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著作権判例セレクション

【確認の訴え】「共同著作物であることの確認を求める」訴えが却下された事例

▶令和364日東京地方裁判所[令和2()25127]
() 本件は,原告が,被告に対し,別紙記載の「AuthaGraph Map」世界地図(「本件地図」)が原告及び被告の設置する慶應義塾大学大学院の准教授であるBの両名を発明者とする作成原理・作成方法を用いて作成された共同著作物であることの確認を求めた事案である。

1 原告は,本件地図が「原告及びBの両名を発明者とする共同著作物であること」の確認を求めるが,確認の訴えは,原則として,法律関係の存否を目的とするものに限り許され,事実関係については訴訟法上特に認められた場合(民訴法134条)のほかはこれを提起することはできないと解される(最高裁昭和31年10月4日第一小法廷判決参照)。
そこで,原告の請求を合理的に解釈すると,原告及びBが本件地図に係る著作権及び著作者人格権を有することの確認を求めるものと解することができるので,以下,これを前提に判断する。
2 確認の訴えは,即時確定の利益がある場合,すなわち,現に,原告の有する権利又は法的地位に危険又は不安が存在し,これを除去するため,被告に対して確認判決を得ることが必要かつ適切な場合に限り許される。したがって,それが許されるためには,仮に原告の権利又は法的地位に危険又は不安が存在するとしても,その危険又は不安が被告に起因し,かつ,対象となる権利又は法的地位について確認判決をすることでその危険又は不安が解消されなければならないというべきである。
しかし,本件においては,Bによる講義の内容が「オーサグラフ世界地図はBが発明したものである」というものとなったこと,上記講義と同内容の論文が学術論文誌に掲載されたこと,本件ウェブサイト内に本件地図とともに本件地図はBが発明したものである旨の説明文が掲載されたことについて,それらが被告に起因するものであることを認めるに足りる証拠はない。また,被告は,本件地図に係る著作権又は著作者人格権が自らにあるとは主張しておらず,今後,被告がこのような主張をすることをうかがわせる事情も認められない。そうすると,原告の有する権利又は法的地位に存在する危険又は不安が被告に起因するものであるとはいえない。
さらに,被告が,自らは本件地図の作成に関与しておらず,本件地図に関して原告及びBのいずれかにいかなる権利が帰属するかを判断し得ないとも主張していることに照らせば,そのような被告に対して確認判決を得ることにより,原告の有する権利又は法的地位への危険又は不安を取り除くことができるとは考え難い。そして,前記前提事実のとおり,原告は,別件訴訟において,Bに対し,本件地図と同じくオーサグラフ図法により作成された別件各地図が原告及びBを発明者とする共同著作物であることの確認を求め(本件と同様に,原告及びBが別件各地図に係る著作権及び著作者人格権を有することの確認を求めるものと解される。),これに対して,Bは,別件各地図はBが単独で作成したものであると主張して争っているが,原告と被告との間で本件地図に係る著作権及び著作者人格権の帰属を確定したところで,原告とBとの間において別件各地図に係る著作権及び著作者人格権の帰属を確定することはできない。
このことは,Bが被告の設置する慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科准教授であり,被告とBは雇用関係にあると認められることを考慮しても変わりはない。さらに,前記前提事実のとおり,本件ウェブサイトはBが管理運営しており,被告が本件ウェブサイトの内容を変更することができるとは認められないから,被告に対して確認判決を得たとしても,本件ウェブサイト内において,本件地図につき当該判決に従った取扱いがされることが期待できるとはいえない。そうすると,本件において原告の権利又は法的地位について確認判決をすることにより,原告の権利又は法的地位に存在する危険又は不安が解消されるとは認められないというべきである。
そのほかに,原告と被告との間で,本件地図に係る原告の権利又は法的地位に危険又は不安が存在し,これを除去するために被告に対して確認判決を得ることが必要かつ適切であることをうかがわせる事情は認められない。
したがって,原告と被告との間で原告及びBが本件地図に係る著作権及び著作者人格権を有することを確認することについては即時確定の利益が認められないから,本件においては確認の利益が認められない。
第4 結論
以上のとおり,本件訴えは確認の利益が認められず不適法であるから,これを却下することとして,主文のとおり判決する。