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著作権判例セレクション

【当事者適格】フランス民法上の不分割共同財産である著作権の管理者の、わが国における当事者適格の有無

▶平成251220日東京地方裁判所[平成24()268]▶平成28622日知的財産高等裁判所[平成26()10019]
() 本件は,①フランス共和国法人である原告協会が,その会員(著作者又は著作権承継者)から美術作品(以下「会員作品」)の著作権の移転を受け,著作権者として著作権を管理し,②原告X1が,亡P(以下単に「P」)の美術作品(「P作品」)の著作権について,フランス民法1873条の6に基づく不分割共同財産の管理者であって,訴訟当事者として裁判上において,同財産を代表する権限を有すると主張した上で,原告らが,被告に対し,被告は,被告主催の「毎日オークション」という名称のオークション(「本件オークション」)のために被告が作成したオークション用のカタログ(「本件カタログ」)に,原告らの利用許諾を得ることなく,会員作品及びP作品の写真を掲載しているから,原告らの著作権(複製権)を侵害しているなどと主張して,不法行為に基づく損害賠償請求(又は不当利得に基づく利得金返還請求)として,原告協会につき所定の金員の支払,原告X1につき所定の金員の支払を求めた事案である。

1 原告X1の当事者適格の有無(争点1)について
(1) 原告X1は,パリ大審裁判所の急速審理命令により,フランス民法上の不分割共同財産であるPの著作権につき管理者(代表者)に指名され,フランス民法1873条の6第1項に基づき,本件訴訟を提起したものである。
これに対し,被告は,原告X1の当事者適格(法定訴訟担当)を争うものである。
(2) そこで検討するに,渉外的要素を含む法定訴訟担当については,訴訟担当権限が被担当者と担当者の実体的な法律関係から派生する場合には,被担当者と担当者の実体的法律関係に適用される準拠法により訴訟担当権限の有無を判断するのが相当である。
これを本件についてみるに,原告X1の権限は,Pの相続人(再転相続人を含む。)間において,Pの著作権を不分割共同財産にとどめる旨を合意したことに派生するから,実体的な法律関係から派生したものと解される。そして,フランス民法の不分割共同財産の制度は,同法1873条の2第1項(「共同不分割権利者は,そのすべての者が同意する場合には,不分割にとどまる合意をすることができる。」〔以下,不分割共同財産の規定につき同じ証拠である。〕),同法1873条の4第1項(「不分割の維持を目的とする合意については,能力又は不分割財産を処分する権限〔があること〕を必要とする。」)等の規定に照らすと,法律行為に基づくものであると解される。
法の適用に関する通則法7条は,法律行為の成立及び効力は,当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法によると規定するが,Pの相続人は,フランス民法の不分割共同財産の制度を利用するのであるから,フランス法を選択する意思であったと解され,フランス法により原告X1の訴訟担当権限の有無を判断するのが相当である。
そして,フランス民法1873条の6第1項は,(不分割共同財産の)「管理者は,あるいは民事生活上の行為について,あるいは原告又は被告として裁判上で,その権限の範囲内で不分割権利者を代表する。」と規定し,原告X1は,不分割共同財産であるPの著作権の管理者(代表者)であるから,訴訟上の当事者として,本件訴訟について当事者適格を有する。
(3) これに対し,被告は,実体準拠法の問題であるとすると,我が国の著作権法が適用されることになるなどと主張するが,その根拠は定かでないから,被告の主張は理由がない。

[控訴審]
1 原告X1の当事者適格の有無(争点1)
()
(3) 検討
原告X1は,ピカソの相続人の訴訟担当者として,本件訴訟を提起するところ,原告X1は,我が国の国籍を有しない訴訟担当者であるから,渉外事案における当事者適格が問題となる。
当事者適格の有無は,訴訟手続において,誰に当事者としての訴訟追行権限を認め,法的紛争の解決を有効かつ適切に行わせるのが相当かという視点から判断されるべき事項であるから,手続法上の問題として,法廷地における訴訟法,すなわち,我が国の民訴法を準拠法とすべきである。そして,我が国の民訴法は,本来の権利者又は法律関係の当事者以外の者が,訴訟担当として訴訟において当事者適格を持つ場合を規定しているが(民訴法30条,民法423条参照),他方,他人の権利や法律関係を訴訟で主張することを無制限に認めているわけではない(民訴法54条参照)。さらに,訴訟担当の中でも,訴訟法(民訴法に限らない。)自体が担当者の定めを規定している場合ではなく,担当者が実体法上の法律関係に基づいて,訴訟物の管理処分権等が認められる場合においては,法廷地法の視点から,当該者に管理処分権及び訴訟追行権限を認めてよいか否かという点を検討する上で,訴訟担当者と被担当者との関係を規律する当該実体法の内容を考慮すべきものであり,本件のように,訴訟担当者の訴訟追行権限が一定の実体法上の法律関係の存在を前提にしている場合には,当該法律関係の準拠実体法を参照することが求められるというべきである。
この点,原告X1の訴訟追行権限は,フランス民法1873条の1に基づく権利不分割の合意を前提にした上で,管理者の選任について,フランス民法1873条の5第1項に規定する共同不分割権利者の合意が成立しなかったため,パリ大審裁判所の本件急速審理命令により,原告X1がピカソの相続人中の管理者として選任されたことに基づくものである。そして,フランス民法1873条の1において権利不分割合意の対象とされている「権利の行使」には,著作権侵害に基づく不法行為責任の追及が含まれると解するのが合理的である。したがって,原告X1の本件訴訟の追行権限は,フランス民法1873条の1に基づく権利不分割合意という実体法上の契約を基本としたものといえるが,不分割財産の管理者としての地位自体は,共同不分割権利者による合意により定められたわけではない。もっとも,パリ大審裁判所による本件急速審理命令は,フランス民法1873条の5に定める共同不分割権利者の合意に代わるものであるから,原告X1の本件訴訟追行権限の法的根拠は,共同不分割権利者による合意に準じたもの,あるいは,フランス民法の規定に由来するものと解することもできる。
そこで,我が国の民訴法の枠組みから,上記のような管理者に対して当事者適格を付与することができるか否かを検討する(なお,外国裁判所の確定判決の効力という観点も,後記において検討する。)。我が国の民訴法は,前記のとおり,権利者等以外の者による訴訟担当を認めているが,無制限に認めているわけではなく,弁護士代理の原則等に反しないことはもちろんのこと,他人による訴訟担当を認めるに足る合理的な必要性が要求される(最高裁昭和45年11月11日大法廷判決参照)。したがって,上記の原告X1の実体法上の地位が,我が国において,訴訟担当を基礎付けるに足りるものか否かを検討するに,原告X1は,フランス民法に基づき,実体法上,権利不分割合意の対象となった不分割財産の管理権限を有し,それに伴って裁判上も共同不分割権利者を代表する権限を有するほか,全共同不分割権利者の同意を得て,通常の利用に属しないあらゆる処分行為を行うことができる。このような地位を我が国の制度に照らしてみると,まず,民訴法30条の規定する選定当事者制度は,共同利益を有する多数の者の中から全員のために訴訟当事者となるべき1人を選任することを容認しており,共同相続人はこれら多数の者に該当すると解されること(大審院昭和15年4月9日判決),また,各共有者は,共有物について,保存行為は単独で行うことが可能であるが(民法252条),基本的には持分に応じた使用が許されており(民法249条),共有物に対する不法行為による損害賠償請求権もこれに該当すると解されること(最高裁昭和41年3月3日判決,最高裁昭和51年9月7日判決参照),他方,各共有者による共有物についての不分割の合意が規定されていること(民法256条1項ただし書),債権についても当事者の合意による不可分が認められていること(民法428条),相続財産は相続人の共有とされていること(民法898条),相続財産の保存に必要な処分について,裁判所による相続財産管理人の選任ができること(民法918条)などの条文及び法解釈があり,これらの条文及び法解釈は,フランス民法に基づく権利不分割合意とその不分割財産の管理者に関する規定と同様の趣旨と解される。
以上によれば,相続人間で不分割とすることを合意した財産のうち,準物権的な知的財産権について,裁判所により管理者に選任された相続人が,単独で訴訟を提起することは,我が国の法規とも合致するところであり,原告X1の訴訟追行権限を許容すべき合理的な必要性は,我が国における訴訟法の観点からも是認することができる。
なお,原告X1を管理人に選任したパリ大審裁判所の本件急速審理命令については,外国裁判所の確定判決に関する効力の有無(民訴法118条)という側面も有するから,民訴法118条の各要件について検討するところ,本件急速審理命令は,権利不分割合意の対象である不分割財産の管理人を暫定的に定めるものであって,争訟性のある事件に関する判決には該当しないから,被告に対する送達(2号)及び相互保証(4号)の要件は求められないというべきである(仮に,上記各要件が必要であるとしても,ピカソの相続人は,全員が当事者又は訴訟参加人として権利不分割合意に関する手続に関与しているから,送達(2号)の要件を満たす。また,フランスでは,少なくとも,判例法上,外国裁判の承認に関し,外国裁判所の裁判管轄,訴訟手続の規則適合性,フランスの抵触規定に従った準拠法の適用,国際公序への合致及び法律詐欺の不存在等が必要とされているが,人の身分と能力に関する事項のみならず,金銭及び財産に関する事項についても,実質再審査主義が廃止された状況にあると認められるから,我が国と重要な点において異なるところはなく(最高裁昭和58年6月7日第三小法廷判決参照),相互保証(4号)の要件を満たすといえる。)。そして,外国裁判所の裁判権が認められること(1号)及び日本の公序に反しないこと(3号)の各要件を充足することは明らかである。
そうすると,原告X1のフランス法上の不分割財産の管理者としての地位は,我が国の訴訟法において,単独で訴訟追行することが許される地位と解すべきものであり,本訴においては,当事者適格を認めるべきものといえる。
(4) 被告の主張に対する判断
被告は,当事者適格の問題は法廷地法である我が国の訴訟法の問題であるという前提をとりつつ,我が国の著作権法117条は不分割共同財産という概念を認めていないから,著作権についての合意部分は無効であり,原告適格は認められないと主張する。
当裁判所は,この点に関し,原判決と同様に,著作権侵害を理由とする損害賠償請求の法律関係の性質は不法行為であり,準拠法としては,通則法17条により,加害行為の結果が発生した地である我が国の法律を適用すべきであると解する。そして,著作権法117条は,原告の当事者適格の有無に影響を及ぼす規定と解することはできない。なぜなら,同条は,共同著作物の各著作権者等が,当該共同著作物に関して,差止請求又は損害賠償請求等を独立してできると規定し,当該著作権等の各共有者が行使できる権利やその行使に際しての条件を定めるものであるところ,その内容は,著作権法112条で定められた著作権又は著作者人格権等の物権類似の効力を前提として,民法で認められた共有関係や不法行為に関する条文及び解釈を反映したものであり,各共有者間において,実体的な権利関係や権利行使に関し,著作権法117条の内容とは異なる合意を一切許さないような効力を有する強行規定と解することはできないからである。
したがって,著作権法117条は,各共有者間において,法律の定めた権利内容や条件とは異なる内容の合意や,それに基づく新たな法律関係の形成を一律に排除するものではなく,共有者間で成立した権利不分割の合意を無効とする法的根拠とはなり得ないというべきである。しかも,本件において,原告X1以外の他の相続人が,原告X1による本件訴訟追行に異議を唱えていることをうかがわせるような事情はなく(X5が,自己の持分権のみを行使したいという意向を有していたことと,本件訴訟の提起は必ずしも矛盾するものではない。),ピカソの他の相続人から原告X1に対する個別の授権を要すると解すべき理由もない。
以上によれば,被告の主張は,採用できない。