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著作権判例セレクション
【言語著作物の侵害性】 商品(乳幼児用浮き輪)の取扱説明書中の説明文(オリジナルの英文あり)の侵害性(著作物性)が問題となった事例
▶平成28年7月27日東京地方裁判所[平成27(ワ)13258]
(注) 本件は,「スイマーバ」という商品名の乳幼児用浮き輪(「本件商品」)の日本における総代理店である原告が,自らが日本国内において本件商品を販売する際に同封している説明書(「原告説明書」)中の別紙記載の説明文(「原告説明文」)及び別紙記載の挿絵(「原告挿絵」)は,職務著作として原告が著作者となるところ,直輸入品の販売等を営む被告が,平成26年12月5日から平成27年3月16日までの間,日本国内において本件商品を販売する際に同封した説明書(「被告説明書」)中の別紙記載の説明文(「被告説明文」)及び別紙記載の挿絵(「被告挿絵」)は,原告説明文及び原告挿絵を複製したものであり,被告は原告の複製権及び譲渡権並びに著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)を侵害した旨主張して,被告に対し,①著作権法112条1項に基づき,上記著作権の侵害の停止又は予防として,被告説明文及び被告挿絵が記載された説明書の複製及び譲渡の差止めを求めるとともに,②同条2項に基づき,上記著作権の侵害の停止又は予防に必要な措置として,被告説明書の廃棄並びに被告説明文及び被告挿絵の電磁的記録の消去を求め,併せて,③民法709条に基づき,損害賠償金等の支払を求めた事案である。
(前提事実)
カナダ法人である「モントリー社」は,乳幼児がプールや風呂でスイミングを体験するために首に付ける浮き輪である本件商品を製造・販売している。原告は,モントリー社との間で,本件商品につき,日本での販売に関する独占的ライセンス契約を締結し,我が国において本件商品を輸入・販売している。
本件商品については,原告説明書が作成される前から,モントリー社が作成した英文の取扱説明書(「モントリー説明書」)が存在していた。
また,原告説明書が作成された時期に先立つ平成20年10月には,一般社団法人日本玩具協会により,「ST基準内商品,空気入れビニールおもちゃに対するPL-注意表示ガイドライン(改訂)」(「本件ガイドライン」)が公表されていた。
1 著作権及び著作者人格権侵害の成否について
(1) 被告説明文について
ア 被告説明文による原告説明文に係る著作権侵害の成否の判断について
原告は,原告説明文は創作性を有する表現たる著作物であり,被告説明文は原告説明文を複製したものであって,原告の著作権に対する侵害が成立する旨主張する。
そこで検討するに,上記著作権侵害が認められるためには,まず,① 原告説明文と被告説明文とで共通する表現部分について,創作性が認められなければならない。そして,原告説明文と被告説明文は,いずれも本件商品の取扱説明書における説明文であるところ,製品の取扱説明書としての性質上,当該製品の使用方法や使用上の注意事項等について消費者に告知すべき記載内容はある程度決まっており,その記載の仕方も含めて表現の選択の幅は限られている。これに対し,原告は,我が国においては,原告が初めて本件商品を販売した際,高い品質と安全性が求められる日本市場向けに幼児用首浮き輪の安全適切な使用方法等を分かりやすく理解させるための取扱説明書は存在していなかった旨指摘するけれども,そのような状況にあっても,本件商品の使用方法や使用上の注意事項等については,それ自体はアイデアであって表現ではなく,これを具体的に表現したものが一般の製品取扱説明書に普通に見られる表現方法・表現形式を採っている場合には創作性を認め難いといわざるを得ない。本件商品の取扱説明書において,幼児のどのような行動に着目した注意事項を記載しておくか,どのような文章で注意喚起を行うかといった点についても,選択肢の幅は限られているとみられる。
次に,前記前提事実に証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,原告説明文は,モントリー説明書の英語の説明文を日本語に翻訳した上でこれを修正して作成されたものであり,同説明文に依拠して作成されたものと認められる。二次的著作物の著作権は,二次的著作物において新たに付与された創作的部分のみについて生じ,原著作物と共通しその実質を同じくする部分には生じないこと(最高裁平成9年7月17日第一小法廷判決〔ポパイ事件〕)に照らすと,上記①で創作性が認められる表現部分についても,②
モントリー説明書の説明文と共通しその実質を同じくする部分には原告の著作権は生じ得ず,原告の著作権は原告説明文において新たに付与された創作的部分のみについて生じ得るものというべきである。そして,本件においては,上記①で原告説明文(日本語)と被告説明文(日本語)とで共通する表現部分について創作性が認められるとすれば,その理由は,もとより翻訳の仕方に関わるものではなく,英文か日本文かに関わらない表現内容等によるものと考えられるから,上記②では,モントリー説明書の英文を日本語に翻訳したその訳し方に創作性があったとしても,被告による原告の著作権侵害を基礎付ける理由にはなり得ず,表現内容等について原告説明文において新たに追加・変更された部分でなければ,上記「原告説明文において新たに付与された創作的部分」には当たらないというべきである。
また,原告説明文において本件ガイドラインと共通しその実質を同じくする部分についても,原告説明文がこれに依拠したと認められる場合には,上記②と同様,原告の著作権は生じないというべきである。
以上の見地に立って,被告説明文が著作物たる原告説明文を複製したものであって原告の著作権侵害が成立し得るかどうかについて,以下,個々的に検討する。
イ 原告説明文1と被告説明文1について
(ア) 原告説明文1と被告説明文1とは,「警告」及び「注意」の前に△の記号があるかどうか及び漢字と平仮名のいずれを遣うか(「ください」と「下さい」など)という相違点を除いて,同一である。
(イ) 原告説明文1のうち,「【安全上の注意】 保護者の方へ、必ずお読みください。」,「必ず本ガイドを読んで大人の保護者の方が注意しながら正しくご使用ください。」,「警告
正しい取り扱いをしなければ、死亡または重傷を負うおそれがあります。」,「生後18ヶ月かつ体重11kg までの赤ちゃん専用です。」,「空気栓を確実に閉め、空気漏れがないか確認してください。」,「異常があればすぐに使用を中止してください。」,「救命用具として使用しないでください。」,「赤ちゃんの一人遊びは危険です。赤ちゃん一人での使用はしないでください。」,「必ず保護者の手が届く範囲でご使用ください。」,「本品は赤ちゃんが一人で使用することを想定したものではありません。」,「使用中は目を離さないようにして、異変があればすぐに保護者が対応出来る状況で使用してください。」,「注意正しい取り扱いをしなければ、傷害を負ったり物的損傷を受けるおそれがあります。」,「空気を入れ過ぎたり、高圧ポンプなどを使用しないでください。破損の原因になります。」,「炎天下に放置しないでください。」,「本体が柔らかくなる場合があります。その場合は、空気の追加を控えるか、少量にしてください。」,「タバコや火気に近づけないでください。」という記載部分は,本件商品の取扱説明書において本件商品の用途や使用上の注意事項等を通常の仕方で表現したものであって,全く個性の発揮が見られないから,創作性は何ら認められない。
また,「強制」や「禁止」を示す記号の用い方についても,製品の取扱説明書においてありふれたものであるから,これについて創作性は認められない(なお,原告説明書における色分けは,原告説明文の創作性の根拠として主張されているものではないが,仮に,この点について検討したとしても,製品の取扱説明書においてありふれたものであるから,創作性は認められない。)。
(ウ) 他方で,原告は,「スイマーバにあごがのるようになってからご使用ください。」,「あごがスイマーバの穴から下にさがる状態で使用しないでください。」という記載部分について,使用する幼児の身体の部位の状態を具体的に表現したものである点で,本件商品の正しい装着方法を具体的にイメージさせる創意工夫が見て取れるから,創作性が認められる旨主張する。
しかしながら,幼児の身体に装着する商品について,幼児の身体の部位の状態を具体的に表現すること自体は,ありふれたものといわざるを得ない。
また,証拠によれば,モントリー説明書においても,本件商品の浮き輪の内側のどこかにあごを乗せて使用すること,バックル部分があごの下に来るように装着することが記載されていたことが認められ,幼児のあごと本件商品との位置関係に言及して説明すること自体は,原告説明文において新たに付与された部分とはいえない。
そして,これらを前提に,上記記載部分の表現ぶりに何か個性が発揮されているものとは認められない。
そうすると,上記記載部分について,創作性を認めることは困難であるし,少なくとも原告説明文において新たに付与された創作的部分であるとは認められない。
(エ) また,原告は,「赤ちゃんが足を伸ばしてちょうど底につく程度の水深で使用してください。」,「深い水深では、保護者の方が背がつく深さ、且つ手の届く範囲内でご使用ください。」,「浅い水深での使用は、赤ちゃんの転倒や溺水の危険があります。」という記載部分について,本件商品がこれまでにない新しい商品であることを考慮して,本来の本件商品を使用するための水深のみならず,深い水深,浅い水深での使用上における注意点をも順に明記することで,安全な本件商品の使用方法を容易にイメージさせる工夫を施しており,創作性が認められる旨主張する。
しかしながら,幼児用浮き輪の使用方法を説明するに当たって水深について言及し,その際,本来想定している理想の水深のみならず,そうでない水深で使用した場合の注意点をも順に記載することは,特別な表現ではなく,ありふれたものといわざるを得ない。
また,証拠によれば,モントリー説明書においても,(a)「安全のため,赤ちゃんの成長に合わせ,赤ちゃんが足を伸ばしてちょうど底に着くように水深を調整してください。」,(b)「赤ちゃんが浅い水深で腹這いにならないようにしてください。上記の適切な水深を保つようにすれば,このような事態は自然と避けられます。」との記載がされていたことが認められる。原告説明文では,上記(a)に「足を伸ばして」という文言を加えていること,上記(b)に転倒の危険性への言及を加えていること,「深い水深」の場合についても説明を加えている点が認められるが,これらの表現内容や表現方法に個性の発揮があるとは認められない。
そうすると,当該記載部分について,創作性を認めることは困難であるし,少なくとも原告説明文において新たに付与された創作的部分であるとは認められない。
(オ) さらに,原告は,「ハンドポンプの部品が、赤ちゃんの口や目に入らないように使用・保管してください。」という記載部分について,ハンドポンプの部品が小さいことに着目し,赤ちゃんの口や目に入る可能性を考慮したものであって,創作性が認められる旨主張する。
しかしながら,そのような可能性を考慮したことは,アイデアであって,その表現ぶりに個性が発揮されているものと認められない以上,上記記載部分について創作性を認めることはできない。
(カ) 加えて,原告は,(a)「空気を入れ過ぎたり、高圧ポンプなどを使用しないでください。破損の原因になります。」との記載に続いて,「外周部にシワが少し残るくらいが適量です。」という記載をしている部分について,「外周部にシワが少し残るくらい」という視覚的に分かりやすい表現を用いている点で,創作性が認められ,(b)「岩角やくい、砂利、貝殻、ガラス片、金属片、木片など、尖ったものとの接触は避けてください。」という記載部分について,具体例を挙げてイメージを想起しやすくしている点で,創作性が認められる旨主張する。
しかしながら,証拠によれば,空気入れビニールおもちゃに関する一般社団法人日本玩具協会によるガイドラインである本件ガイドラインにも,(a)使用上の注意として「空気の入れ過ぎは破損の原因になります。外周部にシワが少し残るくらいが適量です。」との記載,(b)禁止事項として「岩角やくい、砂利、貝殻、ガラス片、金属片、木片など、とがったものとの接触」との記載がされていたことが認められ,原告説明文の上記各記載部分は,これらと全く同一の記載文言を用いたものである。これに本件ガイドラインの性格や原告のアクセス可能性をも併せ考慮すると,原告説明文の上記記載部分は,本件ガイドラインの上記記載に依拠して作成されたものと推認される。
したがって,上記各記載部分が,原告説明文において新たに付与された創作的部分であるとは認められない。
(キ) 以上によれば,被告説明文1が著作物たる原告説明文1を複製したものであるとして,これについて原告の著作権侵害が成立するということはできない。
ウ 原告説明文2と被告説明文2について
(ア) 原告説明文2と被告説明文2とは,「ステッカー(浴室の壁面など、お使いになる場所の見えるところに貼ってください)」という記載文言の有無,「日本語公式ガイド」の「公式」の文言の有無,漢字と平仮名のいずれを遣うか(「この度」と「このたび」)及び漢字の遣い方(「本紙」と「本誌」)という相違点を除いて,同一である。
(イ) 原告説明文2は,(a)「はじめに」という見出しの下,(b)「この度はスイマーバ商品をご購入いただきありがとうございます。」,(c)「製品パッケージの中に以下の内容があるかご確認ください。」,「うきわ首リング」,「ハンドポンプ」,「日本語公式ガイド(本紙)」と記載されたものであり,本件商品の取扱説明書の冒頭部分の記載として,全く個性の発揮が見られない。
原告は,上記(c)の記載部分について,内容物を一覧にまとめることで,不足品がないかどうかが一目で分かるような工夫をこらしていると主張するが,そのようなことは,およそ製品の取扱書において一般的にされている極めてありふれたものというべきである。
したがって,原告説明文2には,創作性は何ら認められない。
(ウ) そうすると,被告説明文2が著作物たる原告説明文2を複製したものであるとして,これについて原告の著作権侵害が成立するということはできない。
エ 原告説明文3と被告説明文3について
(ア) 原告説明文3と被告説明文3とは,若干の指示語の違い(「本品」と「本製品」)や漢字と平仮名のいずれを遣うか(「有る」と「ある」)という相違点を除いて,同一である。
(イ) 原告説明文3は,「使用上の注意」という見出しの下,「本品の内部構造は複雑なので、空気を入れて内圧が高い状態でひねったり、広げたりすると破損の原因になります。ていねいに取り扱ってください。」,「本品使用時には、あらゆる油脂類は使用しないでください。本品の素材に影響を及ぼす以外に、油脂により滑りやすくなり事故につながる恐れがあります。」,「赤ちゃんの健康に少しでも心配のある方は、かかりつけの小児科医に本品で水遊び
をしてもよいかご相談ください。肌がかぶれるなどのアレルギー症状が有る場合は使用を中止してください。」と記載されたものであり,本件商品の取扱説明書において本件商品の使用上の注意事項を通常の仕方で表現したものであって,全く個性の発揮が見られないから,創作性は何ら認められない。
(ウ) そうすると,被告説明文3が著作物たる原告説明文3を複製したものであるとして,これについて原告の著作権侵害が成立するということはできない。
オ 原告説明文4と被告説明文4について
(ア) 原告説明文4と被告説明文4とは,全く同一である。
(イ) 原告説明文4は,(a)「お使いになる前に」という見出しの下,(b)「本品のご使用前に必ず本ガイドを最後まで読んで使用方法を守り、安全にお使いください。」,(c)「※本品はプレスイミングを体験するためものであり、一般的なスイミングを習得するためのものではありません。」,(d)「※本品は命の維持や溺れることを防止するなどの救命用に作られたものではありません。」と記載されたものであり,これらが全て赤色で表示されている点も含めて,本件商品の取扱説明書の記載として,全く個性の発揮が見られない。
原告は,上記(c)の記載部分について,「プレスイミング」と「スイミング」という言葉を対比させ,本件商品の目的を明示している,上記(d)の記載部分について,本件商品が救命用ではないということを明示していると指摘し,これらに創意工夫が見られる旨主張するが,言葉の対比自体はアイデアにすぎないし,救命用の商品でないという商品の基本的な性格付けを説明することには何ら個性の発揮が見られないというべきである。
そして,証拠によれば,モントリー説明書においても,「本品は,プレスイミングと伝統的な幼児のスイミングレッスンへの移行のために使用されるものであり,スイムレッスンに代わるものではありません。」との記載及び「本品は,救命具ではなく,溺れることを防止するものではありません。」との記載がされていたことが認められ,「プレスイミング」という文言が既に使用されていたことや,「プレスイミング」と「スイミング」が対比されていたことを指摘することができる。したがって,上記(c)及び(d)の記載部分は,そもそも原告説明文において新たに付与された部分とはいえない。
以上によれば,原告説明文4について創作性を認めることは困難であるし,少なくとも原告説明文において新たに付与された創作的部分であるとは認められない。
(ウ) そうすると,被告説明文4が著作物たる原告説明文4を複製したものであるとして,これについて原告の著作権侵害が成立するということはできない。
カ 原告説明文5と被告説明文5について
(ア) 原告説明文5と被告説明文5とは,漢字と平仮名のいずれを遣うか(「おそれ」と「恐れ」)という相違点を除いて,同一である。
(イ) 原告説明文5は,(a)「お手入れと保管」との見出しの下に,(b)「スイマーバは中性洗剤で洗い、洗剤成分をぬるま湯でしっかり洗い流してください。それ以外の方法での洗浄、漂白は避けてください。洗剤成分が残っていると滑りやすくなり、使用中に赤ちゃんの体が抜け落ちるおそれがあります。」,(c)「◎保管上の注意:洗浄後は陰干しします。直射日光を避け、冷暗所、低湿度の場所で保管してください。」,(d)「◎廃棄上の注意:廃棄の際は、各地方自治体の廃棄区分に従ってください。」と記載されたものであり,本件商品の取扱説明書において本件商品の手入れ・保管方法と保管上・廃棄上の注意事項を通常の仕方で表現したものであって,全く個性の発揮が見られないから,創作性は何ら認められない。
原告は,上記(b)中の「使用中に赤ちゃんの体が抜け落ちるおそれがあります。」との記載について,使用する幼児の身体の状態を具体的に表現している点で創意工夫が見て取れる旨主張するが,そのような表現は,ありふれたものといえる上,証拠によれば,モントリー説明書においても,「赤ちゃんの体が浮き輪から抜け落ちるおそれがあります。」との記載がされていたことが認められ,原告説明文において新たに付与された部分とはいえない。
以上によれば,原告説明文5について創作性を認めることは困難であるし,少なくとも原告説明文において新たに付与された創作的部分であるとは認められない。
(ウ) そうすると,被告説明文5が著作物たる原告説明文5を複製したものであるとして,これについて原告の著作権侵害が成立するということはできない。
キ 原告説明文6と被告説明文6について
(ア) 原告説明文6と被告説明文6とは,「上側,下側の順に上下2ヶ所の空気栓から空気を入れます。」と記すか「上側,下側の順に2か所の空気栓から空気を入れます。」と記すか,漢字と平仮名のいずれを遣うか(「ぬらして」と「濡らして」)という相違点を除いて,同一である。
(イ) 原告説明文6のうち,「スイマーバの使い方」,「使う前に、空気漏れがないか確認する。」,「●空気栓は栓と弁の二重構造になっていますが、弁は空気の急激な漏れを防ぐ補助弁で空気を完全に止めるものではありません。必ず栓をしっかり差し込んで使用してください。」,「●栓がきついときは、少しぬらして差し込んでください。」という記載部分は,本件商品の取扱説明書において本件商品の使用方法とその際の注意事項等を通常の仕方で表現したものであって,全く個性の発揮が見られないから,創作性は何ら認められない(なお,赤色・青色の色分けについて検討したとしても,製品の取扱説明書においてありふれたものであるから,これについて創作性は認められない。)。
(ウ) 他方,原告は,「①上側、下側の順に上下2ヶ所の空気栓から空気を入れます。
・手で触れて、空気の入り具合を確かめながら行ってください。 ・外周にシワが少し残るくらいが適量です。 ・少ない空気量での使用は危険です。」,「②空気が入ったら栓をしっかり差し込み、さらに本体内部に強く押し込んでください。」,「③水の中に60秒間沈めて、空気漏れがないか確認してください。」という記載部分について,(a)本件商品への空気の注入方法について,単に「スイマーバに空気を注入して栓をしてください。空気漏れがないか確認してご使用ください。」といった抽象的な説明をするのではなく,作業を時系列的かつ具体的に記載している点,(b)「手で触れて、空気の入り具合を確かめながら」,「外周にシワが少し残るくらい」,「水の中に60秒間沈めて」というように,本件商品への空気注入作業の光景を具体的にイメージさせるような表現を用いている点で,創作性が認められる旨主張する。
しかしながら,上記(a)の点については,製品の取扱説明書において,製品の使用方法を時系列的かつ具体的に記載すること自体は,通常必要な説明の仕方であり,ごくありふれた表現方法といわざるを得ない。
また,上記(b)の点については,「手で触れて、空気の入り具合を確かめながら」との文言はありふれたものであるし,「外周にシワが少し残るくらい」との文言が,原告説明文において新たに付与された創作的部分とはいえないことは,前記イ(カ)で説示したとおりである。「水の中に60秒間沈めて」という文言についても,このような時間の設定自体はアイデアにすぎないし,その表現の仕方について個性の発揮があるとは認められない。
そうすると,上記記載部分に創作性を認めることは困難である。
(エ) 以上によれば,被告説明文6が著作物たる原告説明文6を複製したものであるとして,これについて原告の著作権侵害が成立するということはできない。
ク 原告説明文7と被告説明文7について
(ア) 原告説明文7と被告説明文7とは,漢字と平仮名のいずれを遣うか(「のる」と「乗る」)という相違点を除いて,同一である。
(イ) 原告説明文7のうち,「水中で使う前に、試着して位置やサイズを確認する」,「開口部の隙間からあごが落ちないようにSwimavaのロゴが顔側(あごの下)になるようにします。」「●本品は生後18ヶ月かつ体重が11kg までの赤ちゃん専用です。」という記載部分は,本件商品の取扱説明書において本件商品の使用方法とその際の注意事項等を通常の仕方で表現したものであって,全く個性の発揮が見られないから,創作性は何ら認められない(なお,赤色・青色の色分けについて検討したとしても,製品の取扱説明書においてありふれたものであるから,これについて創作性は認められない。)。
(ウ) 他方,原告は,「スイマーバを両手で広げ、顔側(あごの下部分)から優しくつけて、首の後ろで上下の各ベルトをカチリと留めます。」という記載部分について,「カチリ」という擬音語を用いている点で創意工夫がされている旨主張するが,使用方法の説明において擬音語を用いること自体は一般的にされることであるところ,「カチリ」という擬音語もありふれた表現であるから,上記記載部分が創作的な表現であるということはできない。
(エ) また,原告は,「スイマーバの上にあごがのり、頭とあごを支えているかを確認します。」,「小さい赤ちゃんや、顔・頭・あごが小さい赤ちゃんは口元が水面に浸かったり、あごがスイマーバにのらない場合は体が抜け落ちるおそれがあります。スイマーバにあごがのるまでご使用を控えてください。」という記載部分について,使用する幼児の身体の部位の状態を具体的に表現したものである点で,本件商品の正しい装着方法を具体的にイメージさせる創意工夫が見て取れるから,創作性が認められる旨主張するが,前記イ(ウ)で説示したところによれば,このような記載部分について創作性を認めることは困難である。
(オ) さらに,原告は,「首回りが太く大人の指2本分のゆとりがない場合は、ご使用をやめてください。赤ちゃんの首が締め付けられる危険があります。」という記載部分について,「大人の指2本分のゆとり」という表現を用いている点で,創作性が認められる旨主張する。しかしながら,証拠によれば,モントリー説明書においても,「浮き輪と赤ちゃんとの間に,常に少なくとも指2本が入るほどの余裕を持たせてください。」と記載されていたことが認められ,上記表現が原告説明文において新たに付与された創作的部分ということはできない。
(カ) 以上によれば,被告説明文7が著作物たる原告説明文7を複製したものであるとして,これについて原告の著作権侵害が成立するということはできない。
ケ 原告説明文8と被告説明文8について
(ア) 原告説明文8と被告説明文8とは,「目安は」と記しているか「目安や」と誤記しているかという相違点を除いて,同一である。
(イ) 原告説明文8のうち,「バスタブの水温と水深を調整する」との見出しの下,赤色・青色の色分けをしつつ表現している点は,製品の取扱説明書においてありふれたものであるから,これについて創作性は認められない。
(ウ) 他方,原告は,「水温:水温が常に沐浴やお風呂など月齢にあった温度になるように調整してください。水温計を用意して5分ごとに測ることをお勧めします。」,「●目安は、水温35度±2度の範囲です。30度以下の水や高温は避けてください。」という記載部分について,適切な水温を一定に保つための方法等を具体的に表現している点で,創作性が認められる旨主張する。
しかしながら,上記の水温の調整の仕方や温度設定の目安などの内容自体はアイデアにすぎないし,その表現の仕方について個性の発揮があるとは認められない。
また,証拠によれば,モントリー説明書においても,「水温は,およそ35℃/90°Fから±2度以内に保ってください。」,「水温が赤ちゃんの月齢に合った温度になるように調整してください。赤ちゃん用の水温計を購入し,5分ごとに水温を測ってください。」,「一般的に,水温は30℃を下回らないようにします。」と記載されていたことが認められ,上記記載部分が原告説明文において新たに付与された部分ということはできない。
そうすると,上記記載部分について創作性を認めることは困難であるし,少なくとも原告説明文において新たに付与された創作的部分であるとは認められない。
(エ) また,原告は,「水深:水深は、安全のため常に赤ちゃんが足を伸ばしてちょうど底につくぐらいに調整してください。この水深は赤ちゃんが最も安全に動ける深さです。」,「●深い水深では、保護者の方が背がつく深さ、且つ手の届く範囲内でご使用ください。」,「●浅い水深では、転倒の危険があるので使用しないでください。」という記載部分について,本来の本件商品を使用するための水深のみならず,深い水深,浅い水深での使用上における注意点をも順に明記することで,安全な本件商品の使用方法を容易にイメージさせる工夫を施しており,創作性が認められる旨主張するが,前記イ(エ)で説示したところによれば,このような記載部分について創作性を認めることは困難である。
(オ) 以上によれば,被告説明文8が著作物たる原告説明文8を複製したものであるとして,これについて原告の著作権侵害が成立するということはできない。
コ 原告説明文9と被告説明文9について
(ア) 原告説明文9と被告説明文9とは,仮名遣い(「6ヶ月」と「6か月」)の相違点を除いて,同一である。
(イ) 原告説明文9は,(a)「スイマーバを赤ちゃんに装着する」との見出しの下に,(b)「生後6ヶ月までの赤ちゃん 最初は二人の大人が付き添います。一人が赤ちゃんを支えている間に、もう一人が両手でスイマーバを広げ、上下のベルトが赤ちゃんの頭の後ろにくるように優しく装着します。」,(c)「生後6ヶ月以降の赤ちゃん・お座りができる赤ちゃん 大人一人でスイマーバを装着することができます。両手でスイマーバを広げ、上下のベルトが赤ちゃんの頭の後ろにくるように優しく装着します。」,(d)「●使用前に水の中に60秒間沈めて、空気漏れなどの異常がないか確かめてください。異常がある場合は使用しないでください。
●使用中は首がしまりすぎないか、常に確認してください。 ●スイマーバを広げるときは下側のハンドルを持って広げないでください。破損の原因になります。 ●スイマーバの下側のハンドルは赤ちゃんが握るためのものです。ハンドルが下方向(水中)になるように装着してください。」と記載されたものであり,本件商品の取扱説明書において本件商品の装着方法とその際の注意事項等を通常の仕方で表現したものであって,全く個性の発揮が見られないから,創作性は何ら認められない(なお,赤色・青色の色分けについて検討したとしても,製品の取扱説明書においてありふれたものであるから,これについて創作性は認められない。)。
原告は,上記(c)中の「優しく装着します。」との記載について,本件商品が子供と大人のコミュニケーションを図るためのツールである点を強調する狙いが現れている旨主張するが,それ自体極めてありふれた表現であるから,これについて創作性を認めることはできない。
(ウ) そうすると,被告説明文9が著作物たる原告説明文9を複製したものであるとして,これについて原告の著作権侵害が成立するということはできない。
サ 原告説明文10と被告説明文10について
(ア) 原告説明文10と被告説明文10とは,漢字と平仮名のいずれを遣うか(「抱きあげて」と「抱き上げて」,「手が空いた」と「手があいた」)という相違点を除いて,同一である。
(イ) 原告説明文10のうち,「赤ちゃんをバスタブに入れる」,「①バスタブの水抜き栓がしっかりと閉まっていることを確認します。常に水温と水深を管理、調整してください。」,「②使用を終了するときは、二人の大人が付き添ってください。一人がタオルを広げ、もう一人が赤ちゃんを抱きあげてタオルを持った方にゆっくり渡します。手が空いた方がスイマーバをはずします。」,「●装着中は保護者の手が届く範囲でご使用ください。」,「●使用時間は必ず30分以内にします。」,「●いつもと違うなどの異常がある場合は、すぐに使用を中止してください。」という記載部分については,本件商品の取扱説明書において本件商品の使用方法とその際の注意事項等を通常の仕方で表現したものであって,全く個性の発揮が見られないから,創作性は何ら認められない(なお,赤色・青色の色分けについて検討したとしても,製品の取扱説明書においてありふれたものであるから,これについて創作性は認められない。)。
(ウ) 他方,原告は,「食後を避けて機嫌の良いときに」という記載部分について,本件商品が子供と大人のコミュニケーションを図るためのツールである点を強調する狙いが現れている旨主張するが,それ自体極めてありふれた表現であるから,これについて創作性を認めることはできない。
(エ) また,原告は,「赤ちゃんを観察し、異常がないか?いつもと様子が違うか?楽しんでいるか?疲れているか?「もうバスタブから出たいよ。終わりたいよ。」というしぐさ、サイン、表情などを見逃さないでください。」という記載部分について,言葉を話すことができない赤ちゃんの気持ちを代弁するために,あえて鍵括弧付きで「もうバスタブから出たいよ。終わりたいよ。」という言葉を挿入し,大人が乳幼児の様子をつぶさに観察する必要があることを印象付けている点で,創作性が認められる旨主張する。
しかしながら,証拠によれば,モントリー説明書においても,「赤ちゃんが入浴や水泳を終わりたいというサインを出しているかどうか,しっかりと注意を払ってください。赤ちゃんは,もうスイマーバの使用を終わりたいと思っているときは,あなたにそれを伝えようとします。」と記載されていたことが認められ,このような内容については,原告説明文において新たに付与されたものではない。
原告説明文10では,鍵括弧付きの会話調で上記のとおり表現しているが,このような表現方法自体は,ありふれた表現の域を出ないものといわざるを得ない。
そうすると,上記記載部分について創作性を認めることは困難であるし,少なくとも原告説明文において新たに付与された創作的部分であるとは認められない。
(オ) 以上によれば,被告説明文10が著作物たる原告説明文10を複製したものであるとして,これについて原告の著作権侵害が成立するということはできない。
シ 原告説明文11と被告説明文11について
(ア) 原告説明文11と被告説明文11とは,送り仮名(「合わせたり」と「合せたり」)や括弧閉じの有無に係る相違点を除いて,同一である。
(イ) 原告説明文11は,(a)「赤ちゃんとスイマーバを楽しむための適切な使い方」との見出しの下に,(b)「赤ちゃんの機嫌がいいときに5分程度のご使用から始めましょう。」,(c)「初めて水に入った赤ちゃんは泣くことがあります。初めは短い時間で様子を見ながらご使用ください。慣れてきたら機嫌や状態にあわせて使用時間を徐々に長くします。」,(d)「できるだけ毎日決まった時間帯(お昼寝やお休み前)にご使用になることをお勧めします。毎晩お休み時間の前にご使用になると赤ちゃんの体がほぐれ、ほどよい疲れでぐっすりと眠ることでしょう。(個人により反応に差があります)」,(e)「赤ちゃんが泣いたときは、異常がないか?機嫌が悪くはないか?眠くないか?湯温が熱すぎないか?みてください。また、赤ちゃんと目線を合わせたり、肌を触れ合ってみてください。」,(f)「使い始めて2週間ほどでお風呂の内側を蹴ったりして遊ぶようになります。ただし、水嫌いの赤ちゃんなど個々に差があり、反応は様々です。よく観察して赤ちゃんの状態や水温などにご注意ください。」と記載されたものであり,本件商品の取扱説明書において本件商品の推奨される使用方法及びこれに関する留意事項等を通常の仕方で表現したものであって,全く個性の発揮が見られないから,創作性は何ら認められない。また,上記(a)の見出しを青色で表示している点についても,製品の取扱説明書においてありふれたものであるから,これについて創作性は認められない。
原告は,上記(e)の記載について,本件商品が子供と大人のコミュニケーションを図るためのツールである点を強調する狙いが現れている旨主張するが,その表現の仕方自体はありふれたものであるから,これについて創作性を認めることはできない。
(ウ) そうすると,被告説明文11が著作物たる原告説明文11を複製したものであるとして,これについて原告の著作権侵害が成立するということはできない。
ス 原告説明文と被告説明文の記載順序について
原告説明文と被告説明文とは,原告説明文2ないし10と被告説明文2ないし10の記載順序が共通している。しかし,この順序は,説明書を読む順序や本件商品を使用する際の手順に沿ったものであるから,創作性を認めることはできない。
セ 小括
以上の次第で,被告説明文が著作物たる原告説明文を複製したものであるとして,これについて原告の著作権侵害が成立するということはできない。