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著作権判例セレクション
【不正競争防止法】キャッチフレーズの「商品等表示」性を否定した事例
▶平成27年3月20日東京地方裁判所 [平成26(ワ)21237]▶平成27年11月10日知的財産高等裁判所[平成27(ネ)10049]
(注) 本件は,原告が,被告による各キャッチフレーズ(「被告キャッチフレーズ」)の複製,公衆送信,複製物の頒布は,原告の各キャッチフレーズ(「原告キャッチフレーズ」)の著作権侵害(なお,原告は,侵害に係る支分権を明らかにしていない。)又は不正競争を構成すると主張して,被告に対し,被告キャッチフレーズの複製,公衆送信,複製物の頒布の差止めを求めるとともに,不法行為(著作権侵害行為,不正競争行為又は一般不法行為)に基づく損害賠償金等の支払を求めた事案である。
1 争点1(著作権侵害の成否)について
(1) 著作物性
(略)
(2) 以上によれば,原告キャッチフレーズには著作物性が認められないから,その余の点について判断するまでもなく,原告の著作権に基づく請求は認められない。
2 争点2(不正競争の成否)について
(1) 「商品等表示」とは,氏名,商号,商標,標章,商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいい(不正競争防止法2条1項1号),自他識別機能又は出所表示機能を有するものでなければならないと解される。
【キャッチフレーズは,特定の商品や役務の宣伝・広告において,当該商品や役務を需要者に訴えかけるために用いられる比較的短い語句であるが,当該商品や役務の名称と一緒に表示され,その内容が,当該商品や役務の構造,用途や効果に関するものである場合は,当該商品や役務の説明を記述したものとして需要者に把握され,キャッチフレーズ自体には独自の自他識別機能又は出所表示機能を生じないのが,通常である。もっとも,当該キャッチフレーズが,当該商品や役務の構造,用途や効果に関する以外のものであったり,一般的にキャッチフレーズとして使用されないような語句が使用されたりして,当該キャッチフレーズの需要者に対する訴求力が高い場合や,広告や宣伝で長期間にわたって繰り返し使用されるなどして需要者に当該キャッチフレーズが広く浸透した場合等には,当該キャッチフレーズの文言と,当該商品や役務との結び付きが強くなり,当該商品や製造・販売し,又は当該役務を担当する特定の主体と関連付けられ,特定の主体の営業を表示するものと認識され,自他識別機能又は出所表示機能を有するに至る場合があるというべきである。】
(2) 原告と被告がいずれも英会話教材の通信販売等を業とする株式会社であり,原告キャッチフレーズが,平成16年9月から平成26年2月にかけて原告広告で使用されており,【平成20年4月期に約21億円だった控訴人商品の売上が,平成24年4月期には約106億円に増加し,平成24年全体では,英会話教材販売において,約97億2000円の売上で約49.9%のシェアを占め,2位の被控訴人(約17.5%)を大きく引き離していたとしても】,原告キャッチフレーズが平凡かつありふれた表現であることに加え,【控訴人キャッチフレーズは,控訴人広告の中で,控訴人商品が,「聞き流す」という方法で使用するだけで「英語が上達する」という効果が生じるという商品の用法や効果を謳ったものにすぎないこと】,原告広告において,原告商品を指すものとして「スピードラーニング」という商品名が記載されており,需要者はこれをもって原告商品を他の同種商品と識別できることなどからすれば,原告キャッチフレーズが,単なるキャッチフレーズを超えて,原告の営業を表示するものとして需要者の間に広く認識され,自他識別機能ないし出所表示機能を獲得するに至っているとは認められない。
(3) 以上によれば,原告キャッチフレーズが「商品等表示」に当たるとは認められないから,その余の点について判断するまでもなく,原告の不正競争防止法に基づく請求は認められない。
3 争点3(一般不法行為の成否)について
(1) 著作権法は,著作物の利用について,一定の範囲の者に対し,一定の要件の下に独占的な権利を認めるとともに,その独占的な権利と国民の文化的生活の自由との調和を図る趣旨で,著作権の発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,独占的な権利の及ぶ範囲,限界を明らかにしている。また,不正競争防止法も,事業者間の公正な競争等を確保するため不正競争の発生原因,内容,範囲等を定め,周知商品等表示について混同を惹起する行為の限界を明らかにしている。ある行為が著作権侵害や不正競争に該当しないものである場合,当該作品を独占的に利用する権利は,原則として法的保護の対象とはならないものと解される。したがって,著作権法や不正競争防止法が規律の対象とする著作物や周知商品等表示の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り,不法行為を構成するものではないと解するのが相当である(最高裁平成23年12月8日判決[北朝鮮映画事件],知財高裁平成24年8月8日判決[釣りゲーム事件])。
(2) この点,原告は,原告キャッチフレーズは多大の労力,費用をかけ,相応の苦労・工夫により作成されたものであって,法的に保護されるべき利益を有すると主張する。
しかし,【著作権法や不正競争防止法は,著作行為や営業行為には労力や費用を要することを前提としつつ,あえてその行為及び成果物のすべてを保護対象とはしていないから,控訴人が指摘するように,キャッチフレーズに労力や費用を要するというだけでは】,被告による被告キャッチフレーズの使用に,著作権法や不正競争防止法が規律の対象とする利益とは異なる法的に保護される利益を侵害するなどの特段の事情があると認めることはできない。
(3) したがって,原告の一般不法行為に基づく請求は認められない。
4 結論
以上によれば,本件請求はいずれも理由がない。
[控訴審同旨]