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著作権判例セレクション
【美術著作物の侵害性】 書の侵害性
▶平成11年09月21日大阪地方裁判所[平成10(ワ)11012]
二 争点2(被告らによる原告の著作権、著作者人格権侵害の有無)について
1 「被告の趣及び華」の作成者について、被告Bがこれらを作成したことを認めるに足りる証拠はなく(第一事件)、被告Eがこれらを作成したことは当事者間に争いはない(第二事件)。また、弁論の全趣旨によれば、被告Eは、「被告の趣及び華」を、指で墨書して作成した(指文字)ことを認めることができる。
2 そこで、被告Eによる「被告の趣及び華」の作成行為が、「原告の趣及び華」に関する原告の著作権(複製権、翻案権)、著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)を侵害するかを検討する。
前記一のとおり、「原告の趣及び華」は、文字を素材として造形表現される美術に関する著作物である。また、文字自体は、情報伝達手段として、万人の共有財産とされるべきところ、文字は当該文字固有の字体によって識別されるものであるから、同じ文字であれば、その字形が似ていてもある意味では当然である。したがって、書又はこれと同視できる創作的表現として、著作物性が認められるといっても、独占排他的な保護が認められる範囲は狭いのであって、著作物を複写しあるいは極めて類似している場合のみに、著作権の複製権を侵害するというべきであり、単に字体や書風が類似しているというだけで右権利を侵害することにはならないし、ましてや、著作権の翻案権の侵害を認めることはできない。
これを本件についてみると、別紙記載の「本件各趣」及び同下段記載の「本件各華」をそれぞれ対比検討すれば、「本件各趣」及び「本件各華」は、原告主張のような字体上の類似点があることは肯定できるが、いずれも単に字体や書風が類似しているにすぎず、字体の細部のほか、筆の勢い、運筆、墨の濃淡、かすれ具合等で一見明らかな相違点を随所に認めることができる。右事実によれば、「被告の趣及び華」が「原告の趣及び華」を複製したものと認めることは困難であるといわざるを得ない。
したがって、被告Eによる「被告の趣及び華」の作成行為が、「原告の趣及び華」に関する原告の著作権(複製権、翻案権)、著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)を侵害するとは認められない。