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著作権判例セレクション

【著作物の定義】 創作性の要件(既存の著作物に依拠して作成されたイラストの創作性・二次的著作物性を否定した事例)

平成271225日東京地方裁判所[平成27()6058]▶平成28627日知的財産高等裁判所[平成28()10005]
(前提事実)
本件イラストは,NAL(独立行政法人航空宇宙技術研究所)が研究開発を行っていた有人宇宙輸送システムのコンセプトである「スペースプレーン」のシステム構成を描いたイラストレーションであるが、スペースプレーンのシステム構成図としては,NALが平成2年頃までに当時の研究成果を反映させて制作した構成図(「NALシステム構成図」)が存在していた。

1 争点1(本件イラストは,創作性を有する著作物であるか)について
(1) 著作権法による保護の対象となる著作物は,「思想又は感情を創作的に表現したもの」であることを要する(著作権法2条1項1号)。ここで「創作的に表現した」というためには,当該成果物が,厳密な意味で独創性が発揮されていることは必要でなく,作成者の個性が表れたものであれば足りるというべきであるが,既存の著作物に依拠し,これと同一のものを作成し,又は,具体的表現に修正,増減,変更等を加えても,新たに思想又は感情を創作的に表現することなく,既存の著作物と実質的に同一のものを作成したにすぎないものは,既存の著作物の複製物であって,作成者の個性が発揮されたものとはいえないから,創作的な表現とは認められない。
(2) 本件イラストについて,原告は,NALシステム構成図とは別途独立した著作物であると主張するのに対し,被告らは,NALシステム構成図をトレースしたものに新たな創作性を付与しない程度の修正を施したものであり,NALシステム構成図の複製物にすぎないから,創作性のある著作物ではないと主張する。
そこで検討するに,本件イラストとNALシステム構成とを対比すると,次のとおり,共通点と相違点がそれぞれ認められる。
ア 共通点
本件イラストとNALシステム構成図を対比するため,本件イラストを線画にしたものと,NALシステム構成図とを,縮尺を揃えて重ね合わせると,【別紙甲8号証の4の写しのとおりとなる。】これによれば,本件イラストとNALシステム構成図とは,機体全体の輪郭(本体部分,両翼部分,尾翼の形状及び位置関係)及び骨格においてほぼ一致するほか,ドッキングポート,【コックピット】(その内装部分を含む。),燃料タンク,軌道制御エンジン,車輪並びに両翼及び尾翼に描かれた日の丸及び「NIPPON」との文字の各位置がほとんど一致している。
また,スペースプレーンの基本的な配色として,両者とも機体部分は白を基調とし,尾翼の前部が赤く着色されているほか,機体側部に後方から前方に向かうにつれ徐々に細くなっていく赤色の線が配されている点,燃料用タンク及びコックピット部が【青系統の色で】着色されている点などにおいてほぼ一致している。さらに,機体本体及び右翼の一部が透かしとなっており,コックピット内部,燃料タンク,エンジンが見えるようになっているほか,燃料タンクの一部にさらに透かしが入り,その内部が見えるようになっている点においても共通している。
イ 相違点
他方,相違点として,本件イラストでは,() NALシステム構成図で翼の下に描かれていた【ターボジェットエンジン】が削除されていること,() 胴体下に,空気吸い込み式/ロケット複合エンジンが追加されていること,() 胴体中央に酸化剤を貯蔵するタンクが追加されていること,() 胴体部分の円筒型のタンクの形状が扁平状に変更されていることにおいて,NALシステム構成図と異なっている(以下,番号に応じて「相違点ⅰ」などという。)。
また,証拠によれば,本件イラストでは,①全体に明るく描かれていること,②コックピットの背面部分など外壁が薄く描かれていること,③コックピット後部のタイヤの向きがわずかに異なっていること,④ドッキングポートの隔壁の支柱の本数が【少ない】こと,⑤右翼周辺の設備が【描かれて】いないこと,⑥機体後部のスクラム/レース推進システムが描かれていないこと,⑦タンク部に複数のボルトが描かれていること,⑧機体後部において写り込み表現が用いられていることにおいて,NALシステム構成図と異なっている(以下,番号に応じて「相違点①」などという。)。
(3) 以上に基づき,本件イラストが創作性を有する著作物であるか検討する。
上記(2)アのとおり,本件イラストとNALシステム構成図とは,スペースプレーンの輪郭・骨格や主要な部分の位置関係,配色や見せ方などの諸点において同一又は酷似しているところ,原告も,本件イラスト制作の終盤でとの留保を付けながらも,NALシステム構成図が掲載されたパンフレットを受領したことを認めており,NALシステム構成図に依拠することなくかかる一致が生ずるとはおよそ考え難いことからすれば,本件イラストは,トレースの方法によったかについては措くとしても,NALシステム構成図に依拠して制作されたことが明らかというべきである。
【控訴人が,本件イラストの原案として作成したと主張する甲12の1のイラストは,本件イラストと対比して,機体の長さに比して幅が太く,本件イラストと縮尺を揃えたとき,その輪郭が相当異なることは明らかである。また,甲12の1のイラストは,本件イラストと対比して,機体前部右側の翼又は胴体下部に当たる部分が白と黒で描かれている,ドッキングポートの上部に胴体から突き出して白色の部分が描かれている,機体側部に後方から前方に向かうにつれ徐々に細くなっていく赤色の線が配されていない,燃料タンク前部の機体前後方向に,赤みがかった線が2本描かれている,ドッキングポートの内部構造が描かれていない,タンクの内部構造として半楕円形の壁状の部材が描かれていないという相違点がある。これに対し,本件イラストとNALシステム構成図とは,縮尺を揃えて重ね合わせると,機体全体の輪郭がほぼ一致しており,その内側の面積の大部分において,線画はほぼ一致しているといえ,前記の甲12の1のイラストと本件イラストの相違点のような相違点は存在しない。そうすると,甲12の1のイラストを原案として本件イラストの作成に利用する場合,機体全体の輪郭を含むイラストの線画の主要な部分を大きく変更する必要があるとともに,色彩も相当変更する必要があり,別案を作るに近い作業が必要になるのに対し,NALシステム構成図を原案として本件イラスト作成に利用する場合,そこまでの作業は必要なく,部分的な修正で足りるといえる。以上によれば,仮に,控訴人が,甲12の1のイラストを本件イラストの作成に何らかの形で利用したとしても,そのことをもって,本件イラストがNALシステム構成図に依拠することなく制作されたといえるものではない。したがって,本件イラストは,NALシステム構成図に依拠して制作されたものというべきであり,本件イラストが控訴人の原著作物とは認められない。】
(4) もっとも,既存の著作物に依拠した成果物であっても,新たに創作性のある表現が付与されたといえる場合には,二次的著作物として著作権法による保護を受ける可能性がある(著作権法2条1項11号,11条参照)。
そこで,上記(2)イに認定した相違点をもって,新たに創作性のある表現が付与されたといえるかについて検討する。
ア 相違点ⅰないし同ⅳ及び相違点⑤について
相違点ⅱは,スペースプレーン後部胴体下に,空気吸い込み式/ロケット複合エンジンを追加したものである。証拠によれば,同エンジンは,NALの研究員が,平成10年頃発明し,平成11年頃,研究論文により公表したものと認められるところ,かかる技術的事項が,イラストレーターに何らの情報が提供されることなく構成図に反映されるとは考え難いから,エンジンの変更については,NALから具体的指示があったものと合理的に推認でき,これを覆すに足りる証拠はない。そして,証拠によれば,空気吸い込み式/ロケット複合エンジンを採用することにより,従来離着陸用に別途設置されていた【ターボジェットエンジン】及び小型燃料タンクが不要になる一方,燃料タンクの10分の1【程度の大きさの】酸化剤貯蔵タンクを要することとなったというのであるから,システム構成図に空気吸い込み式/ロケット複合エンジンを追加するのに際し,従来設置されていた【ターボジェットエンジン】及び小型燃料タンクを削除すること(相違点ⅰ,同⑤)並びに酸化剤貯蔵タンクを追加すること(相違点ⅲ)は,空気吸い込み式/ロケット複合エンジンの追加に伴って当然に発生する変更であるから,この点もNALからの具体的指示に従った修正であったと認めるのが相当である。
また,追加された酸化剤貯蔵タンクの形状を球状とすること(相違点ⅲ)及び円筒型のタンクの形状を扁平状にすること(相違点ⅳ)についても,タンクに貯蔵される燃料や酸化剤の容量や機体全体の構造とも関わる典型的な技術的事項と考えられるところ,これらの点についても,イラストレーターに何らの情報も提供されないまま構成図が変更・修正されるとは考え難く,やはりNALからの具体的指示に従って修正されたものと認めるのが相当である。
したがって,相違点ⅰないし同ⅳ及び同⑤については,NALの具体的指示に従ってNALシステム構成図から修正が加えられたものと認められるところ,かかる指示に従って描画が行われる場合には,必然的に表現の選択の幅は狭くならざるを得ないから,これらの相違点は,イラストレーターとしての個性が発揮された創作的表現が付与されたものとは認め難い。
イ 相違点⑥について
相違点⑥は,NALシステム構成図には描かれていた機体後部のスクラム/レース推進システムが,本件イラストには描かれていないというものである。この点も,技術的事項であって,NALからの具体的指示により省略されるに至った可能性も否定できないが,この点を措くとしても,単に機体後部のシステムを一部描かなかったことにより,新たな創作的表現が付与されたものとは認め難い。
ウ 相違点②,同③,同④,同⑦及び同⑧について
相違点②,同③,同④,同⑦及び同⑧については,NALシステム構成図と本件イラストとの相違点として認定することはできるものの,本件イラスト全体との関係からみてもごく僅かな修正・変更であって,これらの点をもって創作的表現が付与されたものとは認め難い。
エ 相違点①について
相違点①は,特にコックピット付近や燃料タンクの色合いにおいて,NALシステム構成図がやや暗い青色を基調としているのに対し,本件イラストでは,【やや暗い青紫色】を基調としており,全体としてもやや明るい印象があるというものであるが,前記イ()において認定したとおり,スペースプレーンの基本的な配色としては,両者とも機体部分は白を基調とし,尾翼の前部が赤く着色されているほか,機体側部に後方から前方に連れて細くなっていく赤色の線が配されている点,燃料用タンク及びコックピット部が【青系統の色で】着色されている点などにおいて一致しており,本件イラストが,NALシステム構成図と比較して若干明るく見えるとしても,これらの基本的配色が異なるものではなく,NALシステム構成図と本件イラストとの実質的同一性が失われるまでの相違点とは認め難い。
オ 小括
以上のとおり,本件イラストとNALシステム構成図との相違点は,いずれも,NALシステム構成図に新たな創作的な表現を付与するものとは認められない。
(5) 以上によれば,本件イラストは,既存の著作物であるNALシステム構成図に依拠し,その具体的表現に若干の修正,増減,変更等が加えられているものの,これにより新たに思想又は感情が創作的に表現されたものではなく,既存の著作物であるNALシステム構成図と実質的に同一のものというべきであるから,NALシステム構成図の複製物であると認められ,NALシステム構成図から別途独立した著作物であるとも,NALシステム構成図を原著作物とする二次的著作物であるとも認められない。
2 結論
以上によれば,本件イラストが創作性を有する著作物であることを前提とする本件請求は,その余の争点につき判断するまでもなくいずれも理由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。

[控訴審]
1 当裁判所は,当審における主張及び立証を踏まえても,控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は相当であり,本件控訴は棄却されるべきものと判断する。
その理由は,次のとおり原判決を補正するほか,原判決に記載のとおりであるから,これを引用する。
()
2 当審における当事者の主張に対する判断
(1)() 控訴人は,最終的にNALシステム構成図を見て本件イラストを完成させたとしても,それ以前に別のイラストを作成し,それをNALシステム構成図に似せて本件イラストを作成したのであるから,NALシステム構成図に依拠して本件イラストを作成したものであるとは評価できない旨主張する。
しかしながら,前記1(7)のとおりであって,原告の前記主張は採用できない。
(イ) 控訴人は,本件イラストとNALシステム構成図は,見る者をして全く異なった印象を与えるから,両者が酷似しているとはいえず,本件イラストは,NALシステム構成図と同一のものを作成したとは評価できない旨も主張する。
しかしながら,本件イラストとNALシステム構成図は,縮尺を揃えて重ね合わせると,機体全体の輪郭がほぼ一致しており,その内側の面積の大部分において,線画がほぼ一致しているといえることは,前記1のとおりである。また,前記1及び原判決…のとおり,配色も,機体全体の輪郭の内側の面積のうち大部分を占めるコックピット部分及びタンク部分において,基調になる色が青か青紫かという相違点はあるものの,いずれも青系統の色であり,基本的配色が,白,赤,青系統の色である点で共通していることから,配色の違いによる全体の印象の違いは,小さい。
既存の著作物につき,その表現上の本質的な特徴を損なわない限度において,具体的表現に修正,増減,変更等の改変を加えた場合,当該改変により,思想又は感情の創作的な表現が新たに加わり,二次的著作物が創作されるに至っていなければ,それは既存の著作物からの改変があったとしても,「複製」(著作権法2条1項15号)であると評価されるところ,以上によれば,本件イラストとNALシステム構成図の相違点の全てを考慮に入れてもなお,本件イラストにおいて,NALシステム構成図の表現上の本質的な特徴が損なわれたとはいえず,また,後記イのとおり,思想又は感情の創作的な表現が新たに加わり,二次的著作物が創作されるに至ったとも認められないから,本件イラストにおいて,NALシステム構成図との同一性は失われていないと認められる。
したがって,控訴人の前記主張は,採用できない。
イ 控訴人は,本件イラストとNALシステム構成図との相違点は,原告の個性が発揮されたために生じた違いであると主張する。
そこで,以下検討する。
() 相違点ⅰ(NALシステム構成図で翼の下に描かれていたターボジェットエンジンが削除されていること),相違点ⅱ(胴体下に空気吸い込み式/ロケット複合エンジンが追加されていること),相違点ⅲ(胴体中央に酸化剤を貯蔵するタンクが追加されていること),相違点⑤(右翼周辺の設備が描かれていないこと)について
証拠及び弁論の全趣旨によれば,NALは,平成11年頃,スタジオ・ジャンプに対し,NALシステム構成図に修正を加えて新たなスペースプレーンのイラストを作成する仕事を請け負わせたこと,当時控訴人が代表者取締役であった有限会社イルーシブは,同年頃,スタジオ・ジャンプの下請企業であった株式会社アエールから,スペースプレーンのイラストの作成を請け負い,本件イラストを作成して納入し,本件イラストは,スタジオ・ジャンプからNALに納入され,NALは,前記納入後,本件イラストを,パンフレットに掲載していたことが認められる。
以上によれば,NALは,スタジオ・ジャンプが納入した本件イラストが,請け負わせた内容どおりに修正され,完成されていたことを確認して納入を受けたと認められる。
そして,前記認定事実,証拠及び弁論の全趣旨によれば,NALは,平成11年頃までに,スペースプレーンにつき,宇宙空間まで作動できるロケットエンジンと大気中の空気を吸い込んで作動するエンジン(ターボジェットエンジン,スクラムジェットエンジンを含む。)を別途配置するのではなく,ターボジェットエンジンを,スクラムジェットエンジンとして作動させたり,ロケットエンジンとして作動させることができる複合推進機関として,空気吸い込み式/ロケット複合エンジンを配置する研究を行っていたこと,スペースプレーンにおいて,かかるエンジンを採用する場合,酸化剤を貯蔵するタンクが必要となる一方,機体後部にかかるエンジンを配置するのとは別途に,他のエンジンやそのための小型燃料タンクを配置する必要はなくなること,NALは,本件イラストの発注に当たり,スタジオ・ジャンプの担当者に対し,NALシステム構成図の推進機関を変更するよう指示し,空気吸い込み式/ロケット複合エンジンの構造を説明したことが,認められる。
以上によれば,相違点ⅰ~ⅲ,同⑤の各相違点は,いずれも,NALからのスタジオ・ジャンプ担当者への具体的指示を,本件イラストの作成者が伝え聞いてその指示に従った結果生じたものであり,NALは,本件イラストがその具体的指示のとおり完成されたことを確認して本件イラストの納入を受けたものと認められるのであって,本件イラストの作成者の裁量の余地があったとはいえず,本件イラストの作成者の個性が発揮されたものとは認められない。
() 相違点ⅳ(胴体部分の円筒形のタンクの形状が扁平状に変更されていること)について
前記認定事実(()),証拠及び弁論の全趣旨によれば,NALが,スタジオ・ジャンプ担当者に対し,燃料タンクの形状を,上下方向に扁平状にするよう指示したことが認められる。
これに前記認定(())を考え合わせれば,相違点ⅳは,NALからのスタジオ・ジャンプ担当者への具体的指示を,本件イラストの作成者が伝え聞いてその指示に従った結果生じたものであり,NALは,本件イラストがその具体的指示のとおり完成されたことを確認して本件イラストの納入を受けたものと認められるのであって,本件イラストの作成者の裁量の余地があったとはいえず,本件イラストの作成者の個性が発揮されたものとは認められない。
() 相違点①(全体に明るく描かれていること)について
控訴人が本件訴状及び本件控訴状に添付した本件イラストと,控訴人が提出した展示パネルの画像(甲2),被控訴人が提出した展示パネルの画像(乙18の添付資料1及び2),同パンフレットにおける本件イラストは,前記認定のとおり,いずれも,機体部分は白を基調とし,尾翼の前部が赤く着色され,また,機体側部に後方から前方に連れて細くなっていく赤色の線が配されており,酸化剤タンク及び燃料用タンク部分とコックピット部分は,暗い青系統の色を基調にしている点で共通しており,これらの点は,NALシステム構成図と共通である。前記パンフレットにおける本件イラストは,前記青系統の色の部分が,NALシステム構成図より,紫色がかっていると認められるところ,前記展示パネルの画像のうち,甲2は,同部分が,より紫がかった色に見えるのに対し,乙18の添付資料1及び2は,同部分が,より青みがかった色に見えることが認められ,この程度の色合いの差異は,印刷手法によっても生じ得るものと認められる。
また,本件イラストは,NALシステム構成図より,燃料タンク部分において,光沢を出すために描かれた白色の線状の部分の幅が広いことが認められるが,前記認定事実(())のとおり,NALは,燃料タンクを上下方向に扁平状にするようスタジオ・ジャンプ担当者に指示したことが認められるのであって,燃料タンクをかかる形状にした場合,光沢を出して,燃料タンクが上下方向に扁平状であることを立体的に表現するために,機体前後方向に白い線状の部分を入れれば,必然的に,NALシステム構成図における円筒形の燃料タンクの場合より,白い線状の部分を太くすることになる。これは前記()に伴う改変であるともいえる上,この改変が,本件イラスト全体の基本的な配色を変えるものとは認められない。
以上によれば,本件イラストが,NALシステム構造図より,全体としてやや明るい印象があるとしても, その程度の色調の違いによって,NALシステム構成図との実質的同一性が失われるとまでは認め難い。
() 相違点②(コックピットの背面部分など外壁が薄く描かれていること),相違点③(コックピット後部のタイヤの向きがわずかに異なっていること),相違点④(ドッキングポートの隔壁の支柱の本数)について
いずれも,本件イラストとNALシステム構成図の相違点にあえて着目すれば,気付く程度のものであり,本件イラスト全体からすれば,小さな部分における差異にすぎず,見る者の関心を特に引きつけるような点ではなく,本件イラスト全体の印象を左右しないから,これらの点をもって,本件イラストの作成者の創作的表現がされているものとは認められない。
() 相違点⑥(機体後部のスクラム/レース推進システムが描かれていないこと)について
推進機関についての改変であることに,前記認定事実(())及び弁論の全趣旨を考え合わせれば,前記認定(())の実際の研究における推進機関の変更に伴う改変として,NALは,スタジオ・ジャンプ担当者に対し,この点の改変の指示をしたと認められる。
そうすると,前記認定(())同様に,この点についても,NALからのスタジオ・ジャンプ担当者への具体的指示を,本件イラストの作成者が伝え聞いてその指示に従った結果生じたものであり,NALは,本件イラストがその具体的指示のとおりに完成されたことを確認して本件イラストの納入を受けたものと認められるのであって,本件イラストの作成者の裁量の余地があったとはいえず,本件イラストの作成者の個性が発揮されたものとは認められない。
() 相違点⑦(タンク部に複数のボルトが描かれていること)について
タンク部の構造として,ボルトを描くのは,ありふれた表現といわざるを得ず,本件イラストの作成者の個性が発揮されたものとは認められない。
() 相違点⑧(機体後部において写り込み表現が用いられていること)について
機体後部における写り込み表現は,面積的に,本件イラスト全体に占める割合が小さく,本件イラスト全体に大きな影響を与えていない。また,立体感や素材感を表現するために,写り込み表現を用いることは,ありふれた表現といわざるを得ず,この点をもって,本件イラストの作成者の創作的表現がされているものとは認められない。
(2) したがって,控訴人の前記主張は,採用できない。
以上によれば,本件イラストは,控訴人の原著作物とは認められない。
また,本件イラストは,NALシステム構成図に,思想又は感情の創作的表現が新たに加わったものとは評価できないのであって,控訴人の二次的著作物とも認められない。
第4 結論
以上の次第で,控訴人の本件各請求は,その余の点を判断するまでもなく,いずれも理由がなく,これと結論を同じくする原判決は相当であるから,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。