Kaneda Legal Service {top}
著作権判例セレクション
【美術著作物】タイプフェイスの著作物性を否定した事例
▶平成31年2月28日東京地方裁判所[平成29(ワ)27741]
1 争点1(本件タイプフェイスの著作物性の有無)について
⑴ 著作権法2条1項1号は,「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」を著作物と定めるところ,印刷用書体がここにいう著作物に該当するというためには,それが従来の印刷用書体に比して顕著な特徴を有するといった独創性を備えることが必要であり,かつ,それ自体が美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えていなければならないと解するのが相当である(最高裁判所平成12年9月7日第一小法廷判決)。
⑵ そこで,本件タイプフェイスにつき検討する。
この点,原告は,本件タイプフェイスが著作物性を有するかどうかの判断をするにあたっては,タイプフェイスがそれぞれの文字相互に統一感を持たせるように大きさや太さをデザインしているものであるから,個々の文字をそれぞれ独立に見て判断するべきではない旨を主張する。しかしながら,複製権等の侵害の成否は,現に複製等がされた部分に係る著作物性の有無によって判断すべきであること,タイプフェイスは各文字が可分なものとして制作されていることからすれば,被告により現に利用された文字につき著作物性を判断するのが相当である。したがって,以下では本件タイプフェイスのうち,被告により利用された文字に限って判断する。
ア 対比表記載の本件タイプフェイス以外の各タイプフェイス(以下「対比タイプフェイス」という。)欄の括弧内に記載された各証拠及び弁論の全趣旨によれば,対比タイプフェイス欄に記載された制作年に対比タイプフェイスがそれぞれ制作されたことが認められるところ,原告の主張に係る本件タイプフェイスの制作年である平成12年(2000年)までに制作された対比タイプフェイスに限って対比した場合においても,被告により使用された文字のうち,「シ」,「ッ」,及び「ギ」「ジ」「デ」「ド」「バ」「ブ」「ベ」「ボ」における濁点「゛」の部分(以下,単に「濁点」という。)以外の文字については,本件タイプフェイスに類似する対比タイプフェイスの存在が認められ,本件タイプフェイスの制作時以前から存在する各タイプフェイスのデザインから大きく外れるものとは認めがたい。
イ 他方,本件タイプフェイスにおける「シ」,「ッ」,及び濁点の各文字については,2つの点をアルファベットの「U」の字に繋げた形状にしている点において従来のタイプフェイスにはない特徴を一応有しているということはできる。しかしながら,2つの点が繋げられた形状のタイプフェイス(CLEAR
KANATYPE及び曲水Mの存在を考慮すれば,顕著な特徴を有するといった独創性を備えているとまでは認めがたい。
ウ 以上からすれば,本件タイプフェイスが,前記の独創性を備えているということはできないし,また,それ自体が美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えているということもできないから,著作物に当たると認めることはできない。
⑶ これに対し,原告は,①本件タイプフェイスのうち,「シ」「ッ」などの文字は,2つの点を繋いで1本の曲がったラインで表現することにより文字の流れを演出しているものであること,②「ス」については,構成するラインを水平及び垂直に交わるように組み立てをし,全体を20度傾けることでカタカナの「ス」であることがよく分かる構造となっていること,③その他の文字については,線が交わる部分を曲線にする手法,及び横画に細い線,縦画に太い線を用いるという手法を巧みに組み合わせて全体の統一感を持たせたこと等を主張する。
しかしながら,①の点については,前記のとおり,従来のタイプフェイスに比して,顕著な特徴を有するといった独創性を備えているという評価にまで至るものではない。また,②の点については,構成するラインを水平及び垂直に交わるように組み立てたものとしてMOULDISM
Katakana,全体を20度傾けたものとしてOVERLOADER等の対比フォントが存在し,さらに③の点については,Technopolish及びHappy Frame等の対比フォントが存在することを考慮すれば,上記各点をもって本件タイプフェイスが,従来のタイプフェイスに比して特徴を有するとは認められない。
以上からすれば,原告の各主張は,本件タイプフェイスの著作権の有無に係る前記⑵の判断を左右するものではない。