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著作権判例セレクション
【引用】法32条1項の意義と解釈(利用する側に著作物性が認められない場合に同条項は適用されるか)
▶平成10年02月20日東京地方裁判所[平成6(ワ)18591]
五 抗弁3(本件入場券及び割引引換券における引用による利用)について
1 成立に争いのない(証拠)によれば、本件入場券は、約195mm×約70mmの規格で、その上部に、本件絵画3が約106mm×約60mmの大きさでカラー印刷で複製されており、その下部に、「THE BARNES」、「世界初公開 巨匠たちの殿堂 バーンズ・コレクション展 ルノワール、セザンヌ、スーラ、マティス、A・・・」と記載され、その他本件展覧会の会場、会期、主催者名、後援者名、入場料等の事項が記載されていることが認められる。
また、成立に争いのない(証拠)によれば、本件割引入場券も、入場料の代りに割引額が記載されているほかは、本件絵画3の複製の態様、その他の記載事項等は本件入場券と同様の体裁のものであることが認められる。
2 著作権法32条1項は、「公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならない。」と規定しているが、ここにいう引用とは、報道、批評、研究等の目的で自己の著作物中に他人の著作物の全部又は一部を採録するものであって、引用を含む著作物の表現形式上、引用して利用する側の著作物と、引用されて利用される側の著作物を明瞭に区別して認識することができ、かつ、両著作物の間に前者が主、後者が従の関係があるものをいうと解するのが相当である。
本条項の立法趣旨は、新しい著作物を創作する上で、既存の著作物の表現を引用して利用しなければならない場合があることから、所定の要件を具備する引用行為に著作権の効力が及ばないものとすることにあると解されるから、利用する側に著作物性、創作性が認められない場合は、引用に該当せず、本条項の適用はないものである。
3 前記認定事実によれば、本件入場券及び割引入場券のうち本件絵画3を除く部分の記載事項は、単にコレクションの名称、それに含まれる画家名、その他本件展覧会の開催についての事実の記載に過ぎないから、思想又は感情を創作的に表現した著作物であるということはできない。よって、右本件絵画3の複製を自己の著作物への引用であるということはできず、抗弁3は認められない。
被告は、美術展覧会の入場券あるいは割引引換券にその展覧会で展示されている代表的作品を収録することは広く行われている慣行である旨主張するが、著作権の保護期間内の作品を著作権者の明示又は黙示の許諾なく入場券、割引引換券に複製することが広く行われていることを認めるに足りる証拠はないし、仮にそのような行為が心ない美術展主催者によって社会に行われているとしても、それは正当化の根拠のない、著作権を侵害する行為であって、公正な慣行ということはできない。