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著作権判例セレクション
【著作権の制限】法47条の2の適用事例/同規定に関連して権利濫用の主張が認められなかった事例
▶平成25年12月20日東京地方裁判所[平成24(ワ)268]▶平成28年6月22日知的財産高等裁判所[平成26(ネ)10019等]
エ 127AAの本件カタログ318号の作品について
被告は,本件カタログ318号に係る複製について,著作権法47条の2の適用がある旨主張する。
そこで検討するに,被告は,本件オークションを主催する者であるから,著作権法47条の2の施行日である平成22年1月1日以降,同条所定の複製を行うことができたものと認められる。また,同条施行令7条の2第1項第1号及び同施行規則4条の2第1項第1号により,著作権法47条の2が適用されるためには,当該複製により作成される複製物に係る著作物の表示の大きさが50平方cm以下であることが必要である。
弁論の全趣旨によれば,本件カタログ318号は平成22年後半に発行されたものであることが認められるから,同号に係る複製は著作権法47条の2の適用の対象であると認められる。そして,証拠によれば,同号に係る複製は,額縁部分を除く作品部分について,縦約6cm×横8.3cmの写真を印刷したものであることが認められるから,その表示の大きさは約49.8平方cmである。
以上によれば,本件カタログ318号に係る複製は,著作権法47条の2の適用があると認められるから,複製権侵害に当たらない。
(略)
7 原告らの請求が権利濫用に当たるか(争点7)について
被告は,本件訴訟における原告の著作権の行使は,著作権法改正前にオークションのために行われた複製について,法律が明確でなかったことを幸いとして,譲渡に伴う美術の著作物の複製が法律上合法であると確認された今に至って損害賠償を請求するもので,47条の2が新設された趣旨からすると,著作権の濫用に該当するなどと主張する。
しかしながら,著作権法47条の2は,美術の著作物又は写真の著作物の原作品等の適法な取引行為と著作権とを調整する趣旨において,原作品等を譲渡又は貸与しようとする場合には,当該権原を有する者又はその委託を受けた者は,その申出の用に供するため,一定の措置を講じることを条件に,当該著作物の複製又は公衆送信を行うことを認めるものである。このように,著作権法47条の2は,一定の措置を講じることを条件に,複製権又は公衆送信権を制限するものであるから,そのような措置が講じられなければ,複製権又は公衆送信権の侵害であることに変わりはないし,同規定が遡及適用されるものでもない(平成21年法律第53号附則1条)。
そうすると,著作権法47条の2の新設により,同規定の施行前にオークションのために行われた複製について損害賠償を請求することや,同規定の施行後において一定の措置が講じられた範囲外の複製について権利行使することが権利濫用であるとはいい難いし,その他権利濫用であることを肯定できる事情は認められない。
したがって,被告の主張は理由がない。
[控訴審]
ウ 127番の荻須高徳(OGUISS
Takanori)の本件カタログ318号の作品について
被告は,本件カタログ318号に係る複製について,著作権法47条の2の適用がある旨主張する。
そこで検討するに,被告は,本件オークションを主催する者であるから,著作権法47条の2の施行日である平成22年1月1日以降,同条所定の複製を行うことができたものと認められる。また,同法施行令7条の2第1項第1号及び同法施行規則4条の2第1項第1号により,著作権法47条の2が適用されるためには,当該複製により作成される複製物に係る著作物の表示の大きさが50cm2以下であることが必要である。
弁論の全趣旨によれば,本件カタログ318号は平成22年後半に発行されたものであると認められるから,同号に係る複製は著作権法47条の2の適用の対象となる。そして,証拠によれば,同号に係る複製は,額縁部分を除く作品部分について,縦約6cm×横8.3cm の写真を印刷したものであることが認められるから,その表示の大きさは約49.8cm2である。
以上によれば,本件カタログ318号に係る複製は,著作権法47条の2の適用があると認められるから,複製権の侵害には当たらない。
(略)
7 原告らの請求が権利濫用に当たるか(争点7)
(1) 著作権法の改正
著作権法は,平成21年法律第53号により改正され,47条の2が新設された(平成22年1月1日施行)。同条及び本件に関連する規定は以下のとおりである。
ア 著作権法47条の2
「美術の著作物又は写真の著作物の原作品又は複製物の所有者その他のこれらの譲渡又は貸与の権原を有する者が,第26条の2第1項又は第26条の3に規定する権利を害することなく,その原作品又は複製物を譲渡し,又は貸与しようとする場合には,当該権原を有する者又はその委託を受けた者は,その申出の用に供するため,これらの著作物について,複製又は公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては,送信可能化を含む。)(当該複製により作成される複製物を用いて行うこれらの著作物の複製又は当該公衆送信を受信して行うこれらの著作物の複製を防止し,又は抑止するための措置その他の著作権者の利益を不当に害しないための措置として政令で定める措置を講じて行うものに限る。)を行うことができる。」
イ 著作権法施行令7条の2第1項1号
「法第47条の2の政令で定める措置は,次の各号に掲げる区分に応じ,当該各号に定める措置とする。
一 法第47条の2に規定する複製 当該複製により作成される複製物に係る著作物の表示の大きさ又は精度が文部科学省令で定める基準に適合するものとなるようにすること。」
ウ 著作権法施行規則4条の2第1項1号
「令第7条の2第1項第1号の文部科学省令で定める基準は,次に掲げるもののいずれかとする。
一 図画として法第47条の2に規定する複製を行う場合において,当該複製により作成される複製物に係る著作物の表示の大きさが50平方センチメートル以下であること。」
(2) 以上を前提に判断する。
被告は,本件訴訟における原告らの著作権の行使は,著作権法改正前にオークションのために行われた複製について,法律が明確でなかったことを幸いとして,譲渡に伴う美術の著作物の複製が法律上合法であると確認された今に至って損害賠償を請求するもので,47条の2が新設された趣旨からすると,著作権の濫用に該当するなどと主張する。
しかしながら,著作権法47条の2は,美術の著作物又は写真の著作物の原作品等の適法な取引行為と著作権とを調整する趣旨において,原作品等を譲渡又は貸与しようとする場合には,当該権原を有する者又はその委託を受けた者は,その申出の用に供するため,一定の措置を講じることを条件に,当該著作物の複製又は公衆送信を行うことを認めるものである。このように,著作権法47条の2は,一定の措置を講じることを条件に,複製権又は公衆送信権の行使を認めたものであるから,そのような措置が講じられなければ,著作権者の複製権又は公衆送信権の侵害であることに変わりはないし,同規定が遡及適用されるものでもない(平成21年法律第53号附則1条)。
そうすると,著作権法47条の2の新設により,同規定の施行前にオークションのために行われた複製について損害賠償請求等の権利行使をすることや,同規定の施行後において一定の措置が講じられた範囲外の複製について権利行使をすることが,権利濫用であるとはいい難いし,その他権利濫用であることを肯定できる事情は認められない。
したがって,被告の主張は理由がない。