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著作権判例セレクション
【確認の利益】 出版権が存在しないことの確認の利益を認定した事例
▶平成26年9月12日東京地方裁判所[平成24(ワ)29975等]
(注) 本件のうちA事件は,原告が,被告に対し,被告が行う本件書籍の発売等頒布は,原書籍1及び2について原告が有する著作権(複製権,譲渡権及び翻案権)及び著作者人格権(同一性保持権,氏名表示権等),さらに原告の名誉権を侵害すると主張して,著作権法112条1項及び名誉権に基づき本件書籍の発売等頒布の差止めを求めるとともに,民法709条に基づく損害賠償金等の支払を求め,B事件は,原告が,原告と被告との間において,本件著作物に関する出版権が被告に存在しないことの確認を求めた事案です。
1 争点(1)(確認の利益の有無)について
被告は,B事件における原告の訴えは,著作権侵害の不安を除去するにはA事件のように出版等の差止請求をするほかに有効適切な方法はなく,確認の利益がないと主張するので,この点について検討するに,確定判決の既判力は,訴訟物として主張された法律関係の存否に関する判断の結論そのものについて及ぶだけで,その前提である法律関係の存否にまで及ぶものではなく,当事者間において現に当該法律関係の存否を争い即時確定の利益が認められる限り,確認の利益があるものと認めるのが相当である(昭和33年3月25日第三小法廷判決参照)。
これを本件についてみると,証拠によれば,本件出版契約には,「第4条(排他的使用)
甲(注:原告を指す。)は,この契約の有効期間中に,本著作物の全部もしくは一部を転載ないし出版せず,あるいは他人をして転載ないし出版させない。」,「第5条(類似著作物の出版)
甲(前同)は,この契約の有効期間中に,本著作物と明らかに類似すると認められる内容の著作物もしくは本著作物と同一書名の著作物を出版せず,あるいは他人をして出版させない。」と定められており,また,「第26条(契約の有効期間)
この契約の有効期間は,契約の日から初版発行の日まで,および初版発行後満3カ年間とする。」と定められていて,本件出版契約の有効期間は本件書籍の発行日である2012年(平成24年)6月1日から満3年後の平成27年5月31日までであると認められる。
そうすると,仮に同契約が有効であるとするとき,原告は,少なくとも平成27年5月31日まで,本件著作物の全部又は一部を転載した書籍や,本件著作物と明らかに類似すると認められる内容の書籍,さらには,本件著作物と同一書名の書籍を,自ら出版することはもとより,第三者をして出版させることも許されないことになるという現在の権利又は法律関係に関する不安が存するところ,原告はA事件において本件出版契約が無効であることを前提に本件書籍の発売等頒布の差止めを請求しているが,仮に審理の結果本件出版契約が無効であることを理由として本件書籍の発売等頒布の差止めが認められたとしても,出版契約が無効であるとの判断には既判力は及ばないところ,それとは別途に本件出版契約の無効そのものが確認されない限り,原告の上記現在の権利又は法律関係に関する不安は除去されないから,原告が原告と被告との間において,被告が本件著作物に関する出版権を有しないことを確認する旨の確認判決を得ることには即時確定の利益があるというべきである。
したがって,B事件における原告の請求には確認の利益があると認められるのが相当である。