民)が著作権を,原告会社(ハワイの芸術品・美術品の販売のほか,写真のライセンス事業を業務とするハワイ州の法律に基づき設立された有限責任会社)が独占的利用許諾権をそれぞれ有していることを前提として,被告は,その運営するブログに無許諾で本件写真を掲載し,著作権(複製権,公衆送信権)を侵害したなどと主張し,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償金等の支払を求めた事案である。
[参照]
〇法の適用に関する通則法7条:「法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法による。」
〇法の適用に関する通則法81項:「1 前条の規定による選択がないときは、法律行為の成立及び効力は、当該法律行為の当時において当該法律行為に最も密接な関係がある地の法による。」
〇法の適用に関する通則法17条:「不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は、加害行為の結果が発生した地の法による。ただし、その地における結果の発生が通常予見することのできないものであったときは、加害行為が行われた地の法による。」

1 準拠法について
(1) 本件では,本件写真の著作物性,著作者及び著作権者について争いがあるが,文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約(以下「ベルヌ条約」という。)5条(2)によれば,著作物の保護の範囲は,専ら,保護が要求される同盟国の法令の定めるところによるから,我が国における著作権の帰属や有無等については,我が国の著作権法を準拠法として判断すべきである。我が国とアメリカ合衆国は,ベルヌ条約の同盟国であるところ,本件写真は,アメリカ合衆国において最初に発行されたものと認められ,後記2のとおり,その著作物性と同国の国民である原告Aが著作者であることが認められるから,同国を本国とし,同国の法令の定めるところにより保護されるとともに(ベルヌ条約2条(1),3条(1),5条(3)(4)),我が国においても著作権法による保護を受ける(著作権法6条3号,ベルヌ条約5条(1))。
(2) また,本件では,原告Aは,原告会社に対し,本件独占的利用許諾権を付与したのであるから,このような利用許諾契約の成立及び効力については,当事者が契約当時に選択した地の法を準拠法とし(法の適用に関する通則法7条),他方,選択がないときは,契約当時において契約に最も密接な関係がある地の法が準拠法である(法の適用に関する通則法8条1項)。そして,本件独占的利用許諾権の付与が譲渡と同じ法的性質であると解したとしても,譲渡の原因関係である債権行為については同様に解するのが相当である。
そこで検討するに,本件独占的利用許諾権の付与は,原告Aがハワイ州公証人の面前において自ら署名した宣誓供述書をもって行ったものであり,その相手方である原告会社が同州に所在する会社であることも併せると,アメリカ合衆国ないしハワイ州の法を選択したものと解するのが相当である。
そして,アメリカ合衆国著作権法101条は,「『著作権の移転』とは,著作権または著作権に含まれるいずれかの排他的権利の譲渡,モゲージ設定,独占的使用許諾その他の移転,譲与または担保契約をいい,その効力が時間的または地域的に制限されるか否かを問わないが,非独占的使用許諾は含まない。」と規定するから,本件独占的利用許諾権の付与は同条にいう「著作権の移転」に含まれる。また,同法204条()は,「著作権の移転は,法の作用によるものを除き,譲渡証書または移転の記録もしくは覚書が書面にて作成され,かつ,移転される権利の保有者またはその適法に授権された代理人が署名しなければ効力を有しない。」と規定するが,原告Aは,自ら署名した宣誓供述書をもって,本件独占的利用許諾権を付与したのであるから,本件独占的利用許諾権の付与は効力を有すると解される。
加えて,原告Aは,本件独占的利用許諾権の付与以前に,原告会社との間で非独占的代理店契約を締結しており,前同様にアメリカ合衆国ないしハワイ州の法を選択したものと解されるが,これらの法に照らし,非独占的代理店契約の成立及び効力を否定する根拠は見当たらないから,本件独占的利用許諾権によって変更された非独占的利用許諾権以外の条項については,なお効力を有するものと解される。
(3) そして,著作権侵害を理由とする損害賠償請求の法律関係の性質は,不法行為であるから,その準拠法は法の適用に関する通則法17条によるべきであり,「加害行為の結果が発生した地」は,我が国における著作権侵害による損害が問題とされているのであるから,我が国と解するのが相当である。
そうすると,当該請求については,我が国の法律が準拠法である。
2 本件写真の著作物性,著作者及び著作権者(争点1)について
まず,本件写真の著作物性について検討するに,本件写真(1)は,沈みゆく太陽,荒々しい波,険しい崖等を被写体として夕暮れ時の海岸における光景を撮影した写真であり,太陽を中心とするオレンジの色彩に対して崖等には黒の色彩が施されているものである。本件写真(2)は,夕焼け空,小さな波,砂浜,サーファーボードを抱えたサーファーを被写体として夕暮れ時の海岸における光景を撮影した写真であり,赤~紫~黒の色彩の中に夕焼けの黄色~オレンジの色彩が施されているものである。このような本件写真の表現をみると,本件写真は,いずれも,夕暮れ時の太陽光によって照らし出される海岸の光景を,構図,カメラのアングル,シャッタースピード等を工夫して撮影したものと認められ,撮影者の個性が現れており,撮影者の思想又は感情を創作的に表現したものであると認められるから,著作物であるというべきである。
そして,証拠によれば,本件写真はいずれも原告Aが撮影したものであると認められ,原告Aは本件写真の創作者であるから著作者である。
以上のとおり,本件写真は著作物性を有し,その著作者は原告Aであるから,原告Aが本件写真の著作権者である(著作権法17条1項)。
3 被告の過失の有無(争点2)について
(1) 被告は,本人尋問において,本件写真をダウンロードした経緯について,概ね次のとおり供述する。
まず,インターネットの検索サイトであるYahoo!から「ハワイ」を入力して画像を検索し,その検索結果から本件写真を選択した。本件写真(1)を選択すると,新しい画面が表示されたので,その画面下部に記載された壁紙LinkのURLをクリックした。そうすると,壁紙Linkのサイトの画面が表示され,その下部のURLをクリックすると,別の画面が表示された。そして,その画面に表示された本件写真(1)をクリックすると,更に別の画面が表示され,そこには「デザイナーズ壁紙は海外のショップでフリーの素材として販売していたものを収集したもの,及び,海外のネット上で流通しているものを収集したものです。無料ダウンロードした写真壁紙は個人のデスクトップピクチャーとしてお楽しみください。また,掲載の作品をホームページ素材として,お使いいただく場合にはリンクをお願い致します。」と記載されていたので,フリー素材,無料であると誤信した。本件写真(2)も同様の手順であり,上記の記載と同様の記載があった。
(2) しかしながら,被告は,本件提起前のN弁護士との交渉において,N弁護士に送付した文書には,「この写真の提供先は,ヤフーの画像からハワイと入力して,頂きました。写真には,名前のサインも入力されていないことを確認して『一期一会』のポエムにのせました」,「ヤフーを検索し,画像から趣味のブログ更新の為,ハワイのキーワードを入力しました。画像も持ち主が写真家様と知らず,(サインの記入もなかった為)写真家様の画像との認識もないまま 軽率にも 趣味のブログにて写真家様の画像を掲載してしまった事を心から謝罪させて頂きます。」,「私も2度とYahoo!画像から趣味のブログへの写真を掲載致しません。」と記載しているのみであって,N弁護士に対し,本件写真が壁紙Linkの記載からフリー素材であると誤信した旨を述べていない。
そうすると,被告が上記(1)の手順で本件写真をダウンロードしたとは容易に認めることができないし,上記の各記載に照らすと,被告は,壁紙Linkの記載を閲覧することなく,Yahoo!の画像検索結果から本件写真をダウンロードした蓋然性が高いというべきである。
(3) もっとも,被告が上記(1)の手順で本件写真をダウンロードしたとしても,上記(1)の「海外のショップでフリーの素材として販売していたもの」あるいは「海外のネット上で流通しているもの」との記載は,一定程度の注意をもって読めば,壁紙Linkが本件写真の利用許諾を受けていないことについて理解ができるものである。
(4) そうすると,被告は,本件写真の利用について,その利用権原の有無についての確認を怠ったものであって,本件写真をダウンロードして複製したこと及びアップロードしてブログに掲載し公衆送信したこと(複製権及び公衆送信権の侵害)について,過失があると認められる。
4 原告らの損害及び損害額(争点3)について
(1) 原告Aの損害について
ア 証拠によれば,原告会社は,原告Aの作品について,ウェブ使用目的でサイト内の複数ページで使用する場合やクリックで高解像度の写真が開く場合には,2年間で2376米ドルのライセンス料を設定していること,原告会社は,ライセンス料のうち,代理店手数料として20%を取得し,原告Aに対して残りの80%を支払っていることがそれぞれ認められる。
また,前提事実に加え,証拠,弁論の全趣旨及び当裁判所に顕著な事実によれば,被告は,平成23年2月4日本件写真(1)を,同年1月10日本件写真(2)をそれぞれブログにアップロードして掲載したこと,本件写真が被告のブログ上に掲載されていたときには,ブログ上の本件写真をクリックすると別の画面に本件写真が表示され,その大きさは1024×768ピクセルであったこと,被告は,同年7月1日頃本件写真(1)を,本件訴状が送達された同年10月15日頃本件写真(2)をそれぞれ削除したことがそれぞれ認められる。
この点,被告は,本人尋問において,平成23年7月15日には本件写真(2)を削除した旨供述する。しかしながら,前提事実に加え,証拠によれば,被告は,N弁護士が同月20日付けで本件写真(2)の削除を求めた警告書の受領を拒否していること,N弁護士が同年8月10日被告のブログを閲覧した際には本件写真(2)が掲載されていたことがそれぞれ認められるから,被告の供述は採用できないのであって,被告は本件訴状が送達された同年10月15日頃本件写真(2)を削除したと認めるのが相当である。
イ 以上に基づいて,原告Aの損害(逸失利益)を算定するに,被告は,本件写真の複製権を侵害した上,本件写真(1)について約5か月,本件写真(2)について約9か月ブログに掲載することによって公衆送信権を侵害したのであるから,本件写真のライセンス料に照らすと,原告Aには,本件写真(1)について396米ドル(=2376×5/24×0.8),本件写真(2)について712.8米ドル(=2376×9/24×0.8)の合計1108.8米ドルのライセンス収入相当額の損害が生じたものと認めるのが相当である。
そして,証拠によれば,平成23年1月から同年10月までの為替レートとしては1米ドル80円と認めるのが相当であるから,1米ドル80円として日本円に換算すると,8万8704円となる。
この点,原告会社代表者は,その陳述書において,不正使用の場合には2年間のライセンス料を変更することはない旨供述するけれども,正規ライセンスにおいては短いライセンス期間を設けることもある旨も供述するのであって,侵害期間に応じた損害を認定する妨げにはならないというべきである。
ウ 以上のとおり,原告Aの損害額は8万8704円であるが,被告は原告Aに1万円を支払っているから,これを上記損害額から控除すると,7万8704円となる。
(2) 原告会社の損害について
ア まず,原告会社の逸失利益としては,上記(1)イに照らすと,原告会社には,本件写真 (1)について99米ドル(=2376×5/24×0.2),本件写真(2)について178.2米ドル(=2376×9/24×0.2)の合計277.2米ドルの手数料相当額の損害が生じたものと認めるのが相当である。
そして,上記(1)イと同様に為替レート80円として,これを日本円に換算すると,2万2176円となる。
イ 続いて,原告会社の積極損害について検討するに,証拠によれば,原告会社は,非独占的代理店契約において,原告Aに対し,不正使用に対する損害賠償を徴収した純収入の50%を支払う旨を約していることが認められる。
このように,原告会社が純収入の50%を取得する約定とされていることに照らすと,原告会社は,原告Aの作品に係る損害賠償請求において,弁護士費用等を含めた必要費用を負担するものと解される。
ところで,原告会社は,別紙積極損害一覧表のとおり積極損害を主張するけれども,その内訳をみると弁護士費用相当額というべきものであるから,これらは併せて弁護士費用相当額として損害額を算定するのが相当である。
そして,本件における請求内容,経過等の諸事情を併せて考慮すると,弁護士費用相当額としては5万円が相当である。
ウ 以上のとおり,原告会社の損害は,合計7万2176円である。
(3) まとめ
したがって,原告らの請求は,不法行為に基づく損害賠償請求として,被告に対し,①原告Aにつき7万8704円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成23年10月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払,②原告会社につき7万2176円及びこれに対する前同様の遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。