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著作権判例セレクション

【ネット社会と人権】グーグルへの動画の削除要請通知の不法行為性が争点となった事例

▶令和5825日東京地方裁判所[令和4()7920]
() 本件は、原告が、インターネット上の動画共有サイトであるYouTubeに投稿した動画について、被告Aが、同動画投稿によって著作権が侵害されたか否かについて調査することなく、著作権が侵害された旨の虚偽の通知をしたとして、被告Aに対しては不法行為に基づき、被告会社に対しては会社法350条に基づき、連帯して所定の金員の支払を請求した事案である。

1 本件通知は、本件動画が被告らの著作権を侵害した旨の通知をしたものであり、被告らに著作権侵害の有無を事前に確認する義務があったか(争点1)について
(1) 証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
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(2) グーグルは、ユーチューブの利用について、コンテンツが第三者に損害を及ぼす可能性があると合理的に判断する場合、独自の裁量によりコンテンツを削除する権利を留保するという規約を定めていた。また、グーグルは、ユーチューブにおける著作権侵害について(前記)のとおりのポリシーをとっていて、グーグルに対していわゆるノーティスアンドテイクダウンで定められている要件を満たした通知がされた場合、コンテンツが第三者に損害を及ぼす可能性があると合理的に判断できるとして、コンテンツを削除することがあったといえる。
他方、作成した動画をユーチューブに投稿し、これを公開して広くその内容を伝える行為は、投稿者が行う表現活動や事業活動に関わり得るものであって、その動画が削除されることで表現活動や事業活動が制限され、投稿者の法律上保護される利益が害される場合があるといえる。ユーチューブの利用については、上記の規約があり、また、グーグルには著作権侵害についての前記のポリシーがあるところ、権利侵害の通知を行う者が著作権侵害がないにもかかわらず侵害がされているという情報をグーグルに通知して、それによってグーグルが動画を削除した場合、権利侵害がないにもかかわらず動画を削除されるに至った者は、本来動画を削除される理由がなくそれが削除され法律上保護される利益を害されたといえる場合があるといえる。これらによれば、グーグルに対して権利侵害の通知を行うことは、その内容や態様により、投稿者の法律上保護される利益を害する違法な行為となる場合があるといえる。
(3) 本件通知は、著作権侵害を通知するためのフォームであり、フォームで用意されていた文言である「私は侵害された著作権の所有者、または当該所有者の正式な代理人です。」「私は、申し立てが行われたコンテンツの使用が、著作権25 の所有者、代理人、法律によって許可されていないことを確信しています。」という記載があり、また、フォームで用意された「著作権者名」、「著作権対象物のタイトル」についてもそれぞれ記載している。
もっとも、「権利を侵害された作品についての説明」について「その他」とした上で、「公演の種類」を「氏名」とし、「著作権対象物のタイトル」を「A(ひらがな併記)」としている。そして、「補足情報」として、権利侵害の内容として「パブリシティ権侵害」と明記した上で、「顧客吸引力、宣伝、広告収益目的のためにタイトルに無断で氏名を使用し、経済的利益を害している。」と記載している。これらの記載のうち「著作権対象物のタイトル」が人の氏名そのものであることは明らかであり、「公演の種類」が「氏名」であることや「補足情報」の記載内容から、これらの記載は、「著作権者名」とされる、Aの氏名そのものを、対象動画のタイトルに用いることで、同人のパブリシティ権を侵害したと通知していると理解できるものである。
被告Aは、著作権侵害の通知のフォームを利用して本件通知をしたところ、そのフォームでは、「著作権者名」や「著作権対象物のタイトル」に記入する欄があり、また、通知をする者が著作権者やその代理人であることなどを表明する定型の文言があるため、上記各欄の記載やその定型の文言が本件通知に含まれることとなっている。しかし、「著作権対象物のタイトル」や「補足情報」の上記のような記載からすれば、被告Aは、ユーチューブにおいてパブリシティ権侵害の通知をする専用のフォームがあったとは認められない状況において、本件動画のタイトルに被告Aの氏名を用いたことがパブリシティ権侵害である20 ことを通知する意図で、本件通知をグーグルに送付したと認められる。
(4) 本件で、原告は、本件通知は本件動画が通知者の著作権を侵害されている旨の通知をするものであり、通知者である被告Aには、著作権侵害の有無を事前に確認する義務があったにもかかわらず、被告Aは、これを怠って原告が著作権を侵害している旨の虚偽の通知をしたことを請求の原因として主張する。
しかし、ユーチューブにおいてパブリシティ権侵害の通知をするフォームがあったとは認められない状況において、前記 のとおり、被告Aは、本件動画のタイトルに被告Aの氏名を用いたことが被告Aの顧客吸引力等を利用するパブリシティ権侵害であることを通知する意図で、その旨の記載をするなどして、本件通知をグーグルに送付したと認められる。そして、本件通知は、著作権侵害の通知をするフォームを利用したことに伴う記載はあるが、著作権対象物のタイトルとして氏名のみが記載され、その補足情報の記載が上記のようなものであることからすると、通知者が自らの氏名が対象動画のタイトルに利用されていることによるパブリシティ権侵害があると通知するものであると理解できるものである。
前記のとおり、ユーチューブにおいて、グーグルに対し権利侵害の通知を行うことは、その内容や態様により、投稿者の法律上保護される利益を害する違法な行為となる場合があるといえる。原告は、本件の請求の原因を上記のとおり主張して被告Aが著作権侵害の有無を調査すべき義務があったと主張するところ、本件通知の内容や態様が上記のようなものであったことに照らせば、通知者である被告Aに原告が主張するような著作権侵害の有無を事前に確認する義務があったとは認められず、同義務違反により原告の法律上保護された利益が侵害されたことを理由とする原告の請求には理由がない。
なお、グーグルは、本件通知に基づき本件動画を再生できないようにしたが、被告Aに原告が主張する義務があったとはいえず、被告Aに原告が主張する義務違反行為があったとは認められないから、同事実は、上記判断を左右するものではない。
第4 結論
よって、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求にはいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。